紬「……強い」

梓「そうですね、モグモグ」

ゆい「食べながら喋るのは行儀悪いよ、あずにゃん」

梓「すいません。モグモグ」


AYU「……今のは効いたな~」

うい「!?」

AYUさんは何事もないかのように起き上がります。

うい「そ、そんな……」

AYU「くすくす。今ので倒せたとでも思ったのかい?」

AYUさんは愉快そうに笑います。

AYU「もしかして、私を倒せたとか、希望を持っちゃったの?残念だね。でもいい勉強になったでしょ?希望なんてこの世にないんだよ。あるのは絶望だけ。それを見せてあげるよ」

純「1回、ういの攻撃を耐えられたからって調子に乗らないでよ。さあ、うい。さっさと倒しちゃってよ」

うい「う、うん……」

うい(でも、勝てる気がしないよ)

AYU「さあ、かかってきなよ」

うい(この余裕……うかつに近づくは危険だよ)

しばらく、2匹の睨み合いが続きます。

AYU「来ないなら、こっちから行くよ!!」

AYUは先制を取って、動き始めます。

AYU「とりゃー」

AYUはういに向かって、れんぞくパンチを繰り出します。


梓「うーん……」

律「何だ、梓。もう、たい焼きはないぞ」

梓「何を言ってるんですか。私はただ、あのAYUさんっていう人とどこかで会った気がしたなって、感じただけです」

紬「そうなの?どこで?」

梓「それが分からないんですよ。まあ、会ったというより、どこかで感じたことのあるオーラがあるかなって感じですけど」

ゆい「なんだか、よく分からないね」


AYU「トリャー!」

AYUのれんぞくパンチをういは全て軽々とかわします。

うい「もう……決めるよ!!」

ういはAYUの腕を掴んで、空いた手でAYUの顔面に拳を叩き込みます。

AYU「ぐっ……!!」

その攻撃でAYUは倒れこみます。

うい「トドメだよ……」

ういは目を瞑り、神経を集中させます。

うい(落ち着いて、集中するんだ。心を無にするんだ。そうすれば、達することが出来る。新たなる伝説の境地に。あの時の感覚が蘇る。さて、やるよ。……アズサマインド)

ういの体が光り輝きます。そして、その輝きは右手に集中します。

うい「ばくれつパンチ!!」

ういの気合の入ったこん身のパンチがAYUに向かって、繰り出されます。

AYU「くっ……」

AYUはリフレクターを張って、その攻撃を防御しようとします。ういのパンチはそのバリアと衝突します。その勢いから、強風がAYUさんに降りかかります。その結果、フードが捲りあがりました。

うい「一体、どんなか……お……を」

ういは驚愕の顔をします。それも当然でしょう。そのフードが捲りあがって出てきた顔は……。

うい「お、お姉ちゃん?」

ゆい先輩とそっくりの顔をしていました。

梓「一体、何が……。ハッ、もしかして、ゆい先輩のお姉さんですか!?」

ゆい「私にお姉ちゃんはいないよ。それにあのポケモン、顔や髪型は私にそっくりだけど、髪の色とか、目の色とか、あずにゃんにそっくりだよ」

律「そういえばそうだな」

紬「もしかすると、ゆいちゃんと梓ちゃんの子供!?」

律「それはないだろ……」


AYU「くすくす。やるね。私のフードを取るなんて」

うい「あなたは一体……」

AYU「勝ったら、教えてあげるよ。ねえ、うい」

AYUは怪しげな目で、ういを優しく見つめます。

AYU「ねえ、あなたの……ういの心の闇が見たいな♪」

AYUはゆい先輩の声でういに話しかけます。

うい「心の闇って……」

AYU「フフフ」

AYUの目から、あやしいひかりが発せられます。


ういの心の中

うい「あれ……ここは?」

AYU「くすくす。ここはあなたの心の中」

うい「あなたは……」

AYU「あなたはお姉ちゃんが大好きなんだよね?でも、いいのかな?」

うい「……何がですか?」

AYU「このままだと、梓ちゃんにお姉ちゃんを取られちゃうよ。ううん、もう、だいぶお姉ちゃんは梓ちゃんのことが好きだもんね。きっ
と、ういちゃんのことなんかどうでもいいと思ってるよ」

うい「そ、そんなこと……」

AYU「そんなことあるのかな?本当は純ちゃんとなんか冒険しないでずっとお姉ちゃんと暮らしたかったんでしょ?」

うい「わ、私は……」

AYU「私はね、別にあなたを追い詰めたいわけじゃないの。むしろ、あなたを助けたいと思ってるんだよ」

うい「た、助ける……?」

AYU「そう。いつまでも、人間なんかのポケモンでいないで人間から解放されるんだよ」

うい「か、解放……」

AYU「そうだよ。そのためにまずは……純ちゃんと梓ちゃんを殺すんだよ」

うい「こ、殺すって……」

AYU「まずは純ちゃんを殺すことであなたを人間から解放する。そして、梓ちゃんを殺すことでお姉ちゃんを解放するんだよ」

うい「で、でも……」

AYU「その後で手始めにここの人間を皆殺しにして、最終的に世界中の人間を殺すんだよ。そうすることで、もう誰も君とお姉ちゃんを邪魔
するものはいなくなるんだよ」


フィールド

梓「どうしたんでしょうか?」

さっきから、ういとAYUは身動き一つせずに睨み合いが続いています。

律「これは……マインドコントロールかもしれんな」

梓「マインドコントロール?」

律「そうだ。きっと、さいみんじゅつの延長なんだろうな」

梓「なんだかよく分かりませんが、あの目には注意が必要ということですね」


澪「それにしても戦わなくてよかった。それにしても、律達はどこにいるんだろう?」


ういの心の中


AYU「何を迷ってるのかな?お姉ちゃんが手に入るんだよ?たった2人の命でだよ?」

うい「わ、私は……」

AYU「それとも、純ちゃんは私が殺してあげようか?それくらいはおまけしてあげるよ」

うい「……で、でも」

AYU「煮え切らないな~。いいかい?ポケモンにとっても、ちょっとスケールの大きな話だけど、地球にとっても、人間なんかいらないんだよ?現に君達、姉妹の幸せな時間もあの2人が邪魔してるんだよ?」


フィールド

純「こらー、うい!!しっかりしなさーい!!!」


律「さすがに叫ばずにはいられないか」

梓「ある意味、向こうが止まってるからチャンスではありますからね」

紬「でも、ういちゃんが動き出したら、AYUも動き出しそうだけど」

ゆい「とにかく、うい頑張れー」


ういの心の中

純『こらー、うい!!しっかりしなさーい!!!』

ゆい『とにかく、うい頑張れー』

うい「純ちゃん!お姉ちゃん!」

うい「わ、私は……そうは思わない」

AYU「ふーん。何で?」

うい「た、楽しかったから……」

AYU「へえー。なるほどなるほど。お姉ちゃんと一緒にいるよりも楽しかったの?」

うい「そ、それは比べることじゃないよ……」

AYU「……」

うい「そんなことをしても、お姉ちゃんに嫌われるだけだよ。それは絶対にやだ……」

AYU「……」

うい「それに私は純ちゃんや梓ちゃんも好きだもん。それに人間さんも」

AYU「ふーん。意外に精神が強いんだね。まあ、いいや。遊びはおしまいにしよう」


フィールド

AYU「決着をつけよう!!」

突如として、AYUが後ろにジャンプし、空中に浮き始めました。

うい「望むところだよ!」

AYU「ほのおのうず!!」

AYUの手から、まるでかえんほうしゃのような炎がういの周りを取り囲みます。


律「これじゃ、ほのおのうずじゃなくて、かえんほうしゃのうずだな」

紬「これをかわすのは至難の技ね」


うい「無駄だよ」

ういは体を回転させ、強制的にかぜおこしをしほのおをかき消しました。


梓「かぜおこしっていうレベルじゃないですね。もう、竜巻です」


うい「あなたは人間さんはポケモンにとってはいらないといいました。でも、ポケモンと人間は仲良く協力し合って生きていくべきなんです!!」

AYU「……知った風なことを言うガキめ……。いいよ。そんな希望なんて消してあげる」

AYUは片手を上に掲げ、その手には炎の塊が発生しました。

AYU「この炎はあなたの体は傷つけない。でも、その代わりに……」

うい「?」

AYU「その代わりにこの炎はあなたの精神を焼き尽くす。あなたを廃人にしてあげるよ」

AYUの作った炎の塊から、かえんほうしゃがういに向かって発射された。

AYU「ディスペア・ブレイズ・キャノン!!!」


律「あれは……よけきれない」

ゆい「うい!!!」


うい「……これは駄目だね」

私はグッと、目をつぶった。しかし、何かに引っ張られて後ろに投げ飛ばされた。

???「イワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアク」

私ではなく、誰かの叫び声が聞こえた。ま、まさか……。


実況『この攻撃でういは気絶かーーーーー』


ゆい「うい!うい!うーいー!!」

梓「落ち着いて下さい、ゆい先輩」


実況『さあ、強力な炎が弱くなってきます。ういは耐え切れたんでしょうか。……おや、あれは……』

梓「倒れているのはういではなく……純ですよ!?」

ゆい「じゃあ、ういは?」


うい「……純ちゃん」

ういはフィールドの外からヨタヨタとフィールドに歩いてきます。

うい「ど、どうして……」

純「あ…んたは……私のポケモンだからね。……トレーナーとして、守ってあげないと……」

うい「純ちゃん……」

純「……もう、私は駄目みたいね。……これで安心して……梓の…所に行きなさい。あんたの大好きなお姉ちゃんの……ところに」

うい「私は純ちゃんと……純ちゃん!?」

純はその言葉を最後にガクリと気絶しました。


ゆい「うーいー。まだ、戦いは終わってないよ!戦うんだよー」

梓「ちょっと、ゆい先輩」

律「さすがにそれは酷だろ?」

紬「それでも……今しかないわね」

梓・律「「え?」」


AYU「ば、馬鹿な……。人間がポケモンを庇うだと……。人間はポケモンを道具にしか思ってないはずなのに……」

AYUは純の行動に狼狽しています。たしかに、今しかチャンスはないです。

うい「……今だ!!」

ういは目に涙を溜めながら、片手にエネルギーを溜めます。そして、精神を高めて狼狽しているAYUにきあいパンチを繰り出します。

うい「これで……終わりだーーーーーーー」

ういのパンチがAYUに激突する瞬間、AYUの姿が消え、ういの背後に現れます。そして、ういの体を掴み、上空にジャンプします。AYU
はういの足を持って、ういの首をAYUの肩口で支える体勢になります。


ゆい「あの技は……ひらさわ家48の殺ポケ技の1つ『ひらわわバスター』」


AYU「終わりだ!!」

AYUは地面に激突しました。でも、さっきのういのようにドシーンという轟音がしません。

AYU「ば、馬鹿な……。もう、動けないはずなのに……まだ、私の邪魔をするの」

AYUの下にはいつの間にか純がいて、そこに着地したおかげでういのダメージは軽減されました。

AYU「ぐっ……」

AYUはういを離し、バンッと地面に落とされます。

うい「じゅ、純ちゃん……」

ういは痛んでいるだろう、体を引きずりながら、純のところに行きます。

うい「ありがとう、純ちゃん。純ちゃんは自慢のトレーナだよ……」

ういはそう言うとガクッと気絶しました。

審判「……うい、戦闘不能。AYUの勝利です。純選手のポケモンは全滅。よって、勝者はAYU選手です」

実況『まさか……まさか、まさかの幕切れだー。今大会№1のポケモンとされるういが敗れたー』

AYUさんは終了後、インタビューにも答えずにすぐに控え室に戻りました。


控え室

AYU「……ぐはっ」

控え室に着いたAYUは膝を着いた。

AYU「ハア……ハア……。予想以上のダメージだったな。でも、ようやくだよ。見ててくださいね、ご主人様」


病院

梓「ういは大丈夫そうだね」

うい「うん、ありがとう」

ゆい「良かったよ~。グスグス」

うい「泣かないで、お姉ちゃん。……ところで、純ちゃんは?」

梓「隣の病室にいるよ。でも……まだ、目を覚まさないよ。お医者さんの話だと、いつ目を覚ますか分からないって」

うい「……そっか」

ゆい「大丈夫だよ、うい!私とあずにゃんの最強コンビが優勝して、あのポケモンから、どうやって、元に戻れるか聞いてあげるから!」

うい「頑張ってね、お姉ちゃん、梓ちゃん」

ゆい「任せてよ!ね、あずにゃん」

梓「……すいません、ちょっと、失礼します」

私は病室を出ました。


ゆい「……あずにゃん」

うい「仕方がないよ、お姉ちゃん。気持ちを整理する時間も必要だよ」


病院・待合室

梓「……純」

純は自分のパートナーのために命を懸けた。これだけでも、尊敬に値するすごいトレーナーだ。それ以前に旅で出会った、大切な仲間だ。その
純を……。

梓「……くっ」

律「何してんだ、梓」

梓「……律先輩にムギ先輩」

紬「もう、時間よ。そろそろ、行かなきゃ」

梓「でも、私は……」

律「……梓!!」

律先輩は私の頬をぐっと、引っ張ります。

梓「にゃ、にゃにしゅるんでしゅか」

律「ぐだぐだ考えったって仕方がないだろ。今のお前にできることは準決勝を勝ちきることだろ」

梓「で、でも……」

律「この先で澪が待ってんだぞ」

梓「……澪先輩」

そうだ、ようやく掴んだ、チャンスなんだ。この大舞台であの澪先輩と戦えるのは。

紬「それ以前に私達に勝った、梓ちゃんが不戦敗なんて認めないわよ」

梓「……ムギしぇんぱい」

律「大体澪に勝てなきゃ、あいつには勝てないぞ。頑張って澪を超えて来い」

梓「澪しぇんぱいを越える……」

紬「梓ちゃん。この大舞台で梓ちゃんと澪ちゃんの最高の戦いを見せてね」

梓「最高の戦い……」

律「それに梓はチャンピオンになって、純ちゃんと戦わきゃな」

……チャンピオン。

ゆい「あずにゃ~ん、もう、時間だよ~」

紬「ほら、ゆいちゃんも来たわよ」

律「どうすんだよ、梓」

梓「……はなしゅてください」

律「おっと、すまない」

梓「まったく、うるさい先輩達です。もう、こんな時間じゃないですか。澪先輩が待ちくたびれてますよ」

律「な、何を~」

梓「……ありがとうございます」

律「……ニッ」

紬「……ニコ」

ゆい「? 何か、あったの?」

梓「何でもありません。サッサと、行きましょう。澪先輩も待ってます」

ゆい「そうだね!」

私は病院を出て、振り返る。

梓(私は玉座で純を待つよ。だから、戻ってきてね)

私は決意を固めて、スタジアムに向かった。


スタジアム

審判「澪選手。もう時間です。これ以上、遅れるとあなたの不戦勝が決まります」

澪(……きっと、梓は来る)

実況『さあ、もう試合開始時間まで1分もないぞー。このまま、澪選手の不戦勝が決まるのかー』

審判「残念ですが、もう……」

澪「……梓」

実況『さあ、審判が澪選手の勝利を宣言しようとします!』

審判「梓選手、しっか……」

梓「待って下さい!!」

澪「!?」

実況『おーっと、ギリギリで梓選手の登場だー』

澪「……遅いぞ、梓」

梓「すいません」

ゆい「主役はおくれて登場するものだよ」

審判「梓選手。早く位置に着いてください」

梓「はい。……澪先輩」

澪「何だ?」

梓「最高の戦いをしましょう」

澪「……ああ!!」


審判「それでは……」

審判・澪・梓「「「決闘(デュエル)!!!」」」


ポケモンリーグ編⑤ 「準決勝スタート・純死す!?」 終了



30
最終更新:2011年09月21日 19:43