放課後、教室前の廊下

澪「和、今いいかな?」

和「いいけど、どうしたのよ澪、神妙な顔しちゃって」

澪「いやその……ちょっとさ、相談したいことがあって」

和「相談?私に?」

澪「うん、なんていうか、和がいいかなと思ってさ」

和「ということは他の人には聞かれないほうがいいのかしら」

澪「あ……そうなんだ」

和「そう、じゃあ場所を移しましょうか」

澪「場所を?何処へ行くんだ?」

和「いいからついて来て」

 ガラリ

和「どうぞ入って」

澪「へえ、生徒会室の奥にこんな部屋があったんだ」

和「生徒会相談室、こういう時のための部屋なのよ」

澪「こういう時の?」

和「そう、先生にも言い難い悩み事とか困り事なんかをね、ここで聞いてあげたりするのよ」

澪「生徒会ってそんな事もするんだな」

和「心のケアも大切だからね」

澪「でもそう言われるとなんかこう堅苦しいっていうか」

和「気にしないでいいのよ、友達なんだから気楽に話して」

澪「あ、ああ……じゃあ、頼むよ」

和「うん」

澪「あの……えっと」

和「……」

澪「あー、その」

和「……」

澪「これはその、私じゃなくて知合いの人のことなんだけどさ」

和「ダメよ澪」

澪「えっ?」

和「知合いの人のこと、じゃなくて澪のこと」

和「でしょ?」

澪「いやっあのっ……うん」

和「いいわ、続けて」

澪「だからその……つまりその、どう言えばいいのか」

和「そうね、じゃあなぜ澪は私に相談しようとしたのかしら?」

澪「ああそれは、和は唯と幼馴染だからさ……」

和「唯と?そうね」

澪「だから……」

和「ちょっと待って、もしかして唯のこと?」

澪「ああいや、そういうことじゃないんだ」

和「ならいいわ、それで?」

澪「だから和と唯は幼馴染で、ずっと一緒でやってきわけだろ」

和「そうね」

澪「友達っていうか親友で、相手のことは大体なんでも判ってる」

和「まあ唯は未だに判らないところもあるけどね」

澪「深い友情で繋がってるよな」

和「なのかしらね」

澪「でさ……その、そういう関係から」

澪「もう一歩踏み出せたりするのかなって」

和「なるほど」

澪「え?」

和「つまり澪は律との関係を深めたいってことね」

澪「うわあっ」

澪「ちっ、ちがっ……」

和「違うの?」

澪「いやっ、そのっ、あのっ」

和「違わないでしょ」

和「幼馴染でずっといい友達だった律とそれ以上の関係になりたいと」

澪「あう」

和「友情関係を越えた恋愛関係になりたいと」

澪「あうあう」

和「あわよくば肉体関係まで至りたいと」

澪「あう……いや待て!そこまでは」

和「そこまでは望んでない?」

澪「今はまだそういうのは……」

和「今はまだ?じゃあいずれはそうなりたいのね?」

澪「えーっと、そのう」

和「ここまで言ったんだから認めなさいよ」

澪「和、これって誘導尋問だろ。なんか取り調べ受けてる気分だ」

和「自分の欲望や欠点を認めるところから成長は始まるのよ」

澪「うわ今度は怪しいセミナーみたいになった」

和「いいから認めなさい、協力するから」

澪「ほんとに?」

和「任せなさい、生徒会相談室に」

澪「そう言われれば相談してるんだった」

和「澪は律と恋愛してセックスしたい、認めるわね?」

澪「セ、セック……ってそんな言い方」

和「なりたいんでしょ?友達以上の関係に」

澪「……うん」

和「じゃあ認めるわね?」

澪「……はい」

和「ふうん、澪も結構性欲とかあるのね。オナニーとかしちゃう方?」

澪「うん……って!そういう話じゃないだろ!」

和「うふふ、これはまあ冗談よ。澪をリラックスさせるための、なんて言うの?話術?」

澪「……いやそんなのでリラックスとかできないから」

和「それからこれは確認なんだけど」

澪「確認?」

和「あなたの気持ちの確認よ」

澪「どのくらい本気かってことか」

和「ええ、澪がオナニーしちゃうくらい律のことを想ってるのは判ったけど」

澪「わわわっ」

和「いやねえ、わじゃなくてのどかよ」

澪「そういう事言ってんじゃないっ」

和「話術よ、話術。相談トークテクニック」

澪「なんだよもう……」

和「でね、その想いって逃げの気持ちから来てるんじゃないわよね?」

澪「逃げの気持ち?」

和「怒らないでね、澪って対人恐怖症気味な所あるわよね、初めて合う人に自分から声をかけ辛いとか」

澪「ああうん、かけ辛いっていうか、かけられない……」

和「だからこれから将来出会う人と恋愛するのが怖くて、それだったら近くにいる律にしとこうとか」

澪「ないっ!そんなことは絶対にないよ!」

和「ないのね?」

澪「ない、断言できる」

和「判ったわ、つまらないこと聞いてごめんなさい」

澪「いやそんな謝らなくても……」

和「ということで、告白するって決まったわけだけど」

澪「え?告白?」

和「そうよ、告白」

澪「誰が??」

和「澪が」

澪「えっ?」

和「ちょっと、なんでそんな驚いた顔するのよ?」

澪「私が告白……律に?」

和「そのために相談に来たんでしょ?」

澪「いや相談っていうのはさ、友情が恋愛に発展するのかってのが聞きたかっただけで」

和「そんなのケースバイケース、人それぞれよ」

澪「それはそうなんだろうけど、それじゃ身も蓋も」

和「やってみなくちゃわからないこともあるわよ、当たって砕けなさい」

澪「あの、生徒に心のケアは……」

和「砕けたらケアするわよ、澪、あなた言ったじゃない、恋愛してセックスしたいって」

澪「セッ…って、頼むからそれにこだわるのはやめてくれ」

和「そんな中途半端な相談では済ませないわよ」

澪「ええー」

和「確実に答え出すから」

澪「普通こういう相談ってのは、最後はあたなが考えなさい的な有耶無耶な感じでお茶を濁すもんじゃないの?」

和「そういう場合もあるけど、今回は告白コースでいくから」

澪「コースって……和、もしかして楽しんでないか?」

和「そんな訳ないでしょ、あなたのためを思って言ってるのよ」

澪「でも……でも、いきなり告白ってのは」

和「真剣なんでしょ?本気なんでしょ?」

澪「その気持ちに偽りはないけど」

和「任せなさい、いきなり告白じゃなくてちゃんとお膳立てはするから」

澪「……ほんとに?」

和「うん」

澪「わかったよ……」

和「心配しなくていいわ、まず脈があるか私が確かめるから」

澪「和が?」

和「何よ心配そうね。大丈夫、それとなくだから」

澪「今までの会話で、和がそれとなくできるとか思えないんだけどなぁ」

和「うふふ」

澪「うふふって、そこは否定してくれよっ」

和「今まで私がどれだけの相談こなして来たと思ってるの?」

澪「そうか、ならそういうのにも慣れてるんだな、なっ?」

和「うふふ」

澪「うふふって、うふふって……」

和「大丈夫、砕けたらケアするから」

澪「ええええっ!」


和「さてと、じゃあ打ち合わせしましょうか」



 三日後の放課後、相談室

和「もうすぐここに律が来るわ」

澪「あうう」

和「そう緊張しないで」

澪「この三日間律とまともに話せなかった……」

和「それでいいの、律も澪の態度気にしてたわよ」

澪「そうなのか」

和「そうよ、さあ打ち合わせ通り澪はそこのロッカーに隠れてて」

澪「このロッカー狭いよ」

和「我慢しなさい。いい?私と律が何を話してても勝手に出てきちゃだめよ」

澪「……わかった」

 ドンドン

律「おーい和ー、来たぞー」


和「来たわよ、ほら早く隠れて」 グイグイ

澪「うわわっ」

 ガチャン

和「音立てちゃだめよ」

澪「暗くて怖いよ……」


律「和~」

和「はーい、こっちよ律」

和「どうぞその椅子にかけて」

律「へえ、こっちにも部屋があったんだ」

和「生徒会の相談室なんだけどね、ここだと誰にも邪魔されずに話ができるから」

律「ふーん、んで用ってなんだよ?」

和「ちょっと律に聞きたいことがあるの」

律「あたしに?それマジな話か?」

和「そうね、真剣な話よ」

律「はは……怖いな、いったい何だよ」

和「律は……」

和「律は友情が恋愛感情に発展したりすることがあると思う?」

律「え?」

和「古くからの親友って言えるくらいの間柄の人達が、改めて恋人になりたいとか」

和「そんな感情持ったりすると思う?」

律「な、なんだよ、いきなり」

和「どうかしらね?」

律「どうって言われても……なんであたしにそんな事聞くんだよ」

和「あなたの意見を聞きたいのよ」

律「だからなんで」

和「あなたが澪とそういう関係だからよ」

律「澪と……」

和「例えば律と澪は、これから恋人関係になったりする可能性は…」

律「!」

和「あるのかしら?」

律「澪とあたしが……?」

和「そうよ、親友としてのあなた達が恋人として付き合う」

律「い、いや……それはちょっと無理だろ」

和「無理?澪にそういう感情は持てないってことね?」

律「じゃなくて」

和「じゃないの?」

律「いや、じゃなくて」

和「何うろたえてるのよ」

律「うろたえてねーし!」

和「じゃあどうなの?」

律「だから、その」

律「今までも友達だったんだからさ、これから先もずっとこのままの関係で」

和「じゃあ今のままでいいってことね」

律「あ、ああ……」

和「澪が他の人と付き合っても気にしないのね?」

律「いや澪はまだそういうことは」

和「しないと思ってる?」

律「それはまああいつの自由だからさ」

和「じゃあ澪が誰と付きあおうと律はいいのね?」

律「え……あ、そういうことになるのかな」

和「それが聞きたかったのよ」

律「え?」

和「実はね、私澪に告白しようと思うの」

律「はあっ?なんだよそれっ」

和「なんだよって、聞いてのとおりよ。告白するの」

律「ま、待てよ」

和「というか、澪にはもうそれとなくは伝えてあるんだけどね」

律「……」

和「ここしばらく澪の様子変じゃなかった?」

律「ん……なんかあたしのこと避けてるみたいだった」

和「やっぱり律のことが気になってるみたいなのよね」

律「あたしのことが……」

和「だから律が澪のこと恋愛対象じゃないって言い切ってくれたら、正式に思いを告げるつもりよ」

和「いいわね」

律「ちょっと待ってくれ」

和「なにかしら?」

律「澪は……澪はあたしのことどう思ってるんだ?」

和「そんなの知らないわよ、でもあなたさえ許可してくれたら、きっと澪は私と付き合ってくれるわ」

律「……」

和「律のことを気にしてるのは間違いないから」

律「気にしてる……」

和「私達のこと、認めてくれるわね」

律「和は、澪のことそんなに好き……だったのか?」

和「好きよ」

律「唯は?」

和「ゆ、唯は……ただの幼馴染だから」

律「そうなのか?あたしはてっきり」

和「今、唯のことは関係無いでしょ」

律「うん……わかった」

和「わかった?」


2
最終更新:2011年11月11日 01:27