―――――

「はいるぞー」

「はーい」

律「ちょりーっす」

澪「律、静かにしろよ。ここは病院なんだぞ?」

紬「元気唯ちゃん?」

唯「みんなーきてくれたんだーー!!」

律「おぉお~~!!来てやったぞ~~!!そら、これおみあげ!!」

唯「わぁ!!!プリンだそれに5個も!!!!ありがとう!!りっちゃん!!」

律「いいってことよ!!唯のためだもんな!!」

澪「なに言ってんだよ、『金が足りないからかしてくれ』ってなきついてきたやつはどこのどいつだよ」

律「いいじゃん、いいじゃん!!みんなで割り勘なんだしっ!!細かいことは気にしない、気にしない!!」

紬「プリン、冷蔵庫にいれとくね?」

唯「あ、うん。ありがとう、ムギちゃん!!・・・あ」

律「つーか、梓もしゃべれよ!!せっかくきたんだからさ!!」

澪「り、りつ・・・」

唯「・・・」

唯「あずにゃん・・・」

私はあの後、病院に運ばれた。
今はあのとき、頭を少し強く打って怪我をしたからそれの治療で入院をしている。
入院ついでに、耳の検査もした。
お医者さんからは説明を受けたけど、よくわからなかった。
なんでも、私の耳の中にあるかたつむりの調子がおかしくて
『ある』周波数の音だけまったく聞こえなくなったというのだ。
原因は全くの不明。日常生活に支障はないものの、途方にくれるしかなかった。


その『ある』周波数の音はまさしく―――


唯「ちょっと、みんなあずにゃんと2人っきりにしてもらってもいいかな?」

あずにゃんが、えっ、という顔をした。
だけど、そんなの気にしない。

律「あ、お、おう!」

澪「わかった」

紬「じゃあ、私たち下の待合室にいるから。梓ちゃん、話終わったら、呼びにきてね」

あずにゃんが、ムギちゃんたちにむかって口をパクパクする。

ドアがしまる音がして、部屋の中が静かになった。

唯「・・・そこにイスあるから、座ってほしいな」

あずにゃんはうなずいて、イスにゆっくりと座った。
そして、バッグをガサゴソして筆記用具とメモ帖をとりだした。

唯「あ、そうか・・・・どうやって話すればいいんだろうって思ってたけど、紙に書けばいいんだね」

唯「あずにゃんは、頭いいなぁ~~、私、思いつかなかったや」

あずにゃんが、途方にくれたような笑い方で笑った。

唯「・・・」

唯「まさか・・・あずにゃんの声だけ聞こえなくなるなんて・・・こんなこと、考えてもみなかったな」

カリカリと、シャーペンの走る音だけが部屋に響く。

唯「うん・・・そうだよね。あずにゃんもそんなこと考えたことないよね」

唯「・・・というか、本当にごめんね・・・私のかたつむり・・・こんなことになっちゃって・・・」

唯「気にしないでって言われてもなぁ・・・現にもうあずにゃんの声、聴けなくなっちゃったし・・・」

唯「好きだったのに・・・あずにゃんの声・・・」

唯「あ、ちょ、ちょっと!?な、泣かないで、・・・ごめんね?あずにゃん・・・・」

唯「・・・泣き止んだ?」

唯「そっか・・・よかった。私、あずにゃんの頭なでるぐらいしか、今してあげられることないから」

唯「頭けがしちゃったからまだ自由に身体動かせないし・・・」

唯「・・・・えへへ・・・あ、ご、ごめん、笑っちゃって」

唯「いや、その、・・・笑顔がかわいいなって・・・思って・・・」

唯「あずにゃん照れてる~、ふふふ~~」


唯「・・・あ」

唯「え、いや、別にたいしたことじゃないんだけどね」

唯「え・・・いうの・・・笑わない?」

唯「じゃ・・・じゃあ。こほん。あ、・・・あのね」

唯「声が聴こえなくなっても、あずにゃんが笑ってくれたらね・・・」

唯「その・・・なんだかあずにゃんの笑い声が聴こえた気がするなって思って」

唯「うん・・・なんだろう。頭の中であずにゃんの声が反響してる感じになるの」

唯「そうだね・・・人間の記憶ってすごいねぇ~・・・えへへ」

唯「あ、ねぇ、あずにゃん」

唯「あのね、私の耳が聴こえなくなった日にさ、私の耳元で何を叫んだの?」

唯「・・・え?なんでいきなりあわててるの?」

唯「え~~!?教えてよぉ~~!!さっき私も言ったじゃん!!教えてよぉ~~!!」

唯「笑わないよ!笑わないっ!!さぁ・・・いってみなさい!!」

カリカリカリ

唯「・・・・」

カリカリカリ

唯「・・・・」

カリカリカリ

唯「・・・え」

唯「・・・本当に?」

カリ、・・・カリカリ

唯「・・・」

唯「・・・わ、私も・・・」

唯「あずにゃんが・・・すき・・・」

カリ

唯「うん、本当だよ」

唯「・・・っていうか、そんなことあのとき叫んだの?」

唯「澪ちゃんがまっかになってるわけだよ・・・あずにゃん・・・すごいね・・・」

唯「・・・あはは、怒んないでよ!!」

カリカリカリ

唯「え・・・でも、私、あずにゃんの声聴こえないよ・・・?」

カリカリカリ

唯「ふぁわわわわわ・・・あ、ありがとう・・・///」

唯「わ、わたしでよければ・・・よろしくおねがいします・・・///」

唯「あの・・・こっちきて・・・」

ぎゅっ

唯「えへへ・・・あずにゃん、・・・大好き」


ある日、私のかたつむりがうまく生きてくれなくなった。
だけど、かわりに私の隣にはねこがいてくれるらしい。
私の横で、ずっとずっとそばにいてくれるらしい。

だから、もう『その』音を聴く必要はないんだって。

ありがとう、あずにゃん。


おわり



最終更新:2011年07月07日 20:24