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唯「ダイブ」


ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「・・・・・・」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「・・・・・・」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「・・・・・・」

唯「・・・・・・」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「・・・・・・」

唯「・・・澪ちゃん」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

唯「あの・・・、その・・・え、えっとね・・・」

ガッッ!!

唯「っっひっ!?」

澪「・・・・・・」

澪「なんだ、唯・・・私は忙しいんだ。たいした用じゃなければ話しかけないでくれないか」

唯「いや、あの・・・その、ね?」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「・・・・・・さっさよしゃべれよ。さっきも言ったけど、私は忙しいんだ」

唯「あ、・・・は、話聞いてくれる・・・の?」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「・・・・・・お前にちゃんと話す気があるなら、な」

唯「そ、そか・・・・あ、あのね」

澪「なんだよ・・・」

唯「・・・・たいした用かどうかはよく私にはわからないんだけど、・・・そのね」

澪「ん?」

唯「その・・・どうして・・・澪ちゃんはここでずっと穴を掘ってるのかなぁって・・・」

澪「・・・・・・」

唯「・・・思って」

・・・ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「悪いか?穴掘ってって」

唯「いや、悪いっていうわけじゃないんだけどさ・・・その、どうしてかなぁ・・・って思ってさ・・・ホントに」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

唯「最近、・・・澪ちゃん学校にも、部活にもこなくなって・・・ずっと穴掘ってるし・・・」

澪「・・・・・・」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「・・・お前も私を笑いにきたのか?律みたいに、バカにしにきたのか?」

唯「ち、違うよっ!!笑いに来たとか、バカにしにきたとかそんなんじゃないよっ!!」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「・・・・・・」

唯「それに・・・りっちゃんたちだって、・・・みんな、澪ちゃんのことが心配で、だからあんな風にちょっと怒りっぽくなっちゃったからで・・・」

ガッ、ガッ、ガッ、ガキッ

澪「・・っ痛・・・・」

唯「だ、大丈夫っ!?」

澪「あぁ・・・土に隠れてた石にあたっただけだから・・・」

唯「・・・そ、そか・・・石が隠れてるんだね」

澪「・・・あぁ。たまにあるんだ。こんな風に石にあたってスコップから土に伝えたはずの力が全部石によって跳ね返されてさ・・・」

澪「・・・スコップを握るこの左手がすごく、しびれたようになるんだ」

唯「・・・・・・」

澪「・・・・・なぁ、唯」

唯「なに、澪ちゃん・・・・・・」

澪「作業が滞ったし、ちょうどいいからさっきの質問に答えるよ。左手も当分しびれたまんまで障るだろうし」

唯「え、あ、う、うん・・・・・・左手、大丈夫?」

澪「あぁ、大丈夫だ。土を掘ってたらよくあることだから。唯もしてみたらわかるよ」

唯「いや、・・・・・・私土を掘るより、ギー太を弾いてるほうがいいかな・・・ははは」

澪「そうか、それは残念だな。ところで、さっきの質問だけど唯は私に『どうしてここで穴を掘ってるのか』と尋ねたな」

唯「うん・・・・・・だって、もう3週間くらい、澪ちゃんここで穴を掘り続けてるでしょ?」

澪「そうか。もう3週間も経つのか。・・・・・・どうりで放課後のティータイムが懐かしいわけだ・・・・・・」

唯「でしょ?だから、もうこんなことやめて、また一緒にお茶飲んだり、みんなで話したり、演奏したりしようよ」

澪「いやいや、唯。それとこれとは話がまったく違うんだよ、話をすりかえないでくれ」

唯「ほぇ・・・?今、私、なにかおかしなこと言った?」

澪「・・・まぁ、いい」

澪「唯、私はさ、ふと思ったんだ」

唯「なにを?」

澪「このままこの平凡な日常の中で私は生きていくのかなぁ・・・って。ふと思ってしまった」

澪「最初はうっすらだった。本当に、気にも留める必要のないくらいのうっすらだった」

唯「・・・」

澪「ほんのちょっとの時間のすきまに頭に思い浮かんできただけのことだったのに、それはそれから私の頭に常に浮かぶようになったんだ」

唯「『このまま平凡に生きていくのかなぁ』って?」

澪「うん、そうだ」

唯「澪ちゃんにとって、私たちといる日常って平凡なの?平和とか、そういうのじゃないの?」

澪「私もそう自分に問うたさ。『平凡じゃないだろ?こんなにいい仲間にめぐり合えて、
  毎日楽しくすごして。今以上に最上級な日常なんてあるわけがないじゃないか』って」

澪「最初はそんな自問自答で自分を納得させることができた。
  だから、みんなと一緒にいることができたし、みんなと一緒に放課後を過ごすことになんの疑いもなかったんだ」

唯「・・・・・・」

澪「次はモヤモヤだった。その頃からそれは『白い』っいうことが認識できはじめた。」

澪「 だけど、それでも、私の頭の中にかかった霧はだんだんその濃度を増していったんだ」

澪「目を背けることができなかった。どうしてかって?目の前が霧で前が見えなくて、
  不安になって右を見るだろ?でも、そっちの方向も霧で覆われているんだよ。もちろん左も同じ。多少濃度に差はあるけど」

澪「気づいたときにはもう360度、私にとって道という道は全部、霧で覆われていたんだ」

澪「どっちか、前かも後ろかもわからない。
  そんな状態で日常はそれでも平穏を保つことが出来ていると思うか?できるわけないだろそんなこと」

唯「・・・澪ちゃん」

澪「ん・・・?」

唯「なに言ってるのかわかんないよ・・・」

澪「そうか・・・わからないか・・・・そうだな。たとえるなら、・・・ホワイトアウトだ」

唯「・・・ほわいとあうと?」

澪「そう・・・ホワイトアウトがぴったりだな、うん。今口から偶然でた言葉だけど、ホワイトアウトがしっくりくるな」

澪「もうどっちに太陽があるかもわからないんだ。あれだけなんの疑いもなく、私は太陽に照らされて、太陽の下で暮らしていけると思っていたのに」

澪「私を導いてくれていた光だって、今は乱反射して私の視界を悪くする」

澪「私の邪魔をする、自分がどこにいるのかわからない・・・・自分がいままでどこにいたのかさえも疑わしい」

唯「・・・・・・」

澪「もしかしたら・・・今までの日常が錯覚だったのかと疑わしくなるくらいに」

澪「だから、私は穴を掘るんだ・・・」

唯「・・・穴を?」

澪「自分の居場所がわかるように。今日が昨日になるように。明日が今日になるように。昨日が明日になるように」

澪「私に太陽の光はもう届かないかもしれない・・・それくらいもう霧は濃いんだ・・・白くて濃くて・・・もう何も見えないんだ」

澪「もう、なにも見えないんだ・・・掘るんだ・・・穴を・・・だから・・・」

ガッ

唯「み、おちゃん・・・?」

ガッ

澪「掘るんだ。掘るんだ、穴を穴を・・・・穴を・・・穴を・・・・穴・・・・」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「・・・・・・」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「・・・・・・」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「・・・・・・」

唯「澪ちゃん・・・」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「穴・・・穴・・・穴・・・穴・・・穴・・・」

ピーーーー

唯「あ・・・・・・・時間切れ・・・か」

唯「またくるよ、澪ちゃん」

ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪「穴・・・穴・・・穴・・・穴・・・穴・・・」

―――――

唯「ふぅ・・・」

和「おつかれ、唯」

唯「あ!のどかちゃ~~ん!!」

和「わっ!?ちょ、ちょっと、いきなり抱きついたらあぶないじゃない!!」

唯「えへへ、ごめんごめん。でも、のどかちゃんに抱きつくのも私の大事な任務なんですっ!」

和「なにを言ってるのよ・・・」

唯「照れちゃって、照れちゃって!!この、この!!」

和「・・・ゆい、そろそろいいかしら」

唯「あ、うん。澪ちゃんはやっぱりもうダメかもしれないな・・・精神的にやられてる感じ」

和「そうなの。こっちでも一応モニターで様子は確認してたけど・・・」

唯「あ、まだ澪ちゃん、穴掘ってる・・・」



ガッ、ガッ、ガッ、ガッ

澪『穴・・・穴・・・穴・・・穴・・・穴・・・』



唯「・・・みおちゃん」

和「澪にとって、よっぽどショックだったのかしらね」

唯「・・・そりゃそうだよ。私もショックだったもん」

和「そうよね。唯のときも私が唯の精神世界に入り込んでいかなきゃ危なかったものね」

唯「澪ちゃんは『穴掘り』だったけど、私はなんだったっけ?」

和「忘れたの?『食べ終わったアイスの棒をひたすらしゃぶる』よ」

唯「うわ~~。澪ちゃんの穴堀りもそうとうひどいって思ったけど、私のほうがもっとひどい」

和「まぁ、でもしかたないわよ。そういうの、自分じゃ制御したり、決定できたりするものじゃないし」

唯「まぁ、ね・・・」

和「とりあえず、澪はまた明日かけあってみましょう」

唯「だね。今日は昨日より、自分のこと話してくれたから、・・・ちょっとだけよかったよ」

和「心配?」

唯「そりゃあね。まだ、憂もりっちゃんもムギちゃんもあずにゃんも寝っぱなしだからね」

唯「一番状態のいい澪ちゃんであれだから・・・他の4人はもっと大変そうだよ」

唯「それに・・・まだまだたくさん助けなきゃいけない人はいるし・・・」

和「そうね。でも、ここで唯がくじけたら、そこですべてが終わるわ」

唯「うん・・・そうだね。・・・のどかちゃん」

和「なにかしら、唯」

唯「私、みんなのためにがんばるよ」

唯「・・・また、みんなで放課後にお茶したり、演奏したり、どうでもいいことでもいいからたくさんたくさん話して・・・・」

唯「・・・みんなともっと一緒に居たいから」

和「・・・唯を一番に助けて、唯にはつらい思いをさせてるって思ってる。ごめんなさいね」

唯「ううん、そんなことないよ。たしかにたまに悲しくなることはあるけど、でも」

唯「いつも迷惑をかけてた私がこんな風にみんなにもしてあげられることがあるんだってわかったから」

唯「それが私にしかできないことだって思ったら・・・・なおさら、見捨ててなんておけないよ」

和「・・・・うん、そうよね。やっぱり、私、唯を一番に助けて間違いなかったわ」

唯「そんな・・・のどかちゃんも、ごめんね?私よりも助けたい人、いっぱい居たよね?」

和「唯・・・何回言ったらわかるのよ。私は唯を助けたかった。これは本当よ」

和「だって、自分が本当に大切だと思う人の精神世界にしかダイブできないんだもん。これ」

唯「・・・」

和「自分でいうのもなんだけど、
  私・・・HTTの、唯以外の人の精神世界にはきっとダイブできないって、なんとなく思ったの・・・思ってしまったの」

和「だから、・・・唯を一番に助けてよかった。もちろんHTTのみんなだって私には大切だけど」

和「唯は私以上にみんなを思ってるから、絶対大丈夫だって思った。昔から、私には出来ないことを無条件でなんなくやりとげちゃうから」

唯「・・・」

和「私には唯しか助けられなかった。唯の精神世界にしかダイブできなかった。
でも、それって、逆に『私は唯以外大切じゃなかったの』っていままでの自分の日常を疑うことになるんだけど」

和「それでもね、ねぇ、唯。私は、それでも唯を助けてよかったって本当に思ってる」

和「あなたはずっと、みんなに惜しみない愛情を降り注いでいたから。
  それの証拠に、あなたは、あなたがかかわったどんな人の精神世界にもダイブできるわ。それってすごいことよ」

和「でも、とってもかなしいことでもあるけど・・・」

唯「・・・」

ピーピー

和「あ」

唯「あ・・・りっちゃんの時間か・・・」

和「・・・大丈夫?唯」

唯「うん、大丈夫だよ。のどかちゃんのおかげですっごく元気でた。また、がんばるから、私。みんなを助けるために」

和「そう・・・」

唯「うん!りっちゃんは・・・え~っと・・・なにしてたっけ?」

和「『ドラムのスティックででこを磨く』よ」

唯「あ~~、そうだった。油断したら私のでこまで磨いてくるんだよね、りっちゃん」

和「あらあら、唯はおでこ出すの苦手なのにね」

唯「そうなんだよ~~りっちゃんはあいかわらず、りっちゃんだよ」

和「ふふふ、・・・じゃあ、いきましょうか」

唯「うん!あ・・・ちょっと先に行ってて!すぐ追いつくから!!」

和「そう、早くしなさいね」

唯「うん。ありがとうのどかちゃん」

和「私のほうが、ありがとうよ、唯」

唯「えへへ」

澪「・・・・」

唯「澪ちゃん、・・・また明日くるよ。もしかしたらりっちゃんもつれてこれるかも!!」

澪「・・・・・・」

唯「たはは・・・穴堀りは私にはよくわからないけど、ホワイトアウトは後で調べてちゃんと理解しとくからね」

和「ゆいーなにしてるのーはやくー」

唯「あ、うん!今いくよ、のどかちゃん!!」

澪「・・・・」

唯「じゃあ、・・・ちょっと、みんなを助けてくるね!!」



おわり



最終更新:2011年07月19日 03:28