澪「? どうしたんだ? そんなところで立ち止まってないで席に座りなよ」
律「おや? 口を開けば練習練習の澪がお優しいことで」
澪「前日なんだから無理にやるよりは適度に休んだ方がいいと思ったまでだ」
梓「・・・着きましたよ お願いします」
唯「あのね、みんな」
唯「私たち引っ越しするの」
律&澪&紬「へっ?」
梓「・・・」
律「こんなときに冗談言うなよ唯~」
澪「そうだぞ みんな本番前でナーバスになってるんだから」
紬「唯ちゃんでも本番前は緊張しちゃうのね」
律「ムギ、その言い方はひどいぞ」アハハ
憂「あのっ!」
憂「本当なんです・・・」
全員「・・・」
律「・・・いつだ?」
唯「・・・え?」
律「いつ引っ越すのかって聞いてるんだよ!」ガタッ
唯「ひっ」
澪「おい律! そんな大声出さなくたって」
律「だってそんな・・・っ!」
紬「それで唯ちゃん、憂ちゃん いつ引っ越しちゃうの?」
唯「・・・」
憂「明日・・・です」
梓「明日って・・・明日はライブじゃないですか!」
唯「うん・・・」
唯「で、でも出発は明日の夜だからライブには十分間に合うよっ!」
律「ふざけんなよっ!!!」ドン
唯「きゃっ」
澪「おい律!」
紬「りっちゃん!」
梓「律先輩!」
律「だいぶ前からわかってたんだろ!? なんで今まで私たちに言わなかったんだよっ!!」
憂「すみません! みなさんに心配かけないようにって私たちで!」
律「心配かけたくないからってか? 笑わせんな!!」ガチャ バタン!
澪「わ、私は律を追いかけてくる!」ガチャ
紬「私も!」バタン
唯「・・・」
憂「・・・」
梓「・・・ヒッグ」
唯「あずにゃん・・・」
梓「グスッ 先輩たちはひどいです エッグ」
梓「そんな重要なことを・・・相談すらしてくれないで・・・ グスッ」
唯「ごめんねあずにゃん!」ギュッ
梓「唯・・・先輩・・・!」
唯「私が・・・みんなに言う事から逃げてたのっ!」ボロボロ
憂「それを言うなら私もだよ! 私も・・・逃げてた・・・」
憂「お姉ちゃんに任せるだなんて・・・」
憂「つらいことを全部押し付けちゃって・・・」ポロポロ
憂「ごめんね・・・ごめんねお姉ちゃん・・・!!」
梓「憂」
唯「憂・・・あずにゃん」
「「「うわぁあああああぁああああああああああぁああああん!!!」」」
梓「・・・ひとしきり泣いたら少しすっきりしました」
唯「うん」
憂「お姉ちゃん、律先輩たちのところに行かないと・・・」
唯「うん・・・」
ガチャッ
唯「あ、ムギちゃん」
紬「ごめんなさい・・・中での告白は全部聞いちゃったわ」
紬「でも、そのおかげで私も唯ちゃんと憂ちゃんの本音が聞けることができたわ」
紬「あとはりっちゃんと澪ちゃんにも向きあわないとね」
澪「唯・・・」
律「・・・」
唯「りっちゃん澪ちゃん・・・あのね」
律「聞いてたよ」
律「悪かったな」
唯「えっ?」
律「そりゃ言いにくいよな~」
律「それに一番辛いのは唯たちなのに私ってば飛び出しちゃってさ」
律「でも・・・でもさ それでも私は引っ越すことがわかったらすぐ言って欲しかったんだ」
唯「りっちゃん・・・グスッ」
律「ゆいーーーーーーっ!」ガバッ
唯「!」
律「いつもは唯から抱きついてくるのにな・・・」
唯「グスッ・・・ありがとうりっちゃん」
…
澪「よしっ、それじゃ練習するぞ」
唯「澪ちゃん」
律「澪・・・」
澪「私たちは軽音部なんだ」
澪「だから音楽が最高のコミュニケーションだろ?」
唯「そうだね!」
紬「明日のライブは最高のものにするわよ」
梓「はいですっ」
唯「憂」
憂「うん、お姉ちゃん 私は先に帰ってるね」
唯「憂には明日最高の私たちを見せてあげるね!」
憂「うん、がんばってね!」
憂「今日はお姉ちゃんの大好物にして待ってるね」
唯「うん!」
その日はそれからずっと練習した。
これほどまでに完全下校時間が恨めしく思えたのは初めてのことだろう。
途中でさわちゃんが来てそれから珍しく最後まで残ってくれた。
もちろんティータイムは行われた。
これがなければ桜高軽音部ではないだろう。
あずにゃんに抱きついては練習、りっちゃんとさわちゃんといっしょに澪ちゃんをからかっては練習、ムギちゃんにおねだりしては練習。
帰りは下駄箱のところで和ちゃんと一緒になってそのままみんなで下校した。
和ちゃんは生徒会の仕事が長引いて偶然と言ってたけれど、抱きついたときには体が冷え切っていたのでしばらくそこで待っていたのだろう。
他愛のない話をし、行きつけの店をまわり、それぞれの家へと別れて行く。
いつも通りで、でもいつもとは少し違う一日を過ごした。
でも、まだ今日でお別れじゃない。
明日がまだあるのだ。
私たちのライブは大成功だった。
強制参加ではないこのライブで帰る生徒は数えるほどしかいなかった。
どうやら私たち軽音部は思ってた以上に存在感を持っていたようだ。
ライブ前のMCで私は観客に転校することを告げた。
そうしたら観客からソロで何か弾いてという要望を逆に告げられ、何も思いつかなかった私はとっさにチャルメラを弾いた。
みんな笑っていた、私も笑っていた。
そこにあった笑いは決して悪意や皮肉は込められていなく、私はここで演奏が出来ることに改めて嬉しさを感じた。
さわちゃんが今日の日のために寝る間も惜しんで作り上げた衣装とともに私たちは持てる限りの力を使って最高の演奏を創り出した。
多少のミスもあったし、リズムが揃わなかったところもあったけれど、私はこれが桜高軽音部最高の演奏だと思った。
最後の曲が終了しても、もう一回のコールは何度も鳴り響き、結局時間をオーバーしてしまって最後の最後まで和ちゃんには迷惑をかけてしまった。
ライブが終わり、片付けも終わり、下校時間となって私たちは5人で帰路についた。
もうすでに他の生徒の影はなく、そこには私たちだけの世界が広がっていた。
いつもよりうんと遅めのペースで歩きながら。
私はりっちゃんに軽音部を作ってくれてありがとうと言った。
りっちゃんは私にこれやるよって自分のしていたカチューシャをくれた。
カチューシャを外したりっちゃんは本当にわたしにそっくりで、誰からともなく双子みたいだねと言われた。
そして、部長命令だ、私は休部なんだと言われた。
私は何時までもこの学校の軽音部員なんだと。
私は澪ちゃんに素敵な詩をありがとうと言った。
澪ちゃんは私に素敵な声をありがとうと言ってくれた。
そして、新曲用の詩を私にくれた。
これは今の軽音部を想定して作ったのだから私が抜けたら完成しないと。
だからこの曲を完成させるためにもいつかまたいっしょにやろうと。
私はムギちゃんにいつも美味しいお菓子と紅茶をありがとうと言った。
ムギちゃんは私に無言で微笑みかけてくれた。
私もムギちゃんににっこりとスマイルを見せた。
私たちの笑顔には無理やり笑っているなどという感じは一切なかった。
それだけで十分だった。
私はあずにゃんに師匠兼ライバルでいてくれてありがとうと言った。
あずにゃんは私に抱きついた。
いつも抱きついてくるお返しですなんて言いながら、大好きですと言いながら。
私は桜高軽音部のギターを任せると言った。
あずにゃんは任せてと言ってくれた。
桜高軽音部の将来は安定だろう。
そして、私は軽音部にありがとうと言った。
私に打ち込めるものを提供してくれて。
私に音楽の魅力を教えてくれて。
私に最高の友人を持たせてくれて。
この部に出会わなければ私の高校時代もほどほどで終わっていただろう。
私はこの経験を生かすと約束した、絶対にここでのことは無駄にはしないと。
そして私はこの街から旅立った。
~1月某日
たいらのひらに、さんずいに尺のさわに、唯一のゆいで平沢唯です。
って黒板に書いてあるからわかるよね!
今日からよろしくおねがいします。
前の学校では軽音部に所属していて私はそこでギターをやっていました!
見てくださいっ、これが私のギー太です!
ガタッ
―平沢さんっ!
ほえっ!? な、なんでしょう・・・?
―うちの学校でも軽音部があるんですが、部として成立するにはあと一人足りなくて、ちょうどギターがいないんです…
だから平沢さん、転校初日で悪いんですけど是非とも軽音部に入ってください!
…うん! 今日からよろしくね!
~fin~
最終更新:2010年01月26日 00:32