そんなこんなで軽音部に私の卒業記念ライブをしてもらえることになった
それもこれも全て私の人徳のなすわざだ
もしかしたら、捨て身のジャンピング土下座も効果的だったのかもしれない
神様が今まで頑張った私へのご褒美を下さったのだろう
素敵な贈り物もらっちゃった☆
講堂にて…
和「良かったですね、曽我部先輩」
恵「ありがとう、みんな」
律「さぁ~て、さっさと部室にもどってお茶の続きだ~」
唯「和ちゃんの頼みだから仕方なくやったけど、もうこれっきにりしてね」
紬「梓ちゃんに至っては演奏を拒否しちゃって来ないほどだもんね……」
律「あいつは澪に懐いてるから嘘ついてまで澪に近づこうとしたことが許せなかったんだろうな」
澪「それではさよなら……」
恵「ね、ねぇ真鍋さん、秋山さんのサイン貰ってもいい? ねぇ、貰っていい?」
和「聡明(笑)な先輩のイメージが」
恵「えっ? 何? その途中の(笑)は何?」
和「実は、私も曽我部先輩へご卒業のお祝いの贈り物があるんです」
恵「え? 本当に!?」
和「はい」
恵「軽音部の贈り物も素敵だったけど……」
恵「貴女からの贈り物が一番嬉しいわ!」
和「そう言ってもらえると私も嬉しいです」
恵「ありがとう! 真鍋さん!」
私の生徒会の後輩から初めてもらった卒業祝い
それは焼き海苔で私は18歳でした
その海苔はとてもパリッとしていて
こんな素晴らしい焼き海苔を貰える私は
きっと特別な存在なのだと感じました
今度は私がお返しする番
後輩にあげるのはもちろんマラカス
なぜなら、彼女もまた特別な存在だからです
そうして私は3年間過ごした学び舎を卒業した
季節は移ろい大学の生活にも慣れ始め
サークル仲間で北海道旅行にでも行こうかと計画を立てている矢先
親愛なる後輩から電話が掛かってきた
恵「もしもし? 久しぶりね真鍋さん」
和「お久しぶりです」
恵「でも、貴女から電話掛けてくるなんて珍しいわね」
和「できるなら掛けずに済ませたかったんですけど」
恵「またまたぁ~」
和「……」
恵「ちょっと、そこで黙らないでもらえる?」
和「じゃあ、手短にお伝えします」
恵「なんだか業務的ね」
和「実は澪のファンクラブの活動についてなんですが」
恵「何かするの?」
和「ええ、会員がどうしても澪との交流を深めたいらしくて」
恵「まぁ、今までが何もしなさすぎだったからね」
和「そんな前会長の手抜きの尻拭いをさせて頂き大変嬉しく思います」
恵「おっと、久々の真鍋節炸裂」
和「つきましては、ささやかながらお茶会でも開催しようかと考えています」
和「一応、創設者である曽我部先輩にもご報告しておこうかと」
恵「律儀ね。それでこそファンクラブの会長職を譲った甲斐もあったってもんだわ
うん、いいんじゃない。やってちょうだい」
和「わかりました。では開催する方向で検討します」
恵「開催日が決まったら教えてね。私も行くから!」
和「はい」
そして数日後…
恵「で、この日にお茶会するの……?」
和「はい、ファンクラブ会員へアンケートした結果
どうしてもこの日しか参加できないという声が多数ありましたので」
恵「そんなぁ……」
和「なにか不都合でも?」
恵「この日、私旅行で地元にいないんだけど……」
和「へー、そうなんですか」
恵「まさかないとは思うけど、狙ってこの日を設定したなんて」
和「偶然ですよ」
恵「そうなんだけど、貴女ならやりかねないと思って」
和「そんな、その日曽我部先輩が北海道旅行で地元にはいないなんて知るわけないですよ」
恵「え? 私、北海道に行くって真鍋さんに教えたことあったっけ?」
和「あ、やばっ」ピッ
ツーッ ツーッ
恵「ちょ! ちょっと!? 真鍋さん!?」
プルルルルル
和「もしもし?」
恵「ねぇ! どういうこと!?」
和「お伝えしたとおり。開催日は変更が不可能なんです……。
それに既に告知も済ませてますし」
恵「あいかわらず仕事が早過ぎるっ!」
和「恐縮です」
恵「ま、まぁいいわ……。私も生徒会の人間
意見をまとめて日程を決める大変さはわかるもの」
和「物わかりの良い先輩をもって私も誇らしいです」
恵「それにファンクラブを継続させて盛り上げる
お茶会で現役会員が楽しんでくれるならそれで満足よ」
恵(しおらしい私を見せて同情を寄せる作戦!
ここまで言って知らん顔をするなんてことはさすがの真鍋さんだって)
和「ご立派です、それでは」ピッ!!
ツーッ ツーッ
恵「……」
プルルルルル
和「あの……私も暇じゃないんですけど」
恵「あのね、もっとこう食いつく要素があったでしょ?」
和「はぁ」
恵「私が可哀相って思わないの!?」
和「それはずっと思ってます。かわいそうな人だなと」
恵「え? 何か意味が違ってきてない?」
和「もういいですか?」
恵「いやいや! もっと曽我部先輩のためにちょっと日程の調整をしてみますとか!」
和「え~……」
恵「うわっ! 私に向かってのそんな面倒くさそうな声、さすがに初めて聞いた!」
和「じゃあ、ハッキリ言いますけど」
恵「な、なに?」
和「曽我部先輩がお茶会に参加なさるなら軽音部は一切協力できないと言われたんです」
恵「!?」
和「とくに主役である澪が一番の拒否反応を示しちゃって」
恵「そんな……」
和「私だって本当はこんなこと言うの嫌だったんです」
和「でも、曽我部先輩がしつこく食い下がってくるから……」
恵「わかったわ……。私は遠く北の大地でみんなの幸せを願ってるから」
和「わかっていただけましたか」
恵「……うん」
和「残念ですが、これが報いだと思って諦めてください」
恵「ねぇ、真鍋さん」
和「はい?」
恵「だけど私ね、後悔なんてしてないのよ」
和「……」
恵「だって、この気持を押し込めたままで卒業しちゃったら
それこそ後悔してもしきれなかったと思うの」
和「先輩……」
恵「例えどんなに嫌われようとも、私は永遠に秋山さんのファンよ」
和「だって、どうする澪」
恵「えっ、あ、秋山さんも一緒にいるの!?」
和「すみません、でもお陰で先輩の純粋な想いを伝えられましたよ。ちょっと代わりますね」
澪「あの……露骨に避けたりしてごめんなさい」
恵「ううん、いいのよ。だってそれだけのことしたんですもの」
澪「私も、せっかく私のことを想ってくれてるのを踏みにじるようなことしちゃって」
恵「許してくれるの……?」
澪「ストーカー行為とかやめてもらえるのなら……」
恵「約束するわ」
澪「はい、だったら……」
恵「ありがとう。秋山さん」
和「もしもし? よかったですね」
恵「ええ、真鍋さんもありがとう」
和「いえ、私も心苦しかったんですよ。曽我部先輩の想いは本物だって知っていたので」
恵「じゃあ、お茶会の日程の件も考えなおして……」
和「それはちょっと……」
恵「なんでよっ!?」
和「いや、だから段取りもして会場も押さえちゃってるので……」
恵「私と秋山さんの仲を取り持つつもりだったのなら、なんでそこまで完璧に用意しちゃってるの?」
恵「普通ここは『実は、先輩と澪の仲直り記念で違う日を設定していました』とかなるんじゃないの?」
和「まさか本当に仲直りできるなんて思ってもみませんでしたので……」
恵「あ、ひどい」
和「それでは北の大地でファンクラブお茶会の成功を祈っていて下さい」
恵「は、薄情者っ!」
和「ふふっ。冗談ですよ」
恵「な、なんだ。もう、真鍋さんったらお茶目なんだから」
和「ちゃんと、当日の模様を写真やビデオで撮って曽我部先輩にお送りしますので、安心して下さい」
恵「あ、結局私は参加できないのね」
お茶会も大成功でとても楽しかったです。
といった報告がその後真鍋さんからあり
ちょうどお中元の頃、そのお茶会の写真やDVDなどが送られてきた
なんだか色々と送られてきたから私も嬉しくなってついつい歌っちゃった☆
んちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ♪
あなたが私にくれたもの 澪タン薄目の集合写真
あなたが私にくれたもの 画面が斜めのDVD
あなたが私にくれたもの 貧乏削りした鉛筆
あなたが私にくれたもの シャー芯埋めこまれた消しゴム
あなたが私にくれたもの 自慰はほどほどにと書かれたスコッティ
あなたが私にくれたもの ドロドロに溶けたチョコレート
あなたが私にくれたもの 先っぽだけの栓抜き
あなたが私にくれたもの ささくれだらけの割り箸
あなたが私にくれたもの 真鍋のプリクラ貼った孫の手
あなたが私にくれたもの 有明海産の焼き海苔
あなたが私にくれたもの 焼き海苔のような黒い気持ち
大好きだったけど メガネがいたなんて
頼んでもないのに 焼き海苔のプレゼント
Hey Hey my sweet 後輩! マラカス送ってあげるわ
じゃじゃじゃじゃん♪
そして、高校球児の夢と共に夏も終わり
山の木々も色づき始める頃
受験という現実が目の前に立ちふさがり
その現実と向き合って苦しんでいであろう愛しの後輩へ
受験戦争を戦い抜くコツを授けるために私は電話をとった
和「もしもし?」
恵「どう? 勉強捗ってる?」
和「はい。何か御用ですか?」
恵「私の体験が真鍋さんの糧になるかもしれないと思って
僭越ながらアドバイスを贈ってあげようと」
和「曽我部先輩……」
恵「何かわからないことや不安なことがあったら言ってね」
和「先輩ごときの体験談が果たして私にとって有益なものになるかどうか」
恵「ん! いい先制攻撃ね!」
和「まぁ、聞いてやらないこともないですけど
つまらない話だったら即効で電話切りますから」
恵「その私への牽制は核兵器以上の抑止力があるわ!」
私は確信した
今日の真鍋さんはあまりにも攻撃的すぎる
きっと受験のプレッシャーにストレスも限界なのだろう
そういうことにしとこう
恵「ところで真鍋さん、ちゃんとN女子大の赤本は用意してるの?
まぁ、真鍋さんに限って用意してないなんてことは無いと思うけど」
和「いえ、そんなもの用意はしてませんけど」
恵「えっ? なんだったら私が去年使ってたやつあげようか?」
和「必要ありませんが」
恵「いやいや、真鍋さんだって過去問の有用性くらいはわかってるでしょ?
それともそんなものは必要ないくらいに自信があるとか?」
恵「駄目よ! そんな油断が一番危険なんだから。過信はしちゃいけないわ!」
恵「それに、そんなことで大学落ちちゃったらどうするの!?
せっかくまた貴女と組んでN女子大にも曽我部真鍋旋風を起こそうって思ってたのに!」
恵「本当に高校時代の私は満たされていたわ」
恵「それは真鍋さん、貴女がいたからなのよ」
恵「正直な話、貴女のいない学園生活は退屈極まるわ」
恵「だから、貴女がN女子大を受けるって聞いて本当に嬉しかったの」
恵「また、私たちの手でこの大学をより高きに導きましょう!」
和「私、違う大学受けるんですけど」
恵「ええっ!? これだけ私が長々と喋ったのにオチがそれ!?」
和「国立の大学を受けようかと」
恵「卒業式のときあれだけN女子大でまた一緒に暴れましょうって言ったのに!?」
和(そんなこと言ったかしら……)
恵「そっか~、真鍋さん違う大学に行っちゃうのね……」
和「まぁ、私も自分自身の夢や希望があるので」
恵「ところで、参考までに聞きたいんだけど」
和「はい」
恵「秋山さんはどの大学を受けるの?」
和「……」
恵「真鍋さん?」
和「N女子大」ボソッ
恵「イヤッッホォォォオオォオウ!!!!!!」
恵「マジで!? いやマジで!?」
恵「ヤッバwwwww メガネなんかと電話してる場合ちがうwwwwww」
恵「んじゃwwwwwwww」ピッ
ツーッ ツーッ
和「……」
数日後、そんな時期でもないのに唐突に真鍋さんから大量の焼き海苔が送られてきた
もちろん私も負けじとマラカスを1ダースほど真鍋さんの家へ送りつけてやった
おしまい
最終更新:2011年10月01日 08:01