和「…そういうことね」

澪「ふぅ…久しぶりにいっぱい話して疲れたよ」

和「…ありがとう澪。私達に話してくれて」

澪「いや…いいんだ。それと、これは私からの最後の忠告だ」

紬「…なにかしら?」

澪「お前達も、もう律にかかわらないでやってくれ。あいつはいずれお前達も忘れてしまう」

唯「………」

澪「…いや、これは忠告じゃないな。友達としてのお願いだ」

和「…わかった…」

唯「私は嫌だよ」

和「唯…?」

紬「唯ちゃん…?」

唯「私はりっちゃんを見捨てることなんて出来ない。だってそうでしょ?今ここでみんなに見放された方がりっちゃんの心は壊れちゃうよ!」

澪「………」

唯「澪ちゃん、あなたはただ逃げているだけ!あなたは自分が傷つく方が怖いんだよ!りっちゃんから目を背けないで!
本当にりっちゃんが大好きなら何度でも許してあげるべきだよ!何回泣いたっていい、その度に一緒に悲しみを分かち合ってあげればいいじゃん!」

澪「…偉そうなことをいうな!ならお前に何ができるんだよ!」

唯「私はりっちゃんとずっと一緒にいる。何度泣いたって私がその涙を拭ってあげる為に。一人じゃないって教えてあげるんだ!」

澪「…あははは!呆れた。私はずっと律の隣でそうしてきたんだよ!でもダメだったんだ!
わかるかこの気持ちが!?わかる訳ないだろう!だって私は律の幼馴染、お前はたかが何カ月かの付き合いなんだからな!」

唯「…それでも、私はりっちゃんを見捨てないよ」

澪「なら好きにしろよ!奇麗事ばかりでどうにかなることじゃないんだ!」

唯「知ってるよ。でも私は自分を信じる…それじゃ、お邪魔しました」

和「ちょ、ちょっと唯!待ちなさい!」

紬「唯ちゃん!」


がちゃっ ばたん

澪「……くそ」


……

和「ちょっと唯!あなたこれからどうするつもり?」

唯「りっちゃんに会いに行く」

紬「唯ちゃん落ち着いて!もう少し冷静になりましょう?」

唯「なに言ってるの?こうしている間にも私はりっちゃんに会いたいの!みんなは違うの!?」

バシィン!

唯「っ!!!」

和「…落ち着きなさいって言ってるでしょ」

唯「…ごめん」

和「まったく…唯は昔から人のことになるとすぐ熱くなるわね」

唯「………」

和「明日澪に謝ること…いいわね?」

唯「…はい。わかりました…」

和「よろしい。…あと、さっき澪が言っていたこと。残念だけど…これ以上は本当に律の心が壊れてしまうわ」

唯「そんな…なら私達はもうりっちゃんにかかわらないほうがいいの…?」

和「…それもダメよ。私達が見放しても律の心は壊れてしまう」

唯「ならどうすれば…!」

和「…わからないわ。それだけ難しい問題なのよ。律は今、極限の状態を保っているのよ。それはわかるわね?」

唯「……うん」

和「とりあえず、今は様子見よ。いつも通りにしていること、いいわね」

紬「私もそれが一番かと思います」

唯「うん…わかったよ」


―次の日

唯「澪ちゃーん!」

澪「…唯?」

唯「澪ちゃん…あの、昨日はごめんなさい!」

澪「…こっちこそ悪かったよ。あれは唯なりに律を想ってのことだもんな」

唯「…ねぇ澪ちゃん、やっぱり私はりっちゃんを見捨てることなんてできないよ」

澪「………」


―数日後

律「あと1週間で学祭だなー。私人前で演奏するのって初めてだから緊張するよ…」

唯「私もだよ…」

紬「私はコンクールで何度か…」

和「私に至っては今年から楽器やり始めたんだけど…」

律「…とにかく緊張していられないな。武道館はもっと人がいるんだからな!」

唯「………」

紬「………」

和「…そうね。目指すはプロだものね」

律「おう!ってあれ?私みんなに話したっけ?」


―そして、学祭当日

律「とうとうこの日が来たか…」

唯「すごく緊張するね…」

紬「はたして成功するのかしら…?」

和「…大丈夫よきっと。あんなに練習したんだから」


『次は、軽音楽部によるバンド演奏です』


律「…よし、みんな!いっちょ派手にやろうぜ!」

唯和紬「おー!」

『みてみてー!かわいいー!』

『何組の子かな…?』

唯「すごい…人がいっぱい…」

紬「…やっぱり緊張するわ…」

和「…大丈夫…きっと大丈夫…」

律「それじゃ行くぞ…」


律「みなさんこんにちわー!!!軽音部です!」

律「早速ですが聞いてください!!!」


『早速だが聞いてくれ!!!』


律(まただ…何なんだよ一体?)

律「ふわふわ時間!!!」


『…ふわふわ時間?…何これ?歌詞?』


律(私は…こんなの知らない)

律「キミを見てるといつもハートDOKI☆DOKI  揺れる思いはマシュマロみたいにふわ☆ふわ 」


『もう限界!なんだよこの歌詞…?』


唯「いつもがんばるキミの横顔 ずっと見てても気づかないよね」


『…頑張って書いたんだけど…変かな?』


律「夢の中なら二人の距離縮められるのにな 」


『まぁとりあえず歌ってみるから…聞いててね?』  


律「あぁカミ…」


『…驚いたよ。すげーじゃん』

      『澪!』


律「……!!!」

律「………」

唯「…りっちゃん?」

紬「…!もしかして…」

和「澪のこと…」

ざわざわ…ざわざわ…

『…なんで歌わないの?』

『どうしたんだ~?』

唯「りっちゃん!早く歌わないと…!」

律「………」

紬「りっちゃん…!」

律「…ごめんみんな。私には無理だ…」

和(なんてこと…恐れてたことが…)

律「私さ…この場所に澪と一緒に立つって約束してたんだ…」

唯「………」

律「はは…これを思い出すのも何度目だろうな…」

和「………」

律「ごめん澪…私、澪との約束破っちゃったよ…」ぐすっ

紬「………」

律「ごめん…ごめん澪…!みおおおお…!!!」ぽろぽろ

和「…とりあえず演奏は中止よ」

唯「…まだ終わってないよ。ね?」


?「そうだな。ライヴはこれからだ」

和「え…?」

澪「しっかりしろ律。まだ終わってないだろ?」

律「え…?澪…?」

律「な…なんで澪が…?」

澪「律…お前と一緒にステージに立つ為さ」

澪「そう約束しただろう?」

律「…!みおおおおお…!うわあああん!」ぽろぽろ

和「なんで澪がステージに…?…!唯、あんたまさか…」

唯「えへへ…ぶぃ♪」

和「まったくあなたは…。上出来よ、唯」

澪「なに?次のライヴは失敗するって?」

唯「うん。りっちゃんは間違いなく澪ちゃんのことを思い出すよ」

澪「……ならどうすればいいんだよ!律には夢を叶えることもできないのか!?」

唯「…このまま行けばね。でもね澪ちゃん、前も言ったように一人じゃないってことを教えてあげればいいんだよ」

澪「どうやってだよ…!?」

唯「そんなの簡単だよ。ただ一緒にいてあげるだけ」

澪「それだけ…?」

唯「そうだよ♪澪ちゃんならこれから何があっても二人で一緒にいてあげられる筈だよ」

唯「だって、澪ちゃんもりっちゃんもお互いが大好きなんだから♪」

澪「…やっと一つ目の夢が叶ったな。一緒にステージに立つことだ」

律「…うん!」

澪「そして二つ目の願い、バンドを組むこと。これも叶う」

澪「さぁ演奏を始めよう律。これが私達の本当の…始まりだ」

律「そうだな…よし!やってやろうぜ相棒!」

澪「望むところだ!」

律「みなさんすみませんでした!!!もう一度聞いてください!!!」



律澪「ふわふわ時間!!!」

『すげー!上手だなー』

『いいぞー!もっとやれー!』

律「はぁ…はぁ…やった…大成功だ!」

和「まさかここまで成功するなんて…」

紬「よかった…本当に…」

澪「…唯、ありがとう。今日のライヴが成功したのは唯のお陰だよ」

唯「違うよ、澪ちゃんが来てくれたからだよ。ありがとう澪ちゃん♪」

律「しかし澪のベースの腕も結構上がったな」

澪「まぁな。私はいつか来る日の為にずっと練習してたんだ」

律「いつか来る日?」

澪「そう、私もやっぱり夢を諦めきれなくてね。二人で追いかけたあの夢がね」

律「ありがとう澪…。それとみんな、ごめん。先に謝っておくよ」

唯「え…?」

律「今日のライヴ、本当に楽しかった!最高のライヴだったよ!」

和「………」

律「…でも、それも私は忘れちゃうんだよな…本当にごめん」

紬「………」

律「私は…この気持ちを忘れたくない…ずっと覚えていたいよ…」ぽろぽろ

澪「…安心しろ。忘れたら私が思い出させてやる。…必ずな」

唯「私達もいるよ。同じ軽音部の仲間だもん。ずっと一緒にいるよ」

律「…ありがとう澪、みんな。…私、みんなと会えて本当によかった…!」ぽろぽろ

澪「ああ…私もだよ律…」ぽろぽろ

律「えへへ…みんな…だい好


……

がちゃっ

唯「いやーごめんごめん!遅れちゃったよー!」

和「遅いわよ唯!何してたの?」

唯「ちょーっと掃除が長引いちゃってさ…」

紬「あらあら♪」

和「まったく…今日は新入部員が来るんだからね?」

唯「わかってるよー」


?「うー、ここはどこだ…?」

軽音部に入部する筈の今日、私は部室の場所がわからなくて迷っていた。

?「あの先生の話だとこのあたりの筈なんだがな…?」

?「そんなところで何やってんだよ…?」

?「ひゃっ!?」

不意に後ろから声をかけられ、私は何とも間抜けな声をあげてしまった。

…誰だよちくしょー!…ってこの人は…!

?「秋山さん!よかったー!部室の場所がわからなくて困ってたんだ!」

澪「はぁ…?仕方ないな…ついてこいよ」

?「やったー!よろしくお願いします!」

?「ねぇ秋山さん。ひとつ聞きたいんだけど、軽音部ってどんなところ?」

澪「そうだなぁ…あんまり練習もしないでダラダラしてばかりの部活だな」

?「なんだそれぇ?そんなんで大丈夫なのか?」

私にはプロになるという夢がある。その夢の為に、部活でいっぱい腕を磨きたい訳だ。

澪「安心しろよ。あいつらならお前をプロに導いてくれるかも」

?「そうですか…って…え?なんで私の考えていることが…?」

澪「長い付き合いだからな。大体分かるよ」

長い付き合いって…。確かに小中高は一緒だけどそんなに話した記憶がないぞ?

澪「…ほら、ついた。ここが軽音部だ」


がちゃっ

唯「おかえり澪ちゃん!りっちゃん!」

澪「あぁ、ただいま」

律「…あ……」

…私はすぐに全てを思い出すことができた。

それだけ、私がこの軽音部の連中を愛しているからだろう。

唯「りっちゃん?」

律「…ただいま、唯…澪!」

ここにいれば、私は何も忘れることはない。

この素晴らしい仲間たちと一緒なら。




                         おしまい




最終更新:2010年01月22日 17:07