翌日。

先生「えー。今日も重要なお知らせが……」

純「また節電ですか?」

先生「はい、政府によって照明を付けることが禁止されました。
   ロウソクで代用しろとのことです」

憂「ロウソクって……そんなんじゃまともに勉強できませんよ」

純「しかもこの糞暑いのに」

先生「授業に関しては先生方が工夫してくださるでしょう。
   みなさんつらいかもしれないけど耐えてください。
   我々が生き残るには節電節食節水しかないんですから」

憂「うう……」

純「そのうち食べ物も水もなくなるのかな」

憂「多分そうなると思う」

純「はあ、私もロボットになりたい……」

梓「……」

先生「じゃあこれからロウソクとマッチを配ります、
   一人1本ずつ取ってくださいね」

純「なんか百物語やってるみたいだ」

憂「コワイ話する?」

純「今の私たちが置かれている現状よりも怖い話があるのなら」

憂「あっはっはーそれはシャレになってないなあ」

梓「ワタシメッチャ怖イ話シッテルヨ」

憂「え、ほんと?ちょっと聞かせて」

純「あっごめんそのまえにトイレ」

梓「ワタシモ」

憂「ロウソク持って行きなよ」

梓「ダイジョウブ、ワタシノ目ガ光ルカラ」ピカー

憂「蛍レベルの光だね」

純「まあないよりマシか。行こう梓」

梓「ウン」

純「ほんっと真っ暗だよね」

梓「ウン」

純「陽の光を浴びないとこっそしょしょしょうしょうになるって」

梓「ワタシハカンケイナイケド」

純「まあ梓はロボットだしね」

梓「……ナンデ私ダケロボットナノカナ」

純「それは……」

梓「ナンデダッケ……ナンデ私ロボットナンダッケ……」

純「みんなを助けるためだよ……」

梓「ミンナヲタスケル……」

和「進め一億節電だ、照明は敵だ、
  つけさせません冷房は…………ん?」

純「あっやべ、生徒会長だ!」

和「あっ、梓ちゃん!
  まだ動いてたの!?」

梓「ヒィ!」

和「もう私がこの場で電源落としてやるわ!」

純「に、逃げるよ梓!」

梓「ジュンマッテェー」よたよた

純「ああっ、省エネモードのせいでまともに走れない!」

和「捕まえた、観念なさい!」

梓「ギャータスケテー」

純「ま、待ってください生徒会長!
  そんな馬鹿みたいに節電しなくたっていいじゃないですか!
  異常ですよ異常」

和「異常なもんですか、
  私が好きでこの学校の節電を推進してたと思ってるの?」

純「へっ」

和「せめてこのクソ暑いシェルター生活の中で
  冷房だけは動かしていられるように照明を切って節電を進めてたのにっ、
  政府は私たちの頑張りも無視して冷房まで切るように言ってきた!
  自分たちは電気使い放題で涼んでるくせに」

純「生徒会長……」

和「私は決めたの、もうこうなったらとことんまで節電してやるって。
  そうすれば冷房使用の許しくらいは出るかも知れない」

和「そのために梓ちゃんの電源を切るわ。
  学校で一番電力食うのはあなたみたいなロボットなのよ」

梓「ヤメテクダサイ、私、電源キラレタク……」

和「まったくわけがわからないわ、
  いざ本番でスムーズに動かなかっら困るから……なんて理由で
  大量の電気を消費させながら動かしておくなんて。
  政府の考えることはとんちんかんだわ」

梓「純、タスケテ、純」

純「……」

梓「純……!」

和「他の学校のロボットは、もう電源を落とされて
  倉庫に入れられてる……
  でもそれは節電のためじゃなくって
  『節電中に電気を使われるのがむかつくから』なんですって。
  みんなバカみたいよね」

梓「和先輩、ヤメテクダサイ……」

和「あったわここがスイッチね。
  じゃあおやすみなさい梓ちゃん、
  地上に上がったときのあなたの活躍を祈ってるわ」

梓「ヤメ……」 ブツッ



20XX年
列島で同時多発的に発生した災害により
日本はあまりにも甚大な被害を受けた
都市機能は完全に停止
交通も通信も分断され
どこで何が起こっているのかさえ分からなかった
かろうじて把握できたのは
全国の原子力発電所が被災して
日本中……
いやそれだけではなく近隣のアジア諸国まで
放射線に汚染され極東アジア一帯が死の世界となりはてたこと
政府は都心部で運良く生き残った
数千の人々だけを地下シェルターに誘致し外界との関係を絶った

地下シェルターには
人々の居住スペースや
生活用具と食物と水は用意されていたが
電気だけが圧倒的に足りなかった
人々は不便な思いをしながらも
極力地上と同じような生活をしようと試みた
シェルターの数カ所を学校に定め
未成年の若者たちは毎日そこに通った
そうすることで人々は精神の安定を図った

だがそんな生活も長くは続かず
発電装置に不具合が生じたのだ
このままではいずれ電気も使えなくなる
だがここから出るわけにも行かない
外界と連絡も取れない
そこで考え出されたのがロボット計画であった

政府はシェルター内に作られたいくつかの学校から
無作為に生徒を選び出しロボットに改造した
シェルターから外の世界に出て
地下生活に必要なものを入手してくるためだ
そして地上の汚染状況を調査したり
ゆくゆくは除染作業をすることも視野に入れられて
数体のロボットが開発されることとなった

計画に選ばれた生徒たちは抵抗した
当然である
いくら人々を救うためとは言え
ロボットに改造されるなど
到底受け入れられることではない
しかし彼女たちは無力
政府に逆らいきれるはずもなく
研究所へと連れて行かれ
数年の歳月をかけて
ロボットとして生まれ変わった
そして彼女たちは記憶を消され
自身がロボットであることに疑念を抱かぬよう
思考回路を操作されて
元の生活へと戻されたのだ


……無理やり電源を落とされ
記憶回路にバグを起こした梓は
唯によって再び電源を入れられたとき
これらのことを完全に思い出してしまっていた。

梓「そうだ……私、もともと生身の人間だったんだ……」

唯「あずにゃん……」

梓「どうして……どうして私こんな体に……
  なんでロボットなんかになってるんですか……!」

澪「み、みんなを救うためなんだ。
  栄誉あることなんだぞ梓」

梓「じゃあ澪先輩がロボットになったらよかったじゃないですか!」

澪「うっ」

梓「いやですよこんな体……いやだよ……
  元の体に戻りたいよお……」

唯「あずにゃん……」ぎゅっ

梓「抱かないでください……
  こんな機械の体、熱いだけですよ」

唯「熱くないよ、あったかいよ」

梓「私はなにも感じられません……」

紬「今政府の人達を呼んだわ~」

律「えっ!?」

澪「なんでいきなり……
  政府の人を呼んでどうするんだ?」

紬「もろちん梓ちゃんを連れて行って修理してもらうのよ。
  ロボット計画には琴吹家も関わってるからねー」

律「そんな」

梓「行きたくない……
  どこにも行きたくないです、ずっとここにいたいです」

紬「ダメよ梓ちゃん、あなたは私たちを救う英雄なの。
  あなたがちゃんと働いてくれないとみんな死んじゃうの。
  唯ちゃんだって」

唯「あずにゃん……」

梓「唯先輩……」

紬「さあ行きましょう梓ちゃん。
  もうすぐお迎えが来るわ」

梓「うっ……また、また戻って来ますから……
  絶対もどってきますから、絶対……!」

唯「う、うん……待ってるからねっ」

澪「梓、私たちずっとここで待ってるからな!」

梓「はい……!」

それが梓と軽音部員の最後の会話になった
梓は政府の人たちによって
研究所へと連れて行かれた

唯「あずにゃん、記憶消されちゃうのかな」

紬「そうでしょうね。
  そして多分別の学校に送られるわ」

唯「うう……」

律「仕方ないさ……梓は特別だったんだ。
  遅かれ早かれこうなっていたさ」

澪「……」

紬「大丈夫よ、
  あずさちゃんならきっと立派に使命を果たしてくれるわ。
  だって研究所の方が
  梓ちゃんは最高傑作だって褒めていたもの」

澪「そうだな……梓なら、梓ならきっと
  私たちのことを救ってくれるさ」

律「ああ、そんときはまたど派手に電気使って
  ぱーっと演奏しようぜ、梓のために」

唯「うん……」



半年後
梓を始めとするロボットたちは地上へと這い出た
人々の期待をその身に背負って

地上は瓦礫の山だった
倒れた高層ビル
枯れはてた植物
灰色の空
動くものは何一つない
時間が動いていないかのような世界

梓の使命は被災・汚染状況の把握だった
足の裏につけられたジェットブースターで飛行しながら
データを収集していく

梓は瓦礫の中に赤く光るものを見つけた
ギターだ
地上に降りてそれを手に取る
すると梓の中にある記憶が流れこんできた
軽音部
先輩たち
地下シェルターで育まれた思い出
梓の記憶にはなかったが
それは確かに自分のものだと梓は理解した
そしてそのギターを腕に抱いて
ふたたび空へと舞い上がるのであった
もう一度あの軽音部へと戻るために
先輩たちの笑顔に出会うために

          お          わ                         り



最終更新:2011年07月15日 20:53