結構人が見ていた。
恥ずかしい。
紬「りっちゃんのもおいしそうね」
澪「今日は、自分で作ったんだっけ?」
律「そうだぞ、えっへん」
唯「そうなの? じゃあ、一口ちょうだい。あーん」
人が見てるっつうの。
唯「おねがいだよう」
……。
律「……ほら、口開けろ」
小鳥みたいだ。
むかつく。
唯なんて大嫌い。
紬「唯ちゃん、部活行こう?」
机に突っ伏したまま。
澪「唯、ほら起きろ」
寝息をたてたまま。
しょうがない。
律「唯、部活にいっくぞー!」
……起きなかった。
紬「声じゃ起きないみたい……」
精一杯呼んだのに。
むかつく。
唯なんて大嫌い。
梓「何してるんですか先輩方」
紬「あ、梓ちゃん」
澪「唯が起きないんだ」
梓「もう唯先輩ってば……ほら、起きてください」
動かない。
律「ほら、私達がいくら呼んでも起きなかったんだから…」
そのとき、かすかに身じろぎした。
澪「あ、聞こえたのかな」
むかつく。
唯なんて大嫌い。
梓「でも、あの一回きりでしたね」
律「もので釣るか?」
澪「まさか。それで起きるとは……」
紬「唯ちゃん、ケーキあるわよ」
唯「……んんぅ、ふわぁ、おはよう」
梓「起きましたね」
むかつく。
唯なんて大嫌い。
澪「練習するぞ」
律「まだいいじゃん」
梓「だめです。今日こそ」
もう少し休みたいのに。
二人の勢いに負けそう。
唯「もう少しだけ休もう?」
目があった。
笑みを向けられる。
お見通し、みたいな。
むかつく。
唯なんて大嫌い。
今日のケーキは二種類。
ショートケーキが二個と、チョコケーキが三個。
私はショートケーキ。
でも、チョコケーキも食べたかったな。
ちぇ。
唯「りっちゃん、半分こしようね」
唯のはチョコケーキ。
……。
唯なんて大嫌い。
唯「りっちゃん、口にクリーム付いてるよ」
律「え、どこ」
唯が指で私の口元をぬぐう。
指はそのまま、唯の口の中へ。
唯「おいしいね」
む……かつく。
唯なんて大嫌い。
梓「先輩、ここはこうです」
唯「こう?」
梓「違います」
手とり足とり。
むかつく。
唯なんて大嫌い。
梓「そう、そうですよ!」
唯「ありがとあずにゃん!」
梓「わっ! 抱きつかないでくださいぃ…」
むかつく。
倍むかつく。
唯なんて大嫌い。
澪「じゃあ、私達はここで」
律「じゃあな」
紬「また明日ね」
梓「さようなら」
唯「ばいばい、澪ちゃん、りっちゃん」
また澪が先。
むかつく。
唯なんて大嫌い。
ふと振り向いた。
唯が、こっちを見ていた。
にっこりと手を振られる。
澪も、ムギも、梓も気づいていない。
私と唯だけ。
律「……」
私も、手を振る。
唯なんて大嫌い。
嫌い、だからな。
澪「最近律、おかしくないか?」
律「なにがだよ?」
澪「なんか、唯に対して」
ふと、澪が訊いてきた。
律「ああ。だって、私唯のこと嫌いだもん」
澪「えっ!?」
むかつくし。
見てると、いらいらするし。
柔らかいしにこにこするし。
私のこと分かってるって感じだし。
澪「……にやけながらいわれても、全く説得力無いな」
なにいってんだよ。
私は、唯なんて大嫌いだ。
合宿になると、いつも二人ではしゃいだ。
唯「りっちゃん!」
律「ゆーい!」
呼べば子犬のように寄ってきて。
呼ばれて振り向いたら笑ってる。
むかついた。
二年のときの文化祭。
唯は、遅れてやってきた。
目に涙をためて、皆に謝っていた。
らしくもない。
さっさと泣きやまないから。
いつものふわふわした笑顔を見せてくれないから。
むかついた。
律「みんな、唯のことが大好きだよ」
ほら、早く泣きやめ。
唯が普段どおりじゃないと、
胸がしくしくした。
むかついた。
私が、ドラムは嫌だと投げ出したとき。
唯「一人で悩んじゃやだ!」
私のために必死になっている姿に
む、むかついたし。
最後の文化祭。
気がつけば、唯と私の手がつながっていた。
ぎゅっとにぎり合った。
泣きそうなくらいに安心した。
あったかかった。
むかついた。
そうだよ。
こんなにむかついたんだから。
私は唯なんて大嫌いだ。
今日は、唯に会わなかった。
唯と登校できなかった。
いつもより寒い。
風邪ひくだろ。
むかつく。
唯なんて大嫌い。
律「私、唯のこと嫌いなんだ」
紬「えっ?」
開口一番、ムギに宣言した。
気が合うし。
じゃれているときの体温とかちょうどいいし。
律「唯なんて大嫌い」
紬「りっちゃん、そんなに教室のドアをちろちろ見なくても、唯ちゃんならすぐ来るわよ」
律「なんで知ってんの」
紬「さっき、メールが来たの」
……。
律「唯なんて大嫌いだ」
紬「説得力無いわよ、りっちゃん」
律「私、唯のこと嫌いなんだ」
和「はいはい。それでも唯は、皆のことが好きな子よ」
皆からいじられてるし。
それを見てると、むかむかするし。
律「唯なんて大嫌い」
和「じゃあ、唯の机を撫でるのをやめなさい」
唯「りっちゃん。あのね、聞こえちゃったんだけど」
休み時間。
結局、朝は遅刻すれすれでやってきた唯が、私の席まで来た。
唯「りっちゃん、私のこと嫌いなの?」
悲しそうに。
涙目で、うるうるきらきらしている。
……。
ばか。
唯なんて大……。
律「……とりあえず、今日部室に来い」
唯「えっ?」
律「いいから」
唯「……うん」
眉をハの字にして、
不安でいっぱいの表情をしている。
そんな顔するなんて。
……。
ばーか。
放課後。
唯「澪ちゃんたち、まだきていなくてよかったね」
約束通り、唯は部室に来ていた。
澪たちには、今日は部活は休みと伝えておいた。
律「そうだな。まだきていない」
唯「うん」
人の異変にはすぐ気付くのに。
こういう嘘には鈍い。
むかつく。
気づかないのか。
気づいてよ。
唯「あの、りっちゃん、それで」
律「うん」
唯「えーっと……」
瞳を潤ませて、
もじもじしている。
可愛い。
むかつく。
律「……唯」
唯「う、ん」
律「今から、思っていることと反対のこというから」
唯「? ……うん」
律「私、唯のこと嫌いなんだ」
唯「……え?」
律「唯なんて大嫌い」
唯「え? え?」
慌てふためいている。
必死で頭を整理しているんだろう。
うん。
やっぱりむかつく。
唯なんて大嫌い。
少しして、冷静になった唯。
花が咲いたように笑った。
む、むかつく。
唯「私は、ひねくれりっちゃんとは違って、そのまま言うね」
一呼吸置いて。
唯「りっちゃんが大好き」
今までで一番、あったかい笑顔。
とことんむかつく。
律「唯なんて大嫌い」
唯「りっちゃんなんて、大好き」
言い合いながら、部室を出た。
いつの間にか、私と唯の手はしっかりとつながっていた。
むかつく。
唯なんて。
唯なんて……。
唯に聞こえないように、こっそり呟いた。
――唯、大好き。
おわり
これで終わりです。
読んでくださった方、ありがとうございました!
原作と違うところがあったらすみません……
とりあえず、唯律・律唯もっと増えろ
駄文失礼いたしました。
最終更新:2011年12月22日 20:44