ーーーー思えばいつも、みんなの背中を見ていた。


「ドラムだから当たり前? いやいや、そーいうことじゃなくってさ。
 なんていうか、気持ち的な意味で?

 いつも、いちばん後ろからあいつらを見守ってるつもりでいたんだ。
 でも実際はみんなに置いてけぼり食ってただけだったよ私。ははっ。


 いや、笑い事じゃないのはわかってたけど、
 なんかもう泣けてくるから笑うしかないっていうかさ。

 いじけてるとかじゃなくて!

 ……まあ、ちょっといじけてた事も否定しないけど」


「正直、唯にバンドを再結成しようって言われた時は震えたよ。
 だってみんな、立派なプロミュージシャンだよ?

 出掛けたらアチコチで唯の歌声が流れてるし、
 梓もスタジオで一流のミュージシャンと仕事してるだろ。

 澪は作詞家としてもなんか人気出てるし、
 ムギは名前こそ表に出てないけど、作った曲はしょっちゅう耳にしてる。

 それに比べて、私はしがないフリーター、だったもんな。
 まあ、ドラムは続けてたけどさ」


「わかってたんだよ。私だって。

 梓は確実に知識と技術を身につける方法を選んだわけだし、
 澪とムギはストイックに自分の感性と向き合った。

 唯は、まぁアイツはあのまんま、持ち前の才能ってやつかな。
 ……え?うん、知ってるって、アイツもちゃんと努力してるってのは。

 私が言いたいのは、唯の、ひとつのことにトコトンのめり込める才能。

 ……うん、だよな、あれは正直羨ましい。
 時々行き過ぎて暴走するのは、まあご愛嬌? ははは。お前も苦労するな。

 まあそれで、私は……」


「そのどれも選ばなかった。
 選べなかった、っていうほうが正しいかな。

 怖かった?どうだろう、よくわかんないや。

 ただ、なんでだろう、好きなことなのに一生懸命になれないって、
 ずっと自分の性格に呆れてたし、ムカついてた。

 ……ん、悔しかったんだと思う。いろんなことが」


「自分の短所をわかってるなら直せよって、みんなよく言うじゃん?
 割とさ、自分もウダウダやってる他人を見てそう思ったりしてた。

 だけど、つくづく思ったんだ。
 自分の性格をちゃんと受け入れたうえで努力し続けるのって、物凄く大変なんだって。
 楽しいことをただ楽しくやってるだけじゃ、それ以上先に進めないのな。

 ……ん、まあそうだな。
 好きなことのためなら努力も苦にはならないって人もいるよな。

 あー、そういえばお前もそれが出来るタイプだったか。
 いやゴメン、皮肉じゃなくてさ。
 そういうとこ、高校ン時からずっと尊敬してるよ。ホントに」


「あれ?そういうこと話してよかったんだっけ?
 あ、適当にアレしてくれるからいいの? そっか」


「……うん?再結成に参加しようって決心したきっかけ?
 なんだったっけかな……。

 ……。

 ああ、思い出した。梓だ。

 話し合おうってことで久し振りに全員で揃った時にさ、
 あいついきなり私の両手掴んで言ったんだ。
 ちゃんとドラマーの手ですねって。私のてのひら見て、真顔でさ。

 そのあと、音を合わせた時にもさ、これならなんとかなりますよって。
 後輩のくせに生意気だろ?まったく。

 でもさ、他のみんなも口を揃えて同じ事言うんだ、なんとかなるねって。

 なんとかってなんだよって思ったけど、言い返せるわけないし、
 なんとかなるのかーって内心ちょっと喜んじゃった自分が悔しいくらい。


 ……まあ、そのあと地獄の特訓が待ってたわけだけども。

 えっ、その時の話? やめて思い出したくない」


「えと、んで、何だっけ。
 ……あぁ、それで今はどう思ってるか、ね。

 言い訳に聞こえるかもしれないけどさ、っていうか半分は言い訳だけど、
 それが私のリズムだったんじゃないかなって思うんだ。

 私は私のリズムでしか歩けてなくて
 並んで歩いてたはずなのに置いてかれたり、あっさり追い抜かれたりして、
 みんなを後ろから見ながら、あーみんな頑張ってんなーって。

 ドラムは走ってんのに自分の歩くリズムは遅い、みたいな。ははっ

 いや上手いこと言ったつもりないから。むしろ自虐だから。

 ……うん、なんかゴメン」


「でも正直、どんどん先に行くみんなの背中を見てるの、嫌いじゃなかったんだ。
 まあ確かに寂しかったし焦ってもいたよ? うん、それは否定できない。

 今だから……。
 通り過ぎて、振り返れるようになった今だからそう思えるのかもしれない。
 もがいてた時はわかんなかったけど。

 見守ってたつもりが、いつも引っ張られてたんだなぁって実感したよ。
 高校の時から、あいつらにさ。

 澪にいたっては、もっと前からかもしれないな。

 いちばん後ろにいる私を、みんなが時々振り返って、ちゃんと見てくれて。

 …………うん、」


「…………あの、さ。

 ソレ、ICレコーダー。止めてもらっていい?
 今から話すのは、ちょっとその、個人的なアレだから」


「……えっと、あのな。

 ホントに、和には感謝してるんだ。
 いつまでもくさって愚痴ってばかりだった私を見捨てずにいてくれて。

 こんな情けない自分、あいつらには知られたくなかったからさ……。
 そんで、和にばっかり愚痴っちゃって。ほんとゴメン。

 ……はは、うん、容赦ない駄目出しも結構嬉しかったんだよ。

 変に気遣われると余計惨めな気持ちになるだけだったし、
 お尻叩いてくんなかったら、途中で諦めてたかもしんない。

 ホントに、ありがとうな。


 ……はっ? いや何言ってんの、照れてねーし!

 ?! ちょ、録ってんのかよ!
 止めてって言ったじゃん! いや照れてないけどさ!

 あーもう、笑うなバカ!もうおわり!止めろって!」


***


……ピッ


律「あぁ……変な汗が出た……。自分語りとかマジ勘弁して」

和「おつかれさま。……インタビュアーに向かってバカって。暴言よ、律」

律「相手が和じゃなかったら言わねーよ」

和「ふふっ」

律「だから笑うなってば」

和「あはは、ごめんなさい」

律「笑顔で謝らないでくださいますか真鍋さん?」

和「まあ、あとはこっちでまとめるから」

律「……ん。 あっ、最後のは無しな?」

和「それは私の裁量次第でね」

律「おい」


   本日のインタビューは終了です!
   律さんおつかれさまでしたー!
   真鍋さんもおつかれさまでした。


律「おつかされまでした。ふぁー、肩こったー!」

和「おつかれさま、律」

律「和も。なあ、これから時間あったらご飯行かない?」

和「そうね、ごちそうになるわ」

律「誰がおごるって言った」

和「冗談よ」

律「真顔で冗談言うなよ」

和「……ねえ律」

律「ん?何?」

和「もしかして、まだ自分のこと低く評価してる?」

律「……」

和「……はぁ、もうちょっと自信持ってもいいと思うけど」

律「わかっちゃいるんだけどさあ……」

和「少なくとも、律がいないとあの子たちがまた集まることも無かったと思うわよ」

律「それはまあ、オリジナルメンバーでっていうのが唯の希望だったし」

和「そういう意味じゃなくて」

律「……」

和「あんたはね、自分で思ってるよりずっと、あの子たちに必要とされてるわ」

律「……そうかな」

和「信じられない?」

律「ていうか……よくわかんない」

和「……。さっき、いちばん後ろでって言ったじゃない?」

律「うん?」

和「5人の中で」

律「ああ、うん」

和「律にとってはいちばん後ろだったかもしれないけど」

律「……」

和「ずっとあんたたち5人の背中を見てきた私が、そう言ってるのよ」

律「……!」

和「……なーんてね」

律「……和、」

和「そんな顔で見ないでよ、照れるから」

律「……はは、照れるならちょっとは照れた顔しろって」

和「誰が能面よ」

律「言ってねーよ!これっぽっちも!!」

和「ふふっ」

律「……なあ、和ってそんなキャラだったっけ?」

和「色々あったのよ、私にもね」

律「色々、ねえ」

和「そう、色々」

律「……ふぅ、なんか今日は涼しい夜だな」

和「ちょっと肌寒いくらいね。……あ、献本は事務所宛にしておくわね」

律「ん、さんきゅ。なんかちょっと、読むの勇気いりそうだけど」

和「ふふ、まあ楽しみにしてなさい」

律「怖いよその笑顔。あと眼鏡クイッてすんな」

和「HTT特集の最終回だからね。気合いが入ってるのよ」

律「そっか」

和「ねえ律」

律「んー?」

和「インタビュアーとして私を指名してくれて、ありがとね」

律「そこはまあ、リーダー権限で」

和「嬉しかったわ、あなたたちと仕事できて」

律「……うん」


和「それで、なに食べる?」

律「あ、うん。居酒屋でもいい? ちょっと飲みたい気分かも」

和「そう、じゃあ今夜はトコトン付き合ってあげる」

律「和はザルだからなぁ……。お手柔らかに頼むよ」

和「まあ、具合悪くなったら背中さすってあげるわよ?うしろから」

律「……勘弁してくださいよ、ホント」

和「ふふっ」





おしまい



最終更新:2011年07月23日 21:17