律「ちぇー、悔しいなぁ」

梓「もう、散財して!」

律「ありゃきっと釣り糸をよっぽど弱くしてるに違いない。たく、あのケチ親父め」

梓「腕が鈍ったんじゃないですか?」

律「なっ! そんなはずは……こうなったらもう一度」

梓「はいはい、分かったから次行きましょう」

律「はーなーせー!」

梓「あ、たこ焼きだ」

律「夏祭りの定番だな」

梓「私、ちょっと買ってきますから待っててください!」

律「おう、行ってら」


梓「ちょっと並ばないといけないかな」

ワイワイ ガヤガヤ

梓「ふぅ、やっと順番が来た。くださいなー」

女「はいよ、お一つ?」

梓「はいっ」

ジュウウウ

女「お嬢ちゃん中学生? 浴衣可愛いね」

梓「むっ……これでも大学生なんですけど」

女「あ、こりゃ失礼」




女「はい、三百円ね」

梓「はーい」


梓「買ってきましたよー……あれ、律先輩どこ行ったんだろう」

梓「もう、待っててって言ったのに」

梓「変な人に絡まれたりしたら嫌だなぁ」キョロキョロ


「おおーー!!」

「あの姉ちゃんすっげえ!」

「あれで何枚目だよ」


梓「何だかあっちの方が騒がしいな……って!」

律「ん。これ五百円だっけ」

男「しくしく」

観客「すごい、文句のつけようがないぐらい綺麗」

男「も、もうご勘弁を……」

律「何だよ、高い賞金の奴はやってないだろ。どうせイチャモンつけて払ってくれないだろうし」

男「は、はいどうぞ」

律「じゃ次」

男「ひぃっ」

梓「律先輩!」

律「よ、梓。今ちょっと良いところだから待ってろ……」

梓「早く行きますよ!」グイッ

律「あ、おい引っ張るなよ!」

観客「あの小さい女の子強いなぁ」

男「ほっ」


梓「もう、何やってるんですか」

律「いやー型抜き名人って言われた頃の血が騒いでさ。ほら、さっきウナギ釣りで巻き上げられた分回収したぞ」ジャラジャラ

梓「……お気の毒に」


梓「うん、美味しい」

律「ソースとマヨネーズの相性が抜群だな」モグモグ

梓「これならご飯にも合いそうですね。大阪の人はたこ焼きをおかずにするって本当でしょうか」

律「いやしないだろ」

梓「でもお好み焼き定食はあるって話ですよ」

律「あーらしいな」


梓「ふー、満足です」

律「デザートが欲しいところだな……お、ちょうどクレープ屋が」

梓「私もうお腹いっぱいですよ」

律「じゃ半分こしようぜ半分こ」ピュー

梓「あ、律先輩!」


梓「はぁ、行っちゃった」

梓「それにしても律先輩、いつにもましてテンション高いなぁ」

梓「きっとお祭りが大好きなんだろうな。あの調子じゃ、昔から屋台を荒らし回ってたみたいだし」

梓「夏祭りではしゃぎ回るチビ律先輩……可愛い」クスッ

梓「でも、お祭りって本当楽しいな。年に一度の大騒ぎ」

梓「……年に一度、かぁ」

律「お待たせ!」

梓「あ、お帰りなさい」

梓「何買ったんですか?」

律「いちごチョコ」

梓「えー、私あずき入ってる方が好きなのに」

律「何だよ、鉄板だろ」

梓「鉄板は律先輩の胸です」

律「んだとっ」


ドドドドドドドドドド

ワァーーー


梓「何か始まるみたいですよ!」

律「メインイベントのケンカ神輿だな」

梓「うぅ、見にくいです」

律「肩車してやろうか?」ニヤニヤ

梓「いりません!」

ヨイヤッセェッ

ホイサッ ホイサッ

梓「小さい神輿が入ってきました」

律「次に入ってくるのが本神輿だぞ」

梓「きゃあっ、いきなりぶつかり合い始めましたよ」

律「気をつけろよ、毎年けが人が出るらしいから」

梓「……!」ゾォ

ギュウギュウ

梓「ひ、ひどい人混みです」

律「梓、いるか?」

梓「はい、ここにっ」

律「よっと」ギュッ

梓「!」

律「はぐれないように、手つないどかないとな」

梓「……律先輩」

律「おっしゃぁ! 盛り上がって行こうぜ!!」

梓「了解です!!」


私はもみくちゃにされながら、背が低い分他の人たちよりずっと酷い目に遭いながら、

神輿と神輿の壮絶なぶつかり合いを目前にしました。

大きな神輿が会場から脱出を図れば、小さな神輿はそれを阻止し、

鈴で装飾された小さな神輿が大きな神輿に果敢にぶつかっていくと、しゃらしゃらと音を立て。

神輿を担ぐ人たちのかけ声と、湧き上がるお客さんの喚声と拍手が、いつもは静かな広場に響き渡ります。

まだまだ暑い夏の夜、熱気に溢れかえる会場は、いつか見た夏フェスを彷彿とさせました。



そして、どれぐらいの時間が経ったころでしょうか。

大きな神輿がとうとう妨害を突破して、小さな神輿もそれを追うようにして去っていくと、

会場はため息やら話し声の混じり合った、奇妙な静けさを取り戻しました。



梓「……」ボー

律「梓。おい、梓」

梓「はっ……何ですか?」

律「大丈夫か」

梓「はい、何とか。ただ、少し気が抜けちゃって」

律「歩ける?」

梓「はいっ」

律「何か、すごかったな」

梓「私まだ、興奮が抜けきってません」

律「私も。胸がドキドキしっぱなし」

梓「律先輩汗びっしょりですよ」

律「げっ、マジかよ」

梓「私も体がベタベタしてます」

律「ひぃ……気持ちわりぃ」

梓「早く帰ってお風呂に入りましょう」

律「おっと、その前に」

梓「?」

律「空、見てみな」

梓「何かあるんですか?」


ヒュルルルル ドーン 

パチパチパチ


ドーン ドーン


パラパラパラ


梓「わぁ~、花火だぁ」

律「毎年、お祭りの最後にやるんだってさ」

梓「へぇ~」


ヒュルルルル ドーン


梓「たーまやー」

律「かーぎやー」

梓「……きれいですね」

律「だな」

梓「これで今年の夏も終わりかぁ」

律「まだまだ暑い日は続くけどな」


ヒュルルルルル

ドーン


梓「……」

律「……」

梓「律先輩」

律「ん?」

梓「」ギュッ

律「急に手握ってどうしたんだよ」

梓「何か、寂しくて」

律「あー分かる。祭りの終わりって妙に寂しい感じがするよな」

梓「そうじゃなくって」

律「?」

梓「これで夏が終わりだと思うと、何だかすごく恐くなっちゃって」

律「……」

梓「何というか、時間の移り変わりを如実に感じられるというか……」

律「……」

律「なーにしんみりしてんだよ」ギュッ

梓「あっ……」

律「そりゃ今年の夏は終わるけどさ」

律「秋が来て冬が来て春が来て、そしたらまた別の夏が来るじゃん」

梓「……」

律「来年の夏も、きっと今年の夏と同じくらい……いやそれ以上に、楽しいと思うぜ」

梓「……」

律「来年も、一緒に来ような」

梓「……はい」


ヒュルルルルル ドーン!

パラパラパラ


ワァー パチパチパチ


律「終わったみたいだな」

梓「人が帰っていきますね」

律「混まないうちに、私らも帰ろっか」

梓「……はい!」



暦の上ではとっくに秋に入っていますが、夏の暑さ残る日々はまだまだ続きます。

とはいえ、私の夏はこれで一応終わりました。

今年の猛暑に苦しんだ体には、秋の涼しさが恋しいです。

でも、きっと冬になれば、今度は夏の暑さが恋しいなんて言ってるんだろうな。


今年の夏は律先輩と海に行ったり遊園地に行ったり、本当に楽しかったな。

あ、でも! 秋には私の誕生日があるし、その次はクリスマス!

年をまたいで正月、続いてバレンタイン……まだまだイベントは目白押しです。


それはさておき、とりあえず今年の夏に別れを告げたいと思います。


律「見ろよ梓、星がきれい」

梓「わぁ~、ほんとだ」


さようなら、また来年!




梓「ねー律先輩」

律「だめ」

梓「まだ何も言ってないじゃないですか!」

律「お前が猫なで声使うときはわがまま言うときだって決まってる」

梓「そんなことないですっ」

律「じゃ何の話だよ」

梓「子ねこ飼っていい?」

律「だめ」

梓「むー」



梓律「おしまい!」



最終更新:2011年09月05日 00:48