四・『末広かり』


紬「私はとっても幸せ者です。
  ああ、軽音部のみんなと同じ大学に通えるなんて、夢のよう……
  もう、毎日が新鮮で楽しすぎ!
  今日も、これから学食のランチに初挑戦してみようと思います」

澪「お、ムギじゃないか」

紬「あ、澪ちゃんもランチ?」

澪「うん、暑いから冷やし中華でも食べようと思って。
  ムギは何を頼んだんだ?」

紬「カツ丼でっす! 私、学食でカツ丼を食べるのが夢だったのー!」

澪「へ、へえ……」

紬「わあー!
  このカツ、衣ばっかり厚くて中身がスカスカだわー!
  とっても新鮮な味がするー!」

澪「相変わらず、訳の分からない価値観に生きているな。
  ま、それはともかく。最近やたらと暑いよなあ」

紬「ええ、もう7月ですものね」

澪「こう暑いと、教室から教室に移動するだけでも一苦労だな」

紬「そうね。お洒落な末広がりが欲しくなるわね」

澪「ん? スエヒロガリ?」

紬「あ……ううん、なんでもない!
  それより、今日の夕方ヒマ?
  よければ、どっか遊びに行かない?」

澪「ごめん、今日はちょっと用事が……」

紬「そっか。じゃあ、またね」

澪「ああ、また」


(30分後)


紬「ああ、しまったなあ。
  私はもうお嬢様じゃなくて、みんなと同じ一般学生なんだから、
  『末広がり』なんて高級なものを欲しがっちゃいけないのよね。
  それにしても最近、唯ちゃんもりっちゃんも澪ちゃんも忙しそうだなあ……
  全然かまってもらえなくて、ちょっと寂しい……」


(同時刻、別の場所)


律「で、どうだった?
  それとなく、ムギが今いちばん欲しいものを聞き出せたか?」

澪「ああ。偶然だけど、うまくいったよ。
  どうやらムギは、スエヒロガリってものが欲しいらしい」

唯「スエヒロガリ? 何それ?」

澪「それはだな、ええと……何だろう?」

律「だーっ! 肝心な正体が分からなきゃ、どうしようもないだろ!」

澪「ご、ごめん」

唯「まあまあ。みんなで調べれば、きっとすぐ分かるよ」

律「でも、ムギの誕生日は明日だぞ? 今日中に判明させないと」

澪「うーん、誰に聞けばいいか……」

唯「よし! こういう時は、あずにゃんの出番です!」

律「え、なんで梓?」

唯「ほら、あずにゃんはパソコンで買い物するの得意じゃん。
  きっとインターネットを駆使してバシッ! と一発で見つけてくれるよ」

澪「そういうものか?」

唯「そういうものだよ!
  じゃ、早速あずにゃんに電話かけてみるね」


(in梓宅)


梓「あー、土曜の休校日はヒマだなあ。
  しょうがない、またアマゾンでバンドグッズでも漁ろうっと」


(と、携帯が鳴る)


梓「誰だろ……あ、唯先輩だ! はい、もしもし」

唯「あずにゃーん、お久しぶりー!元気してたー?」

梓「はあ、ま、それなりに。
  ところで、どうしたんですか?」

唯「ねえ、あずにゃんはスエヒロガリって知ってる?」

梓「スエヒロ……なんですって?」

唯「だーかーらー、スエヒロガリ」

梓「この人はまた、意味不明なことを……いえ、知りません」

唯「なーんだー、知らないのかー。
  そっかー、あずにゃんともあろうお方が、知らないんだー」

梓「むっ! 知らなくて悪かったですね!」

唯「あ、ごめんごめん。からかうつもりじゃなかったんだよ。
  ただカクカシカジカというわけで、ムギちゃんのためにひと肌脱いでほしいんだよ」

梓「そうですか。ムギ先輩のためじゃ、仕方ありませんね。
  今、インターネットを駆使してバシッ! と一発で特定しますから、待っててください」

唯「わーい、あずにゃん大好き!」

梓「はいはい。じゃ、判明したらこっちからかけ直しますから」

唯「頼んだよー」

梓「失礼します……っと。
  さあて、やってやるです」

梓「まずはグーグル先生に聞いてみて……
  え、狂言のタイトル? それはちょっと違うっぽいなあ。
  他の候補は……ううん、これだけだとちょっとよく分からないなあ。
  よし、こういう時はヤフー知恵袋しかない!」


(同時刻、また別のどこかの家)


萌豚「まかり出でたる者はwwwどこに出しても恥ずかしいwww
   キモオタ童貞ニートでござるwwwコポォwww
   今日もwww知り合いのリア充どもは合コンに行ってるのでwww
   俺だけPCの前でVIPに張り付きっぱなしwww
   俺ぼっちすぎワロタwww
   おやwww何か見慣れぬスレがwww立ってるでwwwwござるよwww」

萌豚「うはwwwこれは伸びるwww
   俺のゴーストがwwwそう囁いているwww
   さっそく、 >1のリンク先を見てみようwww」



『たすけてください!
 スエヒロガリって何ですか?
 緊急なんです!
 どこで買えるかも教えてもらえると嬉しいです!』



萌豚「ちょwwwイミフwww
   なにwwwスエヒロガリってwww
   これはwww適当な回答を書いてwww
   なぶってやろうと存ずるwww
   ええとwww」


『私はスエヒロガリの専門家です。
 あなたが求めているのは、ズバリ傘のことです。
 ほら、傘は普段閉じているけど、雨の日にはみんな末の方を広げて使うでしょ?
 だから 末広がり って言うんですよ。
 はい、またひとつ賢くなりましたね』

萌豚「うはwww俺マジ博識wwwテラ親切」


『ありがとうございます、助かりました!
 あなたの回答をベストアンサーに選ばせていただきます!』


萌豚「JKバカスwww」



(数分後)

唯「というわけで、あずにゃんのおかげでスエヒロガリの正体が分かりました!」

澪「さすが梓だな」

律「ああ、唯と違って役に立つな」

唯「ええー! そもそもあずにゃんに調べてもらおうって言ったの、私なのに……」

律「まあまあ。それよりみんな、ちゃんとバイト代持ってきたか?」

唯「うん、これだけ稼いできたよ! フンス!」

澪「私もがんばったぞ!」

律「おー、みんなすごいなあ。じゃ、これに私の分を合わせて……
  よし、さっそく傘を買いに行こうぜ!」

澪「暑い日に欲しい……って言ってたから、たぶん日笠、もとい日傘のことだよな」

唯「お嬢様が持ってキチンと絵になるような、お洒落な傘を探すよ!」


(翌日)


紬「はあ……みんな、今日も私と遊んでくれなかった……
  晶ちゃんの言うとおり、やっぱりお金目当ての付き合いだったのかしら……
  寂しいなあ……そろそろ、寮に帰ってきてるといいんだけど……」


(澪の部屋のドアをノック)


澪「はい、どうぞー」

唯「あ、ムギちゃん!」

律「よー、ムギ!」

紬「みんな……久しぶりー! オイオイオイ」

澪・唯・律「泣くほど久しぶりなのかよ」

紬「だって……最近、みんな私のことを避けてるみたいだったし」

澪「あ……ごめんな、そんなつもりじゃなかったんだけど。
  内緒にしたいことがあって……」

唯「はいムギちゃん! これ、私たちから!」

紬「日傘?」

唯「私たち、自分たちで稼いだお金で恩返ししたくてバイトしてたんだー」

澪「ほーら、ムギの欲しがってたスエヒロガリだぞー!」

紬「……」

律「あれ? 気に入らなかった?
  確かに安物だけど……」

紬「えっと……末広がり、っていうのは……
  扇子のこと、だったんだけど」

澪「え」

唯「え」

律「……やっちまったな」

澪「ご、ごめん! 私たち、早とちりして……」

唯「あわわ、どうしよう」

紬「ううん! すごく嬉しい!
  みんなありがとぉー!」

澪・唯・律「どういたしまし……」

紬「オイオイオイオイオイオイ」

澪・唯・律「って、泣きすぎ!」

紬「だって……みんな、私のために……
  たとえ間違っていても、こんなに素敵な末広がりはないわ」

唯「んー……ま、結果オーライ?」

律「だな!」

(翌日)


紬「らららー、これも神の誓いとてー、人が傘を差すならー、
 私も傘を差そうよー、るるるー」

澪「……なあムギ」

紬「はい?」

律「気に入ってもらえたのは嬉しいんだけど……
  教室の中で講義を受けている時ぐらい、広げずにしまっておけよ!」

紬「お構いなく!」

唯「構うよ!
  ……って、あれ? こういうオチ、前にもどこかで見たことなかったっけ?」

澪・律「お前が言うな」


(完)



※書きためじゃないなら柿山伏書いてくれ



紬「あら? 持ってきたお菓子が減ってる?」

唯「ああ、つまみ食いがバレるのが嫌で、つい倉庫に隠れちゃったよー」

紬「ははあ、さては唯ちゃんね……よし、ちょっとからかっちゃえ。
  あー、誰がつまみ食いしたのかなー。もしかしたらカラスかなー。
  最近のカラスは頭がいいっていうから」

唯「……カアカア」

紬「いやいや、もしかしたらトンちゃんかもしれないなー。
  最近のカメはグルメだから」

唯「え、トンちゃん? トンちゃんってどんな風に鳴くんだろ」

紬「ああトンちゃん、あなたが犯人だったのね!」

唯「え、ええいっままよ! チェケラッチョイ! チェケラッチョイ!」

紬「はい、唯ちゃん見つけたー」

唯「ありゃー?」


こんなもんで勘弁!






最終更新:2011年07月16日 21:19