――・・・


英子「紬さんと別れた後、ちかさんと美冬さんにはちゃんと挨拶していたのに」

風子「・・・」

英子「どうして?」

風子「数えちゃった」

英子「・・・」

風子「むぎさんに、『また明日』を言える回数」

純「!」

潮「・・・」

梓「4回ですね」

風子「・・・うん」

英子「今日入れて5回だったのに、風子は1回を無駄にしちゃったね」

風子「っ!」ビクッ

英子「その回数はみんな平等のはずだよ。風子だけじゃないよ」

風子「・・・っ」

信代「まぁまぁ。挨拶は大事だけど、そんなに責める事じゃないじゃん」

潮「そうだよ。風子だって、ちゃんと分かってるから出来なかったって事なんじゃないかな・・・」

風子「・・・」

純「・・・」

梓「・・・」

英子(・・・やっぱり)

風子「ごめん・・・。先に帰る」

スタスタ

信代「あ、風子!」

潮「・・・」

純「あの・・・行ってしまいますよ・・・」

梓「・・・」

英子「信代さん、潮さん。お願いできるかな」

潮「・・・うん」コクリ

信代「任せて」

タッタッタ

純「・・・」

梓「近くに公園ありましたよね」

英子「あるね・・・」

梓「少しお話しませんか?」

英子「うん、ありがと」

英子「オレンジとコーラ、どっちがいい?」

梓「オレンジで」

純「オ・・・、早いもの勝ちかよぉ・・・」

英子「あ、ごめんね。オレンジ買ってくるね」

梓「純っ!」

純「炭酸ダイスキーです!」

英子「本当?」

純「はい」

英子「空気読む必要はないんだよ?」

梓「大丈夫です」

純「はい」

英子「分かった」

梓「ありがとうございます」

純「いただきます」プシッ

英子「・・・」

梓「私も数えていたんです、あの時」

英子「・・・そう」

梓「むぎせんぱいと、4回・・・『また会いましょう』って挨拶ができるんだなって」

純「・・・」ゴクゴク

梓「あと、4回だけ約束ができる・・・って・・・」

英子「・・・うん」

梓「だから、風子先輩の気持ち・・・分かります・・・」

純「・・・」

英子「例えば、その4回が・・・急に3回になって、最後の1回を失くしてしまったら・・・どうなるかな」

梓「!」

純「約束が出来ないって事ですか・・・?」

英子「そうだね。最後に『さようなら』、『また、いつか会いましょう』が言えないって事」

梓(それは・・・嫌だ・・・むぎせんぱいに・・・言えないのは・・・いや・・・だ)

英子「風子と私と夏香はそういう最後だった」

純「・・・」

英子「梓ちゃんと自転車で街を走り回った日があったでしょ?」

梓「・・・はい」

英子「あの時、昔のふぅちゃんに戻ってたって話したよね」

梓「はい」

英子「高校で再会して大人しくなっていた。小学校の頃とは別人のようになって
   それを人は成長したって言うんだろうね」

純「・・・」ゴクゴク

英子「でも、違っていたみたい。風子は『ふぅちゃん』を抑えていただけ」

梓「・・・」

英子「人は誰でも、そんな子供な自分を抑えていくものなんだろうね
   周りに合わせるためにも、抑えずにはいられない。それが常識」

純「・・・なんとなく、ですけど・・・。抑えるのは成長じゃないような気がします」

英子「どうして?みんなやっている事だよ?最初は意識して行動を抑えるの
   次第に頭がそれを受け入れていって、大人はこんな行動をしないという風に
   そういう常識を積み重ねていくの」

梓(それを否定して欲しそうな・・・言い方・・・)

純「それは常識を積み重ねているだけで、自分を積み重ねていないです」

英子「自分・・・って・・・なにかな・・・」

純「・・・経験だとか、見てきた景色だとか、自分に関する全てです」

梓「・・・」

純「成長は・・・自分が認めるモノじゃないと思います」

英子「周りが決めるんだよね。常識を備えたら成長になるって事だよね」

純「ち、違います!・・・それじゃあ、楽しくないし何も残らないっ!」

英子「あるがままの心を持っていければいいのかな」

梓「!」

純「そ、そうですってなぜそれを!?」

英子「ふふっ、実は昨日の夜全部聞いていたの」

純「・・・」

英子「ごめんね。自分の考えを纏めたくて聞いたの」

純「・・・そうですか」

英子「昨日の夜、聞いていたの私だけじゃないと思うけど・・・」

梓「な、なんと・・・」

英子「私たち小学校卒業するまでずっと一緒だったの。風子、夏香、私」

梓「・・・はい」

英子「私と夏香の中学校と別々だって分かったとき、とても泣きじゃくってね・・・風子は・・・」

純「・・・」

英子「だから、卒業した次の日に約束をしよう。って約束をしたの」

梓「約束をする為の約束・・・」

英子「『また会おうね』という約束をしようって。そして、指きりげんまんしようって」

純「・・・その時点で約束を交わしているんじゃ」

英子「その通りだよね。でもふぅちゃんがその約束をその日に設定したの」

純「なにか・・・意味でも・・・」

英子「ないよ。ふぅちゃんは子供が子供をしているって感じで子供だったから」

梓「・・・」

英子「それでカウントダウンが始まって、卒業して。次の日・・・
   約束が交わされることはなかった。約束も果たされなかった」

梓「・・・」

英子「私と夏香がふぅちゃんのお家へ行っても誰もいなくて・・・
   帰るわけにもいかないから、時間を潰して、いつもの場所で待っていたんだけど、来なかった」

純「そ、それっきり・・・?」

英子「ううん。日が暮れてお家に帰ったら電話が鳴ってね、取ったらふぅちゃんだった
   『ごめんなさい』って泣きじゃくって・・・」

梓「・・・」

英子「意地悪だけどとっても優しいふぅちゃんだから、私たちに悪いことをした
   約束を破った、って凄く傷ついていた・・・」

純「・・・」

英子「母方の実家の都合でしょうがなかったって、風子と再会してから聞いてね
   時間が経ったから『ごめんね』で済ませたようなもので・・・
   その時の電話越しのふぅちゃんはとても・・・悲しい声だったな・・・っ・・・」

梓「っ・・・」

英子「会おうと思えば会える距離だったから、大丈夫って信じていた」

純「・・・信じていた?」

英子「時間の流れって優しくて切なくて、怖いものだと感じたよ」

梓「・・・!」

英子「お互い忙しくて、夏香とも会う機会が減っていった・・・
   新しい世界っていうのかな、新鮮で楽しくて、大変だから一生懸命で」

純「・・・」

英子「3年の月日が約束を忘れさせたんだよ。入学式の日に風子が謝るまで私と夏香は忘れていた。
   約束をしようって約束が果たされないまま今日まできちゃった・・・」

梓「その約束は・・・もう・・・解消されているのでは・・・」

純「あ、梓・・・。再会できればいいって話ではないでしょ・・・」

梓「う、うん・・・」

英子「解消されているはずだった・・・。ふぅちゃんと再会するまでは・・・ね」

梓「・・・!」

英子「最近のあの子、周りにやたらと意地悪な事するでしょ?」

純「・・・はい」

英子「夏ちゃんと冬ちゃんとのこともあって、あの頃の優しさを垣間見た
    私と夏香は5年半という時間を越えて『ふぅちゃん』と再会できたんだよ」

梓「!」

英子「その時の傷がふぅを・・・留まらせている・・・」

梓「むぎせんぱいですね」

英子「・・・うん。紬さんはふぅにとってかけがえの無い人になっている」

梓「・・・」

純「さっきの英子先輩は・・・風子先輩を探っていたんですか?」

英子「・・・うん。そういう事・・・」

梓「・・・」

純「・・・」

英子「あるがままの風子なんだけど・・・ね・・・」

梓「・・・英子先輩は、ふぅ先輩と風子先輩のどっちと一緒にいたいですか?」

純「・・・!」

英子「どっち・・・」

梓「恐らく、常識という知識が風子先輩を形作ってきたのなら、それも風子先輩なんです」

英子「・・・そうだね。高校に入って再会した風子を否定する事なんておかしな話だもんね」

梓「でも、私はふぅ先輩がいいです。むぎせんぱいと同じように、幼い表情で笑ったときのふぅ先輩が好きです」

英子「・・・」

純「・・・」

梓「・・・」

英子「1つ聞いていいかな?」

梓「は、はい」

英子「旅先で出会った人には、そういう人がいたのかな・・・?」

梓「いいえ」

英子「そうなんだ・・・」

梓「どうしてですか?」

英子「それは・・・」

純「まるで見てきたかのような言い方だったから・・・かな・・・」

英子「・・・」

梓「うん。風子先輩のような人はいなかった。けど、自分を偽っている人は1人としていなかった」

純「・・・」

梓「だから、繋がって、その人たちを好きになれて、同じ景色を見る事ができたんだと思います」

純「・・・」

英子「・・・うん。いい出会いだったんだね」

英子「昔ね、私とふぅが夏香のお家に遊びに行った時の話なんだけど、
    お姉さんとたっくさん遊ぶことができたんだ」

梓「・・・」

純(うわ・・・)

英子「ふぅって、心を許した人にしか意地悪な事しないんだよ
   だから、お姉さんにたくさん仕掛けては仕返しされて、それでもめげずに頑張って意地悪してた」

梓「・・・」

英子「お姉さんが夏香をいじめたら、ふぅは夏香を守るの。冬ちゃんみたいに」

純(楽しそう・・・)

英子「そのくせ、人には意地悪な事して、成功したら喜んでいた
   でも、人が嫌がったり、傷つけるような事は絶対にしなかった」

梓「・・・分かります」

英子「ふふっ・・・。あ、ごめんね。長々と・・・帰ろうか」

純「はい・・・」ゴクゴク

梓「オレンジ・・・もらい物だけど、飲む?」

純「意地悪ですね・・・」

英子「ありがとう・・・二人とも。話を聞いてくれて」

梓「いえ・・・。出来れば・・・」

純「出来れば?」

梓「もっと聞かせて下さい」

英子「・・・!」

純「・・・うん、私も聞きたい!」

英子(雰囲気が・・・紬さんと・・・一緒だった・・・)

梓「どうしたんですか?」

英子「なんでもないよ」

梓「上手くふぅ先輩の意地悪に対抗できるかもしれません」ウシシ

英子(今度は律さん・・・?)

純「・・・それが狙いか」

梓「頑張れ私!」フンシュ!

英子(唯さん・・・違う・・・澪さん・・・?)




9月24日


紬「・・・」プップププー

風子「おはよう、紬さん」

紬「・・・」

風子「・・・どうしたの?」

紬「・・・」フルフル

風子「・・・?」

スタスタ

唯「おはようみんな!いよいよ明後日だよ!」ワーイ

ちか「唯ちゃんおはよー」

春子「おはよ。元気だなぁー」

唯「フルスロットルだよ!」

和「その雑誌、毎日読んでいるわね」

姫子「面白いよ。観光名所から独自で見つけた場所まで紹介してるの」ペラッ

いちご「・・・ちょっと待って」

姫子「あ、ごめん」ペラッ

いちご「・・・もう少し待って」

和「それが多和平ね」

姫子「え・・・。知ってる風だけど・・・どうして・・・」

和「澪と話し込んでいたの聞いていたのよ」

姫子「・・・」

いちご「いいよ。・・・どうしたの?」

姫子「結構語ってたから・・・。なんか、恥ずかしい・・・」

和「気にすることじゃないわ」

姫子「私が気にするんだよ・・・」

律「なんだよ、キャンプでフォーク・・・っ!」フガッ

いちご「・・・やめて」

エリ「なにしてんのー?」

律「・・・っ」フググ

唯「フォークがなんだって?」

澪「フォークと言うのは、球種の1つだよな、姫子」

姫子「そうそう。打者とのかけひきに使うんだよ。フォークをね」

アカネ「無駄に強調しているところが・・・ひっかかる・・・」

和「さて、と・・・先生来るわね」

いちご「若気の至りだから」

律「わ、分かったよ・・・。そんなら踊るなよな」ブツブツ

エリ「あれ・・・?」キョロキョロ

アカネ「どうしたの?」

エリ「風子さんが来ない・・・」

姫子「本当だ・・・、いつもなら・・・一緒になって読んでいるのに」

いちご「・・・」

澪「・・・」

律「お母さんともへんな雰囲気だな」

唯「変じゃ・・・ないよ・・・」

信代「おはよー。って、どうしたの?」

ガチャ

さわ子「はーい、みんな席に着きなさーい」

ガヤガヤ


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最終更新:2011年10月06日 17:52