文字通りの有無を言わさぬ怒鳴り声に押され、唯は浮き輪を抱えて海へ飛び込む。
「つべたいぃいいぃぃぃいいいい」という悲鳴を背に、マクレーンは片手片足の動かぬ体を何とか
運転席近くまで移動させた。
そして、テオの脇から思いきり右手を伸ばし、ハンドルを掴んだ。
マクレーン「イッピカイエー、クソッたれぇ!」グイッ
目一杯、左へハンドルを切り、マクレーンもまた浮き輪を抱えて海へ飛び込んだ。
取舵一杯に切られたボートは大きくUの字を描いて方向を変えた。無論、その先にあるものは
豪華客船ヨシノブ・タカギ号だ。
揺れと戦いながらの眼鏡の捜索で、テオは進行方向が変わった事にすら気づいていない。
だが、低い視力と手探りの悪戦苦闘の末、ようやく眼鏡は見つかった。
テオ「あ、あった…… これで――」
眼鏡をかけ、体を起こしたテオが目にしたのは、そびえ立つ巨大な黒い船体。
テオ「うわああああああああああ!!」
タカギ号の船体に猛スピードで突っ込んだボートは、爆発を起こし、粉々に吹き飛んだ。ほんの一瞬遅れて、
C4の大爆発が船体のすぐ近くで巻き起こる。
燃え上がり、消えていく炎。立ち上る黒煙。さしたるダメージも受けていないように見えるタカギ号。
大海原に浮かぶ点となったマクレーンは、それらを達成感と虚脱感の中で眺めていた。
マクレーン「あの世でハンスによろしくな」
それだけ呟くと、先に飛び込んだ唯を探しながら、水をかきかきタカギ号の方へ向かう。
少しすると、青白い顔で浮き輪にしがみつく唯の姿が見えた。波間をユラユラと漂いながら、
こちらへ流されてくる。
唯「う、うう…… マ、マ、マク、マクレーン、さん…… さ、寒いよぅ……」ガタガタ
マクレーン「ユイ、よくやったな。お前のおかげだぜ」
唯「えへへ…… ぴ、ぴ、ぴ、ぴーす…… ささささむ、さむ、寒い、冷たいぃ……」ガタガタガタガタ
マクレーン「さあ、みんなのとこへ帰ろう」
マクレーンは唯の浮き輪から伸びる紐を自分にくくると、無事な右手で再び水をかき始めた。
タカギ号の甲板からは、律や梓ら四人の他、ナカトミ社員や招待客が大きく手を振っていた。
~東京湾~
タカギ号から次々と毛布に包まれた乗客が降りてくる。
それを出迎えるのは救急隊員、警察関係者、大勢の野次馬、それにマイクとカメラを手にしたマスコミ。
マクレーンと放課後ティータイムのメンバー達は、他の乗客のように毛布を肩からかけながら、
ある人物を見送っていた。
ストレッチャーに寝かされた彼女は、救急隊員達の手によって救急車へ運ばれる最中であった。
警官の厳重な監視下で。
唯「和ちゃん……」
澪「和っ……!」
マクレーン「よせ、行くんじゃない。今はな」グッ
駆け寄ろうとした唯と澪は、マクレーンの手によって引き止められた。
澪「でも……」
和は虚ろな目で宙を眺めたまま、一言も発する事無く、救急車に乗せられていく。
律「なあ、和はどうなるんだ?」
マクレーン「命は助かる」
律「いや、そうじゃなくってさ……」
マクレーン「……犯した罪は償わなきゃならない。ノドカにゃ法の裁きってもんが下される。
それだけは確かだ」
唯澪律紬梓「……」
マクレーン「けど、大事なのはその後だ。“どうなる”じゃない。罪を償ってム所から出てきた
ノドカに、お前らは“どうしてやれる?”」
五人の目を、マクレーンがじっと見据える。
唯「……」
唯「……私、和ちゃんが戻ってくるのを待ってるよ。お手紙も書く」
唯「それだけじゃない。戻ってきた和ちゃんがビックリするくらい、放課後ティータイムを
すごいバンドにする」
唯「それから、それから…… ぐすっ……」ポロポロ
澪「和は私達のマネージャーで、仲間で、親友だ。今までも、これからも」
律「和は六人目の放課後ティータイムだぜ。やっぱ、アイツがいないとな!」
唯「……うん!」
その時、野次馬をかき分け、マスコミを押しのけ、一人の女性がマクレーンらの前に出てきた。
弾む息と共にポニーテールが揺れている。
憂「お姉ちゃん!」
唯「憂!」
二人はお互いを呼び合い、駆け寄り、抱き締め合った。
憂「ううっ、電話が全然通じなくって、そしたら警察の人が迎えに来て、ぐすっ、テロに巻き込まれたって……
心配したよぅ!」
唯「うえええええん! ういぃ、ういいいいい! びえええええん!」
固く固く抱き締め合いながら、唯と憂は安堵と嬉しさの涙を流す。
その光景を、他の五人は立ち入る事無く、笑顔で見守っていた。
やがて、落ち着きを取り戻しつつあった唯が、思い出したように皆の方を振り返った。
唯「ぐすっ…… あ、マクレーンさん! 私の妹だよ! 妹の憂!」
状況が飲み込めず戸惑う憂の腕を引っ張り、マクレーンの所へ連れて行く。
唯「マクレーンさんはね、悪者をやっつけて、私達を助けてくれたんだよ!」
憂「ええっ!? そうなの!?」
憂「あ、あの、姉が大変お世話になりました」フカブカ
マクレーン「いい姉さんを持ったな、ウイ。大事にするんだぞ」
憂「はいっ!」ニコッ
唯「えへへー」テレテレ
しかし、笑いに包まれた七人にも、ある種無情な救急隊員が手を差し伸べ始める。
救急隊員「皆さんも救急車に乗って下さい。被害に遭われた方々は全員病院に運ぶ決まりに
なっていますので」
公安「ミスター・マクレーン、そろそろ……」
大使「やあ、どうも。私は駐日アメリカ大使のジョンソンだ。色々と話を――」
マクレーン「わかった、わかった。今行くよ」
鬱陶しそうに手を振ってあしらうマクレーンではあったが、通常の刑事や警官とは毛色の違う者が介入し、
他の皆と明らかに扱いが違う。
その様子は、唯達にこの場での別れを、何とは無しに感じさせるものだった。
唯「あ……」
マクレーン「……それじゃ、な」
言葉少なに片手を上げるマクレーン。
それとは対照的に、彼を囲むようにして別れを惜しむ五人。
唯「私、マクレーンさんの事、忘れないよ。絶対……!」
紬「わ、私も! 危ない目にも遭ったけど、マクレーンさんと過ごせた時間は一生の宝物です!」
梓「ちゃんとした食事を取って、健康に気をつけて下さいね。あと、出来れば奥さんや娘さんと仲良くして下さい」
澪「みんなを助けてくれて、本当にありがとう。あ、あと、煙草は止めた方がいいと思う、かな……」
律「これに懲りずに、また日本に遊びに来てくれよな!」
マクレーン「ありがとよ、みんな」
惜別の言葉を受け取ったマクレーンは、公安課の刑事や米大使と共に救急車へ乗り込んだ。
座席に座り、少し考える。
引退後の人生にひとつ楽しみが出来たのかもしれない。それは、ほんの小さなものだが、少なくとも
これまでの自分にはあまり縁の無かった楽しみだ。
そう考えると、マクレーンは瞳を潤ませて見送る唯へこんな言葉をかけた。
マクレーン「来年のクリスマス、ニューヨークで待ってるぜ」
唯「……?」
マクレーン「招待してくれるんだろ? マディソン・スクエア・ガーデンのコンサートに」
唯「あ……! うん!」
唯は元気良く頷いた。
その返事を待ったかのように救急車後部の扉戸が閉められ、マクレーンの顔は窓から僅かに
覗くだけとなる。
すぐにエンジンがかかり、耳障りなサイレンを鳴らしつつ、車は発進していった。
いつまでもこちらを眺め続けるマクレーンが見えなくなるまで、いつまでも唯は手を振り続けた。
唯「放課後ティータイムの全米デビュー、待っててね!」
唯「よーし! みんな、これからも頑張るよ! 目指すは、まじこん・すーぱー・がーでん!」
梓「マディソン・スクエア・ガーデンですよ! わかってなかったんですか!? もう!」
紬「マクレーンさんは一番前の席にご招待しましょう!」
澪「一年でニューヨーク公演かぁ。時間が無いな」
律「大丈夫! 私達なら何とかなるって! 武道館ライヴ、チャート1位、全米デビュー!
一気に駆け上るぜ!」
憂「私も応援します!」
乗客の救出が進み、放課後ティータイム自身も警官や救急隊員に誘導されていく中、律は鼻に
ひんやりとした冷たさを感じた。
ふと、空を見上げると小さな小さな雪の粒が静々と降りてきている。
律は寒さに少し肩をすくめながら、それでも嬉しそうに呟いた。
律「こりゃ来年のクリスマスも荒れるなぁ」
THE END
Oh, the weather outside is frightful.
But the fire is so delightful.
And since we've no place to go.
Let it snow, let it snow, let it snow.
It doesn't show signs of stopping.
And I brought some corn for popping.
The lights are turned way down low.
Let it snow, let it snow, let it snow.
When we finally say good night.
How I'll hate going out in the storm.
But if you really hold me tight.
All the way home I'll be warm.
The fire is slowly dying.
And, my dear, we're still good-bye-ing.
But as long as you love me so.
Let it snow! let it snow! let it snow!
これにて完結となります。
拙いSSにお付き合い頂き、ありがとうございます。
子供の頃からのヒーローであるマクレーンと大好きなけいおんを一緒に書けたのが、
自分としては楽しくて幸せでした。
10月の四週連続ダイハードに合わせて書いたんですが、こんな長々になってしまうんなら
クリスマスに合わせても良かったかも。
けいおんSSはまた書かせて頂きます。
私はクロス物しか書けない体質なので次もそうなると思います。
あと、おまけと言っては何ですが、こんなイメージで書いてましたって事で。
ジョン・マクレーン(野沢那智)………… ブルース・ウィリス
平沢唯(豊崎愛生)………… 平沢唯
秋山澪(日笠陽子)………… 秋山澪
田井中律(佐藤聡美)………… 田井中律
琴吹紬(寿美菜子)………… 琴吹紬
中野梓(竹達彩奈)………… 中野梓
真鍋和(藤東知夏)………… 真鍋和
平沢憂(米澤円)………… 平沢憂
テオ(田中亮一)………… クラレンス・ギルヤードJr
クラウス・リンデマン(若本規夫)………… ロバート・ネッパー
イェン(池田秀一)………… ジェット・リー
では、また。さようなら。
最終更新:2011年11月30日 22:01