すーはー、すーはー。唯の部屋の前で深呼吸する。
 現在午後11時。もう寝ているかもしれない。
 そう思ってたけれど、ドアの隙間から光が零れていた。
 どうやら起きているらしい…良かったのか悪かったのか…。
 息を呑んでノックする。
「唯入っていいか?」
 返事はすぐ返って来た。
「いいよ~」
「…おじゃまします」
 満面の笑顔で迎え入れてくれた。
 こんなにいい顔されると…逃げられないじゃないか。
 唯は昼間貰ったプレゼントを広げていた。私があげたフォットフレームが正面にある。
 もしかして…もうアレ見られたのかな?
「澪ちゃん?」
 唯が少し不審げに見ている。
「いや…何でもない!」
 慌てて座った。……気付いてないよな…?これなら…。
 さて…本題はここからだけど…来てはみたけど…。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 半ば混乱しているところに、隣から覗く唯の顔が見える。
 ……言うしかない。
「寂しいんじゃないかと思ったんだ!」
 口にしたときは顔から沸騰するんじゃないかと思った。
 ああ~…やっぱり変に思ってるじゃないか…この顔は。
「去年までは憂ちゃんが居て、
 ときどき一緒に寝てたって聞いたから…」
 だけど今年憂ちゃんは傍にいない。だって寮だから。
 誕生日は皆が祝ってくれる分、その日が終わるときは少し寂しい。
 少なくとも私はそうだった。
「それに…以前言っていただろう?
 …過ごす時間が少しなって、少し寂しいって…。
 だから…今夜は唯が良かったら寝るまで居ようかな…って」
 皆で騒いだ後、唯は少し寂しげだったから…唯の気が紛れれば良いと思った。
「澪ちゃん!」
「うわぁ!?」
 急に抱きつかれて倒れそうになる。でも唯の顔見ていたら優しい気持ちになれた。
「どうせだから一緒に寝ちゃおうか」
「な…!どうしてそうなるんだ!?」
「寝るまで傍にいてくれるんだよね?
 だったら一緒に寝ようって♪」
 ハードル高すぎる!それに私寝相良くないぞ!?
 でも唯は離すものか、と言わんばかりに抱き付く力を強くする。
 う~ん。……でも今日は唯の誕生日だしなぁ。
 憂ちゃんが居ない分、誰かに居てほしいのかもしれない。
「……分かった。準備してくるから少し待って」
 結局、私は唯の部屋で眠ることになった。

 大学入学後、3人でムギに誕生日プレゼントを贈ろうという話が出た。
 準備期間で2人っきりになる機会があったのをいいことに、訊こうと思った。
『唯は欲しいものってあるか?』
『……ん~、憂の料理?寮の食事も美味しいけど…
 やっぱり憂の作ったものの方が好きかな…』
 食事中に訊いたのが悪かったのか…。まあ憂ちゃんの料理は美味しいけど。
『…別の物で』
 プレゼントの参考にしたかったんだけどな…私には無理だ。
『じゃあ澪ちゃんが欲しい』
 ………。一瞬何を言われたのか分からなかった。
『はあ!?』
 私!?え?どういうこと?どういう意味?
『冗談だよ。』
『あ…冗談…そうだよな…』
『うん。
 高1のときはもっと澪ちゃんと過ごしてたような気がして
 …何だか少し寂しかったんだよね…』
 そう言った唯の笑顔はとても儚いものだった。
 …本当は嬉しかったんだ。唯がどんどん好きになっていたから。
 でも私たちは同性で…伝えていいのか分からなかった。
 唯はそんな私の戸惑いに気付いたんだろう。
 だから『冗談だ』、なんて言ったんだと思う。
「そこまでさせたんだ…私も動かないと…な」
 唯に送ったフォットフレーム。
 あの写真の後ろには私の本心をしたためた手紙が入っている。
 隠し渡した、私から唯へのラブレター。それが今の精一杯。

 パジャマに着替えて唯の部屋に戻ると、唯はベッドの脇で待っていた。
「…消すぞ」
 入り口にある電気を消して、唯の隣に入る。
 唯の顔が、香りが、私をドキドキさせる。
 こんなに近くに唯がいるのは滅多にないし、あったとしても慣れることはないだろう。
「………」
 ダメだ眠れそうにない。唯に背を向けようとしたけど、許してもらえなかった。
「ゆ…ゆい…?」
 思わず名前を呼ぶけど反応しない。でもその身体は震えていた。
 そんな唯を私はそっと抱き締める。すぐに唯の身体から力が抜けた。
「……おやすみ、唯」
 安心せるように私は唯の耳元で囁いた。
「…………おやす…み」
 挨拶を合図に、唯は寝息を立てはじめた。
 唯、誕生日おめでとう。
 今はこんな風にしか伝えられないけど。
 いつか、きちんと言葉にするから。
 唯…愛している――。

------------------------------------------------------------------------

END






最終更新:2011年11月27日 00:03