……
二人はなんとか、見やすいポジションを確保した。
律「人が多くなって来たね」
澪「うん」
律「澪ちゃん。手、出して」
澪「どうして?」
律「いいから」
利き手の左手を出すと、律は自分の右手を出しギュッと握った。
澪「へっ」
律「こうしてれば、迷子にならなくていいよ」
澪「う、うん」
律「ぜーったい、はなさないから安心して」
澪「うん!」
澪(なんだろ。きんちょーする)
そして、周囲が静かくなった途端、空に花火が打ち上げられた。
「おおー!」
周囲から歓声が上がる。
それを見ていた二人も、同じように歓声を上げた。
律「きれー」
澪「うん」
そこから夜空に何十発、何百発の花火が打ち上げられる。
その度、歓声は大きくなる。
二人はというと、完全に花火に魅了されていた。
その目は、とても輝いていた。
律「ねぇ」
澪「ん?」
律「花火、見に来てよかったね」
澪「そだね」
二人はお互いを顔を見て、微笑み合った。
そして、手は握られたまま肩を寄せ合い、二人は花火を堪能した。
花火が全て打ち上げられるまで、その手が離れることはなかった。
……
花火大会が終了すると、二人は会場を後にした。
律「いやー、楽しかった」
澪「花火、すごかったね」
律「また、来年も一緒に来ようね」
澪「うん。あっ、でも」
律「何?」
澪「来年は、りっちゃんも一緒に浴衣を着て来るんだよ」
律「えっ、どうして?」
澪「おばさんから聞いたよ」
澪「ほんとは、りっちゃんに浴衣を着せたかったって」
律「おかーさん……」
澪「だから、来年は一緒に浴衣を着て、花火みよーね」
律「うーん。考えとく」
澪「どうして?」
律「だって、わたしに浴衣なんて似合わないし」
澪「そんなことないよ」
律「えー、黄色に百合の花が入った浴衣だよ。かわいくないよー」
澪「かわいいよ。ぜーったい、似合う」
律「よせやい」
律「んー、じゃあ」
律「わたしが大きくなったら、澪ちゃんと一緒に浴衣着て花火見に行く!」
澪「ほんとに?」
律「ほんとほんと! だから、それまで待っててよ」
澪「わたし、ちゃんと待つからね」
律「うん」
澪「じゃあ」
小指を出す。
律「ん?」
澪「約束」
律「わかった!」
「ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼんのーます ゆびきった!」
「約束だよ!」
澪(うーん。遅いなぁ)
公園の入口で、澪はある人を待っていた。
澪(荷物置いたらすぐ来るって言ったのに)
澪「……バカ律」
「おーい、みおー」
澪(あっ、来た)
澪「遅いぞ」
律「わりぃ、わりぃ」
律「携帯の電池が少なくなってたから、ちょっと充電してた」
澪「ちゃんと、確認しとけよ」
律「分かってますよ」
澪「じゃあ、行こっか」
律「おう! 唯達が待ってるからな」
律「それにしてもさ」
澪「何?」
律「澪以外と花火大会行くの、始めてじゃね?」
澪「そうだっけ?」
律「そうだよ。大概、友達はみんな田舎に帰ってていないしな」
律「中学の時も、去年までそうだったじゃないか」
澪「あぁ、そうだな」
律「始めて二人で行ったの、小四の時だっけ」
澪「うん」
律「あんとき、澪はアサガオの柄の浴衣着てたっけ」
澪「そうそう……って、あぁ!」
律「どした?」
澪「花火大会で思い出したけど」
澪「律はいつになったら私との約束を実行するんだ?」
律「約束?」
澪「大きくなったら、私と一緒に浴衣を着て、花火に行くって」
律「あー……そんな約束……した、かな?」
澪「したよ。ちゃんと、指切りまでしたし」
律「はてな?」
澪「よく思い出してみろ」
律「んー。りっちゃんの記憶だと、そんな約束した覚えはありません!」
澪(嘘だ。絶対、覚えてる)
律「大体さ、私の浴衣姿なんてみたい奴いるの?」
澪「いるんじゃないのか?」
澪(今、お前の隣に)
律「ふーん。物好きだなぁ、そいつは」
澪「悪かったな」
律「な、なんだよー」
澪「……なんでもないよ」
澪(物好き、か)
澪「あっ、メール」
律「誰からだ?」
澪「唯から……って、もうみんな待ってるみたいだ」
律「げっ、んじゃ急ぐか!」
澪「そ、そうだな!」
澪(結局、今年の夏も律との約束は果たされず、か)
澪(なぁ律、いつになったら、私との約束を果たしてくれるんだ?)
律「ん、なんだよ?」
澪「ふふっ、なんでもない」
律「変な澪」
澪「さっ、急ぐぞ」
律「ま、待てよ!」
澪(私はいつまでも、待ってるからな)
わたしは大きくなったら、りっちゃんといっしょにゆかたを着て、花火を見に行きたいです。
そしていつまでも、りっちゃんと仲良しでいたいです。
おしまい
最終更新:2011年09月05日 01:27