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新学期

――通学路

唯「~♪」テクテク

先輩B「小さい頃は~神様がいて~♪」

先輩B「毎日愛を~届けてくれた~♪」

唯「お?」

先輩B「こ~ころの奥にしまい忘れた~♪」

先輩B「大切な箱~開く時はい――」

唯「いい歌だねぇー!」

先輩B「ん?」

唯「ねえねえ、その歌なんていうの?」

先輩B「…私の好きな歌」

唯「へぇー……あっ、いきなりごめんなさい」

唯「私は軽音部の平沢唯というケチな桜ヶ丘高生でして…」

先輩B「知ってるよ」

唯「え?」

先輩B「軽音部のライブ見たことあるし。可愛かったよ~」

唯「いやぁ~、かわいいなんて~」テレテレ

唯「あっ、えっとぉ……名前は」

先輩B「私? 私はジャズ研の――」

・・・・・

唯「学校と~ちゃくっ!」

唯「では私は部室に行ってくるので!」

唯「じゃあねー」タタタッ

先輩B「さいなら~」

唯「またねー!」タタタッ

先輩B「…パンくわえながら走ってる」

先輩B「漫画かありゃ」

先輩B「……ふぁあ~」

先輩B「始業式なのに朝早く学校来るなんて…」

先輩B「考えることは私と同じかナ」

先輩B「……」

先輩B「あれ? さっきどこまで歌ったっけ…」

先輩B「まぁいいか、最初からで」

先輩B「小さい頃は~神様がいて~♪」


――2年1組

純「憂!!」

憂「純ちゃん!!」

憂「やったね、また一緒のクラスだよ~!」

純「別々のクラスだったらどうしようかと思ったよ」

憂「私も私も」

純「梓は?」

憂「まだ来て――」

梓「おはよ、二人とも」

憂「あっ、梓ちゃん!」

純「おっはよー♪」

憂「同じクラスだよ、梓ちゃん!」

梓「うん、運いいよね」

純「また三人で一年間一緒なら、学校も楽しくなるよ」

梓「純ったら、調子いいんだから」

憂「梓ちゃん、さっきまで練習してたの?」

梓「えっ、よく分かったね」

憂「お姉ちゃん今朝早くに出ていったから」

梓「なんか目覚ましのセット間違えたんだって」

憂「もう、お姉ちゃんったら…」

純「なに? 軽音部って朝練したの?」

梓「うん、先輩たちもみんな来て」

純「スタートダッシュだねー、軽音部は」

梓「今年は一味違うよ! …たぶん」

純「おーおー、気合い入ってますなぁ」

憂「あっ、お姉ちゃんたちも同じクラスなんだって。メールきたよ~」

梓「本当だ…」

純「勢揃いだね……あっ、和先輩もいる」

憂「楽しそうだね」

純「なんか騒がしいクラスになりそうな気もするけど…」

梓「今日って始業式が終わったらそのまま下校だっけ?」

憂「うん、そうだよ」

梓「そっか…」

純「すぐ帰るの?」

梓「ううん、部活。新入部員を勧誘しないと」

純「あっ…そういえば」

憂「新入部員来るといいね」

梓「うん!」

純「去年を思い出すなー、色々とワクワクしてたよねこの時期」

憂「懐かしいねー。純ちゃんと軽音部見学しに行ったりしたっけ」

純「あの頃は何か怪しい部だと思って入らなかったけどね」

梓「もう一年かぁ…」

梓(今年は頑張らないと…)

梓(やるぞ私! おー!!)

純「なんか梓が気合い入った顔してる」

憂「ふふっ」


――3年1組

先輩A「私たちが同じクラスって、初めてだよね」

先輩B「そだっけ?」

先輩A「そうです。今年はよかった」

先輩C「何がだ?」

先輩A「だーかーらー、同じクラスになれたじゃない」

先輩C「この三人で仲良しグループなんて組んだ覚え、ないけどな」

先輩A「…照れてる」

先輩C「これっぽっちも照れてない!!」

先輩B「担任誰かな~」

先輩A「山中先生とかだったらいいなー」

ガラッ

顧問「おはー」

先輩B「残念だったね」

先輩A「私はどっちにしろ嬉しいけど?」

顧問「はい席ついてー」

顧問「今日から一年間、私が担任を務めるんでよろしく!」

顧問「いやー、見知りってる顔が多くてよかったよ」

顧問「山中先生と相談しといて正解だった」ボソッ

顧問「さて、アンタたちは気づけばあっという間に三年になったね」

顧問「新学期早々に説教じみたこと言いたかないが、もう三年なんだから気を引き締めるんだよ。毎日をしっかりこつこつと……」

顧問「あっヤバッ、名簿忘れた」

顧問「………別にいっか」

顧問「そんじゃそろそろ始業式始まるから講堂へ行くように」

先輩B「めんどいな~始業式。眠いのに」

先輩A「そういえば朝早かったね。どうしたの?」

先輩B「たまにはね。部室でギター弾いてただけだし」

先輩C「なんだそれ。朝練があるならそう言え」

先輩B「あり? 私と一緒に練習したかったのかい?」

先輩C「誰が! …そうじゃなくて、練習があるならちゃんと連絡しろって言いたんだ」

先輩C「部長だろ」

先輩B「練習じゃないよ、私の気まぐれ」

先輩C「…お前が部長で正直不安だよ」

先輩A「そこは副部長が支えてあげれば?」

先輩B「ね?」

先輩C「何がね?、だ! 真面目にやれ!!」


始業式、終了
――廊下

梓「なんとしても新入部員を獲得しなきゃ」

梓「よぉーし!」

純「さっきから気合い入ってるねー、梓」

憂「二年生、梓ちゃん一人だけだから」

純「大変だそりゃ」

後輩C「……」

ドンッ

純「わっ!?」ドサッ

後輩C「きゃっ!!」ドサッ

憂「じゅ、純ちゃん大丈夫?」

純「う、うん…平気」

後輩C「あっ――ご、ごめんなさい……私…」

純「ううん、よそ見して歩いてたこっちが悪いんだし」

後輩C「ごめんなさい…ごめんなさい…っ」タタタッ

純「あっ……行っちゃった」

純「……」

梓「純、どうしたの?」

純「これ…ハンカチ落ちてた。多分あの子のじゃないかな」

憂「えっ、じゃあ返さないと」

純「けどもういないし」

純「どうしようかなー、これ。せめてクラスでも分かればいいんだけど」

同級生「純ー!!」ガバッ

純「わわっ!?」

同級生「久しぶりー! 元気してた?」

純「久しぶりって、春休みに会ってたでしょ」

同級生「そうだったそうだった」

同級生「でもいいじゃん、休み明けなんだし。気分をバーっとするつもりで…」

梓「……」

憂「……」

同級生「あっ…」

純「私の友達、紹介するね。こっちが憂で、こっちが梓」

純「クラス一緒なの」

同級生「梓ちゃんは知ってるよ! 軽音部のギターだよね?」

梓「う、うん…」

同級生「よろしくー! 梓ちゃんってギターすごいよね」

梓「ありがとう…」

同級生「……」ジーッ

梓「……なに?」

同級生「ねぇ、純。私と梓ちゃんどっちが身長高いかな?」

純「……梓かな」

同級生「そんなー!!」

梓(な、何なの…?)

純「そんで、こっちの憂はなんと軽音部のもう一人のギター、唯先輩の妹だよ」

同級生「へぇー…」

憂「えへへ」

同級生「唯先輩って誰?」

憂「!?」ガーン

「なにやってんのー! 早く行こー!」

同級生「あっ、待って!」

同級生「じゃあね純、また後で」

純「うん、後でね」

梓「…元気な子だね」

純「元気だけが取り柄だから」


――2年1組

純「よし、ジャズ研行こうかな」

憂「純ちゃんも新入生勧誘?」

純「うん、そんなところ」

純「全校生徒引き込むつもりでやらないとね!」

憂「頑張ってね」

純「うん!」

憂「梓ちゃんも」

梓「他の部には負けないよ。絶対にいっぱい入部させるんだから!」

純「じゃあ勝負でもする?」

梓「うっ…」

純「…自信ないんだ」

梓「で、でもきっと…最低一人ぐらいは絶対入部させるもん!」

純「なんだか楽しくなってきたなー」


――ジャズ研 部室

先輩C「……」

ガチャッ

先輩A「あっ、やっぱり。一人で先に行くなんて」

先輩B「なんだ、まだ他の人来てないんだ」

先輩C「……」ジーッ

先輩A「どうしたの? 外なんか眺めて」

先輩C「…あれ、見てみろ」

先輩B「どれ?」

先輩C「あれだあれ。ほら…」

先輩A「あっ、着ぐるみ五人組」

先輩B「なんだありゃ。着ぐるみ流行ってんの? うちの学校」

先輩C「軽音部の勧誘だろ」

先輩B「あぁ…そういえば去年も似たようなの見た気が」

先輩C「まったく、あんなので人が来ると思ってるのか」

先輩B「そうだな~、ペンギンの着ぐるみだったら可愛かったのに」

先輩C「そうじゃないだろ…」

先輩A「でも、ここから見る分には面白いじゃない」

先輩C「…はぁ、アホらしい」

先輩B「軽音部のこと嫌いなん?」

先輩C「軽音部はどうでもいい。ただ…」

先輩A「ただ?」

先輩C「……なんでもない」

先輩A「?」

先輩B「あれ写メで撮っておこ~っと」パシャリ

先輩A「うちも早めにビラ配りした方がいいんじゃない?」

先輩B「うん? そだね~」パシャリ

ガチャッ

純「こんにちはー」

同級生「ちはー」

先輩B「グッドタイミングだ」

先輩A「二人とも、一緒にビラ配りに行こっか?」

純「へ?」


――校庭

先輩A「ジャズ研よろしくお願いしまーす!」

純「お願いしまーす」

同級生「お願いしまーす!!」

先輩A「あっ、ジャズ研どうぞ。よかったら見学だけでも」

先輩A「どうぞ、ジャズ研よろしくお願いします。よろしくねー」

純「…なにもセンパイがやらなくても。三年生なんですから」

同級生「ここは私たちだけでも大丈夫ですよ?」

先輩A「いいのいいの、やりたくてやってるんだから」

純「頑張るなー、センパイ」

純「よーし! 目指せ部員百人!!」

同級生「百人ー!!」

先輩A「百人もいると二人はレギュラー取れないかもね」

純「あっ」

同級生「はっ」

先輩A「ふふっ、なーんて気にしないでいいから。配ろっか」

先輩A「どうぞー、ジャズ研ですー」

純「ジャ、ジャズ研でーす」

純(なんか配りづらい…)

「センパーイ、副部長が呼んでます」

先輩A「あら?」

「ここは私が代わりますんで行ってください」

先輩A「えー…残念」

「手伝うよ」

純「さんきゅっ」


――校内

律「今度はどんな手を使って勧誘しようか」

唯「悩むねぇー…」

梓「あんまり無茶しないでくださいよ」

律「分かってるって」

唯「あっ! りっちゃん隊員、ターゲット発見です!!」

律「なにぃ!? どこだ!!」

唯「あそこに!」

後輩C「……」

梓(あれ? あの子…)

唯「あの子を誘おうよ」

律「ちょっと雰囲気暗いけど……いや、私たちで明るくしよう」

律「気に入ってもらえば即入部だ! 行くぞ唯!!」

唯「合点承知のすけ!!」

梓(二人とも何やるんだろう…)


後輩C「……」キョロキョロ

後輩C「ここ…どこだろう……」


律「ねえねえ知ってるぅ? 唯ちゃんってばぁ」

後輩C「!」ビクッ

唯「あ~ん、どうしたのりっちゅぅわ~ん」

律「軽音部ってぇ~、すんごいらしいのよぉ~」

後輩C「……」

唯「なになに? なにがすごいのぉ~???」

律「なんと軽音部に入るとぉ~、世界観が丸っきり変わるのよん!」

律「生まれ変われるっていうかぁ~、新しい自分になれるっていうかぁ~」

律「とにかく刺激的な毎日が過ごせるのん!」

唯「わぁお! すっごぉーい!!」

後輩C「……」

後輩C(な、なんだろう…この人たち…)

後輩C(……逃げよう)

律「やっぱ素敵でハッピーな高校ライフを過ごすには、軽音部しかないわよねー」

唯「そうだねー!」

律「さぁ、そこの君も軽音部に入部して明るく楽しく最高な青春を体験しないかい!?」

唯「しないかい!?」

律「………………って、あれ? あの子は?」

唯「あれぇ~…」

梓「不気味がって逃げちゃいましたよ」

律「なんと!?」

唯「そんなぁー!! 私たちバッチリだったよね? あずにゃん??」

梓「…なんか気持ち悪かったです」

唯・律「!?」ガーン


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最終更新:2011年07月12日 00:10