早速、どのポケモンを選ぶか決めなくてはならない。

しかし、律と澪を見てみると、さっきから何もしゃべらないばかりか、動いてもいない。

ここは私がリードするしかないようね。


和「あのー」

律澪「え?」


私の声を受けて、ようやく我に返ったみたいだ。


和「えっと、律と澪、でいいかしら?」

律「あ、あはは、ごめんごめん。うん。よろしくなー、和!」

澪「私も、改めてよろしく。の、和。」

和「こちらこそよろしくね。律、澪。」

律「それでー、誰がどのポケモンを貰うか決めなきゃいけないんだったよな」

澪「うう、そんなこといっても中々決められないよ」

和「そうね。だからこそ博士はこういう時間を設けたんだと思うわ」

律「相性は実際に触れ合ってみないとわからないってことか」

澪「き、嫌われたらどうしよう…」


そうこうしている間にポケモンたちは三人の元へとことことやってくる。

そしてあいさつ代わりに鳴いて見せた。


律「うおっ!な、なんだーこいつは!?か、かわいいな!?///」

チコリータ「チコー」


チコリータは早速律の足もとに近寄っていき、上目遣いで頬ずりをしている。律は動揺していた。


和「(律は一見強気そうなのに意外だわ。逆の一面もあるのかしら)」

澪「うう、り、律ずるいぞ!わ、私も頬ずりされたい!」

和「(澪はおとなしそうに見えて意外と積極的ね)」

律「ずるいって、あたしゃ何もしてないっつーの」

律「あれ?澪の所にもポケモンがいるじゃん」

澪「へ?」

ワニノコ「ワニワニ!」


澪の元へやってきたのはワニノコだった。


澪「うえっ!?な、なんだ…?この子じっと私のこと見てる…?」

律「早速澪さんと仲良くなりたいんじゃありませんこと?ほら、抱っこしてやれよ」

澪「そ、そうなのか?うう、ちょっと怖そうだけど…ほら、こ、こっちおいで?」

和「あ、澪。気をつけて、その子は――」

ワニノコ「ワニッ」

澪「うわあああああああっ!?」

和「噛みつき癖があるみたいなの」

澪「そ、っそういうことは、早く言ってくれよぉ…!」


半べそを掻きながら腰を抜かして後ろに倒れこむ澪。

それをしり目にワニノコは面白がって飛び跳ねている。

昨日からやんちゃな子だとは思ってたけどしつけが必要ね、この子には。


律「ワニノコはいたずら好きそうだな。ビビりの澪ちゅわんには手に負えないかもなー」

和「そうね、この子たちの中では一番活発な子だと思うわ」

澪「うう…」

和「反対にヒノアラシはおとなしい性格だったわね」

ヒノアラシ「ヒノ」

和「どう、澪?この子なら大丈夫そうじゃない?」

そう言うとおとなしくしていたヒノアラシを抱えて、澪の胸元へ差し出す。

澪「ほ、本当に大丈夫…?」

和「大丈夫よ。あんな悪戯するのはワニノコぐらいだって博士も言ってたわ」

澪「うん、そ、それじゃあ…」


先ほどよりも慎重にゆっくりとヒノアラシを受け取り、抱き上げる。


澪「あ…本当だ。この子はおとなしい」

律「へぇー、本当にポケモンによって性格って違ってくるんだな」

和「そうみたい。ちなみにこっちのチコリータは意外とさびしがり屋だって博士が言っていたわ。ほら、おいでチコリータ」

チコリータ「チコー」

律「なるほどなー。さびしがり屋ゆえに、かなり人懐こいわけだ」

和「そうね。ちなみに律はどんな性格の子が好みなの?」

律「私か?うーん、特にそんなのないけど、なんかこう、スカーッとするやつがいいよな!」

澪「また漠然としてるな」

和「あら、だったら――」

ワニノコ「ワニッ」

律「いってえええええええええええええええええええ!!!?」

和「ワニノコがいいんじゃないかしら」


律「お前は自己主張が強すぎだあああ!」

ワニノコ「ハニハニ」

律「痛い痛い痛い!離せ離せ!」


律はぶんぶんと腕を振り回すが、噛みついたワニノコは一向に離す気配がない。


澪「うわ…私も危ないところだったな…」

和「こら!そろそろ離れなさい」


ワニノコを叱りつけて体を引っ張り、腕から顎を引きはがす。

これもワニノコなりのスキンシップなんだって博士は教えてくれたけど、正直困ったものだわ。


律「まーったく、元気すぎるのも考えものだなー」

和「なんか、この子はあんまり初心者向けじゃないんじゃないかと思ってきたわ」

律「おいおい、みんな良い子じゃなかったのかよ…」


律「あっ澪。私にもヒノアラシ貸してくれよ」

澪「ああ、いいよ。ほら」


今度は律がヒノアラシを抱き上げる。


律「よいしょっと…。んー?」

律「なんだお前?本当おとなしいなー」

ヒノアラシ「ヒノ」

律「なんか目も細いし、典型的な控えめ君でちゅか~?」

ヒノアラシ「ヒノ…」

律「なんだなんだー?辛気臭いぞー?そんなやつにはこいつをお見舞いしてやるー!」

澪「おい、無茶するなよ?」

律「大丈夫大丈夫!ほら、これでどうだ?」

ヒノアラシ「ヒ、ヒノッ!?」

律「こ~ちょこちょこちょこちょ~」

ヒノアラシ「ヒ、ヒーノヒノヒノッ」

ヒノアラシはバタバタと抵抗しながら笑い声をあげる。

和「ちょっと律、乱暴はだめよ」

律「和はお固いなー。こんぐらいのスキンシップが丁度いいんだって」


そう言いながらくすぐり攻撃をさらに激しくする。それに比例してヒノアラシの抵抗も大きくなり、笑い声もあっという間に悲鳴のようなものになっていく。


律「おー良い声がでるじゃありませんか~ヒノアラシちゃん。それではラストスパート行っときますか!」


律の指の動きがまた一段と加速した、その瞬間だった。


ヒノアラシ「ヒノ――!!!!」

律「うへえっ!?」


ヒノアラシの背中から激しい炎が立ち込め、それと同時に口から吐き出された火炎が律の顔面に直撃した。律の顔面は煤だらけだ。


澪「ヒノアラシが…」

和「怒った…?」


律「な、なかなか良いもの持ってるじゃないですか…」



* * * * * * * * * * * * * * *



和「これで一通りポケモンたちとは触れ合ってみたけど、二人ともどう?」

澪「うーん、私はまだ迷ってるかな」

和「律はどうかしら」

律「私も、澪と同じかな」

澪「そういう和はどうなんだ?」

和「私も、まだね」

律「ううむ、まだ皆迷ってるかー」

和「どうやって決めようかしら」

律「もう面倒くさいしジャンケンとかでいいんじゃないか?」

澪「もっと自覚を持て!パートナー決めるんだぞ!?」

律「えー、だって話し合って決めるとかいって、被っちゃったらどうすんのさー?」

澪「う…それは…」

律「ほらなー?」

和「私は別にそれでいいと思うわ。別に適当に選ぶわけでもないだろうし」

澪「うう、仕方ないな」

律「じゃあジャンケンに決まりー!勝った人から順にポケモンを選んでいくこと!これでいいか?」

和「ええ」

澪「うん」

律「よーし、じゃあいっくぜええ!」

律「最初はグー!ジャンケン――」

澪「あ、ちょっと待った」

律「ん?なんだよ澪~」

澪「今さらだけど、和は昨日この子たちに会ってるわけだろ?」

和「ええ、そうよ?」

澪「だったらさっきはまだだって言ってたけど、本当は決まってたりするんじゃないのか?」

律「何ー!?そうなのか?」

和「うーん、…実は、一応決めてるわ」

澪「やっぱりな。だったら和が一番に決めてくれよ」

律「なんだよー、そんなの遠慮しなくていいのに」

澪「律の言うとおりだ。和は元々ウツギ博士からポケモンを貰う予定だったんだから当然だ」

和「(別に遠慮してるってわけじゃないんだけど…)」

和「別にいいわよ。それに、私はジャンケンがいいと思うわわ。そっちの方が公平だと思うし、気兼ねも残らないしね」

律「い、いいのか?」

和「ええ、折角友達になったんだし、一緒に決めましょう?」

澪「(と、友達…)」

律「よし!じゃあ和がそう言うならジャンケン仕切り直しだ!行くぞ」

澪「ああ」

和「ええ」

和律澪「最初はグー!ジャンケン、ポン!」

和「勝っちゃった」

律「なーんだ、結局心配はいらなかったってことだな」

澪「そうだな」

律「じゃあ早速和、決めてくれよ」

和「わかったわ」


和「……私は――」

律澪御三家「(ドキドキ)」

和「この子にするわ」


ワニノコ「ワニッ!ワニワニ!」


律澪「え!?」

和「え?何かおかしい?」

律澪「い、いや別に…(その選択は考えてなかった)」

律「次は澪の番だな」

澪「ああ」

澪「……私は――」

チコヒノ「(ドキドキ)」

澪「チコリータにするよ」

チコリータ「チコチコー!」

律「やっぱり澪っぽいな。そんな気がしてたぜ」

澪「そういう律だって、その子選ぶつもりだったろ?」

律「んー?まぁ私は誰でも良かったんだけどね」

ヒノアラシ「ヒノッ!?」

律「嘘だよ嘘。さっきはごめんなーヒノアラシ」

ヒノアラシ「ヒノヒノ」

律「おう!これからよろしくな!」

和「あら?律はポケモンの言葉がわかるの?」

澪「律も可愛いとこあるじゃないか」

律「……うっ、うるしぇえ!///あたし達はそれだけ相性がいいんだあっ!」

和「まぁ何はともあれ」

澪「これでパートナー決定だな」

律「ああ!」


和「よろしくね、ワニノコ」


先ほど決まったパートナーを見てみると、足をばたつかせ飛び跳ねている。

その元気な姿を見ていると、これからの新しい生活に胸が高鳴った。

澪と律は、各々のポケモンとスキンシップを取っている。唯のことが頭をよぎる。

どんなポケモンかわからないけどあの子はちゃんと育成をしていけるだろうか。

いや、その前にちゃんと私が今日のことをフォローしなくちゃ駄目よね。

これからワニノコのためにもしっかりしなくちゃいけないんだから。


そんなことを考えながら私は博士を呼ぶべく、所長室を後にする――。


かくして私はワニノコのパートナーとなった。

あの後、澪と律とは小一時間程度おしゃべりをして益々親しくなった。

今では用事でヨシノシティに出掛ける時には二人のもとを訪れ、近況を報告しあったりして、良好な関係が続いている。



パートナーのワニノコは本当にしつけが大変だった。

まずは噛みつき癖、これを直すのには苦労したっけか。

それとこの子、実はものすごい食いしん坊だった。

だからやたら木の実なんかを拾い食いするのよね。

たまに勝手に木の実を取りにどこかへ行っちゃったりするし。

でも、新しい家族が増えて、生活は楽しいし本当に充実した日々を過ごせていると思う。

そんなことを博士に伝えたら、あの時の判断が正しくて良かったよ、と言っていた。


もちろん唯もあの後事情を説明してポケモンを手にした。

唯にも育成の面で色々困難があったけど、今はそれを乗り越えてパートナーと上手くやっている。

まぁ唯の性格は相変わらずだけど。



そして、今日も私は研究所へ出掛ける。もちろん唯も一緒。

どうせまた彼女は寝坊するんだろうし今日は家まで迎えに行こう。

準備が整い、ワニノコへ視線を送るとちょうど朝食のポケモンフーズを平らげていた。

こちらを見て、元気よく鳴いた。いつものように頭を撫でてやる。


和「それじゃ行くわよ。ワニノコ」


ドアノブに手をかけて、私たちは外へと繰り出す。

天気は晴れ。今日はどんなお願いを頼まれるのかしら――。




とりあえず終了。



最終更新:2011年11月18日 22:19