……
ガララ
紬「……こんにちは、憂ちゃん」
憂「こんにちは、琴吹さん。今日も絵の練習ですか?」
紬「ええ。さっき良いのができたのよ。これ」ピラッ
憂(おぅふ)
憂「私と先生がえっちしてるところですね……み、見られてたんですか」
紬「とっても可愛い声がするから、つい見に行っちゃったの♪」
憂「その場で描いたんですか、これ」
紬「まさか。見るときは見るとき、描くときは描くときよ」
憂(それでこの再現能力かあ……こんなところに閉じこめておくにはもったいないなあ)
憂(……琴吹さんも半ばお姉ちゃんの好みで入院させられてるだけだし……)
憂(たまに彼女っぽい女の子もお見舞いに来るし、そろそろお姉ちゃんを叱ってでも退院させていいよね)
憂「……琴吹さん、そろそろ退院してもいいかもしれませんね」
紬「えっ!?」ピクッ
紬「で、でも私、ただの百合好きなままよ……?」
紬「単体で女の子を愛せないのは、入院したときから変わってないもの……」
憂「……でも、先生に抱かれているときの紬さんは幸せそうです」
紬「それはただ、気持ちいいだけで……」
憂「それだけでいいんですよ。今日、先生にかけあってみます」
紬「だ、だめっ、やめて!」
憂「!?」
紬「いやよ、私ここを出たくない!」
紬「ここは百合でいっぱいじゃない! 先生から患者まで、みんなそう! 天国なのよ!」
紬「私、なにか悪いことした!? 天国を追い出されるようなことしたかしら! 違うわよね、憂ちゃん!」
憂(……そういうことか)
憂(お姉ちゃんが琴吹さんを入院させた理由、相当むちゃくちゃだったのに琴吹さんは信じて入院した)
憂(この人は……本当に生来、百合が大好きなだけなんだ)
憂(けど、だとしたら……?)
憂「天国を追われることかはわからないですけど……琴吹さん、彼女がいませんか?」
紬「彼女? いいえ。もしかして、菫のことを言っているの?」
憂「そう、菫さんです。違うんですか?」
紬「菫はうちの屋敷の使用人よ。確かに可愛い子だけどね」
紬「菫の気持ちだって、知らないわけじゃないけれど……菫だって、私にその気がないのを分かってるわ」
紬「でも、あの子の百合百合しい気持ちを向けられてると、すごく満たされるわね」
憂「……一応言っておきますけど、ここはヘテロ治療院です」
憂「いずれ退院してもらいますから、そのつもりで」
紬「……ええ、わかってるわ」
……
憂「ふー、おひるおひる」パクパク
ガチャッ
憂「?」
唯「はぁっ……はひぃ……」ガクガク
和「ありがとう、唯にくらべたらもう弟の可愛さなんてクソみたいなものね」
憂「治療になりましたか」
和「それはもう。薬はいいわ。で、お代は?」
憂「2万9800円です」
和「高いわね……はい」ドサ
和「でも、また来るわよ。急いでるからもう行くけど、唯に愛してるって言っておいてね」
憂「いつも言ってます」
和「ならよかったわ」カランカラン
唯「う、憂よぉ……」
憂「おつかれさま、お姉ちゃん」
唯「……し、しぬかと思った」
憂「催淫ガス、切っておけばよかったかな」
唯「切っておいてくれれば……まだ、こんなもんじゃないのにぃ」
憂「あと20分で午後の診察始まるよ。早くご飯食べないと」
唯「う、うーす……」
憂「お姉ちゃん中毒者、これで22人目かなー」
唯「あの人、歴代でいちばんヤバかったよ。テクもそうだけど、執着が」
憂「まあお姉ちゃんが望んだメガネっ子だったじゃん」
唯「くそー、私はタチなのにー」
……
カシャ
憂「休憩おわりっと」
唯「誰もいないねー」
憂「うち高いし、いつもこんなものだよ」
唯「そのぶん患者ひとりひとりとたっぷりイチャつける♪」
憂「イチャつかないで治療してあげてよ」
唯「雰囲気作りも大事な治療ですー」
憂「そうだけどさ……」
唯「はぁ、暇……」
憂「……」
テクテク
憂「おねーちゃん」ギュッ
憂「って、何?」
唯「ねーねーうい、誰も来ないしえっちしよーよ」
憂「だめだよ、そのうち誰かくるでしょ」
唯「じゃあ、患者さんくるまでキス耐久しよ」
憂「いいよ。先に離れたほうが今夜ネコね」
唯「おっ、こりゃ負けらんないね。では……すたーとっ」チュム
憂「ん……」
カランカラン
憂「!!!??」
律「すいませー……あっ」
憂「んんうぅ、んんー!」ジタジタ
唯「ちゅうぅ……」ギュー
律「あの……」
憂「ん、く、ぷはっ!」
唯「えへへ、憂の負けー」
憂「患者さん来たらやめに決まってるでしょ! もう、別にネコでもいいけど……」
律「あの、診察お願いしたいんですけど」
憂「あ、はいっ、おまたせしました!」
律「ほんとだよ……」
憂「ど、どうぞ診察室に!」
……
憂(秋山さんの恋人とおんなじ名前……まさかね)
律「先日、恋人が行方をくらましまして……連絡しても出ないわで、ずっとセックスしてなかったんです」
律「で、耐えきれなくてオナニーしたんですけど、やっぱダメだと思って父親の顔思い浮かべてやめようとしたのに」
律「……い、イってしまったんです」
憂(どうも今日はくだらない理由で来る患者さんが多いなー)
唯「それはお父さんの顔を思い浮かべてたせいでやめられなかったのかな?」
唯「それとも、オナニーが気持ちよかっただけかな」
律「後者だと思いたいです……でなきゃ、恋人に顔向けできません」
唯「ちなみに、その恋人ってどんな人? セックスは週にどれくらいしてた?」トントン
律「……
秋山澪っていうんです。黒髪のすっごい長いやつで、スタイルもいいし、えらい美人なんです」
唯「」ポロ
憂(やっぱりか)
律「だからっていうか……ほとんど毎日してたのに、澪のやついきなり連絡もつかなくなって……」
律「きっとヘテロの犯罪集団に連れてかれたんです! 澪、澪はぁっ!」ウワァッ
憂(さてお姉ちゃん、どうするの?)
唯「まあ、りっちゃん。とりあえず顔を上げようよ」
律「先生……」
唯「澪ちゃんは絶対に無事だよ。先生が保証しよう」ギュッ
唯「だから、そんな泣き顔をしてたらだめだよ」
唯「チョー美人な女の子の横には、笑顔がかわいい女の子が似合うんだから」
憂(口説きだした……)
律「……」
唯「……」ギュー
律「みおの匂いがする」
唯「!」オワター
律「間違いないよ……これ、澪の匂いだ。先生の服から、澪の匂いがする!」
律「どこだよ! 澪はどこにいるんだよ、返せ!」
憂「……」
唯「澪ちゃんに会いたい?」
律「決まってるだろ」
唯「りっちゃん。ここはヘテロ治療院だよ」
唯「澪ちゃんがここにいる理由、すこし考えてみて……それでも、会いたい?」
律「……私はずっと澪を探してた。澪の心がどうなってようと、私が癒す!」
唯「……なら、こっちだよ」
憂(お姉ちゃん……)
……
ガララ
律「澪!」
澪「り、りつ!? なんでここに!」
律「なんでここにじゃないだろ! 連絡のひとつもよこさないでこんなところに引きこもりやがって!」
律「あーあーあ、またぶくぶく太ってるじゃんか!」
澪「そ、そんなに太ってない!」
律「まあ太ったのはいいさ……でも、なんでここに入院してるんだよ」
律「おまえ……私のこと、好きじゃなくなったのか」
澪「違うよ! 律のことは大好きだった! 今のほうが、もっと好きになってる!」
澪「でも聞いてくれ律……私は、自分が許せなかったんだ」
律「……なんだ?」
澪「私、有害図書に指定されてる古典の……伊勢物語を読んだんだ」
澪「それで、ちょっと……ときめいちゃって。だから、ここで入院してた」
唯「そうだったっけ?」
憂(そうだよ)ピコッ
律「……それは、もう治ったのか?」
澪「あぁ。なんともない」
律「じゃあ帰ろう。私なんて、澪のこと思ってオナニーしてたら、父さんの顔がよぎった瞬間いっちまったんだぞ」
澪「なんだよそれ……」
律「……二度と、あんな思いさせないでくれ。澪」
澪「まかせろ。……ちゅ」
律「澪……みおっ!」
ギッシギッシギッシ
晶『』ドンドンドン!
紬「」ジャーンジャーンジャーン!
唯「 」
憂(うるさすぎてお姉ちゃんが何言ってるのか全然聞こえない)
唯「」トントン
唯「げぇっ、関羽」
憂(そんなのいちいち耳打ちしなくていい)
……
澪「それじゃ、今までありがとうございました」
唯「ううん、私も楽しかったよ♪」
憂「お大事に、澪さん」
律「澪が世話になったな」
唯「気にしないで。対価はもらってましたから」
憂「まあ、仕事ですから?」
律「ふっ……じゃあな、二度と世話にならねーよ」
澪「さよなら」
唯「はいはい、ばいばーい」
憂「お元気で!」
カランカラン…
唯「……」
唯「……くそっ、澪ちゃんのおっぱい気持ちよかったのにな」
憂「はいはい、仕事戻りなね」
唯「憂、今夜は覚悟してなさいよ」
憂「はいはい。……あ、私、琴吹さんの部屋から銅鑼を取り上げてこないと。さすがにうるさすぎた」
唯「じゃあその間いちおう受付やっとくね」
憂「もう出すようなキャラいないし、ネタも尽きてるからやらなくていいと思うけど」
唯「憂はいまけっこうな数の人間を敵に回したね」
憂「……琴吹さんの部屋行ってくるから」
唯「にげた」
……
憂「本日終了、と」
唯「あれからけっこう来たねー。きつかった」
憂「まあ中毒者さんじゃなくてよかったじゃん」
唯「中毒者の子はみんな可愛いからいいんだもんっ」
憂「……私も?」
唯「中でも憂がとびきりかわいい」
憂「……ちゅっ」
唯「へへー。……さて、と。晶ちゃんとムギちゃんに治療を施さねばな」
憂「早く済ませて、少し寝たいね」
唯「うん。一晩中憂としたいもんね」
……
晶『イテテッ……よせ、よせったら!』
唯『だーめ。晶ちゃんがほんとは気持ちいいのわかってるよ?』
晶『う、うそつけっ……だあっ』
唯『ちょっと、おとなしくしないと縛るよ!』
晶『なっ、やめろぉ!』
……
唯『ムギちゃん、何描いてたの?』
紬『今日の人と、澪ちゃんがちゅーしてるところ。ほら』
唯『わあっ、上手だね! ……けど、ほんとのちゅーは上手かな?』
紬『んっ、唯ちゃ……やっ』
……
憂「おつかれさま、お姉ちゃん」
お姉ちゃんは、確かに浮気者といえるかもしれない。
仕事柄しかたないといっても、ちょっと寂しいときも、泣きたいくらい寂しいときもある。
だけどお姉ちゃんは、やっぱり一番に私を愛してくれている。
だから私たちは、明日もヘテロ治療院を開ける。
私たちのような幸せな人たちが、一人でも増えて欲しいから。
おしまい。
最終更新:2011年08月15日 20:46