・・・・・

梓「純、ちょっといい?」

純「なに?」

梓「実は昨日部室にジャズ研の子が来て…」

純「?」

梓「…まぁ色々あったんだけど、それはともかく」

梓「ジャズ研の方は大丈夫?」

純「はい? なにそれ」

梓「いや…もしジャズ研の方が忙しかったら、こっちの練習は無理しなくてもいいから」

純「うん、わかった」

梓「……本当に大丈夫?」

純「別にジャズ研は今忙しくないけど」

梓「だったらいいけど…」

純「どうしたのよそんなこと聞くなんて。梓が心配することじゃないでしょ」

梓「ジャズ研の後輩の子に…純が軽音部に入るんじゃないかって誤解されちゃったみたいで」

純「へ?」

梓「だからその子にそんなことはないって言ってその場はおさまったんだけど、一応純からも説明しておいてね」

純「ど、どういうこと? なんでそんな話が…」

梓「純が最近軽音部に入り浸りだったから心配してたみたい。ダメだよきちんと話しておかなきゃ」

純「そ、そうなんだ…」

純(軽音部に入るのは本当だけど…今話すとややこしくなりそう)

純(ていうか、私が梓に気を使わせるとは……)

梓「それにしても、純にあんなにできた後輩がいるなんて」

純「なによ、おかしい?」

梓「少し感心した。面倒見いいんだね」

純「今さら気づいたか」

梓「ちょっとだけ純がうらやましいな。あんなに慕ってくれる子がいるなんて」

純「今日は梓が私を羨ましがる日? なんだか珍しいね。いつもは私が梓を羨ましがってるのに」

梓「それぐらい良い子だったの」

純「ふーん…なんの話してたの?」

梓「部活とか楽器とか…あと純のことも」

純「私のことなんて言ってた?」

梓「大好きで尊敬してるセンパイだって」

梓「思わずそれ本当に純のこと? って聞き返しちゃった」

純「こら」

梓「でもよかった、悪い子じゃなくて」

純「ジャズ研に悪い子はいませんから。私みたいに良い子ばっか」

梓「……」

純「そこ、なんで黙るの」

梓「とりあえず、ちゃんと部活のことは説明しておいてね」

純「説明、ねぇ……」

純「まぁちゃんとやるけどさ。結果的に梓もびっくりするぐらいに」

梓「?」

純「まぁ、梓は気にしなくていいからさ。軽音部の方に集中しなよ、先輩達もあとちょっとで卒業でしょ?」

梓「う、うん…?」

純「それじゃ私、今日は早く部活に行かなきゃいけないから」

・・・・・

純「さてと…」

純(今日はジャズ研のみんなに話をしないと…)

純(まずは部長に事情を説明して……)

ガチャッ

純「あっ…」

部長「あら、私の方が早かったみたいね」

純「もう来てたんだ」

部長「鈴木さんが呼んでくれたんだから、遅れちゃといけない思って」

純「えぇ、なにそれ」

部長「ふふっ、別に。それで、どうしてこんな早く部室に私を呼んだの? なにか大切な話があるって言ってたけど」

純「ああ、そのことなんだけど…」

同級生「…」

純「で、なんであんたもいるの?」

同級生「い、一緒に来てって言われて」

部長「私たち、同じクラスだからついでにね。それとも、私と二人っきりじゃなきゃできない話?」

純「え? そうでもないけど…」

同級生「そ、そうそう! ワタシモジジョウハシッテルワケダシ」

純「? なんで棒読み?」

部長「あら、二人だけで隠し事? なんの話かしら、私も知りたいな」

同級生「ウンウン、ジュン、ハナシチャッテ」

純「えぇっと、実は…」

――――――――
――――――
―――

部長「なるほど、軽音部に兼部……三学期も終わりだっていうのにまた急な話ね」

純「あはは…ぶっちゃけ最近思いついたことで」

部長「ふーん、思いつきねぇ…」

純「…軽い気持ちだってねのは分かってるんだけどね。今もまだ軽い気持ちは抜けてないし」

純「でもどうしてもやりたくて、だから…」

部長「鈴木さんって、衝動的…ううん、情熱的な人ね」

純「え?」

部長「鈴木さんは前から中野さんと部活をやりたかったんじゃない? 自覚はしてなかったとしても、そういう想いはどこかにあったはずよ」

部長「そうじゃなきゃ、急にそんなことは言い出さないはず」

純「えっと、それは……」

部長「それにしても思いきった決断で、びっくりしちゃった」

部長「鈴木さんにそこまでさせるなんて、軽音部ってよほど魅力的なのね」

部長「それとも鈴木さんが優しい人間だから、思わず中野さんに手をさし伸ばせずにはいられなかった…とか?」

純「そ、そんなたいそうな事じゃないってば。それに優しい人間って…いやぁ参っちゃうなー」

部長「でも本当のことよね?」

同級生「う、うんっ」

部長「ねぇ鈴木さん。私は賛成よ、鈴木さんが兼部すること」

純「え…?」

部長「だってそれは鈴木さんのやりたいことなんでしょ? だったら私が止める権利なんてないわ」

部長「大変なことかもしれないけど、私もできることがあればサポートするし」

純「…本当にいいの?」

部長「もちろん。私たち同じジャズ研の仲間でしょ? 鈴木さんのこと、応援する」

純「ありがとう…!」

同級生「よかったね、純」

部長「そうと決まれば、みんなにも話しておかないとね。とりあえず部活が始まる前にみんなで集まりましょう。大丈夫よ、みんなもきっと鈴木さんの考えを理解してくれるはずだから」

部長「私の方から連絡しておくね」

純「本当にありがとう、そこまでしてくれるなんて…」

部長「だから気にしないでって。ジャズ研も軽音も…あと受験もね」

純「まっかせて! こう見えても期待には100%応える人間だから!」

部長「ふふっ」

ガチャッ

後輩c「あ…」

部長「あら、いいところに来たのね」

純「やっほ」

後輩c「じゅ、純先輩……」

純「梓と仲良くなったんだって? 聞いたよっ」

後輩c「は、はい」

部長「今ちょうどね、鈴木さんのことについつ話していたんだけど……」

後輩c「……あのっ」

部長「どうしたの?」

後輩c「あ…いえ、部長じゃなくてその…純先輩に……」

部長「え?」

純「私に?」

後輩c「純先輩…ちょっとだけ、一緒に来てくれませんか? お願いします」

純「別にいいけど…?」

部長「……」

純「それじゃ私、ちょっと行ってくる」

後輩c「し、失礼します」

部長「えぇ、分かったわ。部活が始まるまでには戻ってきてね」

純「うん、じゃ」

ガチャッ、バタン

部長「……ふぅ」

同級生「……」

部長「話は決まったわね、あとはみんなを説得するだけ」

部長「ま、たかが兼部でどうこう騒ぐ人なんてほとんどいないと思うけど」

部長「ねぇ、あなたもそう思うでしょ?」

同級生「う、ウン。でも純、大変になりそう…」

部長「そんなの私の知ったことじゃないわ。自分で決めたことなんだから、自己責任でしょ?」

部長「まぁ一応手を貸せる時は貸すけどね、恩は売っても損はないし」

同級生「……」

部長「分かってるわよね、私との約束」

同級生「分かってるけどォ…あれって約束なのかなぁ…」

部長「なに?」

同級生「な、なんでもないです」

部長「ふふっ、いい子ねあなたも」

同級生「……」

――――――――
―――――
―――

……数十分前

合唱部員「ほ、本当に?」

部長「前の部長との縁があってね、私もバトン部やバレー部の部長と仲が良いの」

部長「私からその子達が頼んで…もし承諾してもらえたら、体育館での練習の許可がもらえるわ」

合唱部員「あ、ありがとう…!」

部長「お互いに部員数が多い部活は大変よね。それなのに吹奏楽部ばかりに講堂使われたら……」

部長「できるのなら、やっぱり広いところで練習したいわよね?」

合唱部員「うんっ! ありがとう、こんなにしてもらえるなんて…本当にありがとう」

部長「気にしないで。困った時はお互いさまでしょ? またなにかあったら私にでも相談してね」

合唱部員「私も、何かあったら必ず力になるね。それじゃまた!」

部長「またね」

部長「……ふぅ、さてと」

Prrr、Prrr

部長「?」

部長(鈴木さんからのメール…?)

部長「……」カチカチ

部長「……」

部長(大事な話、か……)

部長「……」キョロキョロ

部長「……」

部長「……ねえ」

同級生「え? なに?」

部長「鈴木さんからこんなメールが来たんだけど、なんだか分かる?」

同級生「どれどれ…『今日大事な話があるからいつもより少し早く部室に来て。おねがい』」

部長「この大事な話って部分なんだけど…」

同級生「ああ、これはたぶん兼部のことじゃ…」

部長「兼部?」

同級生「だから純が軽音部に兼部するって話……あっ」

部長「へぇ~…そんな話が」

同級生(……これ部長に今バラしちゃってよかったのかな)

同級生(ていうか…目付きがなんか変わってる)

部長「ふふっ……」

部長「なるほどね、あなたは鈴木さんと仲が良いからも何か知ってると思ってたけど」

同級生「あの…あんまり怒ったりしないであげてね」

部長「怒る? なんで」

同級生「へ?」

部長「なんで怒る必要があるの、理由がないでしょ。ジャズ研を辞めるわけでもないのに」

同級生「そ、そっか…そうだよね!」

同級生(よかった、話が分かってくれて)

部長「ふふっ、これは良い機会ね」

同級生「……?」

部長「鈴木さんが軽音部とのパイプ役になってくれれば、軽音部をこっち側に引きずり込むのも容易くなるし…悪いことじゃない」

同級生「こっち側???」

部長「あなたには分からないかもしれないけど…あるのよ、そういう派閥が。部活間や、人間関係の間に……ね?」

部長「その中に、個人的に気に入らない派閥があるの。だから私の派閥を大きくして、その気に入らない派閥を潰しちゃおうかなって」

部長「そのためには色んな人との縁を大事にしないとね」

同級生「そ、そうなんだ…」

同級生(なんだかよく分からないけど…こわい)

部長「でもそれじゃあ何だか鈴木さんを利用してるように見えちゃうかも。私ってそんなひどい人間?」

同級生「え?」

部長「ねえ、どうなのよ」

同級生「えっと……そ、そんなことないと思うけど」

部長「そう、よかった。でも私…あなたの前でうっかり本音を漏らしちゃった。もしこのことがみんなに知られちゃったら、私、嫌われちゃうかも……」

部長「私が今言ったこと、みんなには黙っててくれる?」

同級生「え……あの……」

部長「ね、黙っててくれるでしょ? もしみんなにうっかりバラしたりしたら……私、あなたにひどいことするかも」

同級生「ひっ!?」

部長「約束しましょ、絶対に黙っててくれるって……ね?」

同級生「は、はい……黙ってます」

部長「そうだ、いいこと思い付いた。もうすぐ三年生になるんだし…心機一転、私たちも新しい関係を築きましょうか」

同級生「へ?? え???」

部長「私が上に立って、あなたが私の下につく。言ってる意味分かる?」

同級生「え…あ……な、なんとなくわかります……」

部長「ふふっ、よかった。前からあなたとなら仲良くなれると思ってたの。これからもよろしくね」

部長「私の言うことは、なんでも聞くのよ?」

同級生「……」

部長「返事は?」

同級生「はい…」

部長「いい子ね。さて…鈴木さんに会いに行きましょうか」

同級生(どうしてこんなことに……)

―――
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最終更新:2011年10月12日 20:12