こんな気持ちのときはどうすればいいんだろう
私は律にもうまく話せそうにないモヤモヤを抱えながら1人、
こんな時間まで部屋のベッドに座り、壁にもたれてひざを抱えてぼんやりと天井を眺めた

電気代が無駄だな、とか、早く寝なくちゃって思うけど
今はなんだか、動きたくなかった

チクタクチクタクと、アナログ時計の針が正確に廻る
あせらされてる、何かにあせらされてる
でも、それが何なのかがよくわからない

自分の中の何かなのか、それとも私の外にある何かなのか

よくわからないまま、時間はすぎてく

いや、本当はわかってるんだけど、私はまだ目を背けたままでいたいんだ


チクタクチクタク

―――そうだ京都へ行こう

意味もなく、CMのそんなあおりを思い出す
いや、京都には別に行かないけど

なんだろう、この感覚。自分を変えたいんだけど、どうしようもないというか

ケータイに手をのばして、登録してあるネットの1つに接続をしてみる

とくになにも変わらずにそのままであり続ける私の日常
そりゃ、劇的になにかが変わってしまうようなことを望んでいるわけではないんだけど
自分からアクションを起こさずに、何か面白いものはないかなって思っているときに
お手軽に。それはお手軽にはまってしまったネットサーフィン
律にはいまだに言っていない、この趣味に
私はちょっとした背徳感を覚えているけどなかなかやめられないんだ


チクタクだけだったワンルームにケータイのカチカチが増える


1秒前にはもう二度と戻れないのに、その1秒を惜しむまもなく怠惰にすごし、
せわしなく画面上にぼんやりと光る文字の列を眺めていた

音は、ただ単に楽でなく、
だからといって音が苦であるかといったらそれはまた違った意味で
耳がいい人が自分の奏でる音に違和感を持ってしまうように
私もまた、
自分の書く歌詞に、自分が吐き出す言葉に違和感を感じておかしくなってしまっていたようだ
自分が自分じゃないような、でもたしかに今まさに動かしている左手は私自身のものなのに・・・

書いては消して書いては消して
出来るしりから消えていく言葉の断片をつなぎ合わせてはぶっちぎって
貼り付けて糊付けして山折り谷折り人生は続くよどこまでも?

あー、だめだ、どうしてもうまく書けない
みんなには明日にはできるからと見栄を張ってしまった
そんな見栄、貼り付けなくてもよかったのに
どうやら瞬間接着剤のようなとても強力な糊をどこからか見つけてしまったようで
それは私の表面のうわっつらのほうをべったりとかくしては、さっさと乾いてしまって
ひっぺがすことはどうにもできそうにない
どうして他人の目をいまだに気にして私は私の上にいろいろなものを上書きして
自分の感情だとか、本当はこうしたいっていう思いを心の中に下書き保存してしまうんだろう

そんな真夜中


あー違うんだ、本当は違うんだ
律にはうまく話せそうにないとか、そういう次元の話ではなくて
むしろそれは言い訳にすぎなくて
律には本当はもっと言わなきゃいけないことがあるんだけど
それがなかなかいえなくて、私から本当は言わなくてはいけないことなのに
私がいじっぱりのわからずやだからそれが言えないだけなんだ

だからこうして廻りまわって遠回ってしまって
「我思ふ、ゆえに我あり」だなんていうけど、私は私でうろ覚えうろ思す

ぐるぐるぐるぐると自分のいた場所を確認してはまた一歩下がり
そしてまたもとの位置にもどるように
左向け左をして回れ右をしてそのあとに右向け左をして前ならえをするように

この心の中から消そうと一体何度思ったか知れない気持ちを
歌詞にこそっとこめている気持ちを
どうしても言葉にはしたくないけど、でも言葉にしなくてもわかってほしい気持ちを

律にだけは知られたくないけど、
でも、律にだけは知ってほしくてどうしたらいいのかやっぱりどうしてもよくわからない

律のこと好きだって思う自分のことが嫌い
だって、どうしたらいいのか本当にわからなくなるんだ
数学のように公式があって、それに与えられた数字をピタっとあてはめたからって
答えがきっりちとでるような問題でもない
英語の文法問題ように規則がある程度あって、ひたすらにやみくもに暗記をしたからといって
問題をみただけですんなりと正しい選択肢を選べるっていうわけでもない

どしたらいいんだ?律に素直に打ち明けでもしたらいいのか?
でも、そんなことしてもし嫌われちゃったらどうしよう
律のそばにいたいだけなのに、ただ、律と一緒に色々なものを見て笑っていたいだけなのに

私はどうして律のこと、好きになっちゃったんだろう
おかしいよ、こんな気持ち、こんなの絶対おかしいだろ

カチカチっと音をならして、ケータイは色々な人の思いを
私の目の届く範囲にもってきてくれる
笑える話もあれば、読むと悲しくてどうしようもない話もある

私はとくべつ不幸ではないけれど、
かといって誰かがとくべつ不幸であったり幸せであるわけでもない

人は目に見える形でしめしてくれていないだけで
これでもかというくらいにその人の形をした入れ物の中に様々な思いをつめこんでいて
水を入れすぎてしまったジョウロのように水を花にやることで不満やらなにやらを
適度に開放させて、それがいつか実を結べばいいんだけど

人のそれは、なかなかどうにもうまくいかないみたいで
恨みとかねたみとか、人に対する劣情とか・・・本当にいらないものばかり勝手に背負い込んで
教科書に人のうらみ方だなんて書いてないのに、
いつのまにか他人をうらやむことを知ってしまっていて

そういうものを目にしてしまうたびに、私はなんだかとっても悲しい気持ちになってしまうんだ







ねぇ、律


律なら私のこと色々わかってくれそうな気がするんだ
私はそんなにきれいな人間じゃないし、色々モヤモヤとやっかいに抱え込んでしまうけど
きっとそういうのって、誰だってそうだろ?
もちろん、律だってさぁ
他の人なら嫌だけど、私も律のことなら色々知りたいってどうしても思ってしまうんだ
自分勝手すぎるけど、どうしてもそう思うんだ
律となら、世界の汚いこともズルがしこいこともなんでも知ってもいいかもなって思ってしまうんだ
だって、律だもん
理由なんていらないよ
だって、律なんだもん
どうしたって、どうやって自分の心をごまかしたて
どうしたって、律なんだ
私が最初にまぶたを閉じて思い描いてしまうのは
寂しいときに声がききたいなって思ってしまうのは
元気がほしいときにがんばれって声をかけてほしくなるのは
私の汚いところも弱いところも全部見てほしい、受け入れてほしいって思うのは
いつだって、どうしたって律なんだ

いつのまにか私は泣いていて、頬を暖かい涙が伝っていく
手でぬぐうのもなんだかめんどくさくて
そのまま涙を垂れ流す
ねぇ、律
今だって、私は思ってしまうんだ
この涙を律が、律の手で優しくぬぐってくれないかなって
私よりも背が小さいくせに、私より少し大人ぶった笑顔を私に見せて

泣くなよ、澪。私がいるだろ?

そう言ってほしいんだ

そうやって慰めてもらいながら私は子供のように泣きじゃくるんだ
泣きじゃくって律に頭をなでてもらってそして二人で抱き合って
いつの間にか幸せをかみ締めて、泣くのに疲れて眠るんだ

ねぇ律、私にそんな夢、みさせないで?















「わかったよ、澪」




チクタクとアナログ時計の音が私をあせらせる
いつのまにか、電話がつながっていたらしい
リダイヤルボタンって無意識に押せるんだな

「いまから行くから、まっててな」

「あと・・・、その・・・私も好きだ」

照れくさそうな、律の声がした
すぐにプープーという電話の切れた音が耳に響いた

これが夢かどうかもわからないまま、
だけどそれでも私は律がくるのを時計の音とともに待つことにする
これが夢だとしても、きっと私は幸せな朝を迎えるだろう

ごめん、今の嘘だ

やっぱり私は見栄っ張りで、自分が傷つくことがとても怖いらしい

ねぇ、律、だから私にそんな夢、みさせないで
はやく会いに来て
そして私の名前を呼んで
律のことが好きなんだ
思いを伝えるから
夢じゃなくて現実で会いに来て
律に頼ってばっかりでまかせっきりでごめん
でも、私が頼るのは律だけだから、許せ

窓の外で聞きなれた自転車のブレーキの音がした



おわり



最終更新:2011年10月07日 21:04