クリスマスの夜、お風呂場を出てふぅっと息をつく。
あとはもう、寝るだけ。

湯冷めしない内に早くベッドに入ろう。

そう思いながら自室のドアを開け、明かりを付ける。


和「え…?」

布団の中に…誰かいる…?


頭まですっぽり隠れてしまっているようだけれど、
不自然に盛り上がった布団はゆっくりと上下し、かすかな寝息も聴こえてくる。

弟か妹が部屋を間違えたとか…かしら。
いや、それにしては盛り上がりが異様に大きいわね…。
まさか、男の人…?

家族を呼ぼうかと思っていた矢先、ふとベッドから寝言が聴こえてきた。


「むにゃ…うぅ……」


和「……………」

和「……………」


和「…………はぁ」

なんて分かりやすい…気の抜けた寝言なんだろう。
緊張して損した。本当に。

だとしたらこの盛り上がりの大きさは…。

緊張の解けた私はずんずんベッドを目指し布団を引っぺがす。

 がばっ!


唯「…んん……うにゅ」もぞもぞ

憂「…うぅ…ぅー……」もぞもぞ


部屋の冷たい空気に晒されダンゴムシのように丸まる二人の女の子。

…しばらくこのまま見てようかしら。

なんて思っていると、妹の方が先に目を覚ました。

憂「うん……?…あ、の、和ちゃんっ」

和「おはよう、憂」

憂「あ、おはよ…お、お姉ちゃん、和ちゃん来たよ、お姉ちゃんっ」ゆさゆさ

唯「んぅ~……んゅ?和ちゃん?」こしこし

和「おはよう、唯」

唯「うん、おはよ~♪」ふにゃ~



和「で、これはなんなのかしら?」


憂「あ、あのね、和ちゃん、これはねっ」あたふた

唯「いや~和ちゃんのためにお布団を暖めておこうと思ってねぇ」にへら~

まあ理由は…察しがつくわね。

和「それは、えっと、」

和唯憂「明日、私(和ちゃん)の誕生日だから」


不意に重なる言葉。

おかしいというよりは嬉しい。
多分二人もそう思ったのだろう。

和「ふふっ♪」

唯「うふふ~♪」

憂「えへへ~♪」




和「いやそうじゃなくて」

唯憂「うぅ」


和「よく私が部屋にいないときに来れたわね」

唯「うん、和ちゃんがお風呂に入った時に教えてもらったんだぁ」

和「……誰に?」

唯「おばさん」

和「……わざわざ、こんな時間に歩いてきたの?」

唯「だってぇ~、一番最初に和ちゃんの誕生日をお祝いしたいんだもんっ」

憂「わ、私もね、お祝いしたいなあって……」もじもじ

………呆れた。

でも…。

和「全く……」なでなで

唯「あぅ//」

憂「うぅ//」

和「ありがとう、二人とも。さ、暖かいうちに寝ましょうか」

唯憂「うん!」

手が二つあって良かった。
なんてことを思いつつ、メガネを外して布団に入る。

あ、布団あったかい…。

そして両脇に唯と憂が入って…。


和「いやいやいや」

唯「ふ?」きょとん

憂「どうし……あ」

和「シングルベッドに3人も入るかしら?」


唯「………」

憂「………」

和「………」


唯「大丈夫!和ちゃんにくっつけばなんとかなるよ!」

和「え」

唯「とりあえず入ってみようよ、憂」

憂「う、うん」

和「……」

一緒の布団に入るのはもう決定なのね…。

 もぞもぞ

 もぞもぞ

和「……どう?」

唯「ありゃ、ちょっと掛け布団から出ちゃうや」

憂「うん…みたいだね」

唯「じゃあ、いっそ和ちゃんに抱きついちゃおっか」

和「えっ」

憂「うんっ」

和「ちょっ」

唯「いくよー和ちゃん♪」

憂「失礼しまーす♪」

 むぎゅ

和「うきゅ」

熱い。

唯「もっとかな?…よいしょっ♪」

憂「よいしょっ♪」

 むぎゅぎゅ

和「うきゅう」

熱い。そしてちょっと苦しい。

唯「おおー♪布団にすっぽり入ってあったかあったかだよー♪」ぬくぬく

憂「こっちも大丈夫だよー♪」ぬくぬく

和「……あんたたち」ぬくぬくむぎゅぎゅ

唯憂「!」ぴくっ

和「割と早い段階でもう布団には入れてたんじゃないの…?」

唯憂「………」

和「………」

唯「えへへ~♪」

憂「えへへ…//」

和「熱いんだから 少 し 離 れ な さ い」わしゃわしゃ

唯「キャー♪」もぞもぞ

憂「ごめんなさーい♪」もぞもぞ


クリスマスの夜に何をやってるのかしらね……。


     ♪


やっと一段落。
照明も一番小さい常夜灯にして横になる。

唯曰く、「26日になった瞬間にお祝いするんだぁ♪」

という訳で、しばらく3人でおしゃべりしつつ、日付が替わるのを待つ。

唯「……あとちょっとだね」

和「そうね」

唯「自分の誕生日なんだからもうちょっとハラハラドキドキしようよぉ~」

和「そんなこと言われてもね…」

憂「………」

唯「もぅ!そんなにあっさりな…あ!あっさり風味だと濃厚な人生は送れないよ!」

和「何言ってるのあんた…」

唯「和ちゃんはもっと感動しないと!」

和「えっと…例えば?」

憂「………」

唯「目を閉じて想像してみてください。和ちゃんの前を一匹のネコが通りました」

和「はぁ…ええ、通ったわ」

唯「それではご一緒に!『やーん♪かわいい!』」

和「…あんたねぇ、」

憂「和ちゃん!お誕生日おめでとう!」がばっ

和唯「えっ!?」

不覚にも唯の変な話に付き合って、自然と体を唯の方に向けていたから後ろの憂に注意を払わなかった。
寝たとは思わなかったけど、先ほどからずっと黙っていたから変だなとは思っていた。

でも今は、黙っていた理由も分かる。

和「…もしかして憂、カウントしてたの?」

憂「……//」こくり

唯「あ~ん、ずるいようい~。私が最初にお祝いしようと思ったのにぃ~」もぞもぞ

憂「えへへ…ごめんねお姉ちゃん、だって私もお祝いしたかったんだもん♪」

唯「うぅ……来年は負けないよっ」

憂「うん♪」

和「何の勝負よ…」

もはや賞品扱いだけど、悪い気はしない。

するわけが、ない。

唯「あ、そうだ!和ちゃん!」ぴこーん

和「?」

唯「お誕生日、おめでとう♪」

和「…ええ、ありがとう」


     ♪


和「…さ、もう寝ましょうか」ぽふ

唯憂「!…はーい♪」もぞもぞ

最後の照明も消して、二人にも寝るように促す。
私も仰向けになって目を瞑る。

すると…。


 もぞもぞ

 ぎゅ

和「……え?」

唯と憂、二人に両脇から抱きしめられる。
布団に入ってきた時とは違い、今度は優しく。

和「……二人とも?」

真っ暗な中、二人の表情は見えないまでも、笑顔であることは伝わってくる。
なんとなく、だけれど。

少しして、唯がゆっくりと話し始めた。

唯「あのね、和ちゃん…今日はね、お祝いを言いに来ただけじゃなくって、和ちゃんの添い寝に来たんだよ♪」

和「添い寝?…なんでまた…」

憂「だって和ちゃん、寝るのはいつも最後だから…」

和「え?」

唯「昔からそうでしょ?お泊りした日とか、遊んでるうちに3人とも寝ちゃう時とか」

唯「和ちゃんは、いつも私達が眠ったあとに寝るよね」

和「…!」

………そういうことね。

唯「だからね、今日くらいは和ちゃんに安心して一番に寝てもらおうかなあって思ってね」

唯「えっと…どうでしょうか…?」もじもじ

和「………」

憂「和ちゃん…?」おずおず

和「………」


別に、最後に眠ることが不満だと思ったことはないし、むしろ進んでやっていたと思う。

正直に言えば、あまり重要なことだとは思わない。


けれど、


和「……そうね」

唯憂「!」ぴくっ


和「お願いしようかしら」

唯憂「……うん!♪」


こういう時に二人がくれるものは、いつだって最高の思い出になると知っているから。


唯「それじゃあお言葉に甘えまして…」

和「ええ」

唯「よーしよしよしよしよし♪」なでなでなでなで

憂「いい子いい子~♪」なでなでなでなで


 ぺちっ

唯「あぅ」

 ぺちっ

憂「うぅ」

和「調 子 に 乗 ら な い の」


……撤回しようかしら。


     ♪


二人してムツゴロウさん並に頭を撫でられても困るので、
唯は私の頭に、憂はお腹にそれぞれ手を置いて撫でてもらうことにした。

……いや、自分で撫でてもらう場所を指定するのは中々に恥ずかしかったけれどね。

唯「和ちゃん、これくらい?」なでなで

和「うん…それくらいがいいわね…」

憂「眠くなってきた…?」なでなで

和「……そう、ね…」うと

唯「じゃあじゃあ、寝る前に歌を歌ってあげよう~♪」なでなで

和「うた…?」うとうと

憂「そうだね♪」なでなで

唯憂「……せーのっ」


可愛らしい掛け声から始まるユニゾンは、

おぼろげな意識の中にもしっかりと響き渡る、


明日も明後日も、誕生日だったらいいのに。


…こんなワガママを言わせるなんて、

ほんと…この二人には困ったものね。

目が覚めたら……お礼を言おう……。

そして…………。


はっぴばーすでーとぅーゆー♪


はっぴばーすでーとぅーゆー♪


はっぴばーすでーでぃーあ のどかちゃーん♪


はっぴばーすでーとぅーゆー♪



おしまい






最終更新:2012年01月04日 20:25