医師「・・・」フルフル
澪「・・・ああ・・・」
律「・・・」
澪「・・・ぅう・・・」
律「・・・行こ」
澪「う・・・ううっ・・・なんで・・・なんでぇっ・・・?」
律「・・・さ、私たちは・・・部外者だから・・・」
澪「や・・・やだ・・・やだやだ!絶対に・・・!」
律「・・・」
澪「・・・あんな優しい人が・・・どうして・・・!」
バン、バン
律「・・・」
ボーン・・・
澪「・・・」
律「・・・っはー・・・なんだか、嫌な気分だぜ」
澪「・・・ぐすっ・・・」
律「・・・おいおいどうしたよー・・・いつもの強気な澪はどこにいっちまったんだー?」
澪「だって・・・・だって・・・」
律「・・・はぁ」
律「(さすがに・・・澪にはショックでかいか・・・)」
澪「ぐすっ・・・・・律」
律「・・・ん?」
澪「・・・どうして・・・人って死んじゃうのかな・・・」
律「・・・さあ・・・私は頭悪いからな、澪のがよく知ってるだろ」
澪「・・・くすん・・・くすん・・・」
律「・・・死ぬと・・・悲しい、よな」
澪「・・・」
律「なんだか、よくわからないけどさ・・・なんていうか」
澪「・・・」
律「・・・はー・・・、なんだか、だめだな・・・」
澪「・・・」
律「・・・」
ザァァァ・・・
律「風、今日も良いなー」
澪「・・・」
律「風が吹いて、草が揺れて・・・音を立てて・・・」
澪「・・・」
律「・・・おいおい、いつまで黙ってるつもりだよ」
澪「・・・ぐすっ・・・」
律「泣いてちゃなにもできないぞっ?」
澪「・・・うん」
律「・・・ほら、元気だしなよ!明日も学校なんでしょ!」
澪「・・・うん」
澪「・・・うん・・・元気出す」
律「・・・よし」
よくわからない数日間だった。
思い起こせばほとんど律と一緒にいて、練習ばかりしていたけれど。
でもそこにひとつ、思いもよらぬパズルの1ピースが飛び込んできて、
…それが今、私の胸の中でパズルをごちゃごちゃにしている。
ひとつのコンパクトなレコーダー。
これを拾わなければ、どうなっていたのかな。
何か変わっていたのかな。
あのおじいさんはどうなっていたのかな。
私は…。
…わかんないや。
…でも
がんばるしか、ないんだよね。
澪「おはよー」
律「おう、おはよー!澪、昨日は大丈夫だった?」
澪「ああ、そんな何日も続けてくよくよしないさ」
律「昨日あんなに泣いてたくせにー・・・みんなに言っちゃお!」
澪「ばっ・・・・やめろー!」
ごつっ
澪「・・・ああ、そうそう、新しいベースね、お小遣い前借とテストの成績次第でお金出してくれるって!」
律「え・・ほんと!?」
澪「ああ、昨日勇気出して交渉してみたらやんわり許可してくれたんだー」
律「おおおー・・・・よかったなぁ・・・じゃあやっと、ガラス越しのフェンダーを買えるなっ!」
澪「ああ、やっとね・・・」
澪「(・・・なんでも、やってみれば上手くいくもんだなぁ・・・)」
律「あれ?じゃああれはどうするんだ?」
澪「あれ・・・ああ、レコーダー・・・・ね」
律「売る?スタジオ代になるけど・・・使うっていうのもなんかねー」
澪「・・・うん・・・使うのはちょっと・・・怖いかな」
律「・・・あんなことがあった後だしな・・・」
澪「・・・そうか・・・じゃあ、あのレコーダーは・・・」
律「スタジオ代だな、はは」
澪「・・・そういう言い方はなんかやめろー」
律「えー、だってそうじゃん」
ガチャ
澪「ただいまー」
タッタッタッタッ・・・
澪「・・・」ガチャ
澪「・・・ふー・・・」ボフッ
澪「ベッドは良いなぁ・・・ふかふか・・・ふわふわ・・・」
澪「ふかふか・・・ふわ・・・ん、歌詞作れるかも・・・」
澪「・・・」
『・・・』
澪「・・・レコーダー・・・か・・・」
澪「・・・えっと、確か・・・電源・・・」
澪「・・・これか」
ポチッ
“04:05”
澪「・・・わ、長い・・・ってあれ、この録音してあるやつってもしかして・・・」
澪「・・・」
澪「・・・さ・・・再生・・・」
ポチッ
ザ、ザザザ・・・
『・・・ああ・・・ええ・・・はい・・・』
『・・・』
『・・・大将様が、許してくれるなら・・・帰りたい、です・・・』
澪「(やっぱり、あのおじいさんの声・・・録音したのがここに入ってたのか)」
『こんな立派な人間を、殺さなきゃ、ならんかって』
澪「・・・?」
『海軍の、陸戦隊で・・・ガダルカナルまで、行ったわけ』
『・・・そこで私は・・・とんでもない失敗を、・・・しちもうた』
澪「(・・・なに・・・・これ)」
『・・・実に、気立てのいい、上等兵・・・じゃった』
『緊張するってことは、すごいもんでね』
『もう、息吸うったって、声が、出ないんですよ』
『はぁはぁ、はぁ、はぁ、』
『・・・これだ』
『よしやろう、ってんで、・・・殺しちまった』
澪「・・・!」ゾクッ
『・・・その肉を っちまった』
澪「(うっ・・・うえ・・・!)」
『実に、気立てのいい、上等兵・・・じゃった』
澪「(やだ・・・やだ・・・何、この話は・・・)」
澪「(・・・聞きたくない・・・)」
澪「(怖い、聞きたくない・・・嫌だ、嫌だ嫌だ・・・)」
『・・・せっぱつまって、ゆくゆくの窮地に追い込まれた・・・』
『・・・結果の、やり方です』
『・・・それ以外に、やりようがなかったから、やった』
『・・・・私の、言えることは・・・それだけなので・・・』
澪「・・・ぐすっ・・・・ぐすっ・・・」
『・・・どうも』
澪「うっ・・・ううっ・・・」
『長々と・・・駄弁りました』
澪「ぐすっ・・・う・・・うう・・・!」
ピー
『UNDO ヲ ドウゾ』
レコーダーは売りもしなかった。
お寺にあずけて、供養のようなものをしてもらってから・・・丁寧に処分した。
律にはレコーダーを聞かせてはいなかったけど、反対はしなかった。
ただ静かに頷いて、「澪のしたいようにすればいいんじゃない」と、言ってくれた。
なので私はそれを、処分した。
後悔はしていない。
…あのおじいちゃんが残してくれた…死ぬ気で、本当に死ぬ気で残してくれたものなのに。
私はそれを、葬ってしまったんだ。
罪なことかな。許されないことかな。
でもやり直しは効かないし、後悔もしたくないから。
私はそれを、自分の行いを正しいことだと思ってる。
捨てたのは、自分の恐怖からではない。残してはいけないんだ。
そう、思ったから。
…自分勝手、かな。
律「おい澪!もっかいやろうぜ!」
澪「え、また?」
律「おう!せっかく唯がやる気出てるんだ、今しかないぜ!」
澪「・・・律だって普段はお茶飲んでばかりのくせに」
律「ぁあん?」
澪「・・・ふふ」
澪「なんでもないよ、やろうか」
唯「よーし、今度こそ合わせるぞー!」
紬「ふふ」
律「よし、じゃーいくよー!せーの!」
おわり
ピー
UNDOヲドウゾ
最終更新:2010年01月25日 23:55