##22

先輩2「――で、今日はどうしたの? 急に会いたいだなんて言い出して」

先輩「理由がないといけなかった? 別にいいじゃない、こうやって会えるのもたまになんだし」

先輩2「そうね…まぁたまにはいいかもね」

先輩「それにしても、一年会わないだけですっかり変わってるのね」

先輩2「当たり前よ、そういうあんただって大人っぽくなってるじゃない。けど泣き虫なところは治ったのかしら?」

先輩「むっ…泣き虫ってなに」

先輩2「違うの? 昔からよく泣いてたじゃない」

先輩「勘弁してよ、私は泣き上戸ってキャラじゃないんだから」

先輩2「私はあんたの泣き顔好きよ。見てておもしろいし」

先輩「そんなことよく言える…」

先輩2「ベースは? まだ弾いてるの?」

先輩「うん。今バンドやっててね、楽しんでる」

先輩「そっちは?」

先輩2「私はもうやってないわ。レポートに資格の勉強に…色々忙しくてね」

先輩「相変わらず真面目。恋人とかいないの?」

先輩2「……いなくて悪かったわね。そういうあんたはどうなの」

先輩「いないけど」

先輩2「…自分もいないのに何でわざわざそんなこと聞いてくるのよ」

先輩「いないって聞いて安心したくて。私たち仲間ね」

先輩2「バンドやってるんだったら簡単にできると思うけど?」

先輩「だって私がやってるバンドはガールズバンドだし、男の人はこわいし…」

先輩2「こわいって…」

先輩「仕方ないじゃない、ずっと女子高だったから…耐性ないのよ」

先輩2「女子高ねぇ…確かにそうだったけど」

先輩2「そういえば知ってる? 今日桜ヶ丘の卒業式よ」

先輩「うん、私の方にもメール来てた」

先輩2「一年か…ほんと時間過ぎるのは早いわね」

先輩「なに? おばさんくさい」

先輩2「実際そう思うんだから仕方ないじゃない」

先輩2「去年まで高校生だった私たちはもう大学生。面倒を見ていた子は卒業、その下は三年生に進級」

先輩2「あっという間よ」

先輩「懐かしいわね、高校生活。ジャズ研楽しかったな」

先輩2「今はどうなってるのかしら。コンテストは三位で賞を取ったって聞いたけど」

先輩「夏に一回会いに行ったら、賑やかになってるみたいよ。部員数も増えて」

先輩「純なんて後輩に結構なつかれてたし」

先輩2「純? ……ああ、あの子ね」

先輩2「あの子は要領いいから、上手くやってそうね」

先輩「他のみんなはどうだろ…なんか気になってきた」

先輩2「今から卒業式に行く?」

先輩「まさか、今私たちが行ったって邪魔になるだけでしょ」

先輩2「あはは、そうね」

先輩「でもまぁ……これからもずっとジャズ研が残ってくれると嬉しいな」

・・・・・

先輩C「…ったく、こんな時期に兼部だなんて何を考えてるんだ」

先輩A「いいじゃない、本人はやる気なんだし」

先輩C「はぁ…中途半端にならないといいけどな」

後輩A「こんな時まで純ちゃんのこと心配してるの? 私たちもう学校卒業しちゃったのに」

先輩C「……卒業しようが何だろうがあいつは私の後輩だ。心配してなにが悪い」

先輩B「やっさすぃ~い」

先輩C「…だいたいお前はどう思うんだ、兼部には賛成なのか?」

先輩B「人間の可能性は無限大。強い意志と情熱さえあればなんでもできる。そしてその想いは新たな未来作り、いずれ人と人がお互いを理解し分かりあう平和な世界を築き上げるのさ」

先輩C「なんだその無意味に大仰な台詞は…」

先輩B「正直なところ、兼部がどうこうなんてそんな大きな問題じゃないと思うけど。良いか悪いかなんてやってみないと分からないんだし~」

先輩B「それに純は優しい、だけど自分にできる事とできない事は分かってるやつだよ」

先輩B「そんな純が兼部するって決めたんなら、大丈夫でしょ」

先輩C「……」

先輩A「そうそう心配したってしょうがないんだし、純ちゃんを信じてあげようよ。ね?」

先輩C「まぁ…な」

先輩B「ま、部活なんて自由にやるもんなんだから私たちがいちいち口出しすることでもないし~」

先輩C「……部活か。やりたくてももうできないんだろうな、私たちは」

先輩A「寂しい?」

先輩C「……」

先輩A「もう卒業だもんね…けど、できることだったらこのままずっと学校にいたいなぁ」

先輩B「……」

先輩A「色々あったよね、私たちも。二人なんて一年のころは仲悪かったし」

先輩C「今でも良いとは思わないけどな」

先輩B「ひでぇ」

先輩A「もぉ~、二人の仲取り繕うの苦労したんだからね。ほんとに…あの頃は……グズッ」

先輩C「……」

先輩A「ケンカしたり…遊んだり…ヒッグ……楽しくて……」

先輩B「……」

先輩A「グスッ……やっぱり卒業したくないよぉ……」

先輩C「ばか…泣くな。お前が泣いたら……私まで……」

パシャリッ

先輩C「!?」

先輩B「イェイ、泣き顔写メでゲット~」

先輩C「あ…お、おい! なに勝手に撮ってるんだ、消せ!!」

先輩B「や~だよ~」

先輩C「こら逃げるな!」

先輩B「写真消して欲しかったら、学校の外まで私を追いかけてきな」

先輩B「それとも、本当にこのままずぅ~っと学校に残ってるかい?」

先輩A「え…」

先輩C「……」

先輩B「そんじゃ~私先に逃るから、十数えたら追いかけてきてね」

先輩A「……」

先輩C「……ハッ、ばかだな。お前は足が遅いんだから特別に十五秒待ってやる」

先輩B「いいよそれで。そんじゃよ~いドン」

先輩A「もう……ふふっ、しょうがないなぁ」

先輩C「……ああ、確かにあいつはしょうがないやつだ」

先輩C「だけど悪いやつじゃない」

先輩A「もうちょっと素直な言い方してあげればいいのに」

先輩C「うるさいな……時間だ、行くぞ」

先輩A「あっ、ちょっと待ってよぉ~!」

・・・・・

同級生「春から上級生になる君たちにセンパイとしてアドバイスを授けよう!」

後輩a「はいっ!」

同級生「がんばれ!! 以上っ!」

後輩b「……はい?」

同級生「いやぁ、言ってみたものの特に思い付かなかったから…ごめんね」

後輩b(ダメだこの人…)

同級生「とりあえず、こんど入ってくる一年生の面倒はあんた達がみるんだからよろしくねっ」

後輩c「は、はいっ」

後輩a「センパイもレギュラーに定着できるといいですね」

同級生「もうバッチリ! もう超余裕!」

部長「あら、自信満々なのね」

同級生「だわっ!? び、びっくり…急に現れないでよ」

部長「私が急に現れたら迷惑なの?」

同級生「い、いえ…そういうわけでは……」

部長「そう、ならよろしい」

後輩b(……何か弱味でも握られてる?)

部長「あなた達もいよいよ二年生ね。これからもっと練習が厳しくなると思うけど、頑張るのよ?」

後輩a「はいっ!」

同級生「あーお腹すいてきた。昼過ぎだしなんか食べに行きたくない?」

後輩a「いいですね、行きたいです!」

後輩b「部長はどうします?」

部長「私は遠慮するわ。これから用事があるの、ごめんね」

同級生「ほっ…」

部長「なに?」

同級生「い、いえ!? 残念だなぁー!」

後輩b「あんたは来るでしょ?」

後輩c「うんっ」

後輩a「それにしてもさぁ……なんか変わったよね」

後輩c「え…?」

後輩a「前は暗くて口数も少なかったけど、今は明るくなったじゃん」

後輩b「ほんと、一年の頃と比べるとだいぶ変わったよあんた」

後輩c「そ、そうかな…えへへ」

後輩c「あ、で、でも二人のおかげだよ? 二人が友達になってくれて本当に嬉しかった」

後輩c「センパイたちにもお世話になったし」

同級生「いやー、それほどでも」

後輩c「それと純先輩にも…色んなことをたくさん教えてもらって……」

後輩c「私、ジャズ研が大好きです。だから二年生になったら一年生にも大好きって言ってもらえるような部活にしたいです!」

後輩a「おおっ、熱いね!」

後輩b「いいんじゃない、それ。素敵ね」

後輩c「えへへ」

部長「すごいわね。あの子、あなたより立派よ」

同級生「そ、そんなことない! 私だって……!」

同級生「みんなより、百万億兆倍がんばる!!」

部長「……やっぱり心配ね、あなた」

・・・・・

純「――こうやって憂と二人で軽音部に向かってると、あの日のこと思い出すなぁ」

憂「あの日?」

純「ほら、初めて部活見学しに行った時」

憂「あ~思い出した。二人で軽音部の見学に行ったよね」

純「あの時は驚いたなぁ。いきなりお茶出されるし、ジャージだったし」

憂「あははっ」

純「ま、そんなこんなでジャズ研に入った私だけど、結局軽音部にも入るんだもんね」

純「一年の頃の私がそんなこと聞いたら絶対驚くよ」

憂「私は部活やってこなかったし、楽しみだなぁ」

純「しかしまぁ…」

純「これで一年生が入部してこなかったら結局廃部なんだけどね」

憂「それは言わないであげて純ちゃん…」

純「全ては春休み明けにかかってるかぁ…どうなることやら」

憂「だ、大丈夫だよ! 一人ぐらいはたぶん」

純「そうであってほしいけどさ。…いざって時は一年を拉致して無理やり入部させる、とか?」

憂「それはやり過ぎだよ」

純「でもやっぱり不安なんだもん。ジャズ研のみんなに兼部するって言った手前、廃部になっちゃったら格好つかないし」

憂「ジャズ研の人たち、純ちゃんが兼部すること認めてくれたんだ」

純「まぁ一応ね。さっきセンパイに色々言われたりもしたけど」

純「でもみんな、ちゃんと分かってくれた」

憂「そっかぁ、優しい人たちなんだね」

純「うんっ」

憂「…ごめんね、純ちゃん一人に大変なことさせちゃって」

純「ぜーんぜん。何も問題ないよ、憂」

憂「だけど……」

純「……ならもっと早く入部してればよかったのかな」

憂「え?」

純「ジャズ研入ったことに後悔はないし、むしろ良かったと思ってる……でもあの時、一年の時に軽音部とジャズ研、どっちを選んだ方が正しかったんだろうって考えたことがあって」

純「ジャズ研のみんなは事情を分かってくれたけど…やっぱり、今回ばかりは自分の都合のいいように勝手しちゃったかな」

憂「純ちゃん……」

純「でもさ、それでも不思議なことに後悔は全くないんだよね」

純「もしジャズ研に入ってなかったら」

純「もし私がベースを弾いてなかったら」

純「もし梓と友達になってなかったら」

純「どれか一つでも欠けてたら今の私はいないわけだし、だったら別に今までやってきたことは悪いことじゃないんだなって思うようにもなった」

純「そして今の私が軽音をやりたいと思ってるのなら、それでいいと思う」

純「まぁなにが言いたいかっていうと」

純「今の気持ちを、大切にした方がいいのかな…ってこと」

純「だから憂が気にすることじゃないの。私は、私がやりたいようにやっただけなんだから」

憂「純ちゃん…ありがとう」

純「どういたしまして」

憂「…お姉ちゃんたちがいなくなって、学校の景色が変わっちゃうね」

純「これからは私たちの時代でしょ。軽音部、じゃんじゃん盛り上げようよ!」

憂「うんっ!」

純「とりあえず軽音部に入ったらティータイムを楽しもうかな。一度やってみたかったし」

憂「純ちゃんってば、そればっかはダメだよ?」

純「分かってるって。練習もやります」

純(あっ、そうだ。ジャズ研との合同練習とかあったら面白そうかも……今度提案してみようかな)

憂「純ちゃん、もうすぐ軽音部だよ」

純「今は梓一人かな…?」

憂「たぶん……お姉ちゃんたちはもう行っちゃったと思う」

純「きっと寂しがってるんだろうなぁ、梓。泣いてたりして」

憂「ふふっ、ありえるかも」

純「梓のことだから、だいたい想像つくよね。結構単純だし」

憂「でもそれも梓ちゃんのいいところだよ」

純「まぁね……さてと、それじゃ」

純「梓を驚かせにでも行きますか」

ガチャッ――

##22 おわり





最終更新:2011年10月12日 20:20