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 「すみません、先生……お忙しいのに」

唯「ううん、大丈夫だよ。大切な生徒のためだから」

 「……それで、あの……聞いていただきたいことなんですが」

唯「うん、なんでも聞くよ。安心して、先生に話してごらん?」

 「……わたし、先生が好きです」

唯「……それってもしかして、告白?」

 「……」

唯「……ごめんね。私、恋人がいるの」

 「やっぱりですか」

唯「やっぱりって。……だからごめんね、その気持ちにはこたえられない」

 「いえ、いいんです……わたし、先生を好きになって、告白できただけでも嬉しいです」

唯「そう。ありがとう、嬉しいな」

 「あのー、先生がつきあってる人って、どんな方なんですか?」

唯「あぁ、私の妹だよ」

 「え? ですから、付き合ってる人……」

唯「だから妹だってば。1歳違いの、憂と付き合ってるの」

 「……」

唯「……だからさ、女の子でも私を好きになっちゃったこと、特別だなんて思わないで」

 「なんで……そんなくだらないウソつくんですか」

唯「へ?」

 「正直にオトコと付き合ってるって言われたらまだ諦めだってつくのに、なんですか妹って!」

 「ばかにしないでください! そんなに女同士が気持ち悪いんですか!? そんなに私は異常ですか!」

唯「……はぁ」

 「もういいです! 先生なんか、先生なんか……くっ」

唯「ああ行っちゃった……若いなあ」

和「まったくね」

唯「うぉ、いたの」

和「また告白されてたのね?」

唯「うん……」

和「それでまたフった」

唯「……和ちゃんに私の心労はわからないよ」

和「冗談よ。そんなに睨まないで」

唯「はぁ……仕事しよ」

和「唯、今日飲みにいかない?」

唯「終わったらいいよ。あ、憂がいいっていったらだけど」

和「わかった、あとでね」

和「……」

和「今月に入って私が見てるだけでもう3人目……唯、綺麗になったものね」

和「……私はメガネの地味なほうって思われてるんでしょうね」

――――

 「こちらお通しです、ご注文お決まりになりましたら……」

唯「あ、生中2本と魚介サラダと……」

 「鶏と野菜の唐揚げ盛り合わせですね?」

唯「そそ、それお願い」

 「かしこまりました。すぐお持ちいたしますので少々お待ちください」

唯「ふーっ、ここ来るの久しぶり」

和「……むかつくわね」

唯「なにが?」

和「気付いてないなら言わないわ」

唯「わかってるよ。今の店員の、顔覚えてるアピールだよね」

和「というか……怖くないの?」

唯「憂のほうが怖いよ。愛してるだけに何も言えない」

和「……ちゃんと家まで送るわ」

和「それで、今日のだけど……」

唯「……ん」

和「平気だった?」

唯「私はね。何べんも同じ断り方してたらもう慣れたし」

唯「心配なのはあの子のほう……学校休まれたら、会いに行かなきゃ」

和「唯、もてるわよね」

唯「同性にね。女子高じゃなかったら、こうはなってなかったよ」

和「どうかしら。余計に大変な気もするけど」

唯「……そうかもね。あと7年は、ここで勉強したいな」

和「唯の場合、7年経っても心配だけど」

唯「そりゃあさすがにないって。年取ったらすぐダメになる顔だって、憂も言ってる」

和「心にもないこと言うのね」

 「失礼しまーっす」


和「……」

 「ご注文の品、以上でお揃いでしょうか」

唯「はい」

 「ごゆっくりどぞー」

和「それにしても、唯のもて方は尋常じゃないわよね」

唯「和ちゃん、今日はその話したいんだね」

和「わりとそのために誘ったわ。……というか、なんとか唯の負担を軽くできないかと思って」

唯「好きなものは好きなんだし、しょうがないんじゃない?」

和「恋愛感情を抱かれない努力をしなさいよ」

唯「えぇ……なにそれ」

和「そういうものが必要なレベルまできてるのよ、あんたの場合」

和「女の子だからって、集団で襲われないとも限らないのよ」

唯「私の生徒はそんなひどいことしない!」

和「……まあ、それは言い過ぎたけど。実際、襲われたことあるじゃない」

唯「あの子は……うまく言葉にできなかっただけで、ちゃんと告白しようとしたし……」

和「間接的に、あの子は憂を泣かせたことになるんだけど」

唯「う……」

和「わかったわね? 多少のことはしなさい」

唯「しょうがないな……」

和「たとえばその髪型。綺麗すぎるのよ、もっとボサボサにするとか」

唯「これは……憂が好きだって言ってくれるから、変えられない」

和「……服なんかジャージでいいじゃない」

唯「やだよ、そんなみっともないカッコじゃ憂が怒るもん」

和「じゃあ……そんな大人びた顔で生徒の頭なでたり抱きしめたりするの、やめなさい」

唯「褒めるときはそれが一番いいんだよ。憂もそうだし……」

和「でも唯の場合は、単に何点とれたら家庭教師とごほうびセックスみたいなAVに近い状況になってるのよ」

唯「いや、そんな不純な子ばかりじゃないって……」

和「とにかく、やめたほうが身のためよ」

唯「んー、まぁ一理あるなあ……加齢臭するようになっても抱きしめてるわけにはいかないしね」

和「そもそもそれ、憂に話したことあるの?」

唯「あー、そういえば言ったことないような……」

和「内緒のままやめておきなさい」

唯「そこまでいうなら、そうだね。ちゃんと一人一人を見て、喜ぶ言葉で褒めたげないとね!」

和「わかってくれてよかったわ。ビール追加するわね」

唯「あ、私も今飲むから」

和「焦らなくてもいいのに」

唯「やだぁー、和ちゃんと一緒がいいもーん。とかね、えへへ」

和「酔うと元に戻るのね」

唯「いやいやぁ、ぜんぜん酔ってないよぉ?」

和「そうね」


――――

和「最近、ファンクラブには顔出してるの?」

唯「呼ばれたときには行くよ。ギター持ってね」

和「うーん……言いにくいけど、控えた方がいいわ」

唯「えぇー」

和「だって……唯の弾き語り聴いて、惚れない子なんていないわよ」

唯「別に惚れられたっていいじゃん」

和「当初の目的が」

唯「ちゃんと断ったらみんな納得するよ。好きって気持ちもちゃんと教える」

唯「今日の子だって、今は勘違いされてるけど、説明したらわかってくれるもん。みんないい子だもん」

和「そうだ、指輪したらいいじゃない。憂とおそろいで」

唯「聞いてないし。指輪かぁ、高いんだよね」

和「結婚するんでしょ? 贈りなさいよ」

唯「いや、結婚とかは……ずっと一緒にいるけど、考えてない」


唯「憂がさ、結婚するよりは姉妹でいたいっていうんだもん」

和「ふーん……? まあそれはそれとして、指輪はしなさいよ」

唯「んー、確かに告白はされなそうだけど、教室で質問攻めにあったら憂と付き合ってるのがばれちゃう……」

和「なにも素直に言うことないじゃない」

唯「じゃあ、彼氏にもらったって言えばいいの? 婚約したとでも言えば済むの?」

唯「私に告白したみんなに説明したことが嘘になるよ? 私、先生なのに自分を愛してくれる生徒に嘘つくの?」

唯「それにそれは生徒に恋愛感情を抱かせない方法と違うよ」

唯「恋なんか、好きな人が同性とか家族だとか婚約してるとかはなんも関係ない気持ちじゃん」

唯「和ちゃんのは気持ちを封じ込めさせるだけだよ。そんなのまだヤワイ心を傷つけるだけじゃん、一番やっちゃいけないよ」

唯「あのねぇ和ちゃん、和ちゃんはそれだからもてないんだよ。好きって何だかわかってないんだ」

和「……そうかもしれないわ」

唯「はぁー……っ」

唯「飲みすぎた」

和「まだ2杯目でしょ。お酒のせいにしないの」

唯「告白してくる子にも、いろんなのがいてさ」

和「うん」

唯「私のこと好きな子がいるって知ってて、悪ふざけで、のりで告白してくる子とかさ、いるの」

和「つまり、同性愛をからかうために告白の真似事をしてくるのね」

唯「そうそう。そういう手合いはね、一言目の「好きです」で判るんだよ」

唯「だから私も、そういうのには軽くあしらうんだ。憂のこと言いふらしたくないし。かわいいから」

和「かわいいから、だけ?」

唯「憂が他の子に狙われたら嫌だもん。憂が気が気でないのもわかるよ」

和「そう……今日の子は、そういう子じゃなかったのね?」

唯「うん。あれはまだ、同性愛に興味があるってくらいだね」

和「で、ためしに唯に告白したってこと?」

唯「ためしっていうか……要するに、私に告白することで、自分は同性愛者だって言ってみたかったんだと思う」

唯「いわば、レズビアンっていう新しい服を買って、生まれ変わった気分になりたかったのが大半だろうね」

和「ファッション恋愛ってことかしら。マイノリティになることで、特別視されたかったていう感じね」

唯「もちろん、私に対する気持ちまで否定するつもりはないし、こういう子にこそちゃんと教えたいなって思うよ」

唯「人を好きになっても、その人を大切にしたいって思う以外、本当の自分は何も変わらないんだって」

和「逆に、今までファッション感覚じゃなくて真剣に告白してきた子はいるの?」

唯「憂。……それとあと、10人くらいかな。断るのが申し訳なくなっちゃう」

和「簡単には引き下がらないでしょう?」

唯「そりゃもう。二股でいいから、体だけでいいから、はみんな言うし、泣かれちゃうし……」

唯「和ちゃんがよく割り込んでひとまず収まるけどさ、結局ちゃんと解決しなきゃいけないのは変わらないし」

和「でも、見るに見かねるし……」

唯「あ、助かってるよ。もちろん。その場じゃ話してもきいてもらえないし」

唯「憂だったら抱きしめてキスしたら、落ち着いてちゃんと話聞かせられるんだけど……」

和「そんなのやったら、それこそ二股ね」

唯「まあ、そういう子はそもそも、断りそうな空気だした時点でキスしてくるんだけどね」

和「……へぇ、それなら」

唯「っ……!?」

和「ちゅ……」

唯「ば、ばっ、何いきなり!? 何してんのばか和ちゃん!」

和「あぅ……」

唯「和ちゃん、……えっと、気付かなくてごめん、でも分かってると思うけど」

和「いや、その……違うのよ」

唯「でも今……」

和「違うわよ! それだけ襲われかけてるなら、いきなりキスされても避けられるだろうと思ったのよ」

唯「……和ちゃん、酔ってるでしょ」

和「酔ってないわよ?」

唯「じゃあ謝って! 私と、憂に!!」

和「その……ごめんなさい、まさか唯がこんなに鈍くさいと思わなくて」

唯「あ、やっぱり酔ってるよね和ちゃん」

和「酔ってないわ」

唯「……とにかく、私怒ってるから。もう帰ろう」

和「ん」

唯「和ちゃんのオゴリね。最低だよほんと……」

和「ん、わかったわ」

唯「……許さないからね」

和「そうね」

 「ありがとうございましたー、またお越しください」

――――

和「着いたわよ、唯」

唯「わかってるぅ……」

唯「うーいー」

憂「おかえり、お姉ちゃん」

唯「憂、あのね、さっき和ちゃんにキスされた」

憂「え?」

憂「……」

和「キスというよりは衝突事故だったから……」

憂「和さん」

和「はい……」

唯「うい……んむぅっ!?」

憂「れろれろっ……ちゅ、つ……ちゅうっ」

唯「ほふ、うい……」

憂「……どうせお姉ちゃんの冗談でしょうけど……お姉ちゃんは、私だけを大好きなんですから」

和「わかってるわ、痛いほど」

憂「……それなら、おやすみなさい。送っていただいてありがとうございました」

和「えぇ、おやすみ」

唯「へへ、和ちゃーんまた明日ね」

和「遅刻しないようにね」

――――

唯『ういってば、大胆だね……んもっ』

憂『私だけのだから……お姉ちゃんにキスしていいのは私だけなんだからっ』

唯『んぁ、ちょと憂、ここ玄関……ちゅぱ』

和「……」

和「あ、やっぱり酔ってるかも……」


  おわり



最終更新:2011年12月11日 21:10