いつからでしょう


直「」カタカタ

菫「あ、はーい」


私は直ちゃんのタイピングの音で、何が言いたいのかわかるようになってきました


菫「どうぞ」コト

直「」カタカタ

菫「どういたしまして」

梓「……何、今の!?」

純「なんか最近、妙な手段で会話してるよね」

菫「あ……はい、なんとなくわかるんです」

憂「すごいね~! もうすっかり仲良しさんだね」

菫「は、はい!」


直ちゃんと、仲良くなれてきた……よね? 最近、下の名前で呼び合うようにもなったし
ふふ、なんか嬉しいな


直「」カタカタ

菫「……?」


でも、なんでも聞き取れる訳じゃありません
まだまだわからない事も多いです
わかるようになって、もっと仲良くならなきゃ!


直「」カタカタ


えーっと、今のはなんだろう? 
今までの経験則から解析すると……

ダ、 イ、 ス、 キ、……?


菫「……えぇっ!?」ガタッ ガシャーン!

梓「うわっ!? 菫、大丈夫?」

憂「大変、食器が……切らないように気をつけて! ほうき持ってくるから!」

菫「す、すみません……! 今片付けます」

純「いいっていいって、まずは落ち着きなよ!」

直「気が動転してるうちは下手に動かないほうがいいですね。ほら、菫、こっち」


そう言って直ちゃんは私に手を差し伸べてくれました


菫「あ、ありが……」カァァ


手に触れた瞬間、さっきの言葉を思い出してしまいます
熱いです……きっと、今、顔真っ赤なんだろうな、私


直「大丈夫? 顔赤いよ? もしかして熱じゃ……」ピト


直ちゃんが、おでこを私のおでこに……
か、顔が、近いです……


菫「あ……あう……」カァァ


さっきのことのせいで、変に意識してしまいます


直「どんどん熱くなってくる……やっぱり熱が」

梓「菫、体調悪いなら無理しなくていいよ?」

菫「い、いえ、違……」

純「違わない! ほーらほら、病人は大人しくしてなって」

憂「片付けはしておくから、今日は早く帰ってゆっくり休んで?」

菫「うぅ……」


病人ではありませんが、どちらにしろ今日はもうまともに活動できそうにありません


菫「……すみません、今日は早退させていただきます」

梓「うん、お大事にね」

直「私が送っていきます」

菫「え……! いや、大丈夫だから!」


今、直ちゃんと二人きりになったらまた真っ赤になっちゃいそうです


純「もー、大人しく言うこと聞いときなって!」

憂「無理しちゃだめだよ?」

菫「は、はい……」


直ちゃんに送ってもらって、部室を出ます
ど、どうしよう……二人きりで会話がないと、よけいにさっきのことを思い出して恥ずかしいです

でも、本当に直ちゃんは、その、だ、だいすきと言ったんでしょうか?
もしかしたら、聞き間違いかも……


菫「あ、あの……」

直「何?」

菫「その、さっき……だ、だ……」

直「?」


ダメです、恥ずかしくて聞けません
直ちゃんは何でもなさそうな様子だし……勘違いだったのかな

そのあと、直ちゃんは家まで送ってくれると言ってくれましたが、いろいろまずいので校門のところで別れました
とにかく今日は帰って、一旦落ち着こう……


……


翌日の放課後、私が部室に行くと直ちゃん一人でした

菫「あ……先輩方は?」

直「遅れてくるって」カタカタ


パソコンをいじっています……これは、昨日の言葉が本当なのか確かめるチャンスかも


菫「そっか……お茶にする?」

直「」カタカタ


来ました……まずはいつもの会話です、紅茶に砂糖2個


菫「はい、どうぞ」コト

直「」カタカタ

菫「……どういたしまして」


さあ、これから……
どうしよう、本当にまた、だ、大好きだなんて言われたら……
ああ、また顔が熱くなってきちゃいました
集中しなきゃ、直ちゃんの出す音に……うう、無理、恥ずかしい……


直「」カタカタ


え……今、なんて……!?


直「」カタカタ

菫「!?」


う、うそ……ほ、ほんとうに?
こ、困るよ、そんなこと言われたら


直「」カタカタ

菫「あう……」カァァ


だ、ダメ、褒めても何も出ないよ?


直「」カタカタ

菫「……くぅ……」カァァ


そんな、私、愛なんてまだわからないよ
好きって言われただけでこんなに動揺しちゃってるのに
まだ、自分の気持ちすらわからないのに……!


直「」カタカタ

菫「……はぁ、はぁ……」カァァ


直ちゃんのパソコンから絶え間なく紡ぎ出される愛の言葉に、私の頭の中はパンク寸前です
自分、今どんな顔してるんだろう……きっと、昨日よりももっと赤くなってる


直「」カタカタ

菫「はうっ!?」ビクッ

直「!?」


あっ、思わず声が出ちゃいました
直ちゃんが驚いた様子でこっちを見ています……恥ずかしいよ


直「どうしたの? まさかまだ体調悪いんじゃ……」

菫「えっ、あっ、大丈夫だよ! 昨日ちゃんと休んだから!」


まるで知らないかのごとく、直ちゃんは普通に話しかけてきます
いじわる……私がこんなになってるのは直ちゃんのせいなのに


梓「お待たせー!」ガチャ

憂「遅れてごめんね~」

純「スミーレ、お茶よろしく!」

菫「あっ……先輩方」


なんだろう、この気持ち
先輩方が来てくれてほっとしたような、名残惜しいような……


菫「今淹れますね」


気持ちを落ち着かせて、お茶を淹れます
思い出しちゃダメ、思い出しちゃ……


菫「……ぅぅ」カァァ


ダメ、直ちゃんの甘い言葉が頭の中を駆け巡って集中できません
すいません先輩方、今日のお茶はきっとおいしくありません……


菫「ど、どうぞ」コト

梓「ありがとう。……!?」

純「甘っ!!」

憂「ほんとだ、いつもより甘いかな?」

菫「あ、すみません!! 今淹れ直します」

梓「ううん、いいよ。おいしいのには変わりないし」

憂「それよりスミーレちゃん、体調は大丈夫?」

純「確かにスミーレがお茶でミスるなんて珍しいね。やっぱまだ熱があるんじゃ……」

菫「い、いえ、大丈夫です」


顔が赤いのを隠すためにちょっとうつむきながらなんとかやりすごします

そして、いつものティータイムが始まりました
直ちゃんも一旦作業をやめて、お茶に参加します
ほんとうに、何事もなかったかのようないつも通りの振る舞いです
ついさっきまでの怒涛のような、その……ああ、思い出してきちゃいました


梓「さ、始めよっか、練習」


梓先輩の一言で、みなさんがそれぞれの楽器を準備して、個人練を始めます
よし、気持ちを切り替えて練習に集中しよう! 早くみんなで合わせられるようにがんばらなきゃ

あ、でも直ちゃんはまたパソコンに向かうんだ……まあ、練習中はさすがに大丈夫だよね
でも、もし、またあんな甘い言葉をかけられたら……


直「」カタカタ

菫「ええっ!?」ビクッ

梓「うわ!? 何、菫?」

菫「い、いえ、なんでもないです!」


な、直ちゃん! 今、練習中だよ!?


直「」カタカタ

菫「はうぅ……」


だ、ダメだってば、先輩たちもいるのに……私、練習するからね!


菫「えーい!」ドカスカ

憂「なんか今日のスミーレちゃん激しいね」

純「昨日できなかった分の発散じゃん?」

直「」カタカタ

菫「!?」ピタッ

梓「あ、止まった」

直「」カタカタ


直ちゃんの言葉は止まりません
私はドラムに集中してその言葉を聞かないようにしようとしますが、意識すれば意識するほど、どんどん頭の中に流れ込んできます


菫「あ……ぅぅ……ダメぇ……」


もう、顔は真っ赤です
幸い、みなさん練習に集中しているようで気づかれていませんが、これ以上言われたら……


直「」カタカタ

菫「……ふぅっ……!」


先輩たちもいるのに、隠れてこんなことして……私、いけない子です


直「」カタカタ

菫「! ……ち、ちがうよ……私、そんなんじゃ……!」


そう思った矢先、いじわるな直ちゃんはそれを指摘してきます
ひどいよ、あなたの、せいなんだからね……


直「」カタカタ

菫「……はぁ、はぁ……やめて……」


もう、ドラムを叩く手は完全に止まっています
自分の息が荒くなっているのが感じられます
先輩たちに、聞こえちゃってないかな……恥ずかしいです


直「」カタカタ

菫「……あっ、ああっ……」


直ちゃんの愛の言葉で、頭の中が埋めつくされます
嬉しさと、戸惑いと、背徳感で、私、おかしくなっちゃいそうです


直「」カタカタ

菫「……っ、……っ!」


なんだか、あたまのなかがしろくなってきました
もう、だめ……これいじょういわれたら、わたし、わたし……!
こわいよ……たすけて、なおちゃん!


直「」カタカタ ッターン!

菫「――ああああぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!」ビクンビクン

梓憂純直「「「「!?」」」」


……


菫「……あれ、ここは……?」


いつの間にか、私はベッドに横になっていました
ここは、保健室?
なんだか、体がふわふわして……心地いいです


直「あ、目が覚めた?」


直ちゃん……そうだ、私は直ちゃんに……
思い出したら少し恥ずかしくなってきたけど、今は体がけだるくて、どっちかというといい気持ちです


直「大丈夫? 突然倒れたから何かと思った」


まだ、知らないふりをするんだね……もう、いじわるなんだから
はっきり覚えてるよ? 直ちゃんの、甘くて、熱い言葉


直「まだ顔赤いね……やっぱり熱あるんじゃ」


直ちゃんの手が私のおでこに触れます
ふふ、なんか幸せ
そうだ、私、言ってもらってばかりで直ちゃんにお返ししてあげられてませんね
よーし……私からも


菫「直……私も、その……愛してる、よ?」

直「は?」

菫「……え?」


おわり



最終更新:2011年10月12日 01:56