次の日
ガチャリ
律「おっす、約束通りに」
紬「いらっしゃい りっちゃん。さぁ、どうぞ上がって」
律「ごめんな ちょっと早く来ちゃったかな」
紬「ううん、そんなことない。待ってたんだもん」
スタスタスタ…ス
紬「ここ、この部屋に入ってくれないかな?」
律「この部屋は」
~
斎藤『…ここはたくわんの部屋ですから』
~
律「入って、いいの?」
紬「うん。どうぞ」
律「お邪魔します」
じろじろ
律(意外と部屋の中質素だったんだ)
律(あの時は斎藤さんいてビビってちゃんと見てなかったから…)
紬「ここはね、前にりっちゃんが言ってた通り 私の飼い犬のたくわんの部屋なの」
律(犬に個室があんのかよ――――!)
律「あれ、でも他の犬の部屋は」
紬「うん、ないの。だからたくわんは特別」
律「……あの、そろそろ聞かせてくれよ。その犬は菫ちゃ」
紬「今日はね、たくわんの命日なの」
律「……え」
律「命日って……」
紬「2、3年になるのかなぁ、もう」
紬「たくわんは私が生まれた頃からずっといてね」
紬「家族同然だったのよ」
律「……」
紬「もう歳だったし、大往生だったとは思う」
紬「けれどね、私たくわんが突然いなくなっちゃったことにショック受けちゃって」
紬「酷かったと思う。立ち直れないかと思ったわ」
律(そんな辛そうな様子、私たちには一瞬でも見せた事なかったのに)
紬「そんな時にね、斎藤のお孫さんの菫ちゃん。彼女が」
紬「自分がたくわんの代わりになるって言ってくれたの」
律「代わり?」
紬「りっちゃんの知っての通り、菫ちゃんの扱いは犬同然」
紬「リードをつけて散歩させたりね」
律「……!」
紬「もちろん最初はそうさせる事に抵抗があった」
紬「でも……なんだか、本当にたくわんがいるみたいな気持ちになっていって」
紬「…今に至るってところなの」
律「あ、あ……」
紬「何度か菫ちゃんに、私の為にこんな恥ずかしい事してくれなくていいって言ったわ」
紬「そしたらね、あの子 お嬢様の悲しむ顔を見たくない。笑顔でいて欲しい」
紬「その為ならこんな事は苦でもないし、むしろ嬉しいって」
紬「バカよね…ペットの死はいずれ来るもの。それをもっとバカな私が受け入れられなかったから」
紬「菫ちゃんには辛い思いばかりさせちゃった」
律「……」
律「で、でも、そんな事言っておいてあんな散歩ないだろ…!」
律「最終的にはあんな裸同然な格好で!!」
紬「うん、良くない」
紬「あれはね、菫ちゃんの口からもうこんな事止めてほしいって聞く為に私がした事」
律「は?」
紬「私もね、もう前に進まなきゃって思ったの。たくわんが死んじゃったことをちゃんと認めよう
って」
紬「それに菫ちゃんは菫ちゃんであってほしいって」
紬「今まで酷い扱いをしておいて今さらよね……」
律「つまり菫ちゃんに犬の真似ごとをやめさせたかったから……」
紬「うん。本人だってきっと心の中でずっと嫌だって思ってたはず」
律「う、うあ……あああ……」
律(何てこった)
律(私はそんな菫ちゃんの事なんか知らないで)
律(身も心も、プライドも踏みにじっちゃったんだ)
律「わ、わ…わ……私 最低だ……最低、すぎる……うぐっ」
紬「りっちゃん?」
律「ムギ、私 ムギなんかより最低な事を菫ちゃんに」
「律……さん…?」
律「え!?」
くるっ
菫「あっ」
律「菫ちゃん……!」
菫「……」
律(どうしよう、会ったはいいけど口が開かない)
紬「菫ちゃん」
菫「!」
菫「わ、わんっ!」
紬「…ううん、もういいの。いいのよ」
紬「あなたは菫ちゃん。たくわんじゃない」
紬「そうでしょう?」
菫「そ、そんなっ…! お、お嬢様! 何か私に気に食わないところがあったのなら!」
紬「違うの」
菫「え、え……?」
紬「菫ちゃんに不満なんて1つもないわ。いつも助かってる」
紬「だからこそ、菫ちゃんに戻ってほしい」
菫「紬お嬢様…」
紬「そして、今までごめんね」ギュゥ
菫「……ああ、あああ……っっ」
菫「ゎ…ん…わん……わぁんっ!」
律「!」
紬「もういいの、いいのよ」
菫「ちがうんです…たくわんの、たくわんの分まで、私が泣くんですっ…」
菫「これで、終わりなんですね…ああぁ……ああっ…」
律(菫ちゃん)
律(菫ちゃんはもう、犬じゃないんだな)
律「……」
菫「うう、うう…」
紬「ごめん、ごめんね 今まで辛い思いをさせてしまって」
菫「お嬢様のためですもの、そんなことはありませんよ」
紬「ううん、いいの。辛い時は辛いって言ってくれて」
律(なんか私、お邪魔みたいだな)
サ…
菫「あ…」
紬「菫ちゃん」
菫「……!」
菫「律さん!!」
律「!」
律「菫ちゃん…」
菫「あの時は、本当にすみませんでした」
律「い、いやっ 謝るのは私の方で菫ちゃんは…!」
菫「……それじゃあ、どっちも悪かったってことで」
菫「ダメ、でしょうか?」
律「…ううん、ごめんな。菫ちゃん」
律「私、菫ちゃんの気持ちなんて全く考えてなかったんだ。だからあんな事を」
律「謝っても謝りきれない」
菫「いいえ、律さんの気持ち しっかり伝わりました」
菫「だから……もう1度、私と仲良くしていただけませんか?」
菫「あの日みたいに、一緒に遊んでくれませんか……」
律「……私で良ければ」
律「こ、今度は! 今度はガッカリなんてさせやしないし! すごいとこにも連れてく!」
律「だからっ、こんな最低な私だけど! 私の友達でいてくれ!」
菫「律さん…」
菫「……はい こんな私で良ければ」ニコ
紬「2人が仲直りしてくれってよかった、ふふ」
紬「これも天国からたくわんが見守っていてくれたおかげかしら」
律「あ、そうだ!」
紬・菫「?」
律「これ……たぶん2人が探していたもの」ス
紬「これは……」
律「ちょっとそこら辺探したら見つかった。2人は探し物見つけるの下手だなぁ」
紬「りっちゃん、ありがとう」
紬「そして、菫ちゃんもありがとう」
菫「へ!?」
紬「菫ちゃんもコレ、探してくれていたんでしょ? とっても嬉しい」
紬「……///」
紬「これね、たくわんの大好物だったの」
紬「もちろん人の食べ物を犬にあげるなんて良くない事だけれど」
紬「お父様に見つからない様にこっそりあげたりして…ふふ」
律「今日が命日だから、あげるのか?」
紬「うん。だからこれは」
ス
紬「この部屋に置いておくわ」
紬「そしたらたくわんてば、こっそり帰って来てくれるかもしれない」クス
菫「お、お嬢様…」
紬「大丈夫。もう未練はないし!」
紬「……たくわん、私と菫ちゃんのお友達が持ってきてくれたわよ。いただきなさい」
紬「それじゃあ、私たちはあっちの部屋でお茶でもしましょ?」
律「…うん」
―――
澪『それじゃあ、全部うまくいったんだ』
律「ああ、お陰さまでなー」
澪『別に私は何も』
律「ううん、してくれた。ありがとな、澪」
澪『う、うん……?』
律「一応さ お礼したいんだけど何がいい?」
澪『そういうのってお礼する人に聞くか』
律「まぁまぁ、んで?」
澪『そうだなぁ』
澪『あ…来週の休み、たぶんいい天気になるんだって』
律「?」
澪『一緒に散歩でもしよっか、律』
律「はぁ? そんなんでいいのかよっ」
澪『うん、十分だよ』
数週間後
律「あー、今日もいい天気だねぇ」
律「でもちょっと肌寒くなってきたかも」
らんらん♪るんるん♪
律「!」
紬「~♪」
わんわんお「ワンワン」
菫「あ、あわわ……」グイグイ
紬「ふふふ、それじゃあまるで菫ちゃんが散歩されてるみたいよっ」
菫「もう散歩されるのは懲り懲りですよぉ!」
律「……」
律「あー…私も犬飼うかぁ」
律「帰りにペットショップ見て行こ」ニコ
おわり
これにてお終い
長々と付き合ってくれた方どうもありがとう!
菫ちゃんSSが増えるといいなと思うこの頃
最終更新:2011年11月14日 20:38