出来るだけ放課後のことを考えずにいると、あっという間に放課後になった。

きっと彼女は今日、みんなに話すだろう。

部室の前に着くと、ドアの前から騒がしさが伝わる。

明日もそうであってほしい、そう祈りながらドアを開けた。


唯「あ、澪ちゃん!」

梓「もう体調はいいんですか?」

澪「うん、昨日は悪かったな」

紬「いいの、元気そうで何より」

律「…よし、澪来たな」

律「梓、練習したいと思うけどちょっと時間くれ」

梓「何でしょうか?」

律「個人的な用で悪いんだけど、みんなに話がある」

唯「なになに!?」

紬「何だかドキドキするわね~」

律「…というわけだ、澪もいいな?」

澪「うん…いいぞ」

律「じゃあとりあえず…唯と澪、席替え!」

唯「席替えタイム!」


嬉しそうに唯がこちらへ来る。

わたしは席を譲って、彼女の横に座った。


唯「ムギちゃん、あずにゃん、お邪魔します!」

紬「唯ちゃんたちだけずるい…」

律「えっとじゃあ…ムギと梓、席替え」

紬「わ~い席替え~」

梓「…何が始まるんですか」

律「いいからいいから、座って」


律「じゃあ、本題に入る」


彼女が立ち上がると、みんなの視線がそちらに集まった。


律「えー、わたくし田井中律と」

律「…田井中律と?」


わたしの顔を覗き込んで、もう一度言った。

とっさにわたしも立ち上がった。


澪「あ…秋山澪は…」

律「このたび、真剣にお付き合いさせていただくことになりました!」


さっきまで騒がしかった部室が静まり返る。

誰の顔も見れず、ただじっと机を見つめた。

わたしの右手に、彼女の手が伸びてきた。

それに少し驚いて前を見ると、みんなの視線がわたしたちの手に集まっていた。


唯「うわあ…」

紬「あらあら…」

梓「えっと…」


唯は驚いたように笑ってて、ムギは頬に両手を当ててうっとりしている。

…梓は耳まで真っ赤。


律「…そういうことだから、よろしく」

澪「…よろしく」

唯「…りっちゃん!」


勢いよく、唯まで立ち上がる。

唯「初恋が実ってよかったね!」

梓「え?」

紬「え?」

律「は?」

唯「え!?違うの!?りっちゃんの初恋の相手って澪ちゃんのことでしょ!?」

律「ちょっ…バカ!言うなよ!」

紬「合ってるのね!?」

唯「言ってたでしょ!?その子とキスしたって!」

梓「キ、キス…」

律「あ!もう!バカ!」

紬「あらあらあらあら」

唯「合ってるよね!?わたし間違ってる!?」

律「いやいやいや」

唯「ムギちゃんもその話聞いたよね!?」

紬「うん、聞いちゃった~」

唯「ほら!」

澪「唯…ちょっと落ち着いて」

律「…合ってるよ!わたしはずーっと前から澪が大好きだよ!」

唯「きゃー!」

紬「きゃー!」

澪「…ちょっとわたしが恥ずかしいからやめてくれないか」

律「りっちゃんの初恋実ったよ!ほら拍手でもしろよ!」


文字通りのやけくそで彼女が拍手を促すと、

先ほどまでと打って変わって、また騒がしい部室に戻った。


唯「お二人さん!おめでとう!」

紬「おめでたいわ~」

唯「ほら、あずにゃんも!」

梓「お、おめでとうございます!」

紬「梓ちゃん顔真っ赤~」

唯「うぶってやつだね、あずにゃん!」

梓「…結婚式には呼んで下さい!」

澪「…いきなり話が飛躍したな」

紬「結婚式だって、オシャレして行かなきゃ!」

律「…ちょっと、気が早いって」

唯「女の子同士でも結婚出来るんだね!」

梓「あ…」

紬「それは…」

澪「…唯、無理だよ」

紬「…今の日本じゃ、ね」

唯「あ、そうだよね、ごめん…」

律「…それは出来ないけどさ、わたしは誰よりも澪が好きだから!」

梓「…それでいいと思います!」

紬「りっちゃんかっこいい!」

澪「ちょっともうこの辺で…」

唯「あ!」

紬「唯ちゃんどうしたの?」

唯「結婚式しよう!ここで!」

唯「ほらほら、そうと決まればケーキだよ!」

紬「どんとこいです!」


わたしたちそっちのけで準備をする2人。

梓は手伝おうとするが、まだ動揺してるのかただうろうろしてるだけだった。


唯「ちょっと2人はお外で待ってて!」


ついにわたしたちは、部室の外へ追いやられた。


律「…何か、良かった、な?」

澪「…良かった」


急に緊張が解けて、その場に座り込んだ。

それに合わせて彼女もしゃがみ込む。


律「…幸せになろうな」


そう言ってキスをされた。

誰かに見られたんじゃないか、と周りを見渡すが、

ドアの向こうは相変わらずバタバタしている。

周りにも、誰も居なかった。


澪「…そうだな」


そう答えて、キスを返した。

――――

唯「準備できたよー!」


その声に立ち上がり、2人でドアを開ける。

するとムギがキーボードで結婚式の曲を演奏する。

唯と梓は目いっぱいの笑顔で、これでもかと拍手をくれる。

わたしたちはゆっくり、手を繋いで机に向かって歩いた。

机にはたくさんのケーキが並んでいる。


唯「それでは、ケーキ入刀!」


梓がフォークをわたしたちに手渡す。

ムギのキーボードの曲調は変わって、優しい曲になった。

いつか観た、アニメ映画の曲だった。

魔法じゅうたんに乗って、世界を見渡しながら2人で歌っていた記憶がある。

英語の授業で、歌詞を訳したことがあった。


――誰もダメだと言わない

――どこへ行けとも言わない

――夢をみているだけなんて言わないよ


そんな詞だったと思う。

1本のフォークを2人で握り、ケーキの先に差してみる。

唯と梓がうっとりこちらを見て、拍手。

ムギもつられ、キーボードから手を離してまた拍手。

本当の『結婚式』とはかけ離れていたけれど、

わたしたちは互いの顔を見て笑いあった。

不意にドアが開いて、さわ子先生が入ってきた。


さわ子「あら、何事かしら?」

唯「結婚式だよ!」

さわ子「…2人の?」

唯「そうだよ!拍手!」

さわ子「はいはい、パチパチ」

律「…反対しないの?」

さわ子「本人たちがよければいいんじゃない?」

紬「わたしもそう思います!」

梓「同じくです!」

さわ子「それにしても、生徒にも先越されるのね…」

律「ははーごめんね?」

さわ子「はあ…何かよくわかんないけど、澪ちゃんりっちゃんおめでと」

澪「…ありがとうございます」

さわ子「それより早く食べない?」

唯「さわちゃん…」

梓「あなたって人は…」

紬「まあまあ」

さわ子「お腹すいたんだもん!それより何で相談してくれないの!?」

律「いや、何か急に結婚式しようって唯が言い出したから…」

さわ子「ウエディングドレスくらい作ってあげたわよ?」

唯「さわちゃん先生、すごい!」

さわ子「まあいいわ、ほら『あーん』とかしちゃいなさいよ」

紬「待って!わたし写真撮る!」

唯「わたしもー!」

梓「わたしも撮るです!」


その日は結局、1度も練習しなかった。

だけど梓は怒らなかったし、みんな祝福してくれた。

わたしたちはそれからずっと、笑顔だった。


それから時は過ぎて、同学年のわたしたちと和は全員同じクラスになった。

担任にはさわ子先生。

和にもわたしたちのことを話すと、みんなと同じよう祝福してくれた。

毎朝の待ち合わせも変わらず、楽しくてかけがえのない時間を過ごした。


唯と彼女は相変わらず、先生からの呼び出しを食らう。

和とお互いの幼なじみの苦労話になると、ムギは目を輝かせた。

和を部室に招き、唯の話をしていると呼び出された2人が遅れてやってきた。


「いろんなことがあって、人は強くなっていくってことだよ」

ため息をつきながら彼女が言った言葉。

何が彼女にそう言わせたかはわからなかったけど、わたしたちもその通りだった。

その言葉のおかげで、あれだけ拒んだ昔話も、笑って話すことが出来た。


あっという間の高校生活が終わった。

淡々と卒業式が終わり、また部室に集まる。

今まで平気な子していたのに、梓が大泣きした。

やっと、自分の痛みを表に出せたんだ。

そんな可愛い後輩のために曲を贈った。

泣いていた梓は、今度は泣きながら笑っていた。

さわ子先生と和も来て、次は5人で演奏した。


部室を出て、張り詰めていたものがわたしから一気に流れ出した。

そんなわたしをなだめてくれたのは、また彼女だった。

泣いても、また笑えるんだ。

これからも、ずっとそうであればいいな。


澪「おい、早くしろって」

律「待って、まだ今日の日記書いてない」

澪「トラックが先に着いちゃうぞ!」

律「10分で書ける!」

澪「…今も付けてるんだな」

律「うん、もう日課ってやつ?」

澪「読みたい!」

律「読ませません」

澪「だってひーまー」

律「ジタバタしない!」




○月○日


今日、生まれ育ったこの家を出る。

高校3年間、本当に色んなことがあった。

毎日楽しかった!

辛いことも、苦しいこともあったけど、どれも大切な思い出。

桜高入って、軽音部立て直して、みんなでバンド組んで。

3年は、ライブも劇も大成功!

しかもみおとロミジュリ!クラスのみんなに「コンビ」なんて言われて…

うれしいやら恥ずかしいやら…うちら、バレてたのか!?

ライブはほとんど覚えてないくらい、全力でやりきった。

みんな泣いてたのに、梓は泣かなくて…本当はあいつが一番泣きたかったよな。

最後の最後で、やっと表に感情出してくれて、部長はうれしかったよ。

頑張れ、次期部長!

…梓ならやれるよ。おーえんしてる。


本当、泣いたり笑ったり、忙しかったな。

そして軽音部、みんな無事大学合格!

きっとこれからも忙しくなるな。

唯、ムギ、そしてまた…みおと一緒だ。

「みんなと一緒がいい」とか言ってたけど、

大学までわたしと一緒を選ぶなんて、みおちゃんかわいすぎだろ!

そしてそんなみおちゃんと、今日から同棲しちゃいます!


みおとは本当、色々あったけど…

わたしちょー幸せ。

わたしもみおを幸せに出来てるかな?

これからも一緒にわたしと笑っててください。


―――りっちゃんより。




律「…よし!」

澪「書けた?」

律「おう!」

澪「じゃあ…行くか!」

律「よっしゃー!」




ということで終わり!



戻る
番外編  ※まだです・



最終更新:2011年10月15日 01:47