えっと。
し、紹介しよう。
トキメキ「……でも、そういうことなら私にもチャンスだよね」
トキメキ「純ちゃん! 純ちゃんの傷ついた心、私が慰めてあげる」
私の友達(レズ)その3、鈴本ときめき!
ときめきと書いて、きゅんと読みます!
純「ちょっ……やだっ、待って、なんでそうなるの!?」
トキメキ「ずっと好きだったの! 中学のときからずっとだよ!」
もしやこれはアレですか。
一難去ってまた一難、とか。
前門の虎、後門の狼、とか。
純ちゃん難しい言葉知ってるね! 好き! みたいなー。
まーたレズにつきまとわれて覗かれる日々が始まるぜ! とかさあ。
純「す、好きったって……」
トキメキ「ごめんね、ずっとレズ扱いしてて。本当は私がレズなの!」
おもむろに服を脱ぎ始めるしとやかメガネレズの図。
純「いやいやいやいや、なんで私なの!?」
トキメキ「好きに理由なんていらないよ、私は。純ちゃんが本気で大好きって、それだけ」
純「うぐっ……」
弱いところをつきますね。
純「き、きゅん、でもさ私やっぱり梓が好きで……」
トキメキ「だから、それを忘れさせてあげるよ」
じりじり近付いて、ときめきはにこりと笑います。
純「いぃ……嫌嫌っ、だめだよそんなの!」
考えてみればこの状況、けっこうやばいですね。
インターフォンに誰も出なかったとときめきは言っていました。
たぶん家には私一人なのでしょう。
梓は……助けてくれませんよね。
そもそも今日の梓は部活かなにか、用事があるはずです。
私はこのまま中学の親友にレイプされるのですね。
なんならアイス姦とかやってみたいです。
みすみすやられるつもりはありませんが。
トキメキ「だめじゃないよ。私は純ちゃんを慰めるだけ」
トキメキ「優しくするから、安心して?」
純「むりむり、できないできないできない」
お尻でずりずり、あとずさりします。
やたら余裕をかましているときめきと至近距離を保ったまま、背中に壁がぶつかりました。
純「あ」
じわっと汗をかきました。
今日は暑いですね。
友達もブラ一枚です。けっこうおしとやかな子なんですけどね。
トキメキ「つかまーえた」
肩をぎゅっと押さえられます。
純「つ、つかまっちゃった……」
ノってあげてる場合じゃありません。
トキメキ「えへへ。本当にレズになっちゃったんだし、もういいよね?」
純「私はレズじゃないよ、ただ梓が……」
ときめきが丸い眼鏡を外します。
トキメキ「純ちゃんの顔が、眼鏡なくてもよく見える。……夢みたい」
うっとりした表情でときめきは私を見ると、目を閉じました。
純「あ……あ、だめ、嫌ぁ……」
キス、キスからくるのですか。
なんか予想外です。
梓だったらまず胸を触ってきそうですね。
梓「なにやってんの?」
純「……はっ?」
トキメキ「ほぇ?」
梓「触らないでくれるかな。純は私の女なんだよ」
……なに、これ?
純「……なんでいるの」
トキメキ「あなたが中野さん?」
遮んなときめき。
梓「そうだよ。そこをどいて。私の特等席なんだから」
トキメキ「……いいよ」
ときめきはあっさり私の上を降りると、服をかぶって梓に近付きます。
そして張りつめるような高い音で、梓の頬を打ちました。
梓「っ……」
純「きゅん! 何すんの!」
トキメキ「純ちゃんは黙ってて! 純ちゃんにはどうせ何も言えないんだから!」
何を言うのときめき。
私だって梓に言いたいことは山ほどあるよ。
トキメキ「……どれだけ純ちゃんが傷ついたかわかる?」
梓「わかってるつもり」
トキメキ「だったらどうしてまた顔出しにきたの? 純ちゃんが中野さんの顔見たいって思った?」
なんだこれ。
レイプされかけたと思ったら、いつのまにか修羅場っぽくなってます。
梓「そうじゃないよ。嫌われてて当然」
梓「でも、襲われてる純なんて見過ごせないし……純にまだ言い足りないことがあったの」
トキメキ「……今さらそんなことが許されると思う?」
純「きゅん、いいの。梓、言ってないことって何?」
トキメキ「……」
ときめきは不機嫌な顔をします。
私のことが好きだと言っていました。
私が梓の肩を持つのは不愉快きわまりないでしょうが、私には気遣えません。
梓「私は、純のこと、確かにお姉ちゃんに重ねてた」
梓「でもね。純のこと自身も、お姉ちゃんに重ね続けられるぐらい、ちゃんと好きになってたよ」
梓「純が好きじゃなかったら、お姉ちゃんの影に重ならないで、どこかで幻滅してたと思うから……」
純「……そっか」
少しだけ嬉しいです。
情けないですね、私。
トキメキ「……それで中野さんは、純ちゃんが自分のものだって言えるの?」
梓「私は、純が一緒じゃないと嫌」
トキメキ「それはあんたのお姉ちゃんに重ねてるだけじゃないの?」
梓「……自覚してるよ」
トキメキ「あんたのお姉ちゃんは、純ちゃんに重ねられて愛されることなんか望んでないよ?」
梓「わかってる。だから私は、純だけを好きになるよ」
梓はときめきの目を見上げて言いました。
本気で打たれた頬が赤く腫れて、ひりひりといっているのが私にも伝わるようでした。
あれは、ときめきの感じている痛みでもあるのです。
トキメキ「……私は、今もう、純ちゃんだけを愛してるのにね」
ときめきはため息をついて眼鏡をかけました。
トキメキ「ずるいね、惚れられてるって」
トキメキ「何やったって、相手がちょっと悲しむくらいで、絶対に幻滅なんてされないんだ」
純「……」
トキメキ「……ごめんね、純ちゃん。今日わたし、変なこと言ったけど……あれぜんぶウソ」
トキメキ「忘れて……友達でいてほしいな」
純「うん……友達で」
私は少し切なくなる気持ちを抑えました。
ときめきに同情してあげても、きっと虚しいと思います。
ときめきは梓の横をすり抜けて、部屋のドアの前に立ちました。
トキメキ「……でも、今度すきを見せたら、もう食べちゃうからね?」
くすりといたずらっぽく笑って、ときめきは部屋を出ました。
あとには私と梓と、虚脱感が残りました。
梓「……純、ごめんね」
純「いいよ。……助けてくれたし」
そう、私は助けられたのです。
皮肉なことだと思いました。
純「……今度は、助けられたね」
梓「そうだね……う」
梓は私に近寄ると、膝をついてうめきました。
純「梓、ほっぺたとか平気?」
梓「そ、それは平気なんだけど……」
苦しげに答えると、梓は私のひざに倒れ込みました。
梓「ねむくなっちゃった……」
純「……覗きばっかして、ろくに寝ないからだよ」
私のひざまくらに興奮する余裕もないようです。
私は梓の頭を撫でてやりました。
梓「純に会うためだもん……」
純「……たまには、私から会いに行くよ」
梓「……ありがとう」
純「なにが?」
梓「こんな私でも……好きでいてくれて」
純「……」
身をよじり、梓はすーすーと寝息を立て始めました。
私は梓の体を抱き上げると、ベッドへと運びました。
そっと枕に頭を置き、私はカーテンを閉めに窓際に向かいます。
窓から外を見ると、太陽がちょうど目に入りました。
私にはその光が、ふいに人の微笑みに見えたような気がしました。
――ごめんなさい。
あなたの妹の心、やっぱり私にほどかせてください。
私は、あなたの妹が愛しいのです。
祈るように呟くと、私はカーテンを開けたままにして、梓の隣に寝転びました。
純「わたしだからね、梓」
そう囁いて、梓をぎゅっと抱きしめました。
この愛のきっかけを、ありがとう。
これからも、あなたに見合う私でいます。
私たちの部屋は、少し暑いくらいに、日の光であたたかくなっていました。
おしまい
最終更新:2011年09月11日 02:09