シトシト… シトシト…

梓「……」

黒猫「ニャーゴ」

梓「……」

黒猫「ニャッ」

梓「……君のせいだよ、もう」

黒猫「ニャ?」

梓「うぅん、何でもない。落としちゃったのは私だしね」

梓「……」ジー

梓「……はぁ」

グチャ

梓「とっさに、思いっきり放り投げちゃったもんなぁ」

梓「……」

梓「喜んでもらおうと思って頑張ったのに、上手くいかないもんだなぁ……」グスッ

ボロボロ

梓「……」

梓「せっかく作ったのに……」

梓「完全に崩れちゃってるし、こんなのプレゼントできないや」

梓「……」

黒猫「ニャー」

梓「慰めてくれるの?」

黒猫「……」スリスリ

梓「うん、ありがとね」


黒猫「!」

梓「どうしたの?」

黒猫「」ピュー

梓「あ、どこ行くの猫ちゃ……」

黒猫「ニャー♪」スリスリ

梓「……」

律「よっ」

梓「りつ……先輩」

律「こんな所で何やってんだ」

梓「……」

律「傘もささずにベンチに座り込んで」

梓「……」

律「あーあー、すっかり濡れてるじゃねえか」

梓「……」

梓「律先輩こそ、何でそんなびしょ濡れになって……」

律「ああ、ある奴を探してたらすっかり雨に濡れちゃってさ」

梓「……」

律「そいつってばよりにもよって携帯忘れやがって」

律「そのくせ、親にも恋人にも連絡の一つ寄こさないと来てる」

梓「……」

律「そいつの母親はあんまり心配になって、警察に連絡しようとさえしたんだ」

梓「……!」

律「私もさ、交通事故にでも遭ったんじゃないかって思って、そこら中探し回った」

梓「……」

律「おい梓、聞こえてないのか?」

梓「……」フルフル

律「……心配したんだぞ、この大馬鹿野郎!!!」

梓「」ビクッ

律「」ズイッ

梓「」タジタジ

律「逃げんな」

梓「……」

律「目、つぶれ」

梓「……」キュッ

梓(殴られるっ……)

律「……」ギュッ

梓「……?」

律「心配かけんなよ、ばか」

梓「……」

律「お前に何かあったらって、生きた心地しなかったんだぞ……」グスッ

梓「……ごめんなさぁい」

律「……」

梓「ごめんなさい……律先輩、ごめんなさい……」ポロポロ

律「……うん」

梓「心配かけて……ごめんなさい」ポロポロ

律「泣くなよ」

梓「だって、だってぇ……」

律「ホントに梓は、泣き虫だな」

梓「……」グスッ

律「よしよし」

梓「……」


黒猫「ニャー♪」グルグル

律「……」

梓「……」


律「こらお前、ぐるぐる回るな」

黒猫「ニャ?」

律「うっとうしいだろっ」

黒猫「……」グルグル

律「回るなってのに!」

梓「……ぷっ」

律「おっ」

梓「くすくす」

律「泣いたカラスがもう笑ってやがる」

梓「だって、おかしくって」ヒック

律「……」

梓「」ヒックヒック

律「ぷっ、しゃっくり止まらなくなってやんの」

梓「う、うるさいです!」

梓「」ヒック

律「うぷぷ」

梓「律先輩!」


パラ… パラ…


律「それで、何でこんな所にいたんだ」

梓「……それ」

律「うん? この箱のこと?」

梓「……はい」

律「あっちゃ~、雨と泥でぼろぼろじゃん」

梓「……」

律「もしかして、私に?」

梓「……」コクリ

律「何が入ってんだ」パカッ

梓「……」

律「ケーキ」

梓「……」

梓「その猫ちゃん、助けようとして」

梓「車に轢かれそうになったのを助けようとして、放り投げちゃったんです」

律「……」

梓「それでグチャグチャになっちゃって」

律「そっか」

梓「……」グス

律「ケガはなかったのか?」

梓「はい、不思議と」

律「そっか、よかった」ギュッ

梓「あっ……」

律「それが一番のプレゼントだよ」

梓「……律先輩」

律「」ジー

梓「それ、もう捨てちゃいましょうか」

律「何で。もったいないじゃん」

梓「だって」

律「幸い泥はついてないみたいだぞ」

梓「……」

律「ラップしてたおかげで、雨にもあんまり濡れてないみたいだし」

梓「……」

律「確かにちょっと潰れちゃってるけど、これなら食えるよ」カプッ

梓「あっ」

律「」ムシャムシャ

梓「……」

律「うん、すごく美味しい。香りが良くて、私の好きなラムレーズンがたっぷり入ってて」

梓「ほ、ホントですかっ?」

律「私のために、一生懸命作ってくれたんだろ?」

梓「……」コクリ

律「それじゃ、美味しいに決まってるじゃん」

梓「……」

律「ありがとな、梓」ナデナデ

梓「はい、私も嬉しいです」

梓(大好きな人に喜んでもらえて)

律「それから、ちゃんとメッセージももらったよ」

梓「へっ?」

律「ケーキの下に挟まってた奴」

梓「……あっ!!」

律「『律センパイ大好き』ってか。私も大好きだぞー?」ニヤニヤ

梓「あ、あうぅ……」

律「何だよ、自分で書いたんだろ」

梓「そ、それはそうですけど。よくよく考えてみると……恥ずかしくて」

律「じゃ、梓は私のこと嫌いなんだ」

梓「そんなはずないじゃないですか!」

律「……」

梓「はっ」

律「」ニヤニヤ

梓「……好きですよ」

律「えっ?」

梓「好きって言ったんです!」

律「」キーン

梓「もうっ」

律「へへ、ありがと」

梓「……」ボッ

黒猫「ファーア」

梓「あれ、律先輩のポケット光ってますよ」

律「へっ? あ、やべ! 全然携帯見てなかった」

梓「……気づきましょうよ」

律「マナーモードにしっぱなしだったんだよっ」

梓「律先輩らしいです」

律「うわ、着信十数件!? 澪に唯にムギに聡に……」

梓(あんなに慌てて。さっきまですごく格好良かったのになぁ)クスッ

「あ、おい律! お前今まで何してたんだよ!」

律「ごっめ~ん! 全然気がつかなくて」

「梓は大丈夫なのかっ?」

律「うん、一緒にいるよ」

「なら早く連絡しろよ……聡から事情聞いて、みんなでお前たちを探し回ってたんだぞ!」

律「へっ?」

「唯は泣いて収拾つかないし、ムギは捜索隊出動させようとするし」

律「ま、まじですか?」

「たくっ、とにかくすぐ家に戻ってこい。話はそこで聞くから」

律「りょ、りょうかいっ」

律「……ふぅ」

梓「何だか、大変な事になってたみたいですね」

律「だな」

梓「色んな人に迷惑かけちゃいました」

律「そうだぞ。澪に唯にムギに聡に、それからお前の母親に」

梓「一人一人、謝っていくしかないですね」

律「私にも責任あるし、一緒に謝っていこうな」

梓「はいっ!」

黒猫「ニャッ」

律「お前はいいよ」

黒猫「?」

梓「……くす」

律「じゃ、帰ろっか」

梓「了解です。傘あるけどどうします?」

律「もういいんじゃね? 小降りだし、こんだけ濡れちゃったし」

梓「それもそうですね」

律「ということで、濡れて帰ろう」

梓「おー!」

黒猫「ニャー!」

律「って、お前も来るのかよ」

梓「あ、私が一緒に行こうって約束したんです」

律「猫と約束って」

梓「いいじゃないですか、ねー?」

黒猫「♪」


梓「律先輩、手つなご」

律「はいはい」

梓「せ~んろっはつっづく~よ~ どっこっまっでっも~♪」ブンブン

律「ちょ、手ふんなって」

梓「いいじゃないですか、誕生日なんだから少しぐらいワガママしても」

律「いや私の誕生日だし」

梓「細かいことは気にしない」

律「気にするわっ」


梓「あ、そうだ律先輩!」

律「うん?」

梓「まだちゃんと言ってませんでした」

律「……?」



梓「お誕生日、おめでとうございます!」



律先輩は、滅茶苦茶になったケーキでもすごく美味しそうに食べてくれました。

そして、満面の笑顔で褒めてくれました。

大好きな人にここまで喜んでもらえると、とても嬉しいです。

こういう人だから、私は好きになったんだろうな。


あの後、私と律先輩はたくさんの人に怒られました。

でも、みんなすごく心配してくれて。

大切にされてるんだなと、改めて実感しました。


律先輩の誕生日パーティーは本当に楽しくて、時間を忘れるほどでした。

今度は私の誕生日にパーティーを開いてくれるそうで、今からとても楽しみです。


今日は本当に色々なことがあって、疲れちゃいました。

けど、今日の思い出はこれから先、きっとずっと記憶に残ると思います。


今日、八月二十一日は律先輩の誕生日。

私の大切な、大好きな人の大事な日です。



Fin






最終更新:2011年08月21日 23:03