おひる!
唯「ふいーやっと午前中の仕事が終わったあ…」
澪「お疲れ様」
唯「あっ、澪ちゃん上司!
平沢唯はただいまからお昼休憩のお出かけに参ります!」
澪「ちゃんと午後の仕事までには帰ってこいよ」
唯「了解であります!」
唯「へへっ、あっずにゃ~ん♪待っててねー!」
……
梓の家
梓「ねえお母さん、やっぱり私が仕事に出るよ」
憂「めっ、梓ちゃんは休んでないとダメだよ!風邪ひいてるんだから!」
梓「もう治ったのにー」
憂「風邪は引き始めと直りかけが肝心なの。いいから大人しくしてなさい」
梓「でも……それに今日はあの人が来るのに」
憂「梓ちゃんの愛しの王子様?」
梓「そ!そんなんじゃないってば!」
憂「どうしてその人私たちに親切にしてくれるんだろうね」
梓「わかんない……でも、憂お母さんにも唯先輩に会って欲しいの…」
憂「ふふ、また今度ね。王子様が来てくれるんだったら、なおさら梓ちゃんが家にいないとだめじゃない?」
憂「きっと梓ちゃんに会いに来てくれるんだろうから……ふふっ」
梓「!も、もう!分かったから早く出てって!」
憂「はーい、じゃあ行ってきまーす」
がちゃ ばたん
憂「……はあ」
憂「私が隠し事してるの、梓ちゃんにバレなかったよね」
憂「だめだめ!私が暗くなってちゃ!今日中にお金をなんとかしなくちゃいけないんだから!」
……
コンコン
唯「あずにゃ~ん、いる~?」
梓「あっ、はーい!」
唯「こんにちはー、愛しの唯先輩だよー」
梓「ふざけてないで中入ってください」
唯「へへ、怒られちった」
梓「その…来てくれてありがとうございます」
唯「あずにゃんに会うためなら地球の裏側からだってくるよ!」
梓「へんなことばっかり言わないでください…」
唯「そうだ、今日もいっぱいお土産持ってきたよ!」ガサゴソ
唯「はい、これはリンゴ!」
と言って、梓の手に袋から取り出したリンゴを握らせる
唯「このリンゴはねー、なんと歩いてたら空から落ちてきたんだよー。すごいでしょ」
梓「ほんとですか~?」クスクス
唯「はいっ!それからこっちは、ジャガイモー、玉ねぎー、キャベツー、人参にブロッコリーだよ」
梓「こんなにいっぱい…」
唯「あずにゃん病みあがりなんだからいっぱい食べて栄養付けないとね!」
梓「これもぜんぶ空から落ちてきたんですか?」
唯「そうなんだよ、不思議だよねー」
梓「唯先輩がお店で買ってきてくれたんじゃないんですか?」
唯「ちがうよお、何言ってるのー、えへへ」
唯「それでねー、とっておきはこれ!チキンだよ!」
唯「これはね、たまたま私が山を歩いてる時に空を飛んでるのをみつけたから、
すかさず、『バーン!』と鉄砲で撃って捕まえたんだよ」
梓「(ニワトリは空を飛ばないけど黙っておこう)」
唯「戸棚のとこに置いとくねー」
梓「はい、ありがとうございます」
唯「よいっしょっと………………ねえ、あずにゃん」
梓「はい」
唯「抱きついてもいい?」
梓「ダメって言ってもするんですよね」
唯「よくわかってるね」
梓「じゃあ私がどう答えたって同じじゃないですか」
唯「同じではないよ、えいっ」
梓「………」
唯「最初は手をにぎるだけでも真っ赤になってたのに最近は落ち着いてるね」
梓「恥ずかしいですけど、もう慣れました」
唯「私は慣れないよ。いつもあずにゃんに抱きつくとどきどきしてる」
梓「にゃっ///」
唯「おっ、ちょっとあずにゃんもどきどきし始めた―?」
梓「してません」
唯「してるよー」
梓「してます、けど」
唯「あずにゃん、あったかーい」
梓「もういいですか。ちょっと苦しいです」
唯「はーい」
梓「唯先輩、机の上の箱をとってくれますか?」
唯「この棒と毛糸玉が入ってる箱のこと?」
梓「はい、それです。編み棒と毛糸を私の手の上に乗っけてください」
唯「編み物してるの?」
梓「……」
梓「唯先輩、私の悩み、聞いてくれますか?」
梓「これは私の大切な人にマフラーを作って差し上げようと思ってるんです」
唯「それってあずにゃんのお母さん?」
梓「その人、すっごく変な人なんです」
唯「ふーん」
梓「人に抱きつくのが好きで、いつも変な冗談ばっかり言ってて」
唯「それって……」
梓「その人はなぜか私にとてもやさしくしてくれるんですけど」
梓「でもどうしてその人がそんなによくしてくれるのかわからなくって」
唯「………」
梓「どうしてなんでしょう」
唯「きっとその人があずにゃんさんのこと好きだからじゃないかな」
梓「そんなことありません」
唯「あるよ」
梓「だって、私なんて、物も知らないし、こんな体だし……いいところないです」
唯「あずにゃんはあったかくていい子だよ」
唯「ねえ、あずにゃん。もし誰か、いつも淋しくって友達が欲しいと思ってる人が
あずにゃんみたいな子と出会ったら、その人はきっとあずにゃんのこと好きになっちゃうと思うんだ、
すぐにだよ。そしてあずにゃんのこともっともっと好きになりたいと思うよ」
梓「……」
唯「レコードでもかけよっか」
梓「私も……」
唯「ん?」
梓「私も、その人のことが好きかも知れません」ボソッ
唯「えっ、なーにー?」
梓「なんでもありません!」
~♪
唯「(しまった、結婚行進曲なんてかけてしまった! 気まずい!)」
唯「あずにゃんが編み物してるので私は新聞を読むね!」ワタワタッ
梓「えっ、あ、はいどうぞ。どうしてそんなに慌ててるんですか?」
唯「あはは」
唯「ふーむ、相変わらず景気が悪いなー」
唯「! これって……」
唯「………あ、あずにゃん!聞いて聞いて!すごい
ニュースをみつけたよ!」
梓「どうしました?」
唯「読むよ?」
『ドイツの医師、盲人を治療する手術法を開発』
梓「……!」
唯「この手術を受ければあずにゃんも目が見えるようになるよ!すごいすごい!」
梓「信じられない……」
唯「ね、もし目が見えるようになったら、何を最初に見たい?」
梓「唯先輩の顔を見たいです」
唯「わたし?」
梓「はい、それが私の見たいものです」
唯「あずにゃん……」
唯「(もしあずにゃんの目が見えるようになったら)」
唯「(私がほんとのお金もちなんかじゃなくって)」
唯「(あずにゃんに、ずっと嘘をついてたってことがきっとばれちゃう)」
梓「唯先輩?どうかしましたか?」
唯「うっ、ううん、なんでもないよ」フラッ
どさどさ
唯「あっ、ごめん本を倒しちゃったよ」
梓「きっとお母さんの本です」
唯「ごめんね、今すぐ直すから……あれ、こんなとこに手紙が……一緒に落としちゃったのかな」
梓「手紙?」
唯「うん、宛名にあずにゃんの名前が書いてあるよ」
梓「私の?唯先輩、読んでくれますか」
唯「なになに、えっと……
『最終通告、翌朝までに滞納中の家賃30万をお払いいただけない場合は
即刻退去していただきます 大家より』……!」
梓「そ、そんな……!」
唯「あ、あずにゃん……」
梓「どうしよう……お母さん、わたしに内緒にしてたんだ……ああ、どうしよう!」
唯「あずにゃん、心配しないで!」
梓「でも……」
唯「大丈夫。あずにゃん、お金なら明日の朝までに私がかならず持って来るから、だから、ねっ、落ち着いて」
唯「じゃあ私は行くね。安心して待ってるんだよ!」
梓「待ってください! 唯せんぱ……」
ばたん
たたたたた
唯「(あずにゃんにはああ言ったけど、30万なんて大金どうやって用意しよう)」
唯「……お給料前借りするしか…………澪ちゃんゆるしてくれるかな……」
唯「みおちゃーん!」
澪「こらっ! 30分も遅刻だぞ!!」
唯「ひゃっ!? ご、ごめんなさーい!」
澪「午後の仕事までには帰ってこいとあれだけクドクドクドクド」
唯「その、あの、つい……」
澪「つい、じゃない! だいたいお前は最初っからクドクドクドクド!!」
唯「(やばい、このお説教は一時間コースだ……!)」
澪「クドクドクドクド、あーだこーだ!」
唯「澪ちゃん、ストップ!」
澪「なんだよ?」イライラ
唯「遅刻は遅刻として、上司の澪ちゃんにお願いしたいことがあるのですがー」モジモジ
澪「言ってみろ」
唯「じつはお給料前借りしたいんだけど、……2カ月分」
澪「…………あっはっはー。そうかそうか」
唯「……だめ?」
澪「ダメに決まってんだろ!!!」
結局その日は勤務時間いっぱいまで怒られたのでした
ゆうがた!
唯「どうしよう、結局お給料借りられなかった……
それにしても澪ちゃんったら、あんなに怒んなくてもいいのに…」
唯「このままじゃあずにゃんがお家を追い出されちゃうよ……」
唯「どうやってお金を用意しよう……」トボトボ
律「ちょいちょい、そこのお姉ちゃん」
唯「ほえ? 私?」
律「アンタ以外に誰がいるんだよ。なあ、うまい話があるんだけど、興味ないか?」
唯「うまい話って……なにか奢ってくれるの!?」
律「そのうまいじゃねーし!うまい話ってのは、美味しい話ってことだよ」
唯「???」
律「いや、美味しいじゃなくって……簡単にできる金儲けってことだ」
唯「!」
律「こんな話、興味ないか?」
唯「ある!!!」ズイッ
律「おおっと、近い!顔が近い!」
話しかけてきたのは街の小悪党、律でした
律は唯ちゃんにちょっとした詐欺を持ちかけたのです――
律「いいか、そこのボクシング場ではアマチュアの賭け試合がやってるんだ」
唯「うん」
律「それに出て勝てば賞金がでる。」
唯「ってそんなの勝てるわけないよー! それに痛いのとかやだし……」
律「最後まで聞け! もし、私とお前がしめし合わせて戦ったとすると、どうだ?」
唯「それって、八百ちょムグ!」
律「しーっ!声がでかい! 大丈夫、うまくやればバレやしないよ。そんで賞金は山分け。
な? 美味しい話だろ?」
唯「やるよ私!」
律「いよっし、じゃあ交渉成立だ!」
控室!
唯「うー、緊張してきた」キョロキョロ
エリ「くくく、今日こそアカネの面をこの拳で潰してやる……」
アカネ「エリの顔面をセンターに入れてジャブ、エリの顔面をセンターに入れてストレート……」ブツブツ
唯「……なんか怖い人ばっかりだし」ぞわっ
律「おい、打ち合わせするぞ」ヒソヒソ
唯「あ、うん」
律「最初の1分は軽くパンチしあって、私が合図してジャブを入れたらKOしたフリしろよ」ヒソヒソ
唯「おっけー!」
律「声がでかい」ヒソヒソ
唯「はーい」ヒソヒソ
唯「……あんまり痛くしないでね」ヒソヒソ
律「了解。これ以上くっついてると怪しまれるから、ちょっとあっち行ってるぞー。
恐くなって逃げんなよ」
唯「そっちこそ」
律「ふー、やれやれ。ん、あいつは……」
いちご「……」
エリ「あれ刑事の若王子さん、こんなとこでどうしたんですか?」
いちご「ここら辺にお尋ね物の
田井中律がいるはずなんだけど」ボソッ
アカネ「田井中……?」
律「(や、やべー!)」コソコソ
いちご「そう。詐欺窃盗万引き未成年者飲酒と覗きに下着泥で指名手配中」ボソッ
律「(最後の二つは断じてやってねーよ!)」
いちご「ちなみにこれが人相書き」
エリ「あれ、こいつさっき……」
律「……」スタコラサッサ
アカネ「あっ、そいつだ!」
律「うわははは!捕まえられるもんなら捕まえてみなー!」
いちご「……待ちなさい下着泥棒」
律「やってねーよそれは!!」
いちご「ついでに私の心も盗んでいった」ボソッ
律「えっ」
律はそのまま薄暗い街へ逃亡していってしまいました
困ったのはボクシング場の支配人です
支配人「試合前に逃亡しやがって……これじゃ試合が一つ空いちまう」
支配人「どこかにちょうどいいやつは……」
信代「……」ドシーンドシーン
支配人「へい、そこのいかしたねーちゃん」
信代「ああん?」ギロッ
支配人「ボクシングの試合に出ないかい?」
信代「わかった」クッチャクッチャ
そんなこととはつゆ知らぬ唯ちゃんは……
唯「あれー? りっちゃんどこ行ったんだろう?」
支配人「変更があった。お前の相手はこいつだ」
信代「よろしく」ズシーン
唯「!?」
信代「フーンフフーンフーン♪」ズシーン!
唯「(ええええええええ!?)」
信代「ホホイホッホイ」ズシーン!ズシーン!
唯「あのー……」オズオズ
信代「ああ?」
唯「賞金は山分けにしようねっ」ニコー
信代「ガハハハハ!……失せろ」ギロッ
唯「ひいいいいいいい!」
信代「ガハハ、いっちょ四股でも踏むか!」ズシーン!
唯「ああああんな人と戦ったらぺちゃんこにされちゃうよ」ガクガクガク
唯「いや、スポーツなんだしいくらなんでもそこまで……」
カンカンカンカーン!
「おい! そこ空けろ! けが人だ」
アカネ「骨がー!骨がー!」
「おいおい、いったいどうしたんだ」
「12倍の威力のトリプルクロスカウンターが決まったらしい」
アカネ「死ぬー!死んじゃうよー!」
エリ「アカネー! 死ぬなー!」
アカネ「もうだめ……グッバイマイフレンド」ガクッ
エリ「アカネー!!!」
「救急車呼べ! 医者だ医者!」
唯「………………………………………」
信代「フン!」ズシーン!ズシーン!
最終更新:2011年08月11日 21:54