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「はい、お弁当。じゃあね」
「あっ、憂……」
わたしがヒリヒリと痛む頬をさすっている間に、妹はそっけない態度で走り去ってしまいました。
呼び止める間もなく、廊下に取り残されるわたし。
まだ痛みの抜けない頬をはたいたのは妹だったけれど、原因は未だ不明です。
教室へ入ると、赤みのさした皮膚を見て、さっそく尋ねられてしまいました。
わたしは何でもないよと言ったけど、ごまかせているかは疑問です。
もっとも、妹のせいなんて言ったって、誰も信じないだろうけど。
妹はとっても優しい子だってみんなも、わたしも思っているから。
でも、優しいだけじゃないってことは、他の人はあんまり知らないのかもしれません。
近ごろ、妹は寂しい顔をよく見せるのです。
妹は隠しているつもりなのか、やけに平静を装っているけれど、
生まれたときから妹を知っているわたしにはお見通しなのです。
そうときたら、ここはわたしの出番です。
妹に寂しい思いをさせた自分をしかりつけ、わたしは妹を元気付けてあげようと臨みます。
でも、妹はそういった感情を簡単には表に出してくれません。
そういう性格だってわかっているから直接は聞かないけれど、わたしは別の寂しさを感じてしまいます。
それどころか、近ごろは甘えを見せまいと、強気になってわたしをはね除けようとすらしてきます。
こうなったらわたしも実力行使です。
できるだけ妹と触れあうよう努めました。
でも、なかなか上手くいきません。
抱きしめてあげると、おとなしく腕を回してくれるのがせめてもの救いですが、妹からは甘えてくれないのです。
ケーキを買っていって、わたしが妹に食べさせてあげても、あまり喜んでくれなかったし、
マッサージしてあげようとしても、すぐに「もう大丈夫だよ」と言って止めさせられてしまいます。
思いきってお風呂に押し入ったら、ちょっとハプニングがあったけど、相変わらずそっけないものでした。
挙げ句の果てには、今朝。
起こしに来てくれた妹に抱きついたらはたかれて、最近では姉であることの自負心が損なわれつつあります。
だからといって、かわいい妹を放ってはおきません。
わたしだって、絶対に諦めたりはしません。
だって妹ときたら、あんな態度なのに、学校ではわたしの話ばっかりしてるって言うんだから。
――まだ一つ、わたしにはできていないことがあります。
もう、わたしも妹もいい頃合いでしょうか。
そのせいで、もしかしたら妹が傷ついてしまうかもしれないけれど、姉でいたこれまでの人生を信じることにします。
玄関の前に立ちました。
この扉を開けて階段を上ったら、きっと寂しそうにしてる妹を抱きしめて
そして、愛の言葉を囁いて
憂が、わたしをはね除ける理由なんて思い付く前に
いっそのこと、そのままキスもしてしまおう。
おわり
最終更新:2011年10月02日 20:57