今度は言えるから… (律2nd view)

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 ムギに後押しされた翌日、先に病室に行った唯から連絡があった。

 澪が…目を覚ました。

 ムギを連れて急いで向かったものの、病室の前で少し緊張した。
 誤魔化すように、ドアを勢い良く開けて入る。

「澪~!」

「私は誰だ?」

 向き合う唯と澪。突然登場した私たちに澪の視線が移る。

「…へ?」

 …………はい?

 唯だけではなく、私やムギもその場で固まった。

 でも…澪は身体を起こしていて、元気そうにしている。

「…ぷ…。ぷははははははは~」

 次の瞬間、私は噴出した。

「ちょっ、りっちゃん…」

 傍らのムギが困惑気味に私をいさめるが止まらなかった。

 ああ…まだ大丈夫。私たちはやり直せるんだ…。

 今度こそ言おう…もういいんだ、って。そう誓った――。


 この後じっくり話を聞くと、澪は今までの記憶を全部失っていた。
 最初は戸惑いこそ、本質的には変わってないようで安堵したものである。





 更に数日後、澪が倒れた。

 唯の部屋で話しているときに頭痛を訴えてそのまま気を失ったらしい。
 皆で協力して澪を澪の部屋にまで運んだ。

 医者曰く、記憶が戻る予兆だろうということ。身体に問題は無いらしい。

 心配させやがって…。

 今、澪の部屋にいるのは私だけだ。
 唯は精神的に不安定になっていて会わせられる状態じゃない。
 ムギや晶たちが付き添っているはず。

「……ん…」

 澪が身じろぎする。起きたようだ。

「……澪、大丈夫か?」

「律…?…私はいったい…」

 少しぼんやりしているようだ。

「倒れたんだ。無理するな」

 それでも身体を起こそうとするので支えた。

「なあ律…」

「ん?どうした?」

「唯は…私のなんだったんだ?」

 私は目を見張った。
 まるで私を昔から見知っているような…そんな態度だった。

 だけど…全て思い出したにしては様子が変だ。

「澪…どこまで思い出した?」

「高1の春…ムギと初めてあったところまで」

 ということは…唯のことは全く覚えてない訳か。

「…随分と中途半端だな。…まあ…記憶喪失ってそんなものか」

 溜め息を零しつつベッドに背中を預ける。

 澪と唯の関係は少し複雑だ。
 もしかしたらトラウマになっていて、思い出すのを拒んでいるのかもしれない。

「…唯のことだっけ。それは唯に対するお前の気持ちを言っているのか?」

「………ああ」

 私の確認に澪は頷いた。

 いい機会なのかもしれないな…。でもどう言ったらいいものやら…。

「私は澪から直接聞いたわけじゃない。だから何とも言えない」

「……そっか」

「でも…今の気持ちに素直になればいいんじゃないか?私から見た澪は以前と変わらない。」

 むしろ以前より正直に唯に接しているように見えた。

 記憶を失っても、唯への想いはきっと変わってないんだろう。

「だからそれが…一番近いんだと思う」

 もういいんだ…もう私に変な遠慮はするな。
 そう思って、澪に微笑んだ。

「さて…皆に知らせてくるか」

 皆心配しているだろう。特に唯は。早く伝えてやら無いとな…。

「律!」

 立ち上がって、部屋のドアに手を掛けたところで澪に呼び止められた。

「……ありがとう…っ」

 そのときの澪の顔を見て、気が緩んだ。つい泣きそうになって…笑顔を零した。

 ああ…もう大丈夫だな。これ以上、私は心配しなくていいんだな。

 長い間私を縛っていた重い鎖から解き放たれたような、そんな軽い気持ち。

 言葉にしたら泣き出しそうで、何も言えないまま私は澪の部屋を出たのだった。




「りっちゃん」

 澪が起きたことを皆に伝えて、私が部屋に戻ろうとしたときに声を掛けられた。
 ムギだ。私をずっと待っていたようだ。

 とりあえず場所を私の部屋に移す。ここでは人目があるからな。

 ムギは大人しく付いて入った。

「…今度は…言えたよ」

 はっきりと言った訳じゃないけど…澪には伝わった。

「よく頑張ったね」

 お疲れ様…そう言ってムギは優しく笑ってくれた。

 ムギのおかげだ。ムギが後押ししてくれたから私は動けたんだ。

「…ああ」

 ありがとう、そういう気持ちを込めて笑い返した。

 と、そこで告白されていたことを思い出す。あの時のムギはどこか寂しそうだった。

「ところでさ…」

「なあに?りっちゃん」

「ムギ、1つ誤解してない?」

 ムギは首をかしげた。

「何のことかしら?」

「…言っとくけど、私は澪に対して恋愛感情は持ってないぞ」

 何かと私は澪に執着しているが、恋愛とは少し違う。
 どちらかというと、非常に仲の良い双子の片割れに対する独占欲に近いと思う。
 きっと、澪もそんな感じなのだろう。

「…え?」

 私の言葉が予想外だったようで、ムギは驚いた表情で固まった。

 やっぱりな…。薄々感じていたが、私が澪のこと好きだと思っていたらしい。

 少し呆れつつも、笑みが零れる。

 何でそんなこと言ったのかというと…。

「だから…そんな寂しそうな顔するなよ」

 私はムギの頭に手を置いた。


 今はまだ、ムギをどう思っているのか私自身にも分からない。

 告白してくれたムギを凄いと思って…、以前よりも気になりだしたのは確かだ。

 この想いが形になったとき。その時は今度こそ、きちんと言おう…私の本心を。

 私はそう誓った――。

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END



最終更新:2012年01月28日 20:30