………

絢辻「はぁ…はぁ…嘘でしょ?!なんで…無くなってるの?!」

絢辻「もう…信じられない!…どういう事なの?!」

縁「詞ちゃん、どうしたの?朝から大声出して」

絢辻「別に…なんでもないわよ…探し物が見つからないだけ」

縁「何を探してるの?あ、ひょっとして…」

絢辻「?」

縁「ピンク色のカセットテープかしら?」

絢辻「!」

縁「あはは、図星だ?」

絢辻「ええ、その通りよ、どこへやったの?」

縁「さぁ、わからない」

絢辻「は?」

縁「昨日私が捨てちゃったんだもん」

絢辻「はっ?…………嘘…よね?」

縁「だって汚くて古ぼけてたから…今頃はゴミ処理場に行っちゃってるかもね」

絢辻「………」

縁「詞ちゃん?」

絢辻「ばっかじゃないの?!誰に断ってそんな事したのよ?!
   勝手な事しないでっ!!ホントありえない!!!」

縁「詞ちゃん、お姉ちゃんに向かってその言葉使いは良くないなー」

絢辻「そんな事今は関係ないでしょ!!返してよ…!!
返して!!……う…グス…」

縁「あらら、泣かせちゃったわ…どうしよう…」

絢辻「あたしの…ぐっす……大切な…ひっぐ!……」

「何事だ、朝から騒々しい」

「ご近所さんに迷惑だわ」

縁「あ、パパ、ママ」

「詞はどうしたんだ?」

縁「詞ちゃんの大切なカセットテープを私が昨日捨てちゃったみたいなの」

「なんだそんな事か?」

絢辻「そんな事……?」

縁「詞ちゃん、また買ってくればいいじゃない、そんな目くじら立てないの」

「縁の言う通りだ詞、なんなら父さんがお金出して…」

絢辻「そんな事ってなによ!!代わりの物なんかあるわけないじゃない!!!
   あんた達にあのテープの重みは一生解らないわっ!!!」

「父親に向かってその口のきき方はなんだ!」

絢辻「もういい!!」

「待ちなさい詞!……詞!!」

縁「行っちゃった…もう…怒りっぽいんだから…詞ちゃんは」

「まぁ、帰ってくれば気持ちも落ち着いてるでしょ、さっ朝ごはんにしましょ」

縁「うん、そうしよっか」

タッタッタ…

絢辻「はぁ…はぁ…はぁ…」

………

律「唯、最近忙しそうだけど、大丈夫なのか?」

唯「これ…」

澪「なんだ?この円グラフ…?」

唯「私の一日の予定はこんな感じです」

律「うわぁ…」

澪「唯…これ本当にこなしてるのか?」

紬「ハードスケジュールね…」

梓「唯先輩…大分疲れてますね…」

唯「そうだよ…あずにゃん…私のお墓は…見晴らしの良い所がいいな…」
ムギちゃん…最後に…何か甘いものを…それと紅茶を…」

梓「縁起でもない事言わないで下さいよ」

紬「はい、唯ちゃん、レモンティーとショートケーキよ」

唯「わぁぁぁい♪」

唯「………」

唯「(`・ω・´)シャキーン」

唯「よし!委員会行ってくるよっ!」

律「頑張ってなー唯」

澪「無理しちゃダメだぞ」

梓「(唯先輩頑張ってるなぁ、私も見習わなきゃ!)」

………

唯「(いけない、いけない、けっこう遅くなっちゃったよ…)」

唯「(そういえばつかさちゃんに、ティータイム禁止されてたんだっけ)」

唯「(まさかバレたりしないよね?でもつかさちゃん鋭いからなぁ…)」

唯「(とりあえず早いところ行こう、確かつかさちゃんは図書館だっけ)」

唯「つかさちゃん!お待たせー」

絢辻「………」

唯「えっ…」

絢辻「あっ!ひ、平沢さん!遅かったわねっ!」

唯「う、うん…ごめんね!(今…つかさちゃん…泣いてた様な…?)」

絢辻「………」

唯「………」

唯「つかさちゃん…どうしたの…?…なにかあったの?」

絢辻「……べ、別に」

絢辻「平気っ!」

唯「そうは…見えないよ……」

絢辻「なんでもないのっ!放っておいてよっ!」

唯「放っておけないよ…!」ぎゅっ

絢辻「…あ……」

唯「…哀しい事でも…あったの…?」

絢辻「…………うん…」

唯「私でよければ…話してもらえない…かな?」

絢辻「………」

唯「………」

絢辻「キミから……」

唯「…?」

絢辻「キミからもらった…カセットテープ……失くしちゃったんだ……」

唯「…あ…ちゃんと聴いてくれてたんだ?」

絢辻「うん…素敵な歌声ね……」

唯「えへへ…ありがとう…」

絢辻「………」

唯「また録音してくるよ、次の新曲もn」

絢辻「あたし…もう……」

唯「………?」

絢辻「自分の居場所が無いの……」

唯「えっ?…え……?」

絢辻「帰る場所も無い……」

唯「えっと…」

絢辻「誰も本当のあたしを…認めてくれない………」

唯「………」

絢辻「辛い…辛いよお……ぐっす…!」

唯「つかさ…ちゃん…」

絢辻「もう…どこかへ逃げちゃいたいよ……ひっぐ……」

唯「………」

絢辻「……ずず…」

唯「………」ぎゅ

絢辻「………」

………

唯「………」

唯「ねぇ憂」

憂「なに?お姉ちゃん?」

唯「私と憂は姉妹だよね?」

憂「えっ、う…うん、いきなりどうしたの?」

唯「ずっと昔から一緒に育ってきたんだよ」

憂「う、うん」

唯「年も近いから、隠したい事も相手に伝わっちゃったり…
  性格もよく知ってるから見抜かれちゃったりしてさ…
  時にはそういうのがすごく嫌だったりする事もあるけど…」

憂「お姉ちゃん?」

唯「でもさ、もし…もしもだよ…?」

唯「誰も本当の自分を認めてくれない環境におかれたら、
  誰も本当の自分を知ろうとしてくれない環境におかれたら、
それはどんなに辛い事なんだろう」

憂「……」

唯「その本当の自分を上から塗りつぶして
  別な自分を演じる事ってどんなに辛い事なんだろう」

唯「自分と向き合ってるのは自分だけ…
自分の本当の気持ちは相手に伝わらないんだよ…?
伝えられないんだよ…?」

憂「お姉ちゃん…」

唯「……」グスッ…

憂「……」

唯「こんなに切ない事って…ないよ」

憂「……」


憂「お姉ちゃんは嫌かもしれないけど…
  私はお姉ちゃんの妹だから…お姉ちゃんの気持ち…解っちゃうよ」

唯「……」

憂「お姉ちゃんは…その人を救ってあげたいって思ってる
  傍にいてあげたいって思ってる」

唯「……でも…」

憂「具体的にどうすればいいのか…わからないんでしょ?」

唯「……うん」

憂「でも、それは…違うよ
  お姉ちゃんはどうすればいいか知ってる筈だよ」

唯「…憂…」

憂「きっともうお姉ちゃんの中で答えは出てる筈だよ」

唯「……」

憂「お姉ちゃんが思う様にすればいいだけの事…だよ
  それがその人の一番望んでいる事だと思う…」

唯「………」

憂「お姉ちゃん…がんばって」

唯「……うん」

………

パチパチパチ…

唯「すっごく良かったよっ!ありがとう姫子ちゃん達!」

和「順調に進んでるわね、これも絢辻さんのおかげよ」

絢辻「そんな事ないよ、でもまだ全部終わって無いから…」

『次は放課後ティータイムによる演奏です』

唯「じゃっ、行ってくるねっ!」

和「頑張ってね、唯」

絢辻「唯ちゃん、ここで見てるから」

唯「うん!」


がやがやがや……

絢辻「……」

絢辻「すっごい人気なのね、放課後ティータイム」

和「ええ、本人達に自覚は無いみたいだけど……
  去年も一番盛り上がった行事の一つね
  この学校にもファンが数多くいるのよ」

絢辻「そうなのね…あ、始まるみたい」

……

絢辻「………」

キミを見てるといつもハートドキドキ

絢辻「………」

絢辻「(机の前に腰掛ける一人の時間になると、いつもキミは私の勉強を邪魔しにくる)」

揺れる思いはマシュマロみたいにふわふわ

絢辻「(もどかしいけれど、嫌いじゃないその時間)」

いつもがんばる

絢辻「(頭の中に思い浮かぶキミをどうしても振り払う事はできなくて、気がつくと…)」

きーみの横顔

絢辻「(この歌声を何度も繰り返し聴いていた)」

ずっと見てても気付かないよね

絢辻「(周りのみんなから愛されるキミが最初は憎かったのに)」

夢の中なら2人の距離縮められるのにな

絢辻「(いつのまにかその憎しみは、
分け隔てなく人と接する事ができるキミへの憧れへと変わっていって)」

絢辻「(その憧れがキミへの恋心に変わったのはそれから直ぐの事だった)

絢辻「(キミみたいな人に出会ったのは初めて)」

絢辻「(キミはあたしが、あたしでいる事を許してくれた…認めてくれた)」

絢辻「(できればこれからもずっとキミの傍で……キミの横で……)」

唯「……つかさちゃん!」

絢辻「えっ?(手招き…?)」

和「……」

和「絢辻さん、唯が呼んでるわよ?ステージ上にどうぞ」

絢辻「えっ?…でも…あたし…」

姫子「行っておいでよ、絢辻さん」

エリ「この学園祭で絢辻さんが一番頑張ったんだからっ」

信代「ほーら、どうぞ、どうぞ」ぐいぐい

絢辻「えっあっ…あ…」

唯「つかさちゃん、歌えるよね?」

絢辻「一応…頭には入ってるけど……」

唯「じゃあ一緒に歌おう♪」

律「いってみよう♪」

澪「大丈夫だから、ね?」

紬「みんなも歓迎してくれてるわ♪」

梓「お願いします、絢辻先輩」

絢辻「……」

絢辻「ええ、ありがとう、みんな!」

ふとした仕草に今日もハートズキズキ――――

―――
――



………

唯「終わったね…終わっちゃったねぇ…」

絢辻「もうっ!いきなり誘うなんて聞いてないっ!」

唯「えへへ…ごめんね?びっくりさせたかったんだぁ」

絢辻「あたし…うまく歌えてたかな…?」

唯「うん!みんな後でつかさちゃんの歌声褒めてたよ、すっごく良かった!」

絢辻「そう…なら……良かった」

唯「………」

絢辻「………」

絢辻「あたし…ね?」

唯「…うん」

絢辻「キミと出会えて…本当に良かった…」

唯「………」

絢辻「キミは…本当のあたしを好きって言ってくれた」

唯「………」

絢辻「こんな事初めてなの…人を…好きになる事って…
   一緒にいたいって思う事って…」

唯「うん」

絢辻「唯……はさ、あたしの事どう思ってる?」

唯「………」

絢辻「こんな事考えてるあたしって…嫌…かな?」

唯「ううん」

唯「私も…つかさちゃんと一緒にいたい
  ずっと守ってあげたい……」

絢辻「………」

唯「………」

絢辻「………」

唯「……好き…だよ?」

絢辻「………」

唯「私つかさちゃんの事が大好き……」

絢辻「………」

唯「………」

絢辻「今…唯がしたい事当ててあげよっか?」

唯「うん」

絢辻「…キス…でしょ?」

唯「…ん………」

絢辻「はっ……んむ……」

―――
――

もう、怖くないよ
強がりなんかじゃない、本当だよ
自分に偽り無く、真っすぐ生きていく事ができる
だってね

やっと自分の居場所を見つけたんだもん




終わり



最終更新:2011年08月27日 20:13