唯「だから気にしないで、ね?あずにゃんは何も悪くないんだから」
梓「で、でも…」
唯「それと、私は代わりにあずにゃんにお礼を言いたいな」
梓「お礼…ですか?」
唯「そう、私達は結果的に別れちゃったけど、それでも付き合うきっかけを作ってくれたのはあずにゃんだもん。だから…」
唯「ありがとう、あずにゃん」
前に写真にしか言えなかった事を本人に直接伝えることができた。
いつかまた…なんて遠い日のことの様に言っていたけど、伝えようと思えばいつでも伝えられるんだ。
唯「ふぅ~、さっぱりした~!」
梓「憂、お風呂ありがとう」
憂「いいよ♪それにしても二人とも随分長かったね」
唯「まぁね♪積もる話もあったしさ…ねぇあずにゃん」
梓「はい!」
憂「? なんだか梓ちゃんまで元気になったね」
「まったくだな、唯は落ち込んでるって聞いたんだが…」
「…なんだかいつも通りね」
唯「あ、澪ちゃん!和ちゃん!久しぶり~♪」
澪「あぁ、久しぶり。元気だったか?」
和「ごめんね、少し遅れちゃった」
二人とも全然変わってないや。
それに澪ちゃん、すごく綺麗だなぁ。大人の女性って感じ。
澪「? なんだよそんなにじろじろ見て、そんなに私が珍しいか?」
唯「いやー、澪ちゃんは綺麗だなぁって思ってさ♪」
澪「なっ!?あんまりからかうなよ!///」
唯「顔真っ赤にしちゃって、可愛いなぁ~♪」
澪「う、うるさい!///」
澪ちゃんは中身まで変わってないや。
きっと怖い話も未だに苦手なんだろうなぁ。
和「まったく…唯は本当に変わらないね」
唯「和ちゃんだって!」
和ちゃんも本当に変わってない。
変わったところがあるとすれば、それは眼鏡のフレームが赤から黒に変わったくらいだ
澪「まぁゆっくり話したいところなんだけど、その前に…」チラッ
律「ぐおー…ぐおー…zzzz」
澪「こいつをどうにかしなきゃな。憂ちゃん、いつもの部屋借りていいか?」
憂「どうぞ、布団はもう敷いてありますので」
澪「そうか、いつもすまないな。それじゃ和、運ぶの手伝ってくれ」
和「はぁ…わかったわ」
澪ちゃんはりっちゃんの腕、和ちゃんは足を持ち上げて、まるで荷物を扱う様にりっちゃんを運んで行った。
どかん!
途中りっちゃんを壁にぶつける。それでもりっちゃんが起きる様子はなかった。
…あの二人は本当にりっちゃんを人だと思っているのかな?
憂「それじゃ私はお片付けしてくるね、お姉ちゃんとムギさんはゆっくりしててね」
唯「あ、わかったよ」
紬「ありがとう憂ちゃん」
…しまった!また二人っきりだ!これはあずにゃんの時よりも気まずい…
唯「……」
紬「……」
思った通り、私達二人の間に沈黙が流れる。
あぁ…気まずい…!…でも、ここは私から話しかけなくちゃ…
だって、あの日のことをまだ謝ってないんだから。ケジメくらいはちゃんとつけなくちゃ。
唯「…ねぇムギちゃん、その…ごめんなさい!」
紬「え…?なにが?」
唯「私が一方的に別れようっていったことだよ…」
紬「あぁ…いいのよ。全然気にしてないから」
唯「…本当に?」
紬「嘘よ♪すごい気にしてるわ」
唯「ガーン!やっぱり…」
紬「最初は…私の話も聞かないで、一方的に別れを切り出してきて一体何様のつもり!?…なんて思っていたわ♪」
紬「こんなにも私は愛してるのに!唯ちゃんは自分のことばかり考えて…次に会ったら必ず復讐してやる!…なんてことも考えたわねぇ♪」
唯「あはは…それは流石に嘘だよねぇ?」
紬「うふふ♪当たり前じゃない♪」
唯「だよねぇ!あはは…」
…嘘だ、眼が笑ってない。
紬「…まぁ冗談はさておき、私は本当に悲しかったのよ?せっかく両想いになれたのに、まさかこんな形で別れることになるなんて…てね」
唯「……」
紬「そして二人だけの思い出を良く思い出しては…泣いてばかりいたわ。あの頃の私は本当に純粋だったのね」
唯「…本当にごめんなさい」
こんな言葉じゃ足りないくらい、私はムギちゃんを傷つけた。
でも、これ以外の言葉が今は見付からない。
紬「いいのよ、昔の話だもの…気にしないで」
唯「でも…」
ムギちゃんはそういうけど…やっぱり私は気にするよ。
この罪を忘れて生きていくことなんて、今の私にはできない。
唯「……」
紬「…ふぅ、なら一つ条件があるわ。これで私に勝てたら許してあげる」
ムギちゃんがすっと指をさす。
その指の先には…
唯「…え?お酒?」
紬「そう♪私と飲み比べしましょう♪」
唯「で、でも私はお酒強くないし…!」
紬「あら?ならこの勝負から唯ちゃんは逃げるの?言っておくけど…」
ムギちゃんの顔が私に迫ってくる。
そして耳元でボソッと…
紬「唯ちゃんが勝つまで、私は唯ちゃんを許さない…」
唯「…!」
ゾクゾクッと背筋に悪寒が走る。
このムギちゃんはムギちゃんじゃない…!
私の第六感がそう告げていた。
紬「クスクス…唯ちゃんはやっぱり可愛いわねぇ♪食べちゃいたいわ…♪」
唯「……」
私は心底驚いていた。
これが私の愛したあの「ムギちゃん」なのかと…
もしこの人が本当にそうなら…時の流れはなんて残酷なんだろう。
紬「…どうするの?私と勝負するの?しないの?」
唯「…は!?」
私はムギちゃんの声でハッと我に返った。
それでムギちゃんに対する私の罪が滅ぼせるなら…私は…
唯「…その勝負、受けて立ちます!」
紬「そうこなくっちゃ♪」
こうして勝負の賽は投げられた。
唯「実は私、さっきはたしなむ程度にしかお酒を飲まないなんて言ったけど本当はかなりお酒に自信があるんだ」
紬「へぇ…なら唯ちゃんはどこまで私を楽しませてくれるのかしら?」
唯「さぁ?でもきっと今までに無いくらいに楽しいのは明らかだよ!」
紬「あははっ!言うわねぇ…なら私すごく楽しみにしてるわ♪」
唯「さぁ…最高の戦いをしよう…」
紬「えぇ…この聖なる戦いを祝して…」
「乾杯!」
―30分後
唯「…らめら~!もうのめない…」
紬「全然ダメじゃない…お酒は強いんじゃなかったの?」
唯「ごめんらさい…うそです…」
勢いであんなこと言わなきゃよかった…
頭がぐるぐる回る~。それになんだかすごく眠い…
紬「あらあら…大丈夫?」
唯「だいじょうぶらよ…ねぇむぎちゃん…」
紬「なぁに?」
唯「…ほんとうにごめんなさい…ごめんなさい!」ポロポロ
…あれ?なんで私泣いてるんだろう?
私もりっちゃんと同じで酒癖が悪いのかなぁ?
紬「だから…許してほしかったら私に勝つこと。私はいつでもここにいるから…また勝負しに帰ってきてね?」
唯「むぎちゃん…ありが…」
そこで私の意識は途切れた。
「お姉ちゃん起きて!朝だよ」
唯「う…ん…もう少し寝かせて…」
「ダメだよ!帰りの電車に間に合わなくなるよ!?」
唯「う~ん…電車…?」
がばっ!
私は勢いよく体を起こした。
ここは…茶の間?そういえば昨日ムギちゃんと飲み比べして、それから…
唯「いた…!」
頭が痛い…完全に二日酔いだ…
憂「大丈夫お姉ちゃん?」
唯「…うん、なんとか…」
憂「まったく…そんな調子で今日帰れるの?」
そうか…私は今日帰るんだっけ?
なんだかたった一日だけのことが、すごく長く感じられた。
唯「みんなは…?」
憂「もう起きてるよ、お姉ちゃんの部屋に皆さんあつまってるよ」
唯「そうなんだ…」
みんなともまたしばらく会えなくなるんだよね…
なんだか寂しいな…
がちゃっ
唯「おはよー…」
律「お、やっと起きたか」
澪「まったくいつまで寝てるんだ?」
和「帰りの電車には間に合うの?」
紬「二日酔いは大丈夫?」
梓「まったく…お酒弱いのに無理するから…」
唯「みんな…」
私の部屋に集まるみんなを見ていると、私は本当にあの頃に戻ったみたいだと思う。
…だからこそ、ここから離れるのは…辛い…
唯「みんなぁ…」ポロポロ
律「お、おいおい!なんで私達を見て泣くんだよ?」
唯「私…帰りたくないよぉ…!みんなともっと…ずっと一緒にいたい…!」ポロポロ
梓「……」
唯「一緒に…いたいよぉ…!」ポロポロ
やっぱり私は昔から変わらない。今まで変わったふりをしていただけなんだ。
和「……」
唯「また離れ離れなんて嫌だよぉ…!」ポロポロ
…だって、こんなにも子供みたいに泣くんだもん。
紬「唯ちゃん…」
一番変わってないのは…どうやら私だったみたい。
律「馬鹿!泣くなよ!お前に泣かれたら…私だって…!」グスッ
梓「そうです…ずっと我慢してたのに…!」グスッ
和「また帰ってくればいいじゃない。みんなまってるから…ね?」
紬「そうよ…だから泣かないで?今日は笑顔でお別れしましょう?」
唯「でも…そんなこと言ったって…悲しいよぉ…!」ポロポロ
澪「…そうだ!」
澪「みんな!一列に並べ!」
唯「え…?」グスッ
澪「今から写真を撮るぞ」
澪「ほらほら!みんなもっと笑えって!」
唯「そんなこと言われたって…ねぇ…?」
梓「はい…なんだか変に意識してしまいます…」
律「なんだか逆に笑えないよな…」
澪「…なぁみんな、私達はもうあの頃には戻れないかもしれない」
律「なんだよ急に…?」
澪「でもさ…写真にはその時の記憶も一緒に写るんだよ」
梓「……」
澪「だからさ…唯が向こうに行っても寂しくなんかならないように、あの時代に負けない最高の笑顔で写ろうじゃないか!」
紬「…えぇ、そうね♪」
唯「澪ちゃん…みんな…ありがとう!」
澪「まぁそんな訳だからさ…そろそろ撮るぞ!それじゃ笑ってー!」
カシャッ!
……
ジリリリリリリリリリリ!
唯「……っは!?」
ジリリリリリリリリリリ!
唯「はいはい起きてますよっと…」ピッ
唯「ふわああああ…今日も仕事かぁ」
唯「…そろそろ準備するかな?」
唯「…よし、準備もできたし行くか」
唯「…あ、そうだ。大事なことを忘れてた」
私は本棚の中でも一番古い本を手に取った。
それをぱらぱらとめくり、中を見る。
どの写真も少し色あせているが、一番最後のページにはその中でも一番新しい写真があった。
その中の写真の人達は、あの頃からは少し老けて見えるけど…
それでも、あの頃に負けないようなとても素敵な笑顔をしていた。
唯「みんな、行ってきます」
この写真の中の人達に、いつも挨拶をするのが私の今の日課だ。
それは、私は決して一人じゃないということを確認する為。
そして、私達が生きたあの時代を忘れない為。
唯「やや!~あの時代を忘れない~」 ~本当におしまい~
最終更新:2010年01月22日 17:57