あずるーむ!

梓(はぁ、重い……)グッタリ

梓(朝からこうしてベッドにくるまってるけど一向に治る気がしないや……)

梓(自分は風邪引かない子だからって油断してた……中野梓一生の不覚……)

ガチャ

梓母「梓ー、替えの冷却シート持ってきたわよー」

梓「うん……ありがとお母さん」

梓母「はい、じっとしてて」

梓「ん……」ピタッ

梓母「これでよし、母さんもう仕事に出るけど、まだ何かある?」

梓「何もないよ」

梓母「そっか。一人で心細いだろうけど、我慢しててね」

梓「もう高校生なんだから大丈夫だよ」

梓母「そうね」クスクス

梓「むっ、何で笑ってるの」

梓母「いえ、何も。梓ももう高校生だもんねー?」ナデナデ

梓「……お母さんはすぐ私を子供扱いする」

梓母「扱いも何も、まだ子供でしょ、色々と」ジーッ

梓「こ、これから成長するもん!……けほっけほっ」

梓母「あーもう、病気なんだから大きな声出しちゃダメでしょ」スリスリ

梓「けほっ……ごめんなさい」

梓母「はいはい、じゃあ母さんもう仕事に行かなくちゃ」スタッ

梓「うん……いってらっしゃ……けほっけほっ」ヒラヒラ

梓母(本当に大丈夫かしら……)

梓(……)

梓(お母さんがいてくれて本当に良かったな……バカにされるから口では言えないけど)

梓(一人だったら、寂しさでどうなってただろ私……)

梓(でも、そのお母さんも仕事で出ていっちゃうんだよね……)

梓(……)

梓(……はっ!!)

梓(寂しくない!寂しくなんかない!絶対にない!!)

梓(……)

梓(一人か……)

『梓ー、留守番頼むわよー!』

梓「はーい……」

梓(……やっぱり、ちょっと寂しいかな)


ピンポーン


梓(ん?誰だろ)

『はーい、どちら様……ってあら!』ガチャ

『どうも、ご無沙汰してます、お母さん』

『わざわざ来てくれたの?ありがとねぇ』

『いえいえ。それより、梓の調子はどうですか?』

『熱の方はほとんど下がったし、本人もだいぶ楽になった感じはするんだけどね。やっぱりまだぐったりしてて……』

『そうですか……』

『でもあなたが来てくれてホントに助かるわ。あの子一人にしとくと不安で仕方ないのよ。特に風邪引いたときはね』

『一人……ってことはお母さんはこれから仕事ですか?』

『そうなのよ、今日は休みだった筈なんだけど、ライブに出演予定していたバンドが一組ドタキャンしたらしくて、その代わりに行くことになったの』

『それは大変ですね……』

『というわけで、しばらく梓のお守りをお願いできるかしら?』

『まっかせてください!』

『ありがとね。じゃ、私はもう行かないと』

『頑張ってください、お母さん!』

『梓のことよろしくねー!』

ガチャン

『……さて』

梓(……)

トタトタ

ガチャ

律「おっす、梓」

梓「人の親のことお母さんって呼ばないでください」

律「え~、だってあんなに美人なのにおばさんじゃ失礼じゃん」

梓「お母さんの方がもっと失礼です。せめて『梓のお母さん』とかにですね……」

律「ていうか会話聞こえてたのか」

梓「2人とも声大きいですからね。ここまでばっちり聞こえてましたよ」

律「そっか」ドサッ

梓「そういや、何しに来たんですか?」

律「何って、お前の見舞いしかないじゃん」

梓「そうですか。それはどうもありがとうございます。でも私はもう大丈夫なんで帰ってもらってもいいですよ」

律「そういうわけにもいかないなぁ。お母さんにお前のこと任されたし」

梓「いやもう本当に大丈夫ですから。あとお母さんって呼ぶのやめてください」

律「まぁまぁ。それに……」

梓「それに?」

律「寂しがり屋の梓ちゃんが一人で泣き出さないようにちゃんと付いていてやらないとな~」ケラケラ

梓「なっ……さ、寂しくなんかないです!」

律「ホントか~?」

梓「本当です!いいから早く帰ってください!」

律「……私は寂しいぞ」

梓「えっ?」

律「このまま家に帰って、家で1人でいるの、私は寂しい」

梓「うぅ……///」

律「でも梓がどうしても帰れって言うなら仕方ないかな~?」スクッ

梓「うぐぐ……」ギリギリ

律「じゃーなー、安静にしてろよ~?」クルッ

梓「ま、待ってください」ガシッ

律「ん?」

梓「えっと……その、律先輩がどうしても寂しいって言うなら、ここにいてもいいですよ」

律「……」


律「……」ポンッ

梓「ん……」

律「ありがとな。んじゃ、しばらくここに居させてもらうわ」ナデナデ

梓「はい……えへへ///」

律(嬉しそうな顔しやがって全く……可愛いけど)ナデナデ



梓「そういえば、部活の様子はどうでした?」

律「ん?あぁ、相変わらずムギのお茶とお菓子が美味しかったぜ!」グッ!

梓「いや、そうじゃなくて……」

律「今日のお菓子はクッキーだったんだけどさ、唯のやつ
  『あずにゃんの分も残しておいてあげよう!』なんて言ってたくせに気がついたら全部食べちゃったんだぜ。酷いよなー」ケラケラ

梓「あの、練習は?」

律「……」

梓「先輩?どうかしましたか?」

律「……梓がいないとさ」

梓「はい?」

律「何ていうか……脱力感っつーの?何にもやる気がしないっていうかさー」

梓「はぁ……」

律「で、ムギのクッキーが感動的に美味かったし、急いで食べちゃうのも悪いかなー、と思ってゆっくり食べてて……」

梓「……」

律「んで、まあ気がついたら下校時刻になってたっていうか……」

梓「……つまり練習はしてないんですね?」

律「うん、まあ……そうなっちゃうのかなー?」

梓「もう……しっかりしてくださいよ。一応部長なんですから」

律「いやー、心の中ではやらなきゃいけないって思うんだけど、体がついていかないっていうか……」

梓「一回目」

律「えっ?」

梓「練習さぼったの、今週で一回目。次さぼったら分かってますよね?」

律「わーかってるよ。大丈夫だって、どうせあと明日だけなんだし」

梓「はぁ……何でこんな人好きになったんだろ」

律「あら~?そんなこと言っちゃっていいのかな梓ちゃ~ん?」

梓「……何ですかいきなり」

律「へへっ、これなーんだ?」ガサッ

梓「それが何だって……っ!!」ガバッ

律「お前のために買ってきてやったんだぜ、たい焼き!」

梓「ふぁぁ……!」キラキラ

律「欲しいか?」

梓「ください!律先輩大好きです!早くくださ……けほけほ」

律「あーもう、そんなに焦るなって。ちゃんとやるから」スッ

梓「たい焼き……」パァァ

律「クリームとあんこどっちがいい?」

梓「どっちもです」キリッ

律「へっ?」

梓「どっちも貰い受けます」キリリッ

律「えぇー……」

………
……

律「……どっちか分けてくれるもんだと思ったんだけどなー」

梓「他の食べ物ならそうしたかもしれませんが、たい焼きだけは別です。絶対に譲りません」モグモグ

律「私が買ってきたんだけど……」

梓「お金は必ず返しますんで」モグモグ

律「いや、いいよ。あたしの奢り」

梓「ダメです。これもルールですから」ゴクン

律「ちぇっ、固いやつだなー。たまには先輩っぽく気前よく奢ってみたかったのに」ポフッ

梓「先に決めたのは律先輩ですよ。ていうかベッドの上に座らないでください」

律「まーまー、いいじゃん」ゴロン

梓「寝るのもなしです」

律「あぁ、やっぱ梓のベッドはやわらけー」ポフポフ

梓「はぁ……ホントに見舞いに来たんですか?」パクッ

律「……ここで寝てると、あの事を思い出すなぁ……」

梓「何をですか?」モグモグ

律「私たちが初めて体を重ねた夏の日の夜を」

梓「んんっ!」グッ

律「うおっ、どした?」ムクッ

梓「いきなり変なこと言わないでください!たい焼き吹きそうになったじゃないですか!」

律「あら、梓ちゃんげひーん」ケラケラ

梓「吹いてないです!」

律「……梓の親が朝まで仕事でさ、家で2人きりなのは初めてじゃないのにその日は妙に緊張してて」

梓「……その話、やるんですか」

律「梓の方を見たら、顔赤らめてちらちらこっち見ててさ。可愛かったなぁ、あれ」

梓「うっ……は、恥ずかしいです……///」

律「んで、肩をこうやって寄せて……」グイッ

梓「えっ……」


チュッ


梓「にゃっ!?り、律先輩?///」

律「こうやって、軽くキスした後に……」グイッ

梓「わっ……」


ドサッ


律「こうやって、梓を押し倒して……」

梓「ふぁっ、先輩なにを……?」

律「梓……」

梓「!!(く、来る……!)」ギュッ

律「……」

梓「せ、先輩……?」

律「……なーんてな!」パッ

梓「……はっ?」

律「梓は病人なのに、そんなことできるわけないだろ~?」

律「それともあれか?抵抗もせずに目を瞑ってたってことは、梓ちゃんは何かを期待してたってことなのかな~?」ニヤニヤ

梓「な、ななな……///」カァァ

律「おぉ、赤くなったってことは、どうやら当たりのようだな」ニヤニヤ

梓「ち、違います!ただ抵抗する隙がなかっただけで……けほっけほっ」

律「あーもう、そんな大声で主張しなくても」スリスリ

梓「けほっ……だって、本当にしてほしかったとかそういうのじゃなくて……」

律「はいはい、そういうことにしといてあげるから」スリスリ

梓「むー……」

律「あー、やっぱ梓の背中はちっちゃいなー」スリスリ

梓「……襲ってましたか?」

律「へっ?」

梓「もし私が風邪じゃなかったら、襲ってましたか?」

律「……かも」

律「いや、かもじゃないな。確実に襲ってた」

梓「そうですか……」

律「何で?もしかして、やっぱりしてほしかったな~、とか?」

梓「ちーがーいーまーすー!」

律「ごめんごめん、梓の反応が面白くてつい……」

梓「全く、すぐ話をそっちに持っていこうとするんですから……」スッ

律「あっ、ちょい待ち」パシッ

梓「どうかしましたか?」

律「たい焼きはもうダメ」ヒョイ

梓「そんな!くれるって言ったじゃないですか!」

律「あげるとは言ったけど、今食べていいとは言ってないぞ」

律「一応風邪なんだから、吐いちゃったりしたら大変だろ?だからもうダメ」

梓「吐いてもいいです!だからたい焼きを返してください!」スクッ

律「あっ、そんな急に立ち上がったら危ないって!」

梓「じゃあそれ返してくだ……さ……」グラッ

律「梓!危ない!」ダッ

梓「にゃ……?」フラッ

ガシッ

律「ふぅ、もうちょっとで頭打つとこだったぞ」

梓「たい焼き……」

律「今はダメだ。我慢しなさい」

梓「はい……すいませんでした」

律「よろしい」グイッ

梓「わっ……先輩、意外と力あるんですね」

律「意外は余計だ。ほいベッド」ポフッ

梓「っと、ありがとうございます」

律「いいってことよ……ん?」

梓「どうかしましたか?」

律「……」

梓「先輩?」


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最終更新:2011年08月19日 21:28