唯「あーずにゃん!!」ダキッ

梓「にゃっ!!も、もう唯先輩!!出会い頭に抱きつくのはやめてください!」

唯「いいじゃ~ん。これが一番効率のいいあずにゃん分摂取方法なんだよ」

梓「な、なんですかあずにゃん分って。訳分らないですよ……」

唯「あずにゃん分はあずにゃん分だよ。私の必須栄養素♪」

梓「と、とにかく!早く離れてください!!」

唯「え~?あったかいし、もうちょっとこうしてようよ」

梓「だ、駄目です!!早く離れてください!」

唯「ぶー……」

律「うーっす、って、なんだ……お前ら、相変わらずラブラブだなー」

唯「えへへー、それほどでもー」

梓「なっ!?何言ってるんですか!!わ、私別に唯先輩のことなんてなんとも思ってないですから!!
  だらしないし、頼りにならないし!」

唯「えー!?そ、そんなー」ガーン

律「おいおい、ちょっとした冗談なんだから……。そんなに必死にならなくても……」

梓「は!」

唯「ぐすん……。あずにゃん酷いよ……」

梓「す、すいません、唯先輩。そんなつもりじゃ……」

唯「ふーんだ、あずにゃんは私の事そんな風に思ってたんだね」

梓「ち、違います!!それはつい勢いで……!それに唯先輩だって良いところいっぱいあります!」

唯「たとえば?」

梓「え、えっと温かくて優しくてほわほわしてて……」


梓「ゆ、唯先輩?」

唯「あーずにゃんっ!!」ダキッ

梓「にゃっ!」

唯「えへへー、やっぱあずにゃんは可愛いなー」ナデナデ

梓「も、もう、唯先輩ったら……」

ガチャ

澪「遅くなってごめん……って、どうした律何かあったのか?」

律「いや、極めていつもどおりだよ……」


下校時

唯「うー……それにしても今日は冷えるねぇ……」

梓「そうですねー」

唯「手袋も忘れてきちゃったし……。あずにゃんも手袋してなくて大丈夫?」

梓「そうですね。ちょっと冷えますけど、大丈夫です」

唯「ふーん、ね、あずにゃん?それじゃ手繋がない?」

梓「え!?」

唯「だって、そうすればあずにゃんの手もあったかくなるよー」

梓(つ、繋ぎたい……!!ゆ、唯先輩と手……繋ぎたい!!)

唯「ね?あずにゃん、ほら?」

梓(手……唯先輩の手……きれいであったかそう……)

唯「あずにゃん?」

梓「は!け、結構です!!」

唯「え~なんで~?」

梓「そんな……子供っぽいじゃないですか……」

唯「そうかなぁ?私とあずにゃんくらいラブラブなら全然自然だよ!」

梓「ば、バカなこと言ってないで、早く行きますよ!」

唯「あ、あずにゃん待ってよー」


中野家

梓「はぁ……結局今日も素直になれなかったなぁ」

梓「唯先輩の事本当は好きで好きでたまらないのについ憎まれ口叩いちゃうんだ……」

梓「抱きつかれるのだって大好きで、むしろ私から抱きつきたいくらいなのに拒絶するようなこと言って……」

梓「そのくせ、後から嫌われたんじゃないかって不安になるんだから馬鹿みたいだよね……」

梓「今日だって折角唯先輩と手繋げるチャンスだったのに……」

梓「このままじゃ唯先輩と結ばれるなんて夢のまた夢だよ」

梓「そして唯先輩が卒業したら、そのまま疎遠になって次に会った時には彼氏とか……」

梓「うわあああぁぁぁ!!!そんなの駄目ーーー!!!!」

梓「か、変わらなきゃ……そうだ変わるんだ!!私!!」

梓「といっても、どうすれば……」

梓「はぁ、もういいや寝ちゃお寝ちゃお寝ちゃおー」


昼休み

純「んー、相変わらず憂の出し巻き卵は絶品だね!」

憂「えへへ、ありがと純ちゃん」

梓「はぁ、純ったら毎日毎日他人のお弁当たかるのやめたら?」

純「別にいいじゃん、ね?憂?」

憂「うん、やっぱり自分の作った料理を食べてもらえるのは嬉しいしね」

純「さすが憂、私が男なら放っておかないよ。いやむしろ、女同士でも構わないや。結婚しよう!」

憂「えへへ、考えておくね」

梓「何やってんだか」

純「ちぇ、梓はノリが悪いなー。ところでさ、私前から気になってたんだけど……」

梓「何よ?」

純「梓って唯先輩とどこまで進んでんの?」

梓「ぶーー!!!」

純「ちょ、汚いなー梓」

梓「ど、どこまでってどういう意味!?」

純「どういう意味って……。そのまんまの意味だよ。ちゅーくらいはしたんでしょ?」

梓「ななな何を言ってるの!!」

憂「純ちゃん……お姉ちゃんと梓ちゃんは未だに何の進展もしてないんだよ」

純「えー!?信じらんない!!告白もまだしてないの!?」

梓「なっ!!私と唯先輩は別にそんなんじゃ」

純「はー、呆れた……。実質相思相愛なのはバレバレなのにいつまで周りに気を揉ませるつもりなのよ」

梓「えっ!!そうなの憂?」

憂「う、うん……」

純「だからさー、梓さっさと唯先輩にアタックしなよ」

梓「アタックっていってもどうすれば言いか分かんないし」

純「唯先輩好き好き大好きーーーってな感じで押し倒してみれば?」

梓「い、嫌だよ。そんなの私のキャラじゃないし」

純「はぁ……この期に及んでこいつは……。第一キャラなんて気にしてたら進歩しないんじゃないの」

梓「そ、それは……」

純「そうだ!いっその事、別人になりきってみるってのはどうよ?」

梓「べ、別人?」

純「そうそう、例えばほら髪を三編みにしてさ、伊達眼鏡とか着けてみてリボンなんかも……」

梓「ちょ、ちょっと純?」

純「ほら、出来た!まるで別人、これで誰も梓とは気づかないよ」

憂「すごい、梓ちゃん!イメージが全然変わったよ!」

純「どう?梓、生まれ変わった気分は」

梓「う、生まれ変わった……?変われたの?私」

純「うん。あんたはもう今までの梓じゃない。いっその事名前も変えてみる?あんずとか」

梓「そうか変われたんだ、私は……。さよなら、素直じゃなかった梓!こんにちは、あんず!」

純「うんうん」(意外と単純だな、こいつ……)

梓「ありがとう、純!今なら私上手くやれそうな気がするよ!」

純「その意気だ!梓」

憂「でもさ、純ちゃん、確かにイメージは変わったけど、あの程度じゃ梓ちゃんだってバレバレだよね?」

純「うーん、そこら辺は別にたいした問題じゃないんじゃないかな?要は本人の意識の問題だし」

憂「そうかな?」

純「そうだよ」


部室

律「うーさぶいさぶい……」

紬「みんなー、お茶が入りましたよー」

唯「おおっ、待ってましたー」

律「ずずー……、ああうめー、体の芯から暖まるなー」

澪「そういえば、今日は梓遅いな」

唯「あずにゃんは今日はお休みだってメールが来てたよ」

律「なんだ、風邪でもひいたのか?」

唯「さぁ、学校には来てたみたいだけど……」

憂「あのー、失礼します」

唯「あれ?憂どうしたの?」

憂「うん、実はね……皆さんにも聞いて欲しいんですけど」

かくかくしかじか

律「つまり、梓がバレバレの変装をしてやってくるだろうけど気づかないふりをしていてほしいと」

憂「はい……」

澪「うーん……。よく分からないけど分ったよ。憂ちゃんと梓ちゃんの頼みだしな」

憂「ありがとうございます。それじゃ、私はこれで」

律「しかし、梓は一体どういうつもりなんだろうな」

澪「さぁ……」

コンコン

梓「あ、あのーすいません入部希望なんですけど……」

律澪紬「…………」

唯「あ、あずに……」

律(おい、馬鹿。気づかないふりしろって言われてただろ!!)

唯「そ、そうだった……」

律「えー、えーっと軽音部へようこそ。とりあえず名前は?」

梓「あ、私、あんずって言います!希望パートはギターです!」

澪「へ、へぇ……自分の楽器は持ってるみたいだけど楽器経験はあるの?」

梓「え?ええっと、一応小四のころからギターはやってるので……」

紬(そこら辺の設定は変わらないのね……)

律(ムスタングも持ってきてるし、本当に変装するつもりがあるのか、こいつは……)

梓「実は私、学園祭での唯先輩に憧れて入部を決心したんです!」

唯「え、私?」

梓「はい、普段はほわほわしてるのに一瞬垣間見せる凛々しさとのギャップとかもうたまりません!!」

唯「あ、あずにゃ……あんずちゃーん」ダキッ!!

梓「きゃっ!!唯先輩!も、もっと……もっとギュってしてください!!」

唯「えへへ~いいよ~」ギュウ

梓「ふにゃあ……」

律「…………」

澪「…………」

紬「…………」


数日後

梓「あの唯先輩、ちょっとここの部分が上手く弾けないんですけど。弾いてみてもらえませんか?」

唯「いいよー」ジャカジャカ

梓「うわ、すごく上手です!ギター歴二年足らずでここまで上達するなんてやっぱり唯先輩はすごいですね!!」

唯「えへへ~。いや~それほどでも~」

梓「ゆーいせんぱーい♪」ダキッ

唯「あんずちゃーん♪」ギュっ

澪「あそこ、唯が一番得意なフレーズじゃないのか?」

律「分かっててやってるんだろ。ったく、いつまでこの茶番に付き合わなきゃいけないんだ……」

紬「あら、私は結構楽しいけど?」

律「…………」

梓「唯先輩、今度の日曜日一緒にどこか遊びに行きませんか?」

唯「いいよー、行こう行こう!!」

律「もう勝手にやっててくれ……」


日曜日

梓「唯先輩まだかなー……」

唯「あんずちゃーん!!ごめん待ったー?」

梓「いえ、全然大丈夫です!それじゃ、いきましょうか」

そう言って私は唯先輩に手を差し伸べる。

唯「うん!!」

唯先輩も笑顔でそれに答えて私の手を取ってくれた。

梓(すごい!!自然に手を繋げてる!!よし、今日はこの調子で頑張ろう!!)

梓「唯先輩、どこか行きたい所とかあります?」

唯「あんずちゃんと一緒だったらどこでもいいよ?」

梓「そうですか。それじゃ、まずは雑貨屋さんでも見ていきましょう」

唯「うん!!」

唯「たい焼きおいしいねー、あんずちゃん」

梓「そうですねー。あ、唯先輩、ほっぺにあんこついてますよ?」

唯「え?本当?」

梓「あ、待ってください。私が取りますから」ペロ

唯「ひゃあ!?」

梓「うん、おいし」

唯「あ、あんずちゃん大胆だね……」

梓「ふふ、そうですか?」

梓「唯先輩、喉渇きませんか?あそこの喫茶店でちょっと休憩しましょう」

唯「え、うん」

唯(あずにゃん、これってカップル用のジュース……)

梓「どうしました?唯先輩」

唯「う、ううん、なんでもない」

梓「そうですか、それじゃ早く飲んじゃいましょう」

唯「う、うん」

梓「~~♪」ズー

唯(うう、あずにゃんの顔がこんなに近くで……流石にちょっと恥ずかしいよ……)

唯「あんずちゃん、今日は楽しかったよ。ありがとう」

梓「それは良かったです」

唯「それじゃ、また明日ね」

梓「……待ってください」ギュ

私は背を向けた唯先輩の袖を掴み引き止める。

今しかない。私の想いを唯先輩に伝える絶好のチャンスだ。

梓「唯先輩、私ずっと唯先輩の事が好きだったんです」

唯「あんずちゃん?」

梓「唯先輩、目を閉じてください……」

私はゆっくりと唯先輩の唇に顔を近づける。

唯先輩もそれに合わせて少し身体を強張らせながらもそっと瞼を閉じてくれた。

唯先輩の綺麗な睫毛と瑞々しく張りのある唇がやけに強調されて見えた。

高鳴る鼓動、逸る気持ちとは裏腹に私の動きは酷く緩慢で、だけど確実に私と唯先輩の距離は縮んでいった。

そして、ついに私と唯先輩の唇が触れ合いそうになった時……

唯「や、やっぱり駄目ーー!!」

梓「ゆ、唯先輩!?」

唯「ご、ごめんあんずちゃん……」

梓「ご、ごめんなさい……調子に乗ってしまって……やっぱり嫌でしたよね……」

唯「ち、違うよ!!ただこういう事はね、あんずちゃんとしてじゃなくて、ちゃんとあずにゃんとしてやって欲しいなぁって……」

梓「へ?ゆ、唯先輩私が梓だって気づいて……い、いつから!?」

唯「いつからって最初からだよー」

梓「そ、そんな……」

唯「そもそも見た目もそうだけど、むったん持ってたり、ギターの演奏技術とか、それに『ぶ』のキーホルダーもカバンに
  つけてたし、バレバレだったよー」

梓「…………う、うう」

唯「あずにゃん?」

梓「うわああぁぁぁぁーーーー!!!!恥ずかしいいいいいぃぃぃーーー!!!!」

唯「あ、あずにゃん、待ってー」


河原

梓「はぁ、何やってんだろ私……」

梓「…………皆にもバレバレだったんだろうな……。なのに私ったら今まであんな事を……」

梓「あぁ!もう合わせる顔がないよぉ!!」

唯「あーずにゃん!!」

梓「ゆ、唯先輩!!どうしてここが!?」

唯「えへへ、あずにゃんの匂いがしたから、かな?」

梓「わ、訳分らないです……」

唯「ね、あずにゃん。あずにゃんは何でこんなことしたのかな?」

梓「……私、変わりたかったんです。素直になれなくていつも素っ気無い態度をとってしまう自分が嫌で。
  だから、唯先輩に想いを伝えるために変わろうって思ったんです……」

唯「ね、あずにゃん。私あずにゃんのことが大好きだよ」

梓「唯先輩……」

唯「照れ屋でちょっと頑固で意地っ張りで、だけど本当はすごく優しくて純粋な可愛いあずにゃんが私は大好きだよ!」

梓「ゆ、唯先輩……そんな、私は……」

唯「それにね、あずにゃんが私の事好きでいてくれたこと言わなれくたって分かってたよ!」

梓「え!?そ、そうなんですか!?」

唯「当然だよ!私はあずにゃんの事なら何でも分かるよー」

梓「も、もう……バカ……」

唯「あずにゃん。私はあずにゃんが好き。あずにゃんも私が好き……だったら答えは一つだよね?」

梓「唯先輩……」

唯先輩はやわらかい微笑みをたたえて少しずつ顔を近づけてきた。

私の瞳の中で唯先輩の唇がどんどん拡大されていって

やがて……唯先輩と私の距離はゼロになった。

梓「ゆ、唯先輩……」

恍惚とした状態で私は唯先輩の名を呼ぶ。

だけど、唯先輩はいつもと変わらない優しい笑顔で言ってくれた。

唯「あずにゃん、大好きだよ。愛してる」

そうだ、唯先輩はいつだってありのままの私を大好きでいてくれた。

だから私はゆっくりでも中野梓として唯先輩に近づいていこうと思う。

唯「えへへ、もうこんな時間になっちゃったね。そろそろ帰ろうか?」

梓「はい……!!」


おしまい



最終更新:2011年09月01日 00:25