つうがくろ!

澪「……似合ってないぞ」

律「出会い頭にそれかよっ! ったくー、容赦ねえなー」

澪「で、そのメガネどこで拾ったんだ?」

律「拾ってねーし! 私は小学生か!」

澪「あははっ」

ぴぴぴぴっ
 ぴこーん!

律「お、でたでた」

澪「?」

律「えーっと……星二つかよ。ちぇ」

澪「なんだよ急に」

律「これなー、ただのメガネじゃないんだよ」

澪「どれどれ……わ、なんか映ってる」

律「それさ、私がなんか言うじゃん? 相手見るじゃん?」

澪「うん」

律「そうすると相手の、私の発言への点数が五つ星で出るの」

澪「へえ……すごいな」

律「なんかうちの父さんが、取引先からもらってきたんだって。新発売でさー」

澪「ああ、そういえばクラスで誰かが言ってたな・・・。発売前からミクシィで話題だって」

律「そうそう! 浮気調査にも使えちゃうかも? ってさ!」

澪「へえ……でもそれって大丈夫なの? 学校につけてきちゃって」

律「あー……ま、あんまり見せびらかさなきゃ大丈夫なんじゃねーの?」

澪「まあ、そうかな」

律「なんだよー、意外と反応うっすいじゃん。
  あれ、まさかこのメガネはみおしゃんのおめがねには・・・・」

 ぴこーん!

律「……一つって。一つっておい・・・」

澪「ぷふっ、正直だなあ」

 ぴこーん!

律「四つー?! なんで今の私の自虐の方が点数たかいんだよぉ!」

澪「わ、私に言うな!?」


そんなこんなでほうかご!

梓「……なんか似合いませんね」

澪「ぷふっ」

律「お前は澪かー?!」

 ぴこーん!

律「三つ……ネタにするにも中途半端な……」ぶつぶつ

澪「ネタにネタにって、そんな無理しなくても」

澪「実は律のかけてるメガネは(かくかくしかじか!)なんだ」

梓「へー・・・・って、なんか説明すっとばした感じですけど」

唯「ねえねえそれ、私もやってみていい?!」ぐいっ

律「わわっ、壊れちゃうから!」

唯「……うーん」

律「どうしたー? なんかしゃべってみろよ」

唯「かけたはいいけど、なにしゃべっていいかわかんないんだよねぇ」

律「んなもんふつーでいいじゃん、いつも通りで」

紬「そうだよ。ひとりごとのつもりでもいいから、試してみたら?」

唯「じゃあ・・・・こんにちは! わたしは平沢唯ですっ!」

律「って、いくらなんでも自己紹介じゃ――」

 ぴこーん!

梓「ふえっ?!」

唯「おおっ、あずにゃんから星よっつ!」

梓「えっええっ?! 聞いてないですよ!」

澪「梓……」

紬「あらあら」

紬「ねえねえっ、次は私の番!」

唯「いいよっ、はい!」

律「おーい、試供品なんだからあんまり手荒にするなよー? 返すかもしれないし」

紬「だいじょうぶだいじょうぶ……わあっ、ほんとに映ってる!」

唯「でしょっ、すごいよね!」

紬「それじゃあ、えーっと……」

紬「……うーん」

律「考えてる考えてる」

梓(すごい真剣だなあ・・・・)

律「後で梓もかけるか?」

梓「いいですけど、澪先輩は?」

澪「私は・・・いいよ」

紬「……とりあえず、お茶にしない? ロールケーキがあるの!」

 ぴこーん!

紬「わあっ! りっちゃんから星よっつもらっちゃった!」

律「ええっ?」

梓「くふふっ、律先輩、食い意地はらないでくださいよ」

律「うるへえーなかのー!!」


てぃーたいむ

梓「……すごい、なんかSF映画みたい」

律「その、丸い照準を合わせてなんか言ったら評価されるんだ」

梓「こ、こうですか? ……あーあー、てすとてすと」

 ぴこーん!

梓「って、唯先輩! まだ試してるんですから星つけないでください!」

唯「えへへっ、ごめんごめん」

紬「梓ちゃん、星はいくつ?」

梓「えーっと、右下のみっつ、でいいんでしょうか? っていうかなんで唯先輩は……」

唯「だってメガネかけたあずにゃんもかわいいなあって」

梓「ほえ?!」

紬「ふふっ」

梓「ム、ムギ先輩! 変なタイミングで星つけないでー!」

律「なー、すごいだろー? これ」

唯「そうだね!」

梓「うまく使ったら楽しそうですねー」

紬「そうだね、みんなでつけてみるのも面白そう!」

律「あ、そういや父さんが言ってたんだけどさ、
  これってゆくゆくはネットにつないでランキングも作るんだって」

唯「おおっ、なんかすごい!」

澪「へ、へー・・・・」

紬「じゃあ、今のうちに鍛えとかなくっちゃね!」

唯「そうだよ! りっちゃんなら世界一めざせるよっ!」

律「おうっ、まかせろー!」

唯「それじゃあまずは世界一の一発ギャグを、りっちゃん!」

律「ハードル高っ!?」

 ぴこーん!

紬「ふふふっ」

律「な、なんだかわからないうちに星みっつ……いいのかこれ・・・・・」


律「しんきんぐたいむ!」



律(うーん……つまりあれだ、どういうこと言えばウケるか、ってことだよな……。
  それに、メガネの機能的に万人受け狙ってもあんま意味ねえだろーし
  ……ってことは、一人一人狙い撃ちがいいのか?
  ……やっぱいいや、とにかくなんか言えばいいだろ! 考えたってしょうがないじゃん!)

律「……ゴムゴムのーっ……ねり消しゴム! 」しゃきーん!


梓「・・・・えっ?」

律「しかも伸びる!」

澪「えっ?」


・・・・ぴこーん

律(ちっくしょー! 泣いてやる!!)


律(うーん、やっぱ言えばいいってもんじゃないよな
  ・・・・・じゃあ、ここはあるあるネタで攻めるか?
  そうだっ、さわちゃんが今はいない! チャンス!!)


律「てかさてかさ、私らいつ結婚すんのかなー」

澪「そんな先のことなんて」

律「おーい、もう私ら結婚できる年齢なんだぞ? あ、梓はまだ」

梓「できますよっ! そこまで幼くありません!」

律「まあまあ。でもあれだなー、さわちゃんとか、私たちの誰かに子供ができてもまだ」


さわ子「・・・・・ほーぅ?」

 律「」


すうふんご!

律「ぜー、ぜー…ううっ、まだ首が……」

澪「自業自得だっ」

さわ子「なるほどねえ。でもりっちゃんも人をダシに使うのはよくないわよ?」

梓「そーですよ。世界一のギャグ見せたらいいじゃないですか。あの、ねり消しゴ・・・・ぷふっ」

律「なーかのー!!」

律(くっそ、首まで絞められても星よっつか!
  意外と難しいな!!
  こうなったら方向性を……

  そうだ、こっちで攻めるのはどうだろう)にやっ


律「……みんな。そろそろ練習しよっか?」

唯梓「「ええっ?!」」

律「そんなに驚くことなの?!」

さわ子「だって、りっちゃんが……!」

律「星が三つもつくほどなの?!」

紬「まあまあ。でも、まだお菓子も残ってるよ?」

律「そ、そうだよなー・・・・」


律(練習するって言っても梓は星二つか……
  澪はさっきから変だし……
  ああでも、一度言い切ったからにはとことんやるっきゃないか!)


律「お菓子は今日はいいや」

紬「えっ・・・?」

律「だって、私たちそろそろ卒業だろ?
  梓に、一緒に演奏した思い出をちょっとでも残せたらなーって」

梓「律先輩……」

律(よっしゃ! 星よっつゲット!!)

律「ムギもさ、ありがとな。
  作曲とか、ティータイムとか、
  ムギが私たちのバンドを支えてくれたようなもんだからさ。
  卒業しても、続けたいよな!」

紬「りっちゃん・・・・」

律(おーっし星よっつー! やっべ私ヒモで暮らせるんじゃね?)

律「唯。お前がいたから、軽音部だけじゃなくて、高校生活が楽しかったんだ。
  最初はそりゃ不安だったけどさ、やっぱ放課後ティータイムは澪と、唯の歌声しかないんだよ。
  今さらだけど、入部してくれてありがとな。あとこれからもよろしく」

唯「てへへ、りっちゃん・・・・・」

律(さーって唯隊員は星いくつかなー?)


唯「・・・・ふふっ。りっちゃんきもーい」

律「えっ」


さわ子「っていうか、似合ってないわよそのメガネ」

律「それ今関係ないでしょ?!」

唯「あははっ」



律(うわ、唯たった二つかよ!
  結構いい感じに泣けそうな台詞考えたのに……
  くっそ、でも私にはまだ澪がいる!
  長い付き合いなんだ、
  ディズニー映画に出てきそうな背中のかゆい台詞で、
  こう、星五つぐらい楽勝で……!)



律「……あのさ澪、」

澪「やだ」


律「・・・・みっ澪の歌詞ってさー、こう甘くてオンナゴコロがこう、」

澪「いいって」

律「やっぱベースってバンドに大事だよなー! こう、影の支え役って感じで!」

澪「そういうの、いいから」

律「話きけよー」

澪「練習するんだろ。ほら、早く準備」

唯「りっちゃん……」

律「ああもう、なに怒ってるんだよ・・・・」

澪「……私は、そんなメガネなんかのために軽音部のことを使って欲しくない」


律「だって、こんなのただの遊びじゃん。気にすんなって」

澪「遊びだったらもっとやだよ。ていうかメガネ外さなきゃもう律と話、しないから」

律「そんな、極端な」

澪「……」

律「……」


紬「ねえねえ、りっちゃん」

律「なんだよ」

紬「さっき言ってくれたこと、ほんとにうそだったの?」

律「うん。受け狙い。あははっ、やっぱ私センスねえなー」

梓「ほんとですか?」

律「ほんとったらほんと。練習はやるけど、言った手前。さあ支度したくっと」


唯「じゃあ、うそだったら今からほんとにしちゃおうよ」

律「え?」


唯「りっちゃんはさ、ほんとにしたくないの?」

律「……うーん?」

唯「だからね、りっちゃんはほんとはムギちゃんが支えだって思いたいし、
  あずにゃんに思い出つくってあげたいって思いたいんじゃないかな」

律「……」

唯「だったら、そうなっちゃおうよ!」

律「ゆい・・・・?」

唯「今からほんとの気持ちでムギちゃんにありがとうって思って、
  あずにゃんとみんなで思い出作ったらね、」

唯「りっちゃんのうそも最初からほんとだったことになるはずだよ!」

梓「……唯先輩」

唯「ね? だからりっちゃんも澪ちゃんも、一緒に演奏しよ?」

澪「……ごめん、律」

律「いや、謝るほうは私だよ。……ごめん、なんか、すごいひどいことしてたかも」

澪「いや、私だって律のこと……まあ、いっか」

律「あと澪、ありがとう。
  これはやっぱ外すわ。私には似合わないって、最初から言ってくれてたの澪だしなー。あははっ」


澪「……ふふっ」


 ぴこーん!

律「……ここで五つかよ!」

澪「えっ……ちょっ、」

唯「澪ちゃんてれてるー」

梓「告白みたいでしたもんね、さっきの」

律「なっ…私は別にそんなつもりじゃ」

澪「ああっもう! とにかくそのメガネは私があずかるから!」

紬「ふふ、お幸せにね」

律澪「「そういうんじゃないから!」」



にしゅうかんご!

唯「ええーっ! 発売中止?!」

律「なんかテスト段階で、ユーザー間で結構もめたらしいぜー」

梓「私も聞いたんですけど、
 『こんな機械のせいで彼女と破局した!』ってクレームまであったみたいですよ」

澪「確かになあ……」

唯「でも、機械のせいにするのはちがうよ」

紬「そうだよね。
  だって、機械のおかげでもっと距離が縮まることだってあるみたいだもの」

澪「なんでそこで私と律を見るんだ……」

紬「ふふっ」

律「ところでさ、澪はなんでメガネかけたがらなかったの?」

澪「だって……怖いんだぞ。評価されるのって」

律「そおかあー?」

澪「私だって、最初に書いた歌詞を見せるの、すごく怖かったんだ」

唯「えー? 澪ちゃんの歌詞かわいいじゃん」

澪「それに、律には……なんでもないっ」

律「なんだよっ、言えよー」

紬「りっちゃん、そこは待ってあげるのも甲斐性の一つじゃない?」

梓「そうですよ、察してあげるのがパートナーの」

律「そういう方向に持っていこうとするなー!」

唯「あ。そうだ」

律「ん?」

唯「えいっ」

ぺたっ

律「い、いきなりなんだよ……」

澪「ぷふっ」

梓「くふふっ……律先輩、鏡です」

律「うわっ、おでこに星のシール!」

唯「私からの星のプレゼントです!」

唯「澪ちゃんと仲直りしたりっちゃんには五つ分のおっきな星を……あれ?」

律「……うわーん! もう星はこりごりだー!!」

澪「あははっ」


おわり。



最終更新:2011年12月01日 22:01