事の始まりは2週間前だった。

大学でダルと共に歩いている時の事だった。

「オカリン、オカリン、澪たんって知ってる?」

「ダル、そのたんっていうのやめろ。俺はそんな奴知らない。それで?」

「澪たんっていうのは今年入学してきた女の子なんだが、それがフェイリスたんにも負けじとも劣らず、超絶美少女なのです!」

「そうか。お前もとうとう3次元の女に興味を持ち始めたのだな。それは良かった」

「オカリン、それは違うな。澪たんは3次元でありながら、2次元の雰囲気を持ち合わせた女の子で…」

「待て待て、それでその女がどうしたんだ?」

「実はその澪たん何だけど、どうやら例の飛行機事故で友達が死んじゃったみたいなんだよね」

例の飛行機事故というのはロンドン行きの飛行機が墜落したというものだ。

「オカリン、これまでの実験よりももう少し大きく未来を変えたいって言ってたじゃない?この子の過去にメールを送って友達を助けてあげるっていうのはどう?」

「うん、確かにこんなに都合のいい被験者もあまりいないかもしれないな」

「それに澪たんと仲良くなれるチャンスだし、助けたらメイクイーンニャンニャンのコスしてくれるかも」

「それは無理だ。過去が変わる頃にはお前の記憶も再構築されているだろう」

それで我々はミスアキヤマに声をかけた訳だ。

「私…どうしてもみんなと会いたい。私だけ生きてるのなんて嫌だ…」

彼女も旅行前日に謎の高熱を出し、旅行に行けなかったらしい。

話はトントン拍子に進み、我々はDメールを送り過去を変更することに成功した。

そしてもちろん澪たんのコス姿を見ることは無かった。

これでめでたしと思えたが、それで全てが終わった訳ではなかった。


彼女達軽音部の5人は飛行機事故は免れたが、やはり卒業旅行へ行く途中、事故で亡くなっていた。

高速バスで移動中の事故。そして、奇跡的に田井中律という女が生存していた。

そしてまた田井中律に接触し、Dメールを送り過去を改変しということを繰り返し、結局、軽音部のメンバー全員とコンタクトをとる事になった。

そして今回の平沢唯のDメールで5回目の過去改変となった訳だが、何度も同じ事を繰り返すにつれて、私はこの軽音部の5人の女達について法則性があることに気づいた。

まず1つ目に、この女達が卒業旅行へ行こうとすると必ず事故が起こり、死者がでると言うこと。

2つ目に、事故は特に何と決まっている訳ではなく、彼女達の行動にあわせて起こると言うこと。

3つ目に、5人全員が死ぬのではなく、必ず4人が死に、1人は奇跡的に死を免れると言うことだ。


一体何故なのだろうか。しかし何か強大な力が働いているのを感じる。もしかして機関の仕業なのか?

いや、あんな女達を殺したところで何のメリットもないだろう。そもそも殺すのであれば全員を殺せばいい話だ。

と考えているうちに私はラボへ到着した。

今回の雪山事故で生存したのが誰なのか調べると、中野梓という女だと分かった。

この女をラボに呼ぶ事になるのは2回目になる。初めてラボに来た時はダルが「あずにゃんぺろぺろ」といってかなり引かせていたのを覚えている。

ぺろぺろとはどういう意味だ?一体どこを舐めるというのだろう。

まぁ俺以外、この事を覚えている者は居ないだろうが。


土曜日。私は中野梓に一通のメールを送った。お前の過去を変えたければ本日の正午に秋葉原駅へ来い。

以前Dメールを送った際にメールアドレスを知っていたので、それ宛に送った。

かなり怪しいメールだが、恐らく彼女はここへ来るだろう。これまでの経験から、彼女達が過去の事故について思い悩んでいるのは明らかだったからだ。

正午5分前。やはり中野梓は来た。

俺はまゆりを連れてきていた。こういう時本当にまゆりは頼りになる。まゆりは相手の心をほぐすのがとても得意なのだ。

「お前が中野梓だな」

「は、はいっ」

中野梓は明らかに緊張していた。そして怯えていた。

「私の名前は鳳凰院凶真だ。そしてこっちが助手のまゆりだ」

「こんにちは~。まゆしぃって呼んでね」

「は、はい」

「梓ちゃんって猫みたいに可愛いからあずにゃんて呼んでいいかな?」

「は、はぁ」

中野梓の緊張していた表情がどんどん和らぐのが分かったが、代わりに本当にこの人達を信じていいのだろうかという猜疑の目を向けはじめていた。

だがこれは前回も同じ事。

「あずキャット!それではこれから我がラボへと招待しよう!」

~ラボ~

「オカリン、オカリン、この超絶美少女だれ!ペロペロしておk?」

「俺は鳳凰院凶真だ!それにペロペロはしてはならない!」

「ダルくん、この子はあずにゃんていうんだよ」

「おお、あずにゃん!あずにゃんペロペロしたいお」

「ダル、そのへんにしておけ。あずキャットが固まっている」

あずキャットの緊張もほぐれ(そのぶん信用を取り戻すのも大変だったが)本題について話した。

我々は過去にメールを送ることができ、未来を変更することができるということ。

実は他の軽音部のメンバーも同じようにDメールを送り、未来を変えようとしたこと。(実はあずキャットは2回目だということ)

何度やっても、結果は大きくは変わらないということ。

「我々もはじめは興味本位で始めたことだったが、何度やっても同じ結果が導かれる事に運命石の力を感じている。

 それに何度も過去を改変することで恐らく世界線は大きくずれきていると考えられる。だから今回のDメールで我々が軽音部に関わるのは最後にしようと思う。

 だからあずキャットには今回のメールを慎重に考えて貰いたい」

あずキャットは始めは驚きの表情を見せていたが、段々と俯きがちになり、今は目に涙を浮かべながら下をみている。

「そんなこと…私には決められないです」

「じゃあ貴様は今回の実験から降りるということでいいんだな?」

「そうじゃない!でも…決められない…」

「一つの案としてあずキャットが軽音部のメンバーに関わらないようにするという手がある」

「え…」

「しかし、メールでそんなことを送ったところで、お前はきっとそうしないだろう」

「うん」

30分くらい考えこんでいたあずキャットが話始めた。

「メールの文章を考えました。でも、鳳凰院さんには見せたくないんです。それでもいいですか?」

「何を言っている!そんな危険なこ…」

「オカリン、あずにゃんを信じようよ。あずにゃんに任せよう?一番けいおん部のみんなを思っているのはあずにゃんだから」

(唯せんぱい…?)

「分かった。いいだろう。だがしかし、本当にこれで最後だ。もう未来がどうなろうと恨みっこなしだし、あずキャット自身が死んでしまう可能性も十分あるからな」

「分かってます。大丈夫」

「よしじゃあこのメールを送信する。ダル、レンジを始動させろ!」

「おk」

「あずキャット、思い残す事はないな?」

「はい!」

「あずにゃん、また会おうね」

「はい!必ず!」

「メール送信!」エル プサイ コングルゥ。

放電がはじまり、目眩のようなものを感じた。足元がおぼつかなくて、なんだか気持ち悪い。そして意識がどんどん遠のいて行く…


~桜高校音楽準備室~

律「卒業旅行どこ行きたい?」

唯「わたしヨーロッパがいい!」

澪「私はロンドンへ行きたいな」

紬「私は温泉」

律「梓は?」

梓「旅行じゃなくて、うちに泊まるっていうのはどうですかね?」

全員「え!」

唯「あずにゃん!これは高校生活最後の旅行なんだよ!

律「そうだぞー自分には来年があるかもしれないけどな、私達は最後なんだぞ!」

澪「なんか理由でもあるのか?」

梓「実は一週間位前に知らない人からメールが来たんです。卒業旅行は行くなって」

律「まさか、そんなメールを信じているのか?」

紬「まさか、宇宙人からのメッセージ?」

梓「全然知らない人からのメールなんですけど、私自身が書いたような気がするんです」

唯「ちょっと見せてよ」

梓は携帯を開くと、3通に分割されたメールを見せた。

軽音部大切な

ら必ず信じて

卒業旅行だめ

律「卒業旅行だめってなんだ?私達で行ったら絶対楽しいだろ!」

梓「はい、そう思います。でも今回はやめた方がいいと思うんです。私の最後のお願いです」

律「う~ん…」

唯「私はあずにゃんのこと信じるよ。だから今回の旅行はやめよう!旅行はいつでもできるよ。来年、あずにゃんが卒業したらまた行こうよ!」

紬「そうね。梓ちゃんがこんなにお願いすることなんてこれまでに無かったし」

澪「そうだな。それじゃ梓の家でお泊り会するか!」

律「それはそれで楽しそうだしな!」

梓「皆さん、本当にありがとうございます!」

律「みんな楽器持って行って梓んちでライブしようぜ!」

梓「律先輩、それは無理ですよ~」

結局私達は卒業旅行には行かず、私の家で3泊4日の壮大なお泊り会をしたのだった。



~時は流れて五月~

「オカリン、オカリン、澪たんて知ってる?」

「ああ知ってるよ。うちの大学の新入生だろ。それがどうした?」

「澪たんて放課後ティータイムっていうバンド組んでてさ、それがもうすごいわけ」

「そうか」

過去は確実に変わったようだな。あずキャットは無事だろうか。

「そのHTTにはまだ高校生なんだけどあずにゃんていうメンバーもいてみんなであずにゃんペロペローって…」

あずキャットも無事か。今度ライブがある時は見に行ってみるか。まゆりも連れて。

もちろん、楽しみに行くわけではない。私はそのライブとやらに混沌をもたらすのだ!

何故なら私はマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だからだ!フゥーハハハ!

「そのあずにゃんの事をゴキにゃんって呼ぶ奴もいて僕はそいつらが許せないわけ。ゴキじゃなくてどう見てもありゃ天使だろ常考…」

確かにあずキャットは天使かもしれないな。

「まゆり、ジューシーからあげNo.1買いに行くぞ」

「オカリン、どーしたの~?そんなに優しいとまゆしぃは心配です」

「どうもこうもない。俺は今、機嫌がいいのだ。ほら行くぞ」

「わーい!ジューシーからあげなんばわんっWow!」

「オカリン、俺のぶんも頼むー」

「お前はバナナでも食ってろ」

「オ~カリ~ン」

「お れ は 鳳凰院凶真だっ!!」

おしまい



最終更新:2012年01月11日 21:23