律「友よ…一日だけ泊めてくれ!玄関先でもいいから

唯「そんな…いいよいいよ、入って律ちゃん。風邪ひいちゃうよ」


律「かたじけねぇ…!」


唯は重大なことに気づく…。部屋には姫子がいた。こんなエロチシズムな現場を見られたらまずい。


唯「律ちゃん」


律「ん」


唯「シャワー浴びてきなさいな」


律「いや…そんな…いいよそこまでは」


唯「(くっ…)」


唯「律ちゃん、お願い!風邪ひかれたら…あたし…!」ウルウル



律「…わかった、わかった」


唯「(そうだそれでいい…)」ホッ



時間稼ぎにはなるだろう。現状を少しでも好転させるためだ。
律が浴室に入ったのを見計らって唯は姫子の所へ戻る。


唯「姫ちゃっ…もがっ」


姫子「しーっ…」チュ


唯「ほぁ…」


姫子「律が来たみたいね…」


唯「あ…そうなんだよ。どうしよう…」


姫子「うん…」


部屋の中を見渡す姫子。
この広さでは隠れる場所はなさそうだ。


姫子「(ベッドの布団に包まろうかしら…)」


姫子「(そうだ!)」ピコリーン


姫子「よいしょ」


唯「姫ちゃん…狭くない?」


姫子「ん、平気みたい」


ベッドの下に潜り込むという大胆不敵な作戦に出た。


唯「…チュッ」


姫子「ん…お別れのキス?」


唯「少しの間だけどね」



名残惜しさに思わずキスしてしまう唯。



姫子「じゃ、またね」


唯「うん」


姫子はベッドの下に消えた。あとはいかにかい潜るか、自分の力量が問いただされる。


律「うぃー…上がりましたよ」


唯「律ちゃん、はい着替えだよ」


律「ありがと、唯」


唯「(律ちゃん…カチューシャしないんだ)」


律「どうした、唯」


唯「あっ…いやぁ、律ちゃん綺麗になったね」


律「何…あたし…口説かれてる…!」


唯「お嬢さん…一緒にお茶でもいかがかな?」


律「あはは、冗談がお上手ね」


唯「えへへ」


唯はどこか安心した。高校時代と変わらず冗談を言い合う仲であることを。


律「そういやさぁ、姫子は帰れたかな」


唯「えっ…!?あ、うん…タクシー乗り場までは一緒に付き添ってくれて…」


律「ならいんだけど…」


律「(ん…)」


視線は唯に向けたまま、あるものが目に入る。




手にしたのは姫子のワイシャツ。


唯「律ちゃん…ごめんごめん!洗濯したの片付け忘れちゃって」


律「あ…」


律「(間違いない…この香水の匂い…)」


唯「(感づかれてる…?)」


姫子「(ぅう…)」


姫子は唯と律の会話が耳に入らなかった。


姫子「はぁ…はぁ…」


それは…尿意…!


姫子「(駄目…静かにしなきゃ…)」


姫子の意志に反して、呼吸は乱れ、体をよじらせる。


律「平沢さん」


唯「なになに」


律「姫子をどこにやった…」


唯「な…何言ってるの?律ちゃん」


律「ワイシャツさ」


唯「ぬ」


律「居酒屋で姫子の隣だったからさ…わかるんだよ、あの香水の匂ひ」


唯「…!」


律「あの後…何かあったんじゃないのか」


唯「それは…その…」


律「…姫子!いるんだろ?」


姫子「…!」ビクッ


姫子「(あ…出ちゃ…)」


ショワァァワァァ

突然、自分の名前を呼ばれ驚いた姫子のダムは門を開いた。


姫子「あぁ…あ…」


この歳で漏らすなど微塵も考えなかった。唖然とする姫子。


律「今のは姫子の声か…」


唯「(万事休すか…)」


姫子「(もうっ…恥ずかしい恥ずかしい…!)」


律「見ーつけた!」



ひょこっとベッドの下を覗き込む律。腕を掴まれご用となった…。



律「なんか…濡れてない?」


姫子「あぁ…ちょっと雨でね…!」


唯「(おしっこ)」


律「隠れなくてもいいのになー」


姫子「ちょっと驚かそうと思っただけよ」


無理に笑ってみせても、顔が引き攣ってしまう。羞恥心で今すぐに逃げ出してしまいたい。



唯「…っ、姫ちゃん、お風呂入りなさいな」


姫子「…そうね、お邪魔する」


見兼ねた唯がフォローを入れる。



律「(なんだこの気まずい雰囲気…邪魔しちゃったかしら)」



~風呂場~


姫子「…」


頭から思い切りシャワーを浴びる。


姫子「ふぅっ…」


鏡に映る自分。
大人びた顔、体を見ては先程のことが思い出される。ショワァァワァァ…


姫子「もうっ…」


馬鹿!さっきまでの私!…と自戒する。


姫子「(シャワー浴びたら帰ろう、恥ずかしくて合わせる顔がないわ…)」



ガチャ♪



唯「姫ちゃん、お湯加減はどうかな?」


姫子「…唯!律も」


律「一気に三人は狭いな、湯舟入るよん」



何しに来たのだろうか…。嘲笑いに来たのかな。哀れな自分を。



唯「背中洗うね」


姫子「あ、うん…」


唯「ゴシゴシ♪」


唯「姫ちゃんのきめ細やかな肌…堪らんのう…」


姫子「…ありがと、唯、私お風呂上がったら帰るね」

唯「えっ…」


唯の表情が曇る。
やり切れない気持ちになる。



律「ん?朝まで飲むんだけどなあたしらは」


姫子「え…」


唯「…うんっ、姫ちゃんも一緒にね」


律「久しぶりの再会だしさ、付き合ってよ」



姫子「唯律…」


唯「ねぇねぇ、お願い姫ちゃん」スリスリ


胸を擦り寄せてくる唯。柔らかな感触が背中を刺激する。


姫子「うん…わかった」


唯「やった!」


律「唯は居酒屋の時みたく泥酔すんなよー」


唯「大丈夫だよー」


姫子「ふふっ」


ありがとう唯&律。
逃げ出そうとしてごめんなさい。


姫子「唯、交代しよ」


唯「はぁい」


ニコニコした唯。この笑顔を守っていくんだ。これからもずっと…。



唯「ぁぁっと…」ツルン


姫子「っ…ちょっと平気?」


律「あはは、まだ酒が残ってるのかー?」


姫子「唯…唯…?」


~~~

唯「…!」パチクリ


唯「保健室の天井だ…」


姫子「…」ウツラウツラ


唯「…姫ちゃん」


姫子「…あ、おはよう」


唯「さわちゃんは?」


姫子「先生ね、お仕事あるみたいで…それで私が代わりにね」


唯「ごめんねぇ…」


姫子「平気よ、ちょっと熱計ってみて」


体温計を手渡される。
気付いたら、さわ子の代わりに手を握っててくれた。


唯「あのね、姫ちゃん」


姫子「ん?」


唯「夢みたんだぁ」


姫子「へぇ…どんな夢?」

唯「姫ちゃんが大好きになる夢でした」


姫子「ふーん…?」


体温計が鳴る。


姫子「ん、6度7分。平熱ね」


唯「一緒に帰ろう、姫ちゃん」


姫子「うんって…何時まで手握ってるの?」クス


唯「えへへ…ずっとだよ♪」



二人は仲良く帰りました。めでたしめでたし。



最終更新:2011年10月27日 23:00