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あずにゃんにラブレターのイタズラをしてから数日がたった。
あの日以来、部活でのあずにゃんは今までとほとんど同じ様子だったが、
明らかにわたしとは距離を置いている。

私も拒否されるのが怖くて、あずにゃんに抱きついたりは一度もしていない。


唯「バチがあたったのかな……」グスッ


あずにゃんのかわいい反応が見たくて、あんなことをやってしまった。
そのせいで、あずにゃんに嫌われてしまった。……いや、初めから嫌われてたのか。

『元々、軽音部の先輩ってだけで……唯先輩のことなんて……好きでも何でもないんですから』

あの言葉を聞いてから、わたしの心の中にはずっとよく分からない気持ちが湧き上がっていた。


唯「……」スタスタ

梓「……」スタスタ


学校からの帰り道、二人きりになったわたし達には重い沈黙が訪れていた。
少し前までなら、あずにゃんとの楽しい時間だったのに、今はただ苦しい。


唯「…あ……」

梓「……」

気づくと、あの河原の前に来ていた。
あずにゃんと演芸大会の練習をした思い出の場所。
あの時も、あずにゃんは私と居るのが嫌で仕方なかったのかな……


唯「あずにゃん……」


梓「……何ですか?唯先輩」

唯「ちょっといいかな? 話したいことがあるんだ……」

梓「……いいですけど」


そして私たちは河原のそばの芝生に腰を下ろした。


唯「ここ、覚えてる?ゆいあず結成した場所だよね……」

梓「……はい」

唯「私のわがままで、試験があるのにギターの練習まで……あずにゃんに付き合わせちゃって……」

梓「……」

唯「ごめんね……好きでもない私のために……」

梓「っ……」フルフル

唯「でも……わたし、そんな優しいあずにゃんが大好き。あずにゃんがわたしのこと好きじゃなくても」

梓「…エグッ…ヒック…」ポロポロ

唯「あ、あずにゃん!? どうしたの?」オロオロ


突然泣きだしてしまったあずにゃんに声をかける。どうしよう……またこの子を泣かせてしまった。


梓「……本当ですよ……試験期間中に、演芸大会の練習なんて……常識で考えられません」グスッ


そうだよね……あずにゃんに迷惑かけちゃって、本当に駄目な先輩……


梓「でも……」

唯「……?」


梓「……お世話になってる近所のおばあさんの為に……そこまで一生懸命になって……
  唯先輩のそんなところが……私は……好きです…」

唯「え……」


好き? あずにゃんがわたしのことを……
わたし、あずにゃんに嫌われてたんじゃ……?


梓「……私があの日泣いちゃったのは……ドッキリに引っ掛かったからじゃないんです……」

唯「……」

梓「あそこで待ってたのが……他の誰でもなくて、唯先輩だったから……」

唯「わたしだったから……?」


梓「私は……唯先輩のことが……そういう意味で好きなんです……」ジワッ

唯「……!」


あずにゃんが……わたしを……


梓「だからあの日……唯先輩の告白が嘘だと分かって…
  それがショックで……本気にして喜んでた自分がみじめで……」グスッ

唯「……」

梓「もし……私が告白を本気にしてて……唯先輩をそういう目で
  見てるって知られたら……唯先輩に拒絶されると思って、怖くて……」ポロポロ

そっか……だから……

梓「できるだけ今まで通りにしようとしたんですけど……上手くいかなくて……」グスッ


辛い思いさせちゃったんだね……


梓「……もう…限界です……これ以上……唯先輩を嫌いなフリなんてできません……」

唯「……あずにゃん……」


梓「すみません。こんなこと言ってしまって……
  私は気持ちを伝えられれば……それでいいですから……」


それでいい……? 待ってよ……わたしはよくないよ? 
だってわたしは……


梓「それじゃ……さようなら、唯先輩……」スッ

唯「待って!!」ギュッ

わたしは立ち去ろうとしたあずにゃんにとび付き、両手で抱きしめる。


梓「いやっ……離してください!」バタバタ


あずにゃんは普段よりもずっと強い力で抵抗する。
それでも私は、あずにゃんに行って欲しくなくて、必死にひきとめた。


唯「ごめんね、傷つけちゃったね……」ポロポロ

梓「唯先輩……?」


自分のしてしまったことの重大さを実感して、後悔から涙が溢れる。
あずにゃんは、突然泣き出した私を見て驚いた顔をしている。


唯「ねぇ、あずにゃん……聞いてくれる? わたしの気持ち」

梓「……?」


唯「あずにゃんに嫌われちゃったと思った時から……
  ずっともやもやしてて……その気持ちが何なのか……今はっきり気づいたんだ」

梓「……」


あずにゃんに伝えたい。わたしの気持ち……


唯「わたし……あずにゃんのことが好きだって……あずにゃんの『好き』と同じ意味の好き」

梓「っ……!」ピクッ

唯「今度は嘘なんかじゃないよ。これがわたしの本当の気持ち……」

梓「………」


唯「あずにゃん……」

そう言って、わたしはあずにゃんの顔を覗き込んだ。



梓「……そんなの信じられません」



唯「えっ……」

しかし、あずにゃんの口から出てきたのは、拒絶の言葉だった。


梓「…ただ私に同情して言ってるだけじゃないんですか? 嘘で傷つけた負い目もあって……」

唯「ち、違う……」

梓「それとも、軽音部の空気が悪くなるのが嫌だからですか?
  だったら心配しないで下さい。今まで通り接しますから。ただの先輩後輩として」


唯「そんな……」

梓「だからもういいんです。離してください。
  ……無理して嘘の気持ちで接してもらっても辛いだけですから……」

唯「あずにゃん……嘘じゃないよ? わたし、本気であずにゃんのこと……」ジワッ

梓「……」


信じられないのも当然かも知れない。同じ人に一度騙されて相当辛い思いをしたのだから。
でも、わたしはすぐにあずにゃんに信じてもらえる方法を思いついた。

唯「……あずにゃん。こっち向いて? 嘘じゃないって……証明するから」

梓「……?」



 チュッ

わたしは、あずにゃんの唇に自分のそれを重ねた。



梓「……!?」


あずにゃん、すごい驚いた顔してる……驚いた顔もかわいいな。
それでいてギターを弾く時はすごくかっこよくて……いつも見てるだけでドキドキして……

……なんだ。わたし、気付かなかっただけで……ずっと前からあずにゃんのこと好きだったんだ。


梓「ゆ、唯せんぱ……んっ……」

唯「んっ…ちゅっ……好き。すきすきすき……あずにゃん大好き……」


ちゅっちゅっちゅっ……

いつの間にか夢中になってしまい、初めの目的も忘れて何度も何度もあずにゃんに口づける。


梓「……ぷはっ……! 唯……先輩……苦しい…/////」ハァハァ

唯「っ……はぁ…はぁ……////」ドキドキ


あずにゃんの抗議の声で我に返り、彼女から唇を離した。




あずにゃん、顔真っ赤だね。ふふっ……わたしの顔も今こんなになってるのかな?


しばらく時間をおいて落ち着きを取り戻した後、
わたしはあずにゃんに話しかけた。


唯「わたし、あずにゃんのこと本気で好きだよ」

梓「唯先輩……」

唯「……信じてくれる?」

梓「……はい……すみません。疑ったりして……」ジワ

唯「ううん、いいよ……」


唯「わたし、あずにゃんのこと愛してる。……ただの先輩と後輩なんて嫌だよ」ギュ

梓「…唯…先輩……」グスッ

唯「私の恋人になってくれる?」


梓「……はい…」ポロポロ

いっぱい泣かせちゃってごめんね?


………………………………

翌日、軽音部の先輩達や憂と純に、私と唯先輩のことをすべて報告した。
みんな前から私の気持ちには気づいてたみたいで、私たちの新しい関係をとても喜んでくれた。

梓「みなさん、ご心配をおかけしてすみませんでした」

紬「ううん、気にしないで。梓ちゃんが元気になってくれてよかったわ~」

澪「梓は悪くないよ」チラッ

律「…ホントにごめんな?梓……」

澪「全く……」

梓「いいんです。律先輩は頼まれただけですし……」

そのおかげで……


律「そ、そうだよな! それに、二人がこうなったのも私のおかげみたいなもんだし……」

澪「調子に乗るな!」ゴツン

律「いだっ……!」


久しぶりの軽音部の居心地のいい雰囲気にほっとする。
もう二度とこんな気持ちで軽音部にいられることは無いと思ってたのに……


唯「あーずにゃん♪」ギュウッ

梓「きゃっ!?」


そんなことを考えていると、唯先輩が抱きついてきた。あぁ、幸せ……じゃなくて!


梓「ちょ、ちょっと唯先輩? みんなの前で……」ドキドキ

唯「え? 今までだってやってたでしょ?」

梓「それは、そうですけど……」


恋人同士だとなんか感じが違うというか……


唯「えへへ…でしょ? ん~」チュー

梓「きっ、キスは前からやってません!/////」グイッ

唯「あ~ん……照れなくてもいいのに~」スリスリ

梓「照れてません! もう……


なにも先輩たちの前で……二人きりの時ならいくらでも……


紬「別に私たちの前でも気にしなくていいのよ?二人きりの時みたいに♪」ニコニコ

梓「!? こ、心の中を読まないで下さいよ!」

紬「え?」


律「……梓、声に出してたぞ…」

梓「え……」

澪「れ、練習もあるから……できれば二人きりの時にして欲しいな……/////」

梓「っ……/////」カアッ

唯「あずにゃーーーん! 分かったよ! ……ちゅーは二人きりの時にね♪////」ボソッ



梓「……う…うあぁぁぁぁぁーーー//////」



おしまい



最終更新:2011年09月10日 21:53