「いらっしゃいませ……!」

梓「あの、けいおん!の一番くじを」チラ

梓(今の手持ちは2860円……4回だ。4回できる)

「何回、引きますか?」

梓「4回で」

「はい。では2400円になります」

梓「どうぞ……」

梓(4回引いてどこまで行けるか。数打ちゃ当たる戦法より、これはまさに運の問題)

梓(欲は、捨て去る!)

「4枚引いてくださいね」

梓「はい」

梓(完全に出たとこ勝負……先が見えないこの胸の高まり、ドキドキ)

梓(堪らないっ……!!)

梓「ていっ」ペイッ

梓「まずは、一枚です……」

「G賞。好きなのを選んでください」

梓「では、とりあえず律先輩のを」

梓「さぁ、次!」

唯「お、おぅ……」

唯(あずにゃんの周りだけ空気が違ってみえる! 今のあずにゃんは)

唯「くじの鬼! いつものあずにゃんじゃない!」

梓「気が散るっ! 黙っていて!」

唯「はぁい……」

梓(さっきは一番上から一枚とってG賞だった。そうしたら)

梓「次は下から! どうだ!」ヒュンッ

「G賞です」

梓「っ!!」

梓(また、またG! 上も下もG! Gのサンドイッチ!?)

梓(どうする……どうも、今の私は運気が傾いている。追い風が吹いていない!)

梓「……っ」タラタラ

梓(熱い!)

梓(汗が出てきたよ……体が火照ってる……?)

梓(……興奮しているんだ、きっと。アドレナリンが出ているのが自分でもよく分かる)

梓「へ、へへへ……」

「お客様?」

梓「これ、これ、これ、です。残り3枚、確認を」サッ

「……よろしいのですか」

梓「ええ」

(なんてスッキリとした顔だ。さっきの鬼の様な形相とは打って変わって……)

(1人の女子……! そんな顔……!)

「では」

「I賞、G賞、I賞です」

梓「やっぱり、か」

唯「あずにゃん……!」

梓「……わかっていたんです。この勝負」

梓「私の負けは確定的だった。なぜか」

梓「私は、ただくじを引きたい。その一心でやっていたからなんです」

唯「え?」

梓「つまり、上位賞を狙うとか、あれが欲しいとか」

梓「まったく欲が出せなかった。それが敗因」

唯「でもそれっておかしいよ。所詮くじは運の問題なんだよ?」

梓「違うんです。私は今までくじを」

梓「運ではなく、自身の欲で引いてきたんです……!」

梓「強すぎる欲望は時として勝利を手にする。そういうものなんです」

梓「……満足しました! 唯先輩、ファイトです!」

唯「あずにゃん……敵討ちは私に任せといてね!!」

唯「引くよー、きゅんキャラコンプしちゃうもんね!」フンスフンス

うわ、あずにゃん何か5回も引いちゃってる! すまん、ミスです。
唯「6回で!」

「3600円になります。では、どうぞ」

唯(6回なら、上手くいけばA~Fが来るかもしれないよね。とりあえず)

唯「この2枚!!」ピピッ

「H賞とG賞です」

唯「あうっ……!」

唯(だめだめ! 弱気になってちゃ引けないよ)

唯「集中ー集中ー……そして、ごちゃまぜの術!」

グチャグチャ!!

梓「!」

梓(箱の中身を混ぜてシャッフルした? 唯先輩、何を……)

唯「次はこの一枚!」ピッ

唯(よく上位賞はかたまってたりするんだよねー、だからごちゃまぜにしちゃって)

唯「さらに私の運に任せる……! 意味は特にありません……!」

「G賞」

唯「ああぁ……!」

「ラスト3枚、よろしくお願いします」

唯「は、はいぃ……!」

唯(ダメだよ、あずにゃん! まったく当たる気がしないの!)

唯(これじゃあダメだってわかってる。けども……)

唯「く、悔しい……」

梓(唯先輩が苦しんでる。きっと、あの人のけいおん!グッズに対する思いは私をも越えているんだ)

梓(だからこそきゅんキャラを当てたい……! そんな思いがこっちにもヒシヒシと伝わってくる……!)

唯「う、ううぅ」

梓「唯先輩!!」

唯「あ、あずにゃん……?」

梓「無我の境地です! 頭で考える事をやめて、見た物を取って中から出して!」

唯「……よぉし!」

唯「無心、無心」

(顔つきが変わった。まるで何も感情が入っていないような)

(機械! 彼女は今、ただひたすらくじを引く事しかしない機械になったんだ……!?)

唯「」ピッピッ

(目で、俺にくじを確認しろと訴えている……いいだろう)

「では」

「I賞が3つです」

唯「!?」ハッ

…ガクン

梓「ゆ、唯先輩!」ガシッ

唯「あずにゃん……私、ダメだったよ。へ、へへ……」

梓「いいえ!! あなたは、唯先輩は立派でした……!」

唯「そ、そっか……そりゃ良かったなぁ……」

唯「」ガクン

梓「う、う、うわあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「店内で騒がれては困りますよ」

梓「で、でずげど……ゆい、ぜんばいがぁっ……ぐすんっ」

「……お客様」

「お客様、これで終わりになさいますか。お帰りになられますか」

「くくっ……」ニタァ

梓(この店員、笑っている!!)

梓(あの目は敗者を笑う目だ……)キッ

梓(まだ多々買いたい……でも、残金は460円)

梓「足りないよぉ……」

「それではこの場からとっとと去るのだな。敗者よ」

梓「ぐぬぬぅっ……」

梓(諦めたくない! 諦めたくないっ!!)ギリリ


梓「え、200円……これは、唯……先輩?」

唯「」

唯「」

梓(まさか、唯先輩。気を失っていながら……無意識に財布からこれを)

梓(ああ、聞こえる……くじを引けと、内なる自分からの声が。そして)

梓(それを後押ししてくれている様な、唯先輩の200円!!)

ギッ

「どうした? 引かないのか?」

梓「……望む所ですよ。やってやるです!!」

梓「これが正真正銘、最後の多々買い! 私はこの1回に全力を注ぐ!」

梓「店員さんっ、けいおん!一番くじを1回! 引かせてください!!」

「……いいだろう。600円だ」

梓「ふんっ」ス

「たった1回が何になる。お前の敗北は見えている」

「まぁ、引くだけ引いてみるがいいさ」

梓「……」

「既に集中しているのかこいつ」

「くく……お客さまよ、俺の顔をどこかで見たことはないかな?」

梓「は?」

「俺はお前の顔にとても見覚えがある。そして」

「見るたびにムカっ腹が立つ」

梓「あなた、まさか……!」


A「交換しませんか、I賞」
梓「交換!? はい!」
A「こちらの純ちゃんとあなたの澪を交換してくれないかなーって」
梓「純はいりません!! 純は!」
A「え、えー……そうですか……」


梓「前回のくじのとき、交換をせがんできた男の人!」

A「そうだくそったれ! お前のせいで澪ちゃんだけ揃わなかったんだよ!」

梓「まさか、くじを引かせる立場になっていたなんて」

A「俺はもう多々買いを止めたのさ。そして」

A「売る側になり、欲しい賞が取れなかった奴らの顔を見て喜ぶ方に回った!」

A「楽しいなぁ……絶望している奴を見るのは」

梓「外道め……!」

A「さぁ、話は終わりだ。さっさとくじを引け。そしてここで朽ち果ててしまえ」

梓「……」

梓(この人の事は気にしていられない。だけど)

梓(多々買う人々をバカにされちゃ私の誇りが許さない……!)

梓(唯先輩……これは私とあなた、一緒に引くくじです)

梓「一緒に、多々買ってください……!」




梓「これだぁああああああああ!!!」バンッッッ




唯「……う、うーん」

梓「唯先輩、気が付きましたか?」

唯「……そ、っか。私お店で気絶しちゃったんだねぇ……てへへ」

唯「あの後は、どうなったの?」

梓「ええ」ニコ

梓「私たちは勝ちましたよ。私と唯先輩、2人の力で」ス

唯「それって、A賞……!? え、どうして!」

梓「最後に引いてみたんです。そしたら偶然にも、えへへ」

唯「そっかぁ! よかったねぇー! あずにゃん! よかったよぉー!」ギュウ

梓「苦しいですよ~! あははっ」

梓「でも、これは私だけの物じゃなくて唯先輩の物でもあるんですよ」

唯「そうなの? ……あー、でも私の部屋に私の人形ってのも変だし、あずにゃんが持っててよ」

梓「……ほ、本当ですか!? わぁぁ……あぁ、ありがとうございます、唯先輩!」

唯「喜んでもらえてよかった。えへへ」

梓「……」

梓「それじゃあ唯先輩にも喜んで……もらえるかわかりませんけど」

唯「んー?」

梓「えっと……はい、この中から1枚引いてください」

唯「おやっ、あずにゃん! 何だねこれは?」

梓「けいおん!一番くじ 中野オリジナル! ……ってところです」

梓「ほ、ほらー! 早く引いてくださいよっ、せっかく作ったんですから!」

唯「え、えっ、あ!? うんっ」

梓「ハズレなしで当たりしか入ってません」

梓「それが唯先輩にとって、当たりかどうかはわかりませんけれど……」

唯「ううん、そんなことない。あずにゃんがくれる物なら何でもうれしいよ、私!」

梓「……そう、ですか」ドキドキ

唯「……?」

唯「これ、中に1枚しか入ってないみたいなんだけどー?」

梓「……は、早く引いてくださいっ」

唯「ん~? えいっ」ピッ

唯「あっ」

梓「」ドキドキ

唯「けいおん!劇場版のチケット?」

梓「A賞、おめでとうございます……」

唯「で、でも前売り券もうあずにゃんから貰ってるんだけど」

梓「じ、実は! それペアチケットの1つなんです!」

梓「A賞は……私と一緒に2回目の映画を見に行く、ってのはどうでしょう……か?」


梓「だ、ダメですよね……てへへ……」

唯「ううん、ダメなんかじゃないよ。あずにゃん、一緒に行こうよ。映画!」

唯「あ、でもでも。まずはみんなと一緒に行ってからだよ?」

梓「唯先輩……いいんですか、同じ映画なのに?」

唯「けいおん!は大好きだから3回は見ようと思ってました!」

梓「……ぷっ」

唯「あ、何で笑うの!?」

梓「い、いえっ、何か安心しちゃって! あはははっ」

梓「……よ、よかった。喜んでもらえて」

唯「だから何でも嬉しいって言ったじゃーん」

梓「あはっ……そうですねっ」

梓「ちょっと早いけれど。唯先輩、お誕生日おめでとうございます」ニッコリ

唯「うん♪ ありがとね、あずにゃんっ」

梓(ありがとう、一番くじ。ありがとう、けいおん!)

梓「これまでも、そしてこれからも! 私はあなた達の為に多々買い続けます……1人のファンとして!」

おしまい



これにてシリーズ完です
見て下さった方、それと去年から見てくれていた方、ありがとうございました!



最終更新:2011年11月24日 03:10