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きっと、もう大丈夫…

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 皆さん、お元気ですか?
 大好きな先輩たちが卒業してもう早数ヶ月。
 3月には憂と純を、4月には2人の新入生を迎え、軽音楽部で私たちは元気にしています。

 と言っても、唯先輩とはよく連絡取っているんだけどね。


 ピンポーン。
 平沢家のチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開けられた。

「あ。梓ちゃん、いらっしゃい」

 中で待っていたらしい。抜かりの無い憂である。

「お待たせ憂。…おじゃましまーす」

 すっかり通い慣れた今でも視線が彷徨うのは、きっとあの人の所為だろう。

「ふふ。お姉ちゃんならいないよ?」

「わ…分かってるよ!そんなこと!」

 考えがバレてつい言い返す。
 先輩たちが大学寮に入ってからも私は憂を訪ねてこの家によく来ていた。

 いや…唯先輩がいなくなった後の方が多くなっているかもしれない。

 私も憂も、あの賑やかな先輩たちが居なくなって寂しいのだろう。
 事あるごとに誘い合っては共に過ごしていた。

 勿論、純も誘っているよ?いつも盛り上げてくれているから助かってる。…言わないけどね。

 でも今日は少し違っていた。

「先輩たちいつ帰って来るって?」

「そろそろだよ~」

 そう、先輩たちが帰ってくるのだ。

 大学でも軽音部に入った先輩たち。
 長期休暇になっても何かと忙しかったらしく、高校の新学期が始まった今になって時間が取れたらしい。

 お盆にも揃って帰って来たらしいが、その時は私が忙しくて会えなかった。
 だから今回が数ヶ月ぶりの再会となる。

「いきなりだよね…。『明日、皆でうちに集まるから来てねー』って…昨夜唯先輩から電話着たんだよ?」

 溜め息が零れた。
 実にあの人たちらしいが…もう少し余裕を持って連絡欲しいものだ。
 こっちが予定あったらどうするつもりだったんだろう…。

「あはは。お姉ちゃんらしいね」

 慣れきっている憂は笑うばかり。
 唯先輩と直接会えるということでいつもよりずっと機嫌が良かった。

 まあ…私も嬉しいんだけどね。

 でも…少し怖さもあった。知らない間に、先輩たちの不和が生じてないか…とか。
 特に変わりはなさそうだったし、先輩たちのことだから、そんな事は無いとは思う。
 だけど私の中にはずっと不安の種があった。

 先輩たちの仲にあった僅かな違和感。その原因を知らないまま私はここにいる。

 唯先輩、澪先輩、律先輩が各々に向ける寂しげな瞳。
 先輩たちの仲に劇的な変化を感じることは無かったから、きっと私の入部前に何かあったのだろう。

 そう思って3人に最も近いムギ先輩に疑問をぶつけたことがあった。


『どうして…っ』

 私に何も言ってくれないんですか―そう言いかけて、声を詰まらせた。

 当事者でなければ、その時期に居合わせたわけでもない。
 加えて私は下級生なんだ。先輩たちが話さなくても責めることはできない。

『ごめんね…梓ちゃん。私は何も知らないの』

 泣いている私を前にして、ムギ先輩は辛そうに、申し訳なさそうに謝った。

 嘘をついている顔ではなかった。
 多分ムギ先輩の知っていることは憶測の域を出ず、私に話せるものではなかったんだと思う。

『そうですか………ごめんなさい』

 それ以上、ムギ先輩に訊くことはできなかった。

 その後も憂に訊いたけれど、憂も知らなかった。
 心配した憂が訊いても唯先輩は頑なに話そうとしなかったらしい。
 律先輩も澪先輩も打ち明けてはくれなかった。

 もう…この件に対して、私が関与する余地は無かったのだ…。

「梓ちゃん?」

 黙りこんでしまった私を憂が心配げに覗き込んでいる。

「あ…ごめん」

 いつの間にか考えに没頭していたらしい。慌てて身を正した。

「…大丈夫だよ、梓ちゃん」

「………え?」

「お姉ちゃんたちだよ。だから大丈夫」

 不安が顔に出ていたのだろう。安心できる笑顔で、そう言ってくれた。

 学園祭のときも、大学入試のときも、直前まで不安とは反対に肝心なところはやり遂げてくれた。
 だから今回も大丈夫。そう憂は言っているんだと思う。

 そうだね…。皆、そういう先輩たちだった。

 過去に何があったかは分からない。
 でもその問題は先輩たちが自力で乗り越えるだろう。

「ありがとう、憂」

「へへ。私は何もしてないよ」

 そんなことは無いと思う。
 先輩たちのことで不安に思ったとき、見計らったように元気付けてくれる。
 憂と純にどれだけ助けられたことか…。

「憂~~。ただいまーー!」

 大きな音を立てて、玄関から唯先輩の帰宅を告げる声がした。

「あ、お姉ちゃんだ。おかえりなさーい!」

 憂は駆け出すようにして迎えに行った。

「あずにゃん久しぶり~。会いたかったよ~」

 私を見つけた途端、荷物を放り投げて思い切り抱きついて来る唯先輩。

「うわ!」

 勢いがありすぎて2人揃って倒れこむ。

「あずにゃ~ん」

 唯先輩は離れるどころか頬ずりまでしてきて、少し頬が痛い。

「いいなぁ梓ちゃん」

 羨ましそうに呟く憂。

 って言うか見てないで助けてよ!

 そんな私の心情を無視して憂はお茶の準備をしていた。

「でも、あずにゃん。何でもう居るの?」

 …今更そこに気付くんですか…。

 呼び出されたのは昼過ぎ。現在はまだ午前中で約束の時間よりずっと早かった。

「私が梓ちゃんを呼んだんだよ。折角だからお姉ちゃんを一緒に迎えようと思って」

 私の代わりに憂が説明する。

「おお~。さすが憂!よく分かってる~」

 感心した様子の唯先輩。

 喜んでくれるのは嬉しいけど加減というものを…。
 唯先輩にそんなこと言ってもしょうがないけどね…。

 それと今更だけど、本当憂は唯先輩に甘すぎ。
 何で唯先輩の荷物を運んであげてるのさ。

「じゃあそろそろ昼ごはん作るね」

「わーい。久しぶりの憂のごはんー」

 ようやく唯先輩が私から離れた。

 大学生になって唯先輩は変わっていない。
 その事実にどこか安心した。


 昼食は平沢家でご相伴に預かり、その後は唯先輩と憂にギターを教えながら時間を過ごした。

 相変わらず唯先輩は音楽用語は覚えてないし、スコアも殆ど読めていない状態だったけど。
 …いや、少し読めるようになっている分マシになっているとも言えるのか。

 でも…予想外だったのは音の変化だった。
 以前聞いたときよりもずっと伸びやかになっているような気がする。

 そうしているうちに約束の時間になって、残りの先輩たち3人も揃って平沢家にやってきた。

「こんにちは、先輩たち。お久しぶりです」

 部屋に入って来た姿を見かけて先輩たちの所に駆け寄る。 

「こんにちは、梓。帰ってくるの遅くなってごめんなー」

 一番最初に挨拶を返してくれたのは澪先輩。 

「寂しくしてなかったか~」

 律先輩が挨拶もそこそこに私の頭を撫でる。

「本当に久しぶりね。会いたかったわ、梓ちゃん」

 ムギ先輩も以前と変わりないにこやかな笑顔で応えてくれた。

 全員たちが揃うと一気に場が華やかになる。
 やっぱり先輩たちが大好きなんだと私は実感した。…言わないけど。


 あれ…?でも何だか最後に会ったときと先輩たちの間に流れる空気が違うような…。
 何というか…優しくて、少し甘い?良く判らないけど、そんな感じがする。

「……あの…」

 各々が荷物を置き終わったタイミングで話しかける。

「どうしたの?あずにゃん」

「……先輩たち何か変わりました?」

 私の発言で一瞬全員の動作が止った。

 え?私何かマズイこと言った?

 えと…とか、どうしようか…とか、4人で集まって相談している。
 少しして意見がまとまったようで、一斉に私の方へ向いた。

「梓ちゃん…実はね、私たち…」

 唯先輩は後ろから澪先輩に抱きつき、ムギ先輩は律先輩と腕を組む。
 それから唯先輩を除く3人はどこか緊張した顔で見合わせていた。

「付き合い始めたんだよ~」

 ……は?

 唯先輩が満面の笑みでフライング。
 他の3人が準備整っていないのに、とんでもない事をカミングアウトした。

 今なんて…?お付き合い?……あの交際?

 何の冗談かと思ったけど、澪先輩は俯き、律先輩は顔を逸らして頬をかき、ムギ先輩は少し困ったような笑顔で律先輩を見ている。
 その様子から空耳ではなかったと分かる。

 えと…つまり唯先輩と澪先輩が、律先輩とムギ先輩が付き合っている……と。

 ようやく内容を理解し、私の赤面して後ろにふらつく。

「あずにゃん!?」
「梓(ちゃん)!?」

 その場に居合わせた全員が私を呼ぶ声を聞きながら、一瞬気を失ったのであった…。





「そう言えば…梓、耐性ないんだったな…」

「でも!あずにゃんには言いたかったし」

「そうよ。梓ちゃんは仲間なんだから」

「……唯…」

「うわぁ!勝手に言ったのはごめん!謝るから…元気だして、澪ちゃん」

「いや…ある意味、唯の行動は正解だったんじゃないのか?澪だといつまでも尻込みするだろうし」

「ふふ。そうかも知れないわね」

 少し離れた所で先輩たちが賑やかにしている。

 不意討ちだったとはいえ…まさか鼻血だして倒れる事になるとは。
 耐性無さ過ぎだよ、私!

 視線を隣に移すと、憂がにこやかに先輩たちを見守っていた。

「もしかして…憂、知ってた?」

「ううん。私も今日初めて聞いたよ?」

「それにしては、あまり驚いてないよね…」

「律さんたちはともかく…。お姉ちゃんの方は、そんな気がしてたから」

 さすが憂。唯先輩の事になると誰よりも鋭い。
 今思い返すと心当たりは結構あるのだが、私は全く気付いていなかった。

 ふと、ムギ先輩と目が合う。笑みを貰った。

 …もしかして…今回帰って来たのは、私がずっと先輩たちの仲を気にしていたから…?

 そういえば、先輩たちは皆、部活と寮以外では日程がバラバラだと聞いた。
 全員が揃って帰省するのは大変だったのかもしれない。

「梓ちゃん」

 憂が私を覗き込む。

「大丈夫だったでしょ?」

 どこか自慢げな表情で憂が言った。

「…そうだね」

 まだ騒いでいる先輩たち。それを見る私の頬も緩んだ。



 先輩たちの間に、かつての危うい雰囲気はもう無い。

 それどころか、以前よりずっと輝いている。

 先輩たちはきっと、もう大丈夫…。

 私は傍にいられなくても、もう不安に思うことはないだろう。


 皆さん。ずっと、ずっと、私が大好きな先輩たちでいてくださいね――。


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END


 今までお付き合い有り難うございました。  




最終更新:2011年12月07日 19:58