パチパチ・・・。

遠くで拍手が聴こえる。
刹那なのか永遠なのか、よくわからない時間が終わった瞬間だった。

楽器搬入通路にて


吹「お疲れ様!!」

一同「お疲れ様です!」

楽「うっ・・・ぐすっ・・・」

律「おいおい、泣くなよ。」

楽「だっで・・・先輩、達とのコンクール、が、終わっちゃった・・・よぅ・・・!」

律「でも私達いい演奏出来たじゃん!悔いはないだろ?」

楽「うっ・・・うん・・・!ぐすっ・・・すっごい、気持ち、良かった・・・!」

吹「楽さん・・・。私も最高の演奏だったと自負しているわ。
こんな不甲斐無い生徒指揮について来てくれて本当にありがとう。」

楽「そんなこと、言わないでください・・・!」

律「・・・。」

吹「みんな、ここにいたら搬入の邪魔になるわ!一旦外に出ましょう。」




ロビーにて

奏「お疲れ様!」

律「おう!」

奏「りっちゃん最高だったよ!みんなの演奏も普段とは迫力が段違いで凄いかっこよかったよ!」

楽「ありがとう!」

奏「・・・楽、また泣いたでしょ?」

楽「へ?・・・ばれちゃった?w」

奏「ばれるっていうか、楽は毎年コンクールの後は泣いてるからね・・・www」

楽「そっかw」

「律!」

律「おう!澪!どうだったー!?」

澪「えと、その・・・。」

唯「すっごいかっこよかったよ!」

律「そっか!ありがとう!」

澪「あー!私のセリフ!!」

律「なんだよ、かたいこと言うなよー。」

紬「りっちゃんお疲れ様。素晴らしかったわ!」

梓「私も、鳥肌が立っちゃいましたよ!」

律「ムギ、梓も。ありがとな。」ニカッ

澪「楽さんも、すごくかっこよかったよ。」

楽「え、私なんて・・・そんな、とんでもないですよっ!」

奏「ううん、楽はかっこよかったよ。」

楽「えへへ、そうかな・・・。あ、こっちに歩いてくるの、吹先輩だ!」


吹「みなさん、お疲れ様。」

一同「お疲れ様でした!」

吹「今日は本当に楽しかったわ。私ね、生徒指揮をやってよかったと心から思ってるの。」

奏「吹さん・・・。」

楽「私たちだってみんな吹さんが指揮してくれてよかったって思ってますよ!」

律「もちろん、私も。」

吹「ありがとう・・・!」

律「こっちこそ!貴重な体験と最高の瞬間をありがとうございました。」

吹「軽音部のみなさんも。田井中さんを長い間お借りしちゃって悪かったわね。」

澪「いえいえ、こんなヤツでよかったらいつでも拉致ってやって下さいね。」

律「澪ひでぇ!」

一同「あはははwwww」

吹「律さんだけ?折角だから他のみんなもまとめて拉致っちゃいたいんだけど。」

澪「はい?」

吹「これはみんなにはまだ言ってないんだけど・・・。」

律「??」

吹「秋に定期演奏会があるの。それで、もしよかったらあなた達も出ない?」

紬「えっと、それはどういう・・・」

吹「もちろん、軽音部としてよ?細かいことは全部私がなんとかするわ。どう?」

唯「楽しそう!!」

梓「ホールでの演奏・・・気持ち良さそう・・・!」

吹「じゃあ決まりね。今年の定期演奏会は軽音楽部と合同ね!」

律「よっしゃ!今年はもう一回ライブできるな!」

軽音部一同「おー!」

吹「そろそろ集合の時間だわ。私達は先に行ってるから、田井中さんもすぐに入り口前まで来てね。」

律「へ?いや、一緒に行きますy」

吹「話、まだ終わってないんでしょう?それじゃ、また後でね。」

律「ちょっ・・・!ちょっとm」グイ

律「(誰だ、袖引っ張ってるの)・・・澪?」

紬「それじゃ私達飲み物買ってくるわね。」

梓「ほら、唯先輩も行きますよ。」

唯「いやだよぅ、あずにゃん私の分も買ってきてよぅ。」

梓「先輩!少しは空気読んd」

紬「唯ちゃん、行くわよ。」

唯「でも」

紬「あ?」

唯「やっぱり自分で飲み物選びたくなっちゃったなー(ムギちゃん怖いよぅ)」

梓「(ムギ先輩は怒らせちゃいけないな、うん。)」

スタスタ・・・

律「みんな行っちゃった。んで、澪、どうした?袖なんか引っ張っちゃって。」

澪「あのさ・・・。」

律「うん?」

澪「律、すっごいかっこよかったからな・・・///」

律「え・・・///う、うん。ありがとう。」

澪「それだけ伝えたかったんだ、それじゃ私も飲み物買ってくるな。」タッタッタッ

律「・・・。」

律「澪のヤツ、ハズいっつの・・・///」

入り口前に遅れて到着した私はみんなの空気が演奏前のように、再び張り詰めていることにすぐ気付いた。

律「(なんなんだ?)」

吹さんとさわちゃんを中心に、私を含めた吹奏楽部の輪が出来上がっている。
これ以上一体何があるっていうんだ?
私は人と人の間をすり抜け吹さんの近くにいた楽と奏のところまでなんとかたどり着く。
吹さんと目が合った。
すると吹さんは待ってましたと言うように口を開いた。

吹「みんな揃ったみたいね。」

さわこ「それじゃ早速だけど、審査員の方々の評価を一つずつ読み上げるわね。」ぴらっ

吹「はい、お願いします。」

さわこ「読むのは私じゃない、あなたよ。吹さん。」

吹「え?」

さわこ「決まってるじゃない。自分で言うのもなんだけど、今回私は何もしてないもの。
みんなを引っ張ってきたのも、指揮をしたのもあなた。だから、これはあなたが読むべきだわ。」

吹「・・・はい!」

吹「まず、発表の通り、私たちは関東大会への切符は逃してしまったわ。
でもね、関東大会推薦へマルをつけてくれている審査員の方もいるの。そのことを忘れないでね。 それじゃ読むわね・・・。

A氏『気迫のある演奏に圧倒されました。選曲も自分達のスタイルをよく理解したいい選曲だったと思います。
バラバラの音ではなく、きちんとブレンドされた旋律が審査員席まで届き、ホール全体に響いていました。
ただ、ピッチずれが少々気になりました。心を込めて演奏するのは素晴らしいことですが、次回はピッチやリズムの揺れなどを克服できるようにしてみてください。来年も期待しております。』

B氏『仲間の音を良く聴き、音楽をしようという姿勢が大いに見受けられます。バンドの音が一つになっていてバランスも良く、随所で仲間の見せ場を引き立てる演奏が出来ています。非常に好感が持てました。』

C氏『少々走りすぎではないでしょうか。ですが、バンドの音自体は一つになっているので安定感はあります。
また、第三楽章のリズムに切れが足りません。正確に音を当てながらタイミングを合わせるのは難しいですが、それが出来ればもっと鋭さを増すと思います。この曲を選んだ勇気には頭が下がります。」

D氏『自分達は何をしたいのか、がはっきりとわかる、聴いていて心地よい演奏でした。金管楽器は音をもっと正確に音を当てられるように、木管楽器は細かい音一つ一つを丁寧に。弦バスは全音符など音を長く伸ばすときの弓の引き方を研究してください。パーカッションについては文句無し。最終楽章のソロには鳥肌が立ちました。素晴らしいひと時をありがとう。』」


吹さんはゆっくりと各審査員の評価を読み上げた。最後の方は声が震えていた。
それもそのはずだ、指摘されていることはもちろんある、それでも・・・。
どの審査員もバンドの音が一つになっていると評価してくれているのだから。
楽の方を見る。

律「(やっぱり・・・。)」

今にも泣き出しそうだ。・・・まぁ、私も人のことは言えないんだけどな。
これで終わりかと思ったら、奏が口を開いた。

奏「・・・E氏からは、なんて書いてあるですか?」

律「(E氏?)」

確かに審査員は5人いた。でもE氏って誰だ?
私は思ったままを楽に聞いた。

楽「え?えーと、凄い厳しい人、かな。」

吹「E氏っていうのはね、どの高校にも毎年酷評を叩きつけることで有名な審査員なの。
各パートごとに課題点を指摘し、次のコンクールでそれが改善されていなければさらにお叱りの言葉を頂戴することになるのよ。」

奏「参加校全ての去年の演奏と課題点を覚えてるんだからある意味すごいよね。」

なるほど、ただの偏屈な人ってワケでもないんだな。
E氏の評価を読むため、吹さんは紙をめくる。
すると、吹さんの目からは大粒の涙。

まだ読み上げられていないそれに、私達は完全においていかれた。
吹さんがいまにもしゃくり上げそうになりながら、なんとか声を振り絞る。

吹「『・・んど・・・た・・・。』」

上手く読めないと判断したのだろうか、吹さんはくるりと紙を私達の方に向ける。
A4の紙には達筆で一言、こう書かれていた。

『感動した。』


急に何かがこみ上げてくる。
頭の中でここ最近のことがフラッシュバックする。

吹さんと音楽室の使用権で喧嘩したこと。
あの日、音楽室で楽に呼び止められたこと。
学園祭のライブの後、吹奏楽部全員にパーカッションを頼まれたこと。
合奏についていけなかったこと。
吹さんとふざけあったこと。
軽音部のみんなが励まして、支えてくれたこと。
練習して少しずつみんなと音を合わせられるようになったこと。

私は泣いていた。
みんなも泣いていた。
吹さんは私達の涙を見るとさらに泣いた。

こうして3週間の私の吹奏楽生活は終わりを告げた。


後日!

梓「それにしても、残念でしたね。」

律「なにがだ?」

梓「コンクールですよ。」

律「えと、なんで?」

梓「だって次の大会いけなかったじゃないですか。」

律「あぁ、そういうことか。」

唯「でも凄いいい演奏だったよ!」

澪「うん、勝ち負けじゃないよな。確かに常連校に次の大会の切符持ってかれたのは悔しいけどさ。」

紬「そうね。・・・でも、澪ちゃんは複雑なんじゃないかしら?」

澪「へ?」

紬「もし次の大会に行ってたら・・・またしばらくりっちゃんを貸し出すことになっていたものね?」

澪「ばばばバカ、そんなこと気にしてないしっ!」

律「なんだよ、そこ全力で否定するなよ!」

澪「うるさい、バカ律っ。」

律「ぶー。・・・そういえばムギ、今日のお菓子はなんだ!?」

ムギ「今日はアップルパイよ♪寧ろアップルπ♪」

梓「いや、意味がわかりませんよ。」

唯「あずにゃんのつっこみには愛がないよね。」

梓「なんですか、愛って・・・。」

唯「澪ちゃんを見習わないと駄目だよ?」

律「そうだ梓!澪を見習うんだ!」

梓「それってどういう」

律「こういうことだぁ!」タッタッタッ・・・


スカートぺろーん


澪「お前は何してんだ!!」

ゴスッ!

律「いでぇ・・・!!」


唯「あずにゃん、見て!愛に満ち溢れているでしょう!?」

梓「怒りの間違いじゃないですか?」

紬「(学校祭のときと同じ縞々パンツ、だと・・・!?)」

澪「ムギもなんか言ってやってくれ!」

紬「澪ちゃん、パンツくらい私が何億枚でも買ってあげるからね・・・!!」

澪「どうしてそうなった!?」

律「いや、澪のパンツは私が選ぶ!そう、私好みn」

澪「黙ってろ!」

ダコッ!

律「さっきと同じところとかー!!」


ガチャ

吹「あらあら、相変わらず騒々しいのね・・・ww」

律「すすす、吹さん!?」

吹「定期演奏会のタイムテーブルを持ってきたんだけど・・・。」

律「いや、違うんですよ、サボってないですよ?今から練習しようと思ってたんですよ。」アセアセ

吹「そう?」

律「もちろんっ、なあ唯!?」

唯「え?あー・・・。そうだっけ?」

律「このバカー!」

吹「ふふふ・・・wwまぁいいわ。ムギさん?」

紬「は、はい?」

吹「お茶、いただけないかしら。」

律「」

紬「・・・はい!」

律「へ・・・?今、なんて?」

吹「練習ばかりではなく、こういう時間も大切。そうでしょ?」

律「・・・へへへ!その通り!」ニカッ




終わり



最終更新:2010年01月22日 21:53