律「わりー……触れちゃだめだったか」

和「すべては私の力不足のせいよ」

唯「そ、そんなことないよっ! 和ちゃんのおかげで助かってるのにぃ」

律「そうだぞ和。和がうまく誘導しないとこいつら一生イチャつくだけで終わるぞ」

梓「その前に飢えて死にますけどね!!」カリカリ

唯「えへへ」

和「言い訳はしたくないけど、私も編集者としての経験なんてあってないようなもんだし」

和「至らないところがあるのはほんとにごめんなさい」

唯「いっつもネーム遅れてごめんね。和ちゃん会社の先輩に怒られたりしてない?」

梓「絵、雑ですいません」

和「気にしてないわ。二人がもっともっといい漫画をつくれるように頑張ってさえくれればいいの」

和「二人の力で最高の漫画を書くのよ」

唯「和ちゃんもいれて三人だよー」

和「……!」

梓「そうですよ。和先輩がいないと私たちの漫画なんて陽の目も見ませんでしたよ」

唯「そだよー、和ちゃんがいないとばんぎゃは生まれなかったんだから感謝してるよー?」

梓「同人活動しかしてなかった私たちに助言をくれたのは和先輩なんです。感謝してもしきれません」

律「だってさ和」

和「……もう、調子いいのねあなたたち」

唯「それに和ちゃんだけじゃない。りっちゃんもお弁当くれて、お腹をささえてくれるし、厳しい感想くれるし」

律「おいおい照れるぜ」

梓「澪先輩もよくアドバイスくれます。方向性はちがうけどやっぱり同じ創作という面では頼りになります」

唯「憂は毎回おもしろかったーって応援してくれるし」

梓「ムギ先輩は取材で海外や無人島にいかせてくれました!」

唯「みんながいるから今の私たちの作品があるんだよー」

和「そういうことにしときましょうか」

唯「まだまだばんぎゃはこれからの漫画なのです!」

和「……ええ、そのとおりよ」

律「がんばれよー、弁当なんかでいいならいくらでも持ってくるぞー」

唯「わーい」


……


律「んじゃ帰るわ」

唯「デートプランはー?」

律「いいっていいって。自分で考える」

梓「やっぱりそれがいいですよね」

律「お前らは和に言った手前しっかり漫画がんばれよ」

唯「うん。りっちゃんもがんばって!」

律「お? ……おう!」

梓「応援してます」

律「サンキュ。次会うときゃ良い報告できたらいいんだけどな」

律「おじゃましました」

和「私も一緒においとまするわ。それじゃあゆずふらい先生、次のネームよろしくお願いね」

唯「はーい、二人とも気をつけてねー」

ガチャン バタン

唯「もう夏も終わりだねーあずにゃん。アイスまだあったかなー」

梓「好きですねぇ」

唯「あずにゃんの次に好きかな? うーん、憂の次、うーん和ちゃんもりっちゃんも澪ちゃんもムギちゃんもあれれれ」

梓「人と比べるものですか」

唯「りっちゃんうまくいくかなー」

梓「大丈夫ですよ」


梓「だって律先輩と澪先輩ですもん」

梓「わかりきってることじゃないですか」

唯「ちっちっち。あずにゃんはお子様だね」

梓「え?」

唯「大人の恋愛ってのはね、そう簡単にはいかないんだよ。特に付き合いが長ければ長いほどね」

梓「はぁ……? なにわかった気になってるんですか」

唯「いずれ君も分かるときがくるさ……ふっ」

梓「……どっちが子供ですか」ヤレヤレ



数日後



律「……」

澪「……なぁ、なんで公園なんだ」

律「さ、さぁ……? なんか成り行きで」

澪「暑い……」

律「……」

澪「汗だくだぞ」

律「しってる……」

澪「アイスとけてるぞ」

律「しってる」

律「……」

澪「……なんか律らしくない。仕事でヘマでもした?」

律「そういうわけじゃないけど」モゴモゴ

澪「?」

律「……」

澪「ほら、アイスとけてるって言ったろ」

ふきふき

律「おっ、おうっ……」アセアセ

澪「へんな律。悩みがあるなら聞くけど」

律「話していいのか?」

澪「なんでも話せる仲だろ? 何年たってもそれは変わらないよ」

律「じゃ、じゃあ……ってこんなとこで話すようなことでもないんだよなー。あー」

澪「も、もしかして深刻な悩みか!? 何かあったのか!?」

律「ちげーけど」

澪「言ってくれなきゃわからない……」

律「だよなぁ…………」


律(怖ぇーわ。ほんと、踏み出せる気がしない。唯も梓はこんな怖いの乗り越えたんだよなぁ、すげぇやあいつら)


澪「ほら、話してみて。すっきりするかもしれないぞ?」

澪「な?」ニコリ

律「うっ……でも」

澪「話さないなら早くアイスたべろ! ほっておくと何もしなくても溶けていくんだぞ!」

律「!」

澪「それに私だって時間はないんだ! 仕事もあるし、仕事関係の付き合いもあるし!」

澪「律とだらだらこんなことしてられるもの、もしかしたらもう終わりかもしれない!」

律「!!」


律(そっか、運命って……待ってくれないんだな……)

律「……澪、行こう」

澪「?」

律「イオン」

澪「え??」

律「デートだよデート! ほら行くぞ!」スタスタ

澪「で、でー? ええ!? ま、まってよ律ー」

律(このまま澪を連れ去ってしまえたら……どんなに嬉しいか)

律(手が届きそうな距離にお前がいたらどんなに幸せか)

律(ずっと一緒に笑えるかな)


澪「律ー、歩くの早いってー」

律「時間は待ってくれないんだろー」

澪「暑いっ、暑い」

律「ついたらもっかいアイス食って涼むか! 唯おすすめのアイス屋があるんだってさ」

澪「そういえば唯達は好調らしいな」

律「ん? あぁ、巻頭カラーがどうのっての聞いたんだ?」

澪「いや、そっちじゃない。これホントはまだ言っちゃダメかもしれないけど、律なら内緒にしてくれるよな」

律「?」

澪「こないださ、テレビ関係の人からちょっと噂を聞いてさ。実は――――



―――――――――


和「おめでとう。ばんぎゃ!春からアニメ化よ」


唯「……ほえ?」

梓「……」

和「聞いてるの?」

唯「ううう、打ち切り……そんなぁ……」

和「ちょっと唯! しっかりなさい!」ゆさゆさ

梓「あ、あああ、あに、あにめ!? あにめってあにめ!?」

和「そうアニメ化。京都アニメーションでアニメ化。良かったわね」

唯「アニメ化!?!?!?」

和「そういったじゃない」

唯「う、嘘……」

和「嘘じゃないわよ。ほら、書類」

唯「……あずにゃんほっぺたつねって」

梓「私もお願いします…………うぎゃ、痛いです!!」

唯「本当にアニメ化……」

和「そうよ。巻頭カラーでも宣伝するから気合いれなおしなさい」

梓「は、はははい!!!」

和「……クスッ。最初聞いたとき私もびっくりしたわ。しばらく固まっちゃった」

唯「アニメ化だー、アニメ化だー!!」ギュウウ

梓「うぎゃああっ、痛い、痛いです! 夢じゃないのはわかりましたから!!」

唯「アニメ化だよーあずにゃああああん!! うううう! 良かったねぇあずにゃん」

梓「少しは、貧乏抜け出せますかね」

和「そうね。アニメがどうなるかはわからないけど、いまはおおいに喜びなさい」

梓「嬉しいです……生きててよかった」

唯「漫画かいててよかったー!」

梓「そうですね!!」ギュム

唯「幸せだよ! 幸せー! あずにゃんもやっとお父さんとお母さん、見返せるかな」

梓「そんなのどうでもいいです! いまは、なにより唯と一緒に漫画かけて幸せです!!」

和「愛の確認は後にしなさい。とりあえずネームの見直しするわよ。アニメ化に恥じない原稿にしなきゃ」


――――――――


律「もしもし、唯?」

律「あはは。なんだ今泣いてるのか?」

律「そうだ、聞いてくれよ……私さ」

律「うん……おう、もうこっちは心配いらねーよ。ありがと」

律「ちょっと澪に代わるな」

澪「もしもし……唯か? 梓もそこにいるか? うん、ありがと……律のために色々してくれたんだな」

澪「え? あーうん……私のほうこそ、踏み出せないでいたから。感謝してる」

澪「ずっと、出口のない永久迷路みたいだったんだ。おかしいよな、二人はこんなにそばにいたのにさ」

澪「……はは。そうだ唯、梓、その様子だともう知ってるんだよな」

澪「……アニメ化おめでとう!」

律「おめでとう唯!! おめでとう梓!!」

律「あはは、うるせー泣きすぎだろ! ……いや、アタシはないてねーし!」

澪「ちょっと泣いたくせに。律の嘘つき」


律「おう、おう。じゃあ今晩はゆずふらい先生のアニメ化記念祝賀会だな!」

律「え? 今晩は漫画かく? そりゃそうか。漫画家の鏡だな!」

律「澪ー次いつ空いてる? みんなでお祝いしようぜ」

澪「じゃあ次の日曜日で」

律「おーっし! 日曜日だぞ! 覚悟しとけよー!」

律「え? アタシらのお祝い? いやいや、そんな……照れるし」

澪「照れてる律とか気持ち悪い」

律「なにをー! あ、唯、じゃあまた後でな! ほんとおめでと!!」

プツ

律「ふー……・へへへ」

澪「まだ気持ち悪いぞー」

律「うっせぇ……あはは、ほっとけ。きっとこれからこんな顔見続けるんだから慣れてくれよ」

澪「あはは」

澪「じゃ、行こうか」

律「どこへ?」

澪「律と一緒ならどこへでも」

律「やめろよぉ……真顔でそういうこというな」

澪「……なぁ律。幸せってなんだと思う?」

律「んー……さぁな。 人それぞれ……かな。澪の幸せって何?」

澪「わからない。きっとこの先もよくわからないままだと思う。けど、幸せはいつも知らないうちにそこにあるんだ」

律「だよな。そんなもんさ……」

律「ただひとつだけわかってることがある」

澪「?」

律「幸せは、増えたって減るもんじゃない……ってことさ」

澪「かっこつけるな律のくせに!」

律「惚れた!? もっと惚れた!?」

澪「ほーれーてーなーいーー」

律「ちぇっ」

律「じゃああいつらへのサプライズパーティでも考えるかー」

澪「うん、いいな。じゃあパーティには和とムギと憂ちゃんと」

律「あと鈴木さんも呼ぼうぜ」

澪「さわ子先生もな」

律「あー。あの人絶対たかり屋になっちまうよ」

澪「はは。みんなと会うの久しぶりだ」


律「あー夏が終わってくなー」

澪「そうだな。最高の夏になったよ……ありがと律」

キュ

律「おーい、手なんかつなぐな気持ち悪い。あたしら何歳だっつうの」

澪「ふふ、とかいいつつ顔まっか」

律「太陽のせいだよー、ちくしょうめー!!」



おわり



最終更新:2011年07月08日 00:59