【と、彼女は言った】


律「えー、それではー、澪の大学卒業を祝して!!」

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

澪「いやぁ、悪いな、なんか」テレテレ

唯「照れてる場合じゃないよー、澪ちゃん!」

律「そうだぞ、無職の澪さん」

澪「うるさい。夢追い人になるって決めたんだ」

紬「澪ちゃんカッコイイ! イマドキの若者って感じね!」

梓「それ絶対褒めてませんよね」

憂「あはは……」

――あれから色々なことがあった。
とりあえず、澪と梓は寮を抜け、図々しくも私達の住居に押しかけてきた。さすがに部屋数が足りるか怪しかったので、澪は私と同室に、梓はムギと同室になった。
そしてそれを期に放課後ティータイムは再始動。それ自体は何より喜ぶべきことなのだが、そこで唯一問題になったのは、憂ちゃんが澪に遠慮して抜けたがったこと。
もっとも、憂ちゃん以外の全員が引き止めようとしたためにそれは叶わなかったが、憂ちゃんもなかなかに意地っ張りで、とりあえずはサポートメンバー扱いにしておいた。
まぁライブには毎回出て貰ってるんだけどな! 唯と並ぶと絵になるし。

そしてメンバー唯一の大学四年生だった澪は就職活動をしなかった。
もっとも、再始動した放課後ティータイムの勢いが絶好調すぎてデビュー間違いなしと囁かれているから誰も気に留めはしなかったのだが。
だが、澪は澪で「全員が卒業するまで待つ」と言って聞かない。どいつもこいつもワガママだ。
まぁ、今はとりあえずそれに乗っておく形になっている。澪が待ちきれなくなったなら、いつでも大学なんて辞めてやるんだけど。

あとの皆は順当に進級して、それくらいかな。忙しかったけれど、そこまで大きな変化というのは無かったかもしれない。
メンバー全員が同じ所に住んでるのをいいことに、何かにつけてこうして家で酒盛りをするくらいか。
そう、特に大きな変化は何も無く。

澪「…おい律」ボソッ

律「…なんだ、澪」グビ

スクリュードライバーを飲みながら澪と囁き合う。

澪「お前、唯と進展はないのか」

律「」ブー

梓「律先輩きたなっ!?」

律「お前は急に何をのたまうんだ!?」

澪「お前も早く卒業しろってことだよ」ポンポン

律「何をだよ!?」

唯「うへぇ…びちょびちょ」

憂「お姉ちゃん大丈夫? はいタオル」

唯「ありがとー…」

律「……スマン、唯。タオル貸せ、拭いてやる」

唯「いいよー、それくらい自分でできるって」

律「私のせいなんだから。ほら」

唯「んむー……あ、ちょっと待って」

タオルを奪い取って拭こうとした私を唯が制する。
何をするかと思えば……

唯「ぺろ……あ、なかなか美味しい?」

律「ひ、人が吹き出したやつを舐めるな汚い!」

唯「むー、じゃあそれ一口ちょーだい?」

律「い、いいけど、もっと気にすることあるだろ!」

唯「ほえ?」

ダメだ、こいつにはきっと何かが欠けている。
私が気にしすぎってわけではないはず、決して。

澪「間接キッス! 間接キッス! ヘーイ」ヘーイ

紬「へーい」ヘーイ

律「ガキ臭い煽りだなおい」

唯「………」

律「…ん? どうした、飲まないのか?」

唯「ん…やっぱいいや///」

律「なんだ、もう酔いが回ったのか? 相変わらず弱いなー唯は」

唯「あはは……///」


梓「ちくしょうちくしょうちくしょう」

澪「どーすんだよあの鈍感夫婦」

紬「タイミングよくすれ違ってるわねぇ」

憂「がんばって、お姉ちゃん!」

澪「…でも逆に考えれば、私達にもチャンスはあるってことか?」

紬「まぁ、奇跡でも起きればあるかも?」

梓「…やめときましょうよ。悔しいですけど、このままが一番丸く収まる気がします」

澪「……そうかもな。あー、飲むぞムギ!」

紬「今日はマッコリとどぶろくを混ぜてみようと思うの!」

梓「うい~……仲良くしようよぉ…」

憂「あはは……よしよし」ナデナデ


唯「……いつの間にか向こうが出来上がってる」

律「ははっ、私と唯が除け者にされてるのはなんか変な感じだけど……楽しいな、こういうのも」

唯「……うん、そうだね」

楽しいと胸を張って言える毎日。これが、私達の日常。
いろいろあったけれど、そしてきっとこれからもいろいろあるけど、それでも変わらない日常。
変えちゃいけない日常。

……もう、あんな思いはしなくないから。だから私は、私達は、この日常を壊さないために、頑張れる。

全部、唯のおかげ。
私達を一つにしてくれて、私達の心も一つにしてくれた。

本当に、いくら感謝しても足りないけれど。


律「……ありがとな、唯」

唯「ん? 何が?」

律「全部だよ、全部」

唯「そっか」

もう何度目かわからない「ありがとう」だけど、唯は私のありがとうに「どういたしまして」と返したことは無い。
何故だろうと、疑問に思ったこともないわけではないけれど。

唯「……りっちゃん、ありがとね」

律「何が?」

唯「全部だよ、全部」

律「……そっか」

もう何度目かわからない、このやり取り。
「どういたしまして」では出来ない、お互いの感謝を示すやり取り。結局は、これが心地いいからなんだと思う。
もし、ありがとうの言葉に上位互換があったら。大ありがとうとか、超ありがとうとか、そういうのが正式な日常用語として存在したら、言い合いになっていたんじゃないかな。
でもそれだとキリがないから、やっぱり「ありがとう」の言葉を往復させるだけで充分だと思う。

「ありがとう」がいつも往復できる、それが私と唯の距離。
そして、私は今のこの距離に心地良さを感じている。

……まぁ、もし何かあったら、もっと近くなるかもしれないけどさ。
でもそれは、慌ててまですることじゃないと思う。

律「……な、唯」

唯「なにが?」

律「…いつまでも一緒だよな、って話」

唯「……うん!」


――そう言って笑う唯の笑顔は眩しくて。

  その笑顔に、言葉を一つ、捧げるなら―――



今度こそおしまい



最終更新:2011年09月08日 21:53