―――――3年生のクラス
唯「いい匂いがするよ」クンクン
律「カステイラ作ってたんだよ」
和「上手に出来た?」
姫子「まだ味見はしてないから、どうかな」
唯「・・・」クンクン
紬「・・・」ニコニコ
澪「あのさ、姫子・・・」
姫子「ん?」
澪「夏と冬は・・・家で話をしないのかな・・・」
姫子「・・・してないと、思う」
紬「・・・」
澪「姫子が屋台班だとさっき知ったようだったからさ・・・」
姫子「・・・そうだね」
風子「・・・」
いちご「・・・」
和(・・・いちごが何を言いたいのか分かる気がするわ)
律「は な れ ろ」グググ
唯「りっちゃんいい匂い」クンクン
姫子「あはは」
和「姫子・・・。今日はお昼、中庭に行かないの?」
いちご「!」
姫子「うん。行かないよ・・・買い出しに行かなきゃね」
澪「・・・」
姫子「変な事聞くね」
いちご「・・・そうだね。変な事だね」
紬「・・・」
律「ん?」
唯「・・・?」
エリ「どうしたの」ヒソヒソ
風子「ちょっとね」ヒソヒソ
アカネ「・・・」
いちご「・・・回りくどいよ」
姫子「不器用なんだよ。そこは察してくれると・・・、助かるな」
和「どうして、一緒にお昼を過ごさないのよ」
姫子「・・・」
和「理由ってなにかしら」
姫子「・・・私がいなくても楽しそうだよ?」
いちご「そういうことじゃないよ」
紬「・・・」スッ
トントントントトントン
姫子「・・・」
澪「いや、買出しはむぎが行くべきじゃないよ。な、律!」
律「・・・へい」
唯「どういう事?」
風子「褒められて調子に乗った律さんがほとんどの卵を割ったので放課後の分がないの」
律「恐縮です・・・」
澪「だからむぎは冬と中庭に行ってくれ」
紬「・・・」コクリ
律「えー・・・、1人で?」チラッ
澪「・・・はぁ、分かったよ」
律「うむ。よきにはからえ」
澪「うわ・・・」
唯「くるよっ!」
ガチャ
さわ子「はーい、みんな席に着いて~」
いちご「・・・」
スタスタ
和「・・・本当に不器用ね、姫子」
姫子「・・・」
唯「だからこそ通じる事もあるんだよ」
和「・・・」
姫子「そうだといいけど」
―――――昼・中庭
冬「あれ・・・、れ?」キョロキョロ
風子「どうしたの?ここは学校の中庭だよ?」
梓「意味が分かりませんよ」
風子「ここはどこ、私は誰・・・?・・・状態なのかと」
梓「意味が分かりませんよ」
風子「そうだよね、私のボケはツッコミ入れづらいよね」
梓「ぅ・・・」
風子「律さんみたいにバリエーションないし、純ちゃんみたいに絡みやすいわけでもないよね」
梓「うぅ・・・」
英子「こら、ふぅ」
風子「・・・」
冬「み、みなさんは!?」
英子「あとで来るよ」
冬「紬先輩と約束を・・・」アセアセ
夏香「後で来るって・・・。そんな心配しないでよ」
冬「そ、そうですね」
梓「どこへ・・・?」
風子「朝に作ったカステラを取りにね。澪ちゃんと律さんは買出しへ行ったよ」
梓「・・・むぎせんぱいもですか?」
風子「・・・うん。朝調理室で一緒に作ったの」
梓「そっ、そんな話聞いてないですっ」
風子「一緒に作って楽しかったなぁ」
英子「こーら!」
夏香「意地悪になるのも変わってないなぁ」
梓「・・・いいです。一緒に作るチャンスはまだあります!」フンシュ!
風子「私たち野点茶店班だよ?」
梓「そうでした・・・」
夏香「出鼻くじかなくてもいいでしょ」
英子「冬ちゃんところはなにを出すの?」
冬「お化け屋敷です」
夏香「!」ビクッ
冬「あ、大丈夫ですよ。本物なんていませんから」
夏香「あ、当たり前でしょ!」
梓「本物ね・・・」
冬「私は見えない体質なんだけど、夏が見えるみたいで・・・」
夏香「あー、早くこないかな!」
英子「来たよ」
夏香「ッ!」ビクッ
紬「?」
風子「なにが来たと思ったの?昼間だよ?」
英子「その言い方だと知ってるよね」
唯「りっちゃんと澪ちゃんが来るまでバトミントンしていようよ!」
紬「・・・」コクコク
梓「っ!」ササッ
風子「それじゃペアを決めるじゃんけんしよっか」
冬「梓は紬先輩と組みたいのでは・・・」
風子「いいのいいの」
梓「よくないですよ!」
唯「はい、じゃーんけん」
――・・・
風子「むぎさんと一緒のチームじゃなくなったね、梓ちゃん」
梓「棄権します」
夏香「梓ちゃんが抜けたから6人・・・2で割れるね」
梓「あっ!」
風子「ラケット4つしかないよ?」
唯「じゃーん、6つ借りてきました!」
梓「ななっ!」
紬「・・・」シュッ
冬「それっ」シュッ
風子「勝ってカステラ食べようね!」
冬「はいっ」
紬「・・・」フンス!
英子「食べてみたいなぁ」
夏香「うん」
唯「負けないからね!」
梓「それでは・・・サーブを・・・どうぞ・・・」
――・・・
梓「それっ」ポン
シュー
紬「・・・」ポン
シュー
梓「えいっ」ポン
シュー
紬「・・・」ポン
律「なにやってんだ・・・あの二人」
風子「梓ちゃんがどうしてもむぎさんとラリーをしたいっていうから・・・」
英子「そういう風ではあったけど」
夏香「早かったね」
澪「さわ子先生が車出してくれたから短時間で済ませたよ」
さわ子「生徒だけで外に出せないからね」
唯「お腹すいたよ~」
冬「はい・・・」
律「おっ、朝に焼いたカステイラじゃん!」
さわ子「もぐもぐ」
律「先に食べんなよ!」
・・・・・・
いちご「・・・」
未知子「なにを見てるの?」
いちご「・・・別に」
未知子「さわ子先生も中庭でお昼なんだ・・・」
いちご「・・・買い出しに行ってくれた」
未知子「そうなんだ・・・。だから遅いお昼なんだね」
いちご「・・・」
未知子「純ちゃんと憂ちゃんがカステラ持って来てたよ、食べないの?」
いちご「・・・いい」
未知子「・・・姫子さんたちが全部食べちゃうよ?」
いちご「・・・いいよ、別に」
未知子「・・・」
いちご「私に構わなくてもいいよ」
未知子「・・・構っている訳じゃ」
いちご「1人で考えたい事があるから」
未知子「・・・うん」
・・・・・・
和「・・・」
姫子「いい出来だね」モグモグ
エリ「うん。あと何度か練習すれば文句なしだよね」モグモグ
潮「おいしいおいしい」モグモグ
信代「食べてみて、結構上手に出来たよ」
春子「う、うん・・・」
「私もおひとつ」
潮「どーぞ」
「もぐもぐ」
姫子「どう?」
「うん、おいしい」
信代「うん、嬉しい」
和「・・・どうだった?」
未知子「?」
春子「いちごの様子は」
姫子「・・・」モグモグ
未知子「うーん・・・孤高の花って感じかな」
和「そう・・・」
エリ「・・・」
潮「え、意味が・・・」
「?」
春子「あー、文恵、潮・・・ちょっと打ち合わせがあるから席移動しよっか」
文恵「いいけど、潮ちゃん屋台班だよ?」
エリ「いいからいいから~」
潮「お茶に詳しい慶子呼ばないと」
信代「勝手な設定つけないでね」
スタスタ
姫子「・・・気を利かしてくれたのかな?」
和「えぇ・・・。二人の雰囲気をみんな知っているからね」
姫子「・・・」
未知子「え・・・と・・・私も席外そうかな・・・?」
和「姫子と二人になるから、三者として聞いててくれないかしら」
未知子「・・・なにが始まるの・・・?」
姫子「話だよ」
和「人の目を引きつける絶壁に咲いた花ってどう思う?」
未知子「?」
姫子「遠い場所にあるから綺麗に見える・・・とか?」
和「そうね。でも、その花がもっと近くで見て欲しいと思っていたら、どうするかしら?」
未知子「・・・」
姫子「人が近づくしかないよね・・・。花は動けないから」
和「えぇ。私たちもそういう人に出会ったのよ。・・・呼んでくるわ」
スタスタ
姫子「・・・・・・やられた」
未知子「?」
姫子「花はいちごで、私が人になれって事でしょ・・・。3人で話をしろと・・・」
未知子「和さんと姫子さん、私の3人じゃなくて?」
姫子「・・・悪いね未知子」
未知子「・・・どうして私なの?」
姫子「私と姫子の事情を知らないよね?」
未知子「・・・うん」
姫子「・・・だから」
未知子「・・・」
姫子(あの雰囲気のいちごに声かけたのも未知子だったから・・・)
未知子「そういう人に出会ったってどういう事?」
姫子「むぎと旅先での話・・・」
未知子「先月けいおん部で旅行に行ったっていう・・・」
姫子「・・・」
いちご「話って・・・?」
未知子(和さん策士だぁ・・・)
姫子「アカネの席だけど座ってよ」
いちご「・・・」スト
未知子(すでに・・・なんともいえない空気が・・・)
姫子「今日は冬だったでしょ?」
いちご「・・・うん」
未知子「・・・」
姫子「どうして一緒に食べないのかはさ、夏が冬を避けているから。冬が夏に遠慮しているから」
いちご「・・・」
姫子「双子なのに、姉妹なのに、家族なのにねぇ」
いちご「・・・間に入ればいい」
姫子「入ろうと思ったけどね」
いちご「諦めたんだ」
姫子「・・・」
未知子「そんな言い方・・・」
いちご「・・・その距離はなに?」
姫子「・・・」
いちご「近づいたかと思ったら離れて、よくわからない」
姫子「私では・・・」
いちご「・・・」
姫子「・・・」フゥ
未知子「・・・」
姫子「私は、二人を特別視しないって決めたから」
いちご「・・・」
姫子「二人にどんな過去があっても、どんな事が起きても私にとっては後輩で友達だから」
いちご「・・・」
姫子「だから」
いちご「時間は限られてるよ。少なくとも学園祭まで」
姫子「・・・」
いちご「それが過ぎれば自然と今ある問題は薄れていくと思う。けど、元には戻らない」
未知子「・・・」
姫子「まるで経験したかのようだね」
未知子(姫子さん・・・!)
いちご「・・・うん。挨拶もできないで離れて行った友達がいたから」
姫子「ケンカ別れ?」
いちご「・・・うん。今思えばどうでもいい事だった。けど、当時の自分はそれが許せなかった」
未知子「・・・」
姫子「・・・」
いちご「『さようなら』も言えない別れってなにも残らないよね」
姫子「うん・・・」
未知子「・・・」
いちご「あの二人はそのうちそうなる。私はそれがいや」
姫子「・・・」
いちご「どうにかできる立場にいるのに、傍観している姫はもっといや」
姫子「・・・」
いちご「むぎ達に押し付けているだけ。それがすごくいや」
姫子「・・・」
いちご「・・・」
姫子「・・・」
いちご「・・・・・・なにかいう事無いの?」
姫子「・・・・・・・・・うん」
いちご「・・・そう、・・・じゃ」ガタ
スタスタ
未知子「・・・あんないちごさん・・・初めて見た」
姫子「・・・私も」
未知子「・・・うまくいかないよね」
姫子「・・・・・・そうだね・・・。私ムキになってた?」
未知子「ううん、全然。・・・どっちかっていうと、冷めてた」
姫子「はは」
未知子「冷めようと必死にしてた・・・」
姫子「・・・」
和「相談に乗るわよ」
姫子「このタイミングで・・・ずるいよ?」
和「そうかしら」
未知子「・・・」
姫子「和・・・やっぱりすごいよ、あの人は」
和「どっち?」
姫子「玉恵さんね・・・」
未知子「?」
和「どうして?」
姫子「いちごにも何かを残していってるから・・・」
未知子「・・・だれ?」
和「女性ライダーよ」
姫子「・・・時間がない・・・かぁ・・・」
最終更新:2011年10月05日 20:08