ざわざわ
梓「澪先輩の手、QKA23ですよね。KとAが繋がるのは10JQKAの時だけなんです」
澪「えっ…、嘘だろ?」
梓「いえ、ホントです」
澪「…、ちょっと調べてみていいか?」
梓「はい」
そう言うと、澪は携帯を取り出して調べ始める。
ぽちぽち
澪「…、ホントだ。梓の言うとおりだ」
梓「なんか申し訳ないですけど、私の勝ちです」
澪「むぅ、この勝負はノーカンにしないか」
梓「罰ゲームがかかってるので、流石にそれはできません」
澪「まぁ…、そうだよな」
梓「じゃあ、エッチな話をお願いします」
澪「…どうしよう」
梓「エッチな話ですよ、澪先輩」
澪「話さないと…ダメか?」
梓「約束は約束です」
澪「うん…」
梓「…」
澪「…」
しばらくの間、沈黙が続く。
澪「…私の話はおもしろくないぞ」
梓「いいから話してください」
澪「うん、じゃあ」
梓「…」
澪「私のファーストキスは…その…律…なんだ///」
梓「!!!、えっー!」
澪「そんなに驚かないでよぅ///」
梓「はっ、はい。すみません」
澪「うん…、あれは中学二年生の時だったな。私が律の家に遊びに言った時の事だ」
梓「はい…」
澪「その時出されてたお菓子の中にたまたまプリッツがあって…、ふざけて律とプリッツなんだけどポッキーゲームをする事になったんだ」
梓「…」
澪「はじめは、私がすぐに口から離したんだけど、律が『澪のチキンー』って言うから、私もムキになったんだ」
澪「それで、三回目くらいの時、私も我慢して距離が近づくまで待っていたんだ」
澪「そしたら、律の奴、少し距離がある所から、いっきにぱくって近づいて…、その…、口と、口が、くっ…、くっついたんだ///」
梓「す、ストーップ!」
澪「えっ///」
梓「もう十分です。大満足です!」
澪「いっ、いや、それで私は、『きゃー』って悲鳴を上げて、律を突き飛ばして、本気で律を殴ってやったんだ!」
梓「…、なんか安心しました」
澪「私あの時、律を殴りながらずっと泣いてたな」
梓「なんというか…、お疲れ様です」
澪「うん…///私の話はこれで終わりだ。どうだった?これで…、いいかな?」
梓「十分過ぎです。何ていうか、ちょっとショックです」
澪「うん…、ごめんな」
梓「謝らないでくださいよぉ」
澪「うん」
梓「でも…、おもしろかったですよ」
澪「うん、良かったぁ」
安堵する澪。
澪「ところで、梓…。これは提案なんだが」
梓「ん、なんですか?」
澪「うん、これ以上やっても、お互いの傷が深くなるだけだと思うんだ」
梓「私はそんなにダメージないですけど」
澪「…、だから、あの…、この辺で休戦協定を結ばないか?」
ちょっと涙目の澪。
梓「…、まぁいいですよ。その協定、調印します」
澪「あ、ありがとう」
梓「そんな目で見つめられたら、断れませんって」
澪「すまない」
梓「いえ、私も疲れた所でしたし」
澪「私も…、疲れた」
梓「今、何時だろう…?」
梓が時計を見る。
時刻は11時を回っている。
梓「結構時間経ったなぁ」
澪「そうだねぇ」
梓「ちょっと早いですけど、そろそろ横になりませんか?」
澪「ん、そうしよっか」
澪「じゃあ、布団敷くね」
そう言うと、澪は押入れの方に行く。
梓「私も手伝います」
澪「いいよ。梓は座ってて」
澪は押入れから布団を一つ取り出して部屋に敷き、また、押入れに行き布団をもう一つ取り出す。
澪「パジャマ、着替えよっか」
梓「私はこのままで大丈夫です」
澪「そうか。だったら、私もこのままでいっか」
澪「じゃあ、電気消すから、魔法をかけてくれるか?」
梓「その前に、一つ聞いてもいいですか?」
澪「なんだ?」
梓「澪先輩は…、どうして眠れなくなったんですか?」
澪「んっ…」
梓「…」
澪「…」
梓「…」
しばらく沈黙が続く。
澪「…、まぁ、梓にだったら話してもいっか」
梓「…」
澪「うん…、私な、みんなと同じ大学を志望する事にしたじゃん」
梓「はい」
澪「それで、別の大学の推薦を蹴った事は知ってるか?」
梓「知ってます」
澪「その事でなぁ…、パパに思いっきり怒られた」
梓「ああー」
澪「夕食の時から二時間くらいずっと説教喰らっちゃってなぁ…」
澪「今でこそ折れたみたいなんだけど、納得はしてないみたい」
梓「それは…、大変でしたね」
澪「うん…」
梓「…」
澪「それから、その事で明らかに失望した感じの先生もいて」
澪「その先生はあからさまに態度が変わった」
梓「うわぁ」
澪「さわ子先生でこそ理解してくれたみたいなんだけど、さわ子先生も最初のうちは『考え直したら、澪ちゃん』って言ってたり」
梓「…、それは澪先輩の事を心配してだと思いますよ」
澪「それはわかってはいるさ。わかってはいるけど…」
梓「…、先輩方には話したんですか?」
澪「…、いや、話してない」
梓「どうしてですか!?」
澪「…、みんな心配するかなと思って。受験勉強の邪魔になっちゃいけないし」
梓「いいじゃないですか!心配かけたって、邪魔になったって!」
澪「…」
梓「先輩方なら、澪先輩の悩みを、理解してくれると思いますよ」
澪「…、うん」
梓「それに私、言ったじゃないですか。澪先輩は頑張ってるって!」
澪「…」
梓「部活だけじゃないです、勉強だって頑張ってると思いますよ」
澪「うん…」
梓「だから、大丈夫です。あまり無責任な事はいえませんが、澪先輩なら大学を変えたってうまくいくと思います」
澪「うん」
梓「それに…、ギリギリになって大学変えちゃう所って、結構澪先輩らしいです」
澪「私らしい…か?」
梓「はい、澪先輩らしいです。澪先輩ってライブの終わりにコードに引っかかってこけてパンツ見せたりしたり、結構ドジな所があるじゃないですか」
澪「それは…関係ないだろ」
梓「でも、あれだって、そのおかげで澪先輩ファンクラブができたりしたじゃないですか」
澪「…」
梓「だから、雨降って地固まるです。今回だって、最終的にはきっと良くなりますよ」
澪「…うん」
梓「だから…、大丈夫です。私は、応援してます」
澪「うん…、ありがとう…、梓」
涙ぐむ澪。
梓「いえ」
澪「…、うん、ぐすん、うっうっ」
澪「あずさぁ…」
梓「…」
梓はそっと澪に近づく。
そして、梓は静かに澪の頭を撫で始めた。
梓「澪先輩は…、頑張りました」
なでなで
澪「あずさぁ…、うっうっ…」
梓「澪先輩」
なでなで
澪「ぐすん…」
梓「よしよし」
なでなで
澪「うっ…」
…
しばらく、二人はその状態が続いた。
―
澪「…うん、もう大丈夫だ」
梓「はい」
澪「じゃあ…、今度こそ寝ようか」
梓「はい」
澪「電気消すね」
梓「いえ、そのままでお願いします」
澪「ん」
梓「呪文がかけにくくなりますから」
澪「わかった」
澪「横になってればいいのか?」
梓「はい」
澪は横になる。
澪「じゃあ、お願い」
梓「はい。では、いきますよ。ラリホー!」
澪「…」
梓「…」
澪「…」
梓「しかしMPが足りない」
澪「ここまできて、それはないだろ!」
梓「午前中にMPを使いすぎました」
澪「何にそんなに使ったんだ」
梓「純にスカラとルカニを交互にかけ続けました」
澪「何ていう無駄遣いなんだ!節電のこのご時世に電気だったら非難浴びるレベルだぞ!」
梓「失礼、冗談です」
澪「…、驚かせるなよ」
梓「すみません。実は、催眠術と同じで補助魔法もリラックスしてた方がかかりやすいんですよ」
澪「ああ…、なるほどな」
梓「澪先輩、さっきの話の後からちょっと強張ってましたから」
澪「そっか…。ふふっ、気を使わせてすまないな」
澪、微笑する。
梓「いえ。では、改めて…」
澪「…」
梓「ラリホー!」
梓がそう唱えると澪のまわりを紫色の霧が渦巻く。
…
すーすー
梓「おやすみなさい、澪先輩」
―
梓【それから、澪先輩は軽音部の先輩方や和先輩に事情を話しました】
梓【先輩方は澪先輩の悩みをおおむね理解して、励ましたり、ねぎらいの言葉をかけたり、お菓子をサービスしたりしました】
梓【澪先輩は、私や先輩方に話して肩の荷が下りたのか、不眠もだいぶ軽減されたようです】
梓【まだ寝つきが悪かったり、寝が浅かったりする事もあるそうですが、夜にきちんと眠れるようになったみたいです】
―
ある日の放課後
梓「ニフラムっ!ニフラムっ!」
がらっ
澪「よっ、梓、もう来てたのか。どうしたんだ?」
梓「ゴキブリです。Gがでました。」
澪「ひゃー!早く退治してくれ」
梓「メラゾーマをぶちこむべきでしょうか?」
澪「気持ち的にはそうして欲しいが、そんな事したら学校が大変な事になるぞ」
梓「冗談です。それに、流石にメラゾーマは使えません」
澪「そうか、ちょっと本気にしちゃったぞ」
梓「では、学校で炎を扱うのはまずかったですから…」
梓「ヒャド!」
梓がそう唱えると、氷の結晶がゴキブリを襲う。
かちん
梓「今のはマヒャドではない。ヒャドだ!」
澪「見れば分かるよ」
梓「言ってみたかっただけです」
澪「それより、ゴキブリの残骸を早くどこかへやってくれ」
梓「そうですね」
梓は、はけとちりとりを取り出し、氷漬けのゴキブリをごみ箱に捨てる。
梓「ふぅ、これでやっと落ち着ける」
澪「うん。ところで、話は変わるが、この間はありがとうな」
梓「いえ、どういたしまして」
澪「梓の魔法もすごいけど、梓自身魔法みたいだったな」
梓「へっ、どういう意味ですか?」
澪「梓のおかげで救われたって事だよ。あれから梓はうちには来なくなったけど、毎日梓がラリホーをかけてるみたいに眠れるよ」
梓「それは良かったです」
澪「梓、ちょっとこっち来てくれるか?」
梓「はい、なんでしょう?」
そう言って梓は澪に近づく。
澪「梓、ありがとう」
なでなで
―
終わり
最終更新:2011年08月24日 00:33