伊集院「子宮が弛緩したまま出血が止まらない…えっと~止血剤…オキシントンをっ」

伊集院「場合によっては緊急の子宮摘出も!!こ、これは大変だっ」

朝田荒瀬ミキ藤吉「!?」

一同「ガハハハハハハハハハ」

荒瀬「あひゃひゃひゃひゃ…録画してんだろーナこれガハハハ」

朝田「お前そりゃ出血後の処置だ、どこに子供がいんだよ!」

荒瀬「ヒヒヒヒヒヒ…あとでダビングだなこりゃアヒャヒャ」

藤吉「伊集院…カルテちゃんと読んだのか?」

藤吉「ストレスで月経が止まってるんだ…いわゆる続発性無月経だ」

朝田「ストレス回路のおおもとの視床下部、下垂体が手術によって刺激され、突発的に月経がはじまった」

荒瀬「ククククク」

伊集院「(最悪だ~~~~~こいつらみんなわかってて~~~~)」

荒瀬「ククク…おーい、1分で2ccの速度で側管注ね~~~」

伊集院「え…」

荒瀬「何見てんだメガネ…血栓の心配すんなよ、全部計算済みってこった」

荒瀬「それよりもヨォ…どっかのヘボ外科医が心臓腔内に空気塞栓でも作るほうがよっぽどこぇぇえぜ」

荒瀬「薬で心臓の鼓動が速くなるぜ…オンビートでホントにいいのか~クククク」

朝田「あ?誰に言ってんだよ…ようやく本番だろ…一気にケリつけるぜ」

確実に正確にそして素早く、まるで神の手のように

朝田「バチスタ手術 (変法、つまり心尖部温存)で左室側壁を切開」

華麗なる執刀医のメスさばき、唯の体を知り尽くしたといっても過言でない麻酔師による的確な体調節
朝田の意志に合わせて動くオペ看、繊細な作業で朝田をサポートする助手、患者の体調管理をベストに保つ内科医
ここに最高のチームが存在していた

朝田「バチスタ手術の左室切開口ごしに心室中隔最基部にある病変をセーブ手術に準じた方法でパッチ(矢印)閉鎖」

伊集院(早い…止血剤の効果で鼓動が強いのに)

荒瀬「~♪」

伊集院「(まるで針と糸が踊っているようだ!)」

朝田「伊集院」

伊集院「は、はい」

朝田「サルコイドーシスで心臓の複数部位がやられている…お前がやれ」

伊集院「で、でも…」

朝田「…俺は僧帽弁のほうをやる」

伊集院「…はい、やります」

荒瀬「ククク」


――――――――桜高講堂

ジャンジャン~♪ジャジャ~ン♪

澪(やっぱり唯がいないと迫力がないな…)

律(これじゃ唯にもうしわけねぇ)

紬(唯ちゃんの為にも…)

梓(唯先輩聴こえますか…?私たちの演奏)

ジャジャ~ジャ、ジャンジャカジャカ~♪

澪律紬梓(!?)

そのとき4人の耳には唯のギター音が響いた
いつも一緒に練習していることによる錯覚であるかもしれないが、彼女らには確かに聞こえていた

澪(唯…)

律(まったく、世話がやけるぜ)

紬(唯ちゃん…)

梓(唯先輩…)

唯『ごめんねみんな、すぐいくから待っててね…すぐ治して戻ってくるから』

澪(馬鹿…)

律(唯…)

唯『みんな、大好きだよっ』



―――――――――手術室

朝田「セーブ手術のパッチの心基部側を大動脈弁ごしに縫合完了」

伊集院「サルコイドーシスの尖部側3分の2を縫合しました」


―――――――見学室

鬼頭「大動脈基部再建のデービット手術の技術を応用して大動脈弁輪を活用したとは…ふふ、流石だな」


――――――――――手術室

伊集院「両室ペーシングするため房室ブロックは問題ありません」

朝田「そうだな」

荒瀬「ククク」

朝田「左室の基本構造を守るための腱索をする」

伊集院「(なんて早さなんだよ…こんな…)」

朝田「僧帽弁形成用のゴアテックス糸を用いて自然構造と同様に各乳頭筋先端と僧帽弁輪前中央部を結合」

荒瀬「ククク」

朝田「僧帽弁輪形成MAPを施行」

伊集院「(これは…)」

朝田「左室側壁の切開部を縫合閉鎖し、バチスタ手術 (変法)を仕上げる」

伊集院「(『ショー』の特等席だ!)」

朝田「心拍動下に三尖弁輪形成TAPを施行」

朝田「変性部位の切除口を閉じるぞ」

朝田「手術完了!!」

伊集院「…終わった…」

一同「お疲れ様でしたっ」

朝田「…」

唯『朝田先生…ありがとう…』

朝田「…あぁ」


――――――――――桜高講堂

澪「今日はありがとうございましたっ」

パチパチパチパチパチパチパチ

律「なんとかやりきったな…」

梓「でも唯先輩いないと駄目ですね」

紬「ウフフ♪やっぱり唯ちゃんは軽音部に欠かせない存在なのね」


―――――――2週間後

唯「……うぅ」

藤吉「お、やっとお目覚めか…」

唯「先生早いですね…」

藤吉「医者に休みはないさ…その後の経過は順調…これならもう少しで退院できるかもね」

唯「わーい…えへへ」

唯「先生…」

藤吉「ん?」

唯「私…生きたいって神様に願ったのそしたら…『生きなさい』って」

藤吉「そうか…それはよかったね」


―――――――さらに2週間後

唯「ありがとうごじゃいましたー」

ミキ「それでもしばらくは激しい運動しちゃだめだからね」

唯「がってんです」

藤吉「ちゃんと定期的に来るんだぞ」

唯「はーい…えへへ」


憂「おねえちゃんっ」

唯「おお憂っどわっ」

憂「えへへ、会いたかった~」ギュウウ

唯「私も会いたかったよ憂」ギュウウ

伊集院「お元気で」

唯「はいっ」

憂「ありがとうございました」

律「憂ちゃん早いって…はぁ…はぁ」

澪「この暑さのなかよく走れるね…」

梓「東京は暑すぎますよ」

紬「~♪」

唯「みんなぁ!!」

律「いや~しばらくだな」

澪「元気そうで何よりだっ」

紬「今日は、クッキー持ってきたの」

唯「ありがとうっ大好きだよっみんな」


―――――――――時は流れ文化祭当日

和「いいかしら」

澪「うん」

律「唯~早く戻ってこいよぉ~」

『これより軽音楽部“放課後ティータイム”によるライブを開始します』

唯「…はぁ…はぁ…急がなきゃ」

唯(そういえば入学式の日もこの道を走った)

唯(何かしなきゃって思いながら 
  何をすればいいんだろうって思いながら 
  このまま大人になっちゃうのかなって思いながら)

唯(ねぇ、私…

  あのころの私…、

  心配しなくていいよ…

  すぐ見つかるから…

  私にもできることが…

  夢中になれることが…

  大切な…大切な…大切な場所が)


唯「私は・・・」

唯「やっぱり生きる意味を知りたいっ」

唯「たとえ答えがわからなくても生きていきたい」

唯「だから私は今を精いっぱい生きるんだ」

唯「たとえこの心臓がいつか止まったとしても…それでも構わない」

唯「私は今を生きたいっ」

ガチャ

憂「お、お姉ちゃん」

唯「…はぁはぁ…あ、おっ憂~ピース」


ジャジャ、ジャジャ、ジャ~ン♪

唯「はぁ……はぁ……」

澪律紬梓「唯(ちゃん、先輩)…」ニコッ

唯「さわちゃん先生…ありがとう…」

さわ子「じゃ、あとがんばりなさい」


唯「みんな本当にごめんなさい」

唯「よく考えたら…」

唯「うっ…いつもいつも…うっ、ご迷惑を…」

唯「こんな…だ、大事な時に…」

澪「タイくらいちゃんと結べ…」

律「みんな唯が大好きだよ」

唯「うぅ…うぅうう」

観客「唯~がんばれ~」
観客「唯~がんばって~」

唯「えっと、改めまして『放課後ティータイムです』今日は私がギターを忘れたせいでこんなに遅れてしましました」

唯「ギー太も忘れてゴメン」

唯「目標は武道館とかいって私たちの軽音部は始まりました」

唯「ギターを買うためにみんなでバイトしたり、毎日部室でお茶を飲んでたくさんしゃべったり」

唯「ムギちゃんの別荘で合宿したり、入部してくれる1年生を探したり」

唯「わき目も振らず練習に打ち込んでギターなんてとても言えないけど、でもここが」

唯「いまいるこの講堂が…私たちの武道館です」

唯「そして皆さんご存知かと思いますが私、平沢唯は『拡張型心筋症』って言われて余命半年だったんです」

唯「けどバチスタっていう難しい手術ができる朝田先生が私を救ってくれました」

朝田「……」

ミキ「何照れてんのよ」

唯「憂もお母さんもいつもいつもお見舞いに来てくれてホントにありがとう」

憂「おねえちゃん…」

唯「学校の皆も募金活動とかチャリティーコンサートとかしてくれてホントに感謝してます」

唯「私がいまここでライブできるのも皆さんのおかげです」

唯「私はいろんな人に支えられて生きてきたんだなって実感しました」

唯「みんな大好きだよっ!!!!」

唯「最後までおもいっきり歌いますっ『ふわふわ時間』!!!<ドクッ>…うっ…ぐっ」

澪「ちょっと唯…」

律「おい唯大丈夫かよ…」

紬「大丈夫?休んだほうが」

梓「そうですよ無理しちゃ駄目ですって」

ミキ「唯ちゃん…って龍ちゃん?」

唯「あははごめんごめん…なんだか…ちょっと走り過ぎた…みたぃ」バタッ


澪「ちょ、ちょっと唯…しっかり」

律「おい、唯!唯っ」

憂「おねえちゃん」

紬「いやぁぁぁぁああ」

梓「そんな…先輩…」


朝田「どけ」

澪「あ、あなたは」

朝田「医者だ」

律「あなたが…」

ミキ「ちょっと龍ちゃん…」

梓「ミキさん…」

朝田「…ククク…全く…」

澪「え?」

朝田「おどかしやがって…」

ミキ「あ……」

律「え?」

唯「……ぷ…ぷははは」

澪「唯…」

唯「いやぁごめんごめん…ちょっとしたサプライじゅ」ゴスッ

律「心配させやがって…観客もドン引きだぞおい…」

澪「全く…何もなくてよかったよ」

梓「本当に…大丈夫なんですか?」

唯「いてて…うん、ねー朝田先生」

朝田「まぁな…無理はするなよ……」

唯「はいっ」

ミキ「それじゃあ頑張ってね」

紬「うぅ…唯ちゃん…」

唯「皆さん驚かしてすいませんでした…気を取り直していきます」

唯「最後までおもいっきり歌いますっ『ふわふわ時間』!!!」

ジャカジャカジャンジャン~♪

朝田「…くくっ」

ミキ「どうかしたの?」

朝田「あの子には笑顔が一番だ」

ミキ「えーなに…恋しちゃった?」

朝田「そうかもな…ククク」

朝田「あんな子の命なんて神様はとらねぇよ…」

ミキ「私の命もの取らなかったもんね…えへへ」

朝田「そうだな…」

ジャンジャカジャンジャカ~♪

唯「キミを見てるといつもハートDOKI☆DOKI♪」


唯(ありがとう…朝田先生…ありがとう…みんな)

唯(ありがとう神様…もらった命最後まで…燃え尽きるまで使わせてもらいます)

唯(私は生きてるから…)



―――――――2ヶ月後

花をもった一人の少女…一つの墓の前で足を止める

梓「きれいなお花でしょ…」

梓「ごめんね…幸せだったかな、あずにゃん2号…」

唯「あずにゃーんいくよぉ~」

梓「あ、はーい…あずにゃん2号大好きだよっ」


おしまい



最終更新:2010年01月22日 15:37