―秋山家

澪「おー、帰ったぞー」

澪父「おう、お勤め御苦労」

澪「……」

澪父「何だ澪、まだ名前のことで怒ってるのか?」

澪「あぁ!?んなことてめぇには関係ねぇだろ!!」

澪父「てめぇ…親に向かってなんだその口のきき方は!?ぶっ殺してやる!!」

澪「上等だぁ!!こっちが殺してやるよ!!」

澪母「うるさいよあんた達!!いい加減黙んないと殺すよ!!」

澪父「お、おう…すまんな…」

澪「…ったく、私は部屋で寝る!!勝手に入ってきたら殺すからな!」


―澪の部屋

澪「…はぁ、律は軽音部に戻るのか」

澪「私は…どうしたいんだろうな」

澪「確かにバンドを組むのは私の夢だった…その為に昔からベースを親父に習い続けてきたんだからな」

澪「でも…その夢も結局は親に与えられたものなんだよな…」

澪「なら私の本当の夢は…?私は本当は何がしたい…?」

澪「…わかんない…わかんないよぉ…!」ポロポロ

がちゃ

澪父「おう澪、飯の時間…って何泣いてんだ?」

澪「…え?うわああああああ!!!勝手に入ってくんなよ!!殺すぞ!?」

澪父「あぁ!?殺すだぁ!?…まぁいい、それより泣いている訳を話してみろ」

澪「そ、そんなのてめぇには関係…!」

澪父「無くないだろ、どうせ名前のことで泣いてたんだろ?名前のことは素直に謝る、悪かった!」

澪「…違う。名前のことはもうどうでもいいんだよ」

澪父「ならどうして?」

澪「なぁ親父…どうして私にベースを弾かせようと思ったんだ?やっぱりけいおん!とかいうアニメの影響か?」

澪父「ちげーよ、俺はお前にベースを弾かせるつもりはなかった。好きなことをやってほしいって思ってたよ」

澪「? ならどうして?」

澪父「なんだお前、覚えてないのか」

澪「だから聞いてんだろ」

澪父「まぁ無理もないか、お前はまだ小さかったからな…」

澪父「…お前はな、自分からベースが弾きたいって言ったんだよ」

澪父「あれはお前がまだ5歳くらいの頃だった…」

澪父「夜、お前が寝静まった後に母さんと一緒にけいおん!のBDを見ていたんだよ」

澪父『がははっ!やっぱりさわ子はいい女だな!」

澪母『あら?それって私のこと?』

澪父『あぁ!?んな訳ねーだろうが!!まったく情けねーぜ!同じさわ子でもここまで違うとなぁ!』

澪母『んだとぉ!?ぶっ殺すぞ!!』

澪父『上等だおらぁ!!逆に殺してやるよ!!』

幼澪『んー…お父さんお母さんうるさーい…』

澪父『お、おーすまねえ澪、起しちまったか』

幼澪『なに見てるのー…?』

澪父『あぁ、これはお父さんとお母さんが子供の頃に流行っていたアニメだよ』

幼澪『へー…あー!このくろいかみの女の人きれいだねー!』

澪母『あぁ、それは澪っていうのよ』

幼澪『すごい!私とおんなじ名前だね!』

澪父『そうだぞ、父さんと母さんが澪をこの「澪」と同じようにお淑やかに育ちますようにって…俺達みたいにならないようにってことで名付けたんだ』

幼澪『おしとやかー?ふーん、なら私もこんなきれいな人になれるかな?』

澪父『あぁ、なれるさ…必ず』

幼澪『えへへーがんばるねー♪』

幼澪『これはどんなアニメなのー?悪い奴をやっつけるのー?』

澪母『そうよ、お父さんをたぶらかすさわ子をやっつけるアニメなの』

幼澪『たぶらかすー?』

澪父『お前…変なことを教えるなよ!!』

澪母『あらら…ごめんなさい』

澪父『ごほん!…まぁこれを見てもらえばわかるさ』ピッ

『Chatting Now ガチでカシマシ~♪』

澪父『このアニメのOPだ、見ての通り演奏をするアニメなんだよ』

幼澪『うわぁ~すごい!あっ!澪がもってるギターってお父さんももってるよね!?』

澪父『あぁ…あれはベースっていうんだ』

幼澪『いいなぁー私もひきたい!それで澪みたいになる!』

幼澪『おとうさーん…ここの弾き方わからないから教えてー』

澪父『どれどれ…こうやって弾くんだよ』

ブーン

幼澪『おー…わかった!やってみる!』

―――――

澪父『今日から澪も小学生だな、いつの間にか大きくなったもんだ』

澪母『本当ね…ここまであっという間だったわね』

澪父『はははっ!これと同じことを澪が中学に入っても言うんだろうな!』

幼澪『お父さーん、準備できたよー』

澪父『おう!それじゃ学校に行くか!!…ってベースはおいていけ!!』

―――――

幼澪『おとうさーん!お友達できたよー!連れてきちゃった!』

澪父『おぉそうか!よし、あがれ!』

幼律『は…初めまして…!田井中律です…!』

澪父『な…に…?』

律母『どうもすみません、うちの律が御迷惑おかけしました…』

澪父『いやーいいんですよ!子供ですからしょうがない!』

幼澪『zzz…』

幼律『zzz…』

律母『ほら律、起きなさい!』

澪父『まぁまぁ…それより田井中さん、けいおん!では律が好きなんですか?』

律母『…!えぇ、夫も私も律派ですわ。りっちゃんを応援し隊の隊員ですの』

―――――

幼律『澪ちゃんはベースが弾けるんだよね?』

幼澪『そうだよ、楽しくて毎日練習してるよ!』

幼律『へぇー!かっこいいなぁー!私も何かやってみようかなぁ…』

幼澪『それならドラムなんてどう?お父さんが律はドラムがいいんじゃないって』

幼律『ドラムかー、やってみたいなー』

―――――

幼律『澪ちゃん!私ドラム始めることになったよ!』

幼澪『そうなんだ!良かったね!』

幼律『うん!お父さんもお母さんも大喜びだったよ!』

―――――

幼律『澪ちゃーん!助けてぇ!』

幼澪『お前らぁ!律を虐めるなぁ!』

男子A『なんだよ秋山、お前には関係ないだろ!』

幼澪『関係あるよ!だって律は私の大事な友達なんだから!』

男子B『はぁ?うるせえ奴だな。おら田井中、お友達が呼んでるぞ!おらぁ!』ドガッ

幼律『!げほ…!』

幼澪『!てめえらぁ…ぶっ殺してやる!!』

―――――

幼律『えっぐ…ひっく…ごめんなさい澪ちゃん…』ポロポロ

幼澪『私なら大丈夫だからもう泣かないで…』

幼律『でも…私のせいで…!』

幼澪『律のせいじゃないよ…友達を助けるのは当たり前でしょ?』

幼律『ありがとう澪ちゃん…澪ちゃんはやっぱりかっこいいよ。私、澪ちゃんが大好き!』

―――――

澪父『今日から澪も中学生か、いつの間にか大きくなったもんだ』

澪母『本当ね…ここまであっという間だったわね』

澪父『はははっ!これと同じことを澪が高校に入っても言うんだろうな!』

澪『なに笑ってんだよ糞両親共、私は学校にいってくるからな!!』

澪父『あぁ!?今なんつったてめぇ!!ぶっ殺すぞ!!』

澪『うるせぇよ!!殺されたくなかったら黙ってろ!!』

―――――

澪『よう律!』

律『あ、澪ちゃん!おはよう♪』

澪『どうだ?ドラムの練習は頑張ってるか?』

律『うん、おかげ様で!』

澪『そうかい!そりゃ何よりだ!!』

律『でも中学には軽音部がないからバンドが組めないね…このまま組めないで終っちゃうのかな?』

澪『大丈夫だって!高校で組めばいいのさ!!』

律『でも…もし高校にも軽音部がなかったら…?』

澪『安心しろって!私が作ってやるよ!!』

律『…やっぱり澪ちゃんはかっこいいなー、自分のやりたいことはなんでも実行するんだもん』

澪『まぁな!!だって律とバンドを組むのが私の夢だからさ!!』

―――――


澪『親父、話がある』

澪父『あ?どうした改まって』

澪『私の名前についてなんだが…けいおん!っていうアニメからとったのか?』

澪父『あぁ、そうだ』

澪『…!ならベースは!?それもけいおんか!?』

澪父『そうだろ、だってお前が…』

澪『ざけんじゃねぇ!!!なら私は…アニメの真似事をして夢を追っていたっていうのかよ!?』

澪父『…は?お前何言って…』

澪『もういい!!!二度と話かけんな!!!』


澪『…私の夢は、アニメに感化された親から与えられたものだったのかよ…』

澪『ちくしょう…ちくしょう!!なら私は軽音部なんて辞めてやる!ベースなんて二度と弾くか!!』

澪「…思い出した」

澪「なんだよ…私の夢はちゃんと私の夢だったじゃないか…」

澪「律と一緒にバンドを組んで…みんなで演奏するのが私の夢だったんだ…」

澪父「そうか、それがお前の夢か…いい夢だな」

澪「…あぁ、最高の夢だよ」

澪「最高のな…」


―次の日 部室

かず「……」

紬「……」

唯「…だれも来ないなぁ」

かず「昨日あんなに宣伝したのにね」

唯「お前が昨日余計なことを言わなけりゃな…」

かず「ちょっとー!?無償で手伝ってあげてんのに酷くないそれ!?」

唯「うるせぇなぁ…」

がちゃ

律「すみませーん、入部希望なんですけど…」

紬「律…!」

律「ごめんなさいムギちゃん…!やっぱり私…みんなと一緒にバンドやりたいです!」

紬「……」

律「…ダメかな?」

紬「そんな訳ない…私はその一言を待っていた…」

律「…!ありがとうムギちゃぁん…」グス

紬「いい…泣くのはまだ早い…」

律「え…?」

唯「…だとさ、早く中に入ってこいよ。秋山澪さん」

「…!」

がちゃっ!

澪「な、なんで私がいるってわかったんだよ!?」

唯「あれで隠れてるつもりだったのかよ?覗いてたの丸分かりだったぞ」

澪「糞…私としたことが…」

律「澪ちゃん…戻ってくる気になったんだ」

澪「…あぁ、私は本当に大馬鹿野郎だったよ。私の夢は親に与えられた夢じゃなかった」

澪「いや、きっかけは親とけいおん!だったかもしれない。でもそれは私の夢を後押ししてくれただけにすぎなかったんだよ」

律「なら澪ちゃん…!」

澪「…あぁ、思い出したよ全部。なぁ律、ムギ、もう一度私の夢を一緒に叶えてくれないか?」

律「喜んで!」

紬「お帰り…二人とも…」

澪「へへっ!ただいま!!」

かず「よかったわねぇ…これで廃部の危機は免れた訳だ…」

唯「おいおい…まだ部員が一人足りないぞ?」

かず「はぁ?何言ってるのよ」

唯「は?何が?」

紬「新入部員なら…眼の前にいる…」

唯「眼の前?…ってどこに?」

律「私達の目の前です」

唯「…もしかして」

澪「どうやら私達は運命の糸で繋がっていたらしいな」

唯「…マジで?確かにマネージャーはやるとは言ったけどさ…」

かず「なにいってるの、ここまで来たら入部するしかないでしょ」

律「これからよろしくお願いしますね♪」

澪「よろしくな!ギター担当の平沢唯さん!!」

唯「………はぁ、わかったよ!乗り掛かった船だ、とことん付き合ってやるよ!!」

紬「…こうして廃部の危機は去った」


―数日後 唯の部屋

ジャカジャカ

唯「ふぅ…ギターって難しいなぁ」

唯「…親父に教わろうかな?」

唯「…いやいや!それだけはダメだ!俺はプライドを捨てるつもりはない…」

がちゃ

父「よーう唯!練習ははかどってるかねー?」

唯「…お呼びじゃねぇ、帰れ」

父「なんだなんだ!折角唯が軽音部に入部したっていうから、先輩が教えて差し上げようと思ったのによぉ」

唯「だからお呼びじゃねえって!!何しに来たんだよ!?」

父「あぁ…実はな唯」

唯「な、なんだよ急に真面目な顔しちゃって…」

父「父さんと母さんな、1週間後にはまた仕事でしばらく家を開けなくちゃならないんだ」

唯「…え?そ、そうなんだ…」

父「またしばらく寂しい思いをさせるな…すまない」

唯「い、いいよ別に…仕事なんだから仕方ないだろ…」

父「…そうか、まぁそれだけだ。邪魔したな」

父「あぁそれと…そのコードを抑える時は、もっと手首にスナップをきかすんだ」

唯「え?こ、こうか?」

ジャーン

父「そうだ、いい感じだぞ。…じゃぁな、頑張っていっぱい練習するんだぞー」

唯「あ…ま、待って!」

父「? なんだ?」

唯「まだ1週間は家にいるんだよな?」

父「そうだけど…」

唯「そっか、ならその間さ…」

唯「俺にギターを教えてよ」



~おしまい~



最終更新:2010年01月23日 11:43